犬と猫の重度角膜潰瘍について┃不意なケガでも発症する目の病気

犬や猫に多い病気の1つに、角膜潰瘍(潰瘍性角膜炎とも呼びます)が挙げられます。この病気は角膜に傷がついてしまう病気で、その深さによっていくつかに分類されます。軽症例では点眼薬などの内科的治療で対応できますが、重度角膜潰瘍にまで進行すると視覚に影響し、手術が必要になることもあります。
今回は犬や猫の重度角膜潰瘍について、分類ごとの原因や症状だけでなく、ご自宅でケアする際の点眼のコツなどについてご紹介します。

 

角膜の構造と角膜潰瘍の分類

目の中には外側から、角膜、水晶体、網膜という構造物があり、角膜は上皮、実質、デスメ膜という3つの層からつくられています。
角膜潰瘍は病変の深さによって、表在性、実質性、デスメ膜瘤、角膜穿孔という4つに分類でき、角膜穿孔にまで至ると失明するおそれもあります

原因・症状

角膜潰瘍は犬でも猫でも発生しますが、特に犬で多く見られ、猫では猫ヘルペスウイルス1型感染による角膜潰瘍が多いことも特徴です。以下に、分類ごとの原因と症状を解説します。

表在性角膜潰瘍

角膜表面の上皮が部分的に傷ついている状態です。木の枝やケンカなどによるひっかき傷、逆さまつ毛(眼瞼内反症)による刺激、といった理由で発症します。細菌感染がなければ症状は軽く、目の違和感から目を擦る様子が見られます

実質性角膜潰瘍

角膜上皮の傷(潰瘍)が実質にまで到達した状態を指します。表在性角膜潰瘍と同様の原因で発症し、細菌感染により角膜や結膜に炎症を伴っていることも多くあります。炎症によって目が赤くなり、痛みを感じて触られることを嫌がったりします

デスメ膜瘤・角膜穿孔(重度角膜潰瘍)

デスメ膜瘤は、潰瘍が深くなりデスメ膜にまで達した状態です。デスメ膜はとても薄い膜のため簡単に破れ、角膜穿孔に至ってしまいます。角膜穿孔まで進行すると、水晶体を保護する液体(眼房水)が外に流れるだけでなく、細菌が目の中にまで感染してしまい、失明する危険性もあります。外観からは目の表面が凹んでいるように見え、強い痛みを生じます

なお、これらの分類とは別のしくみで発症する、難治性角膜潰瘍という病気もあります。これはボクサーやフレンチ・ブルドッグなどでよくみられ、細菌感染を伴わずに何度も再発してしまうという特徴があります。

加えて、若齢の場合早期に改善する場合もありますが、高齢の場合治療が長期間に及びやすいという特徴があります。

診断

眼専用の機器を用いて、目の表面や内部の様子を観察します。また、フルオレセインという染色液を点眼することで、目の表面のどこに傷があるかを調べます。

治療

治療方針

軽度であれば抗菌薬や抗炎症薬などを点眼し、症状を和らげながら傷の修復を待ちます。通常、傷の治療を行う場合は血管を使って治療を行いますが、角膜は血液が通らない場所のため、涙を使って治療を行います。重度角膜潰瘍の場合は点眼のみで対処することは難しく、手術が選択されます。

当院では動物の状態や角膜潰瘍の重症度にあわせて、瞬膜フラップ、結膜フラップ、コンタクトレンズの固定などを行います。ただし、手術には費用が生じるだけでなく、動物の体に対する負担も大きくなってしまいます。できればそのような状態になる前にご来院いただき、早期発見・早期治療に努めていただくことをお勧めします。

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エリザベスカラーの重要性

目の違和感から引っかき、目を傷つけてしまうことを防ぐために、動物病院ではエリザベスカラーを装着することがあります。最近では色々な種類が販売されており、柔らかい素材のものが人気ですが、目の治療には固い素材のものが適しています。柔らかいエリザベスカラーだと十分に目を保護できず、再発してしまう危険性もあるため注意が必要です。

点眼のコツ

ご自宅で点眼される際には、1日の点眼回数や治療期間を守っていただくことが大切です。動物が点眼を嫌がる場合は、後ろから立膝をつき片方の手で顎を持ち、もう片方の手(利き手)の小指で目を開けつつ、点眼する方法をお試しください。上手にできたらご褒美をあげるようにすると、点眼をすればおやつがもらえると学習し、我慢してくれるようになります
目薬を差すのが難しい場合は、当院スタッフにご相談ください。

まとめ

角膜潰瘍は不意なケガでも発症します。潰瘍から細菌やウイルスが感染すると痛みを感じ、放置するとすぐに角膜穿孔にまで至ってしまいます。また、治療が遅れた場合、本来透明な角膜が白く残った状態で一生を過ごさなければならないケースもあります。そのため、目に違和感を感じたらすぐにご来院いただき、早めに対処することが大切です。

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<参考文献>
Evaluation of corneal ulcer type, skull conformation, and other risk factors in dogs: A retrospective study of 347 cases – PMC (nih.gov)
Ulcerative Keratitis – ScienceDirect

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