犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)について│片足だけの脱臼でも両足の手術をお勧めします

膝の関節は大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)という3つの骨で構成されています。膝蓋骨脱臼は膝蓋骨の位置が変わってしまうことで起こる足の病気で、小型犬によくみられます。

脱臼の程度によって症状は様々ですが、たとえ軽度であってもだんだんと症状が悪化する可能性があるため、手術による早期の治療が重要です。今回は、膝蓋骨脱臼の原因や症状といった情報とともに、当院で採用している手術について、詳しく解説します。

原因

膝蓋骨脱臼は大きく分けて内方脱臼外方脱臼の2種類があります。

内方脱臼は膝蓋骨が犬の足の内側に脱臼するのが特徴で、
若い小型犬(通常は3歳齢以内)によくみられ、発症しやすい犬種としてはトイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、チワワ、フレンチ・ブルドッグなどが挙げられます。

一方外方脱臼は膝蓋骨が犬の足の外側に脱臼するのが特徴で、
グレートデーン、セントバーナード、ロットワイラーなどの大型犬で多くみられます。
日本では小型犬を飼育されている家庭が多いため、必然的に内方脱臼の症例が多くみられます。

いずれの場合も膝蓋骨の溝が浅い、外側の靭帯が弱い、骨がずれているなどが要因となります。

また、根本的な原因は明らかになっていませんが、主に先天性の要因(遺伝)が関わっていると考えられています

後天的な要因の例としては、膝の関節を傷つけるような事故が原因となることもあります。

症状

膝蓋骨脱臼は、脱臼の程度によって1~4までのグレード分けがされています。症状はグレードによって様々で、軽度(グレード1~2)であれば、一般的に無症状、あるいは足をかばって少しスキップして歩く程度です。ただし重度(グレード3~4)になると、常にびっこをひく、足を持ち上げるようにする、しゃがむように歩くといった症状がみられます。

初期には片足だけの脱臼でも、かばうような歩き方(モンローウォークと呼びます)をして両足に異常がみられてしまうことが多く、重症化すると前十字靭帯断裂という足の病気にもつながってしまうため、早期の治療が大切です

■膝蓋骨脱臼のグレード分け

グレード状態
膝蓋骨を触診で簡単に外すことができるものの、手を離すと元の位置に戻る。
膝の曲げ伸ばしだけで膝蓋骨が外れる。
膝蓋骨が常に外れている状態だが、手で押すと元の位置に戻る。
膝蓋骨が常に外れている状態で、手で押しても元の位置に戻らない。

診断

膝蓋骨脱臼の診断には、整形外科検査が重要です。具体的には、室内での歩行を観察したり、関節を曲げたり伸ばしたりするとともに、膝蓋骨に触って先ほど述べたグレードを判定します。

あわせて、関節のレントゲンを撮影することで骨の位置を確認します。その際には一方向だけでなく、様々な方向から撮影することで詳細な評価が可能になります。

膝蓋骨脱臼で見られる歩き方(歩様)の異常は股関節などに起きる他の整形外科疾患の症状と類似しているケースも多く、同時に併発する疾患も多いことから、正確に診断を下す必要があります。

治療

軽度であれば、抗炎症薬の投与、体重管理、運動制限などによる保存療法で様子をみることもありますが、完治を目指すのであれば手術による治療が必要です。特にモンローウォークがみられる犬では脱臼が進行している可能性があるので、手術をお勧めします。なお当院では、先ほど述べたように、片足だけの脱臼であっても、片足をかばうように歩くことで両足に異常がみられてしまうケースが多いため、両足の手術を推奨しています

術式は動物病院によって様々ですが、当院では滑車溝造溝術、関節包の縫縮術、膝蓋骨の裏の軟骨トリミング、脛骨粗面の転移術といった4つを組み合わせた手術を採用しています。こうすることで膝蓋骨がうまく元の位置に固定され、膝の痛みを軽減し、犬のQOL(生活の質)を保つことができます

特に膝蓋骨の裏軟骨トリミングと頸骨粗面の転移術に関しては実施しない病院も多くありますが、
これらの手術を実施することで、治療が成功する可能性が高まります。

術式を含めた膝蓋骨脱臼の治療についてご不明な点がございましたら、当院の獣医師までご相談ください。

ご家庭での注意点

小型犬を飼育されている方は、以下のような日常の行動に気を付けることが重要です。

・後ろ足だけでジャンプする
・飼い主さんを引っ張りながら散歩する
・滑りやすいフローリングを行き来する
・狭い空間を行き来するボール遊びをする
・家族が帰宅する際のチャイムの音で、玄関までダッシュする

これらの行動を防ぐには、ご自宅の環境を変えていただいたり、しつけトレーニングを行ったりする必要があります。

例えば、滑りやすいフローリングを行き来することを防ぐにはゴム性のマットや貼り付けるタイプの滑り止め用マットを敷くことで環境の改善が可能ですし、当院で開催している月に1度のしつけ指導を受けていただくことでしつけトレーニングも可能です。当院のしつけ指導では、お一人お一人の生活環境に合わせた指導を心がけていますので、飼育方法にお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

もし本記事で解説したような異常がみられるようであればすぐに動物病院を受診してください。重症化する前に治療を施すことで、術後も快適な生活を送ることができるでしょう。

当院の診療案内詳細はこちら

<参考文献>
Patellar luxation in dogs – PMC (nih.gov)

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