犬と猫の乳腺腫瘍│悪性度が高い場合は手術しても油断せず抗がん剤治療をお勧めします
乳腺腫瘍は、犬・猫ともに最も多発する腫瘍で、いずれも中高齢(10~12歳以降)のメスに多くみられます。腫瘍は、細胞の性質や転移のしやすさから良性と悪性に分かれます。
乳腺腫瘍は、犬では良性と悪性の占める割合がおおよそ半々、猫では80~90%が悪性と言われていて、早期発見・早期治療がとても大切です。
特にメスでは、避妊手術によって発症を予防できることがわかっているため、長く健康に過ごすためにも避妊手術をご検討ください。
原因
乳腺腫瘍の発生には、ホルモンが関係していると考えられています。そのため、未避妊のメスでは年齢が上がるにつれてリスクが高まります。まれではありますが、オスに発生することもあります。
避妊手術による予防効果(発生確率)は以下の表の通りです。
■犬の場合
避妊手術タイミング | 乳腺腫瘍予防確率 |
初回発情前 | 99.5% |
2回目発情前 | 92% |
3回目発情以降 | 74% |
■猫の場合
避妊手術タイミング | 乳腺腫瘍予防確率 |
生後6か月以前 | 91% |
7~12か月 | 86% |
13~24か月 | 11% |
症状
乳腺腫瘍の症状は、腫瘍の悪性度や進行度合いによっても異なりますが、初期には乳腺(乳房のあたり)にしこり(腫瘤)がみられます。全身の状態にはこれといった変化がなく、健康に過ごせていることもあります。ただし、症状が現れていなくても他の臓器やリンパ節に転移していたり、しこりが1か所ではなく複数の乳腺に散らばっていたりする可能性もあります。
しこりが大きくなると表面が自壊し、出血や痛みを伴って、元気・食欲がなくなる、痩せてくるといった全身状態の変化もみられます。さらに腫瘍が転移すると、転移先の臓器に関連する症状が現れます。
診断
動物病院では、触診や血液検査などとともに、レントゲンや生検(しこりを一部採取して細胞の様子を観察する検査)を実施し、しこりがどういった腫瘍なのかを詳しく調べます。しこりが腫瘍ではない場合(乳腺過形成や乳房炎)や、他の腫瘍の場合(脂肪腫や肥満細胞腫)もあるため、注意が必要です。ただし、これらの検査だけでは確定診断にまでは至らず、手術によって腫瘍を切除して組織検査を実施する必要があります。
治療
基本的には、手術によって乳腺ごと腫瘍を切除する治療を行います。その方法として、乳腺片側切除と両側切除の2つがあります。また、術後に悪性度が高いと判断された場合は切除しても転移する可能性があるので、化学療法(抗がん剤治療)の併用をお勧めします。特にリンパ節への転移には注意が必要で、その有無が生存期間に大きく関わることも知られています。
予防
先ほど解説したとおり、避妊手術が最も重要な予防手段です。
なお、当院では初回の発情が終わって2回目の発情が始まる前での避妊手術をお勧めしています。
その理由としては、初回発情前に避妊手術をすることで排尿障害のリスクが高まるのに加え、当院では性成熟が十分ではない(大人の体に成熟しきっていない)状態で手術を行うことには、動物倫理上の問題があると考えているためです。
まとめ
普段から愛犬愛猫と触れ合っているときに、乳房にしこりを見つけることもあるので、普段から気を付けて早期発見に努めましょう。しこりの大きさによって生存期間が大きく異なることも報告されていて、特に3cm以上だと大幅に短くなることがわかっています。
また、悪性度が高い場合の抗がん剤治療は、選択肢の1つとして考えておきましょう。人の抗がん剤治療を思い浮かべる飼い主様も多いかと思いますが、腫瘍が転移することで状態が悪化し、命を落とすリスクを考えると、前向きな検討が必要な場合もあります。
当院でも乳腺腫瘍の手術後に抗がん剤治療という選択をとらなかったために、大切な愛犬愛猫を亡くされる飼い主様を目にすることがあります。
大切なご家族を亡くしてから後悔なさらないよう、様々な治療の選択肢を知っておくことも重要です。
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