
なんとなく元気がない…愛犬の異変、実はアジソン病かも?|見逃されがちな症状と命を守る治療法
「最近なんとなく元気がない」「食欲が落ちてきた気がする」
そんな愛犬の変化を、年齢のせいかなと見過ごしていませんか?
アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、犬の内分泌疾患のひとつで、発症頻度は高くありませんが、症状があいまいなために見逃されやすい病気です。しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、長期的に安定した生活を送ることも十分可能です。
今回は、アジソン病について、その症状や診断、治療方法をご紹介します。
■目次
1.犬のアジソン病とは
2.見逃されやすいアジソン病の症状|こんなサインに要注意
3.アジソン病の診断と検査の流れ
4.アジソン病の治療と管理|安定した生活を目指して
5.まとめ
犬のアジソン病とは
アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎という小さな臓器のうち「皮質」の働きが低下し、体に必要なホルモンが分泌されなくなる病気です。
副腎は、腎臓のそばにあるごく小さな臓器ですが、体の調子を整えるホルモンを作るというとても重要な役割を担っています。副腎は「皮質」と「髄質」の2つの部分に分かれており、中でも皮質から分泌される以下のホルモンが、アジソン病に深く関わっています。
・コルチゾール:ストレスに対応するホルモン
・アルドステロン:ナトリウムやカリウムなどのミネラルバランスを調整
これらのホルモンが不足すると、体の調子を保てなくなり、さまざまな不調が現れます。
<どんな犬が発症しやすい?>
アジソン病は、若い成犬から中年齢の犬で発症することがあります。稀ではあるものの、猫も発症することがあります。
似たような病気に、ホルモンが過剰に分泌される「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」がありますが、こちらは中高齢の犬でよく見られます。 犬のクッシング症候群の症状について詳しく知りたい方はこちら
<アジソン病の主な原因>
はっきりとした原因がわからないこともありますが、次のようなケースが知られています。
・自己免疫反応により副腎が壊されてしまう
・クッシング症候群の治療薬(ミトタン)の作用が強すぎた場合
・皮膚病などで長期間ステロイドを使用し、中止した後に起こる離脱症状
どれも体のホルモンバランスに関わることが背景にあり、副腎の機能が影響を受けることでアジソン病を引き起こします。
見逃されやすいアジソン病の症状|こんなサインに要注意
アジソン病は、「なんとなく元気がない」といったあいまいな症状から始まることが多く、老化や軽い体調不良と思われて見過ごされてしまうケースも少なくありません。
<慢性型のアジソン病>
慢性型では、体調不良がじわじわと進行していきます。特にストレスが発症や悪化の引き金となることもあるため、日常生活の変化にも注意が必要です。
以下のような症状が続く場合は、アジソン病のサインかもしれません。
・食欲の低下
・なんとなく元気がない
・体重が少しずつ減る
・ふるえ
・脈が遅くなる(徐脈)
この段階では「年齢のせいかな」「季節のせいかな」と見過ごされがちですが、放っておくと症状が進行してしまうこともあるため、早めの対応が大切です。
<急性型(アジソンクリーゼ)に注意>
慢性的な不調が続いたあと、急激に悪化し命に関わる状態になることがあります。これをアジソンクリーゼと呼び、以下のような症状が突然あらわれます。一刻も早い処置が必要となる危険な状態です。
・脱水や血圧低下によるショック症状
・意識がもうろうとする(意識混濁)
・播種性血管内凝固(DIC):全身に小さな血栓ができて臓器が機能しなくなる危険な合併症
こうした急変を防ぐためにも、日頃から愛犬の様子をよく観察し「いつもと違うかも」と感じたら、ためらわずに動物病院へご相談ください。飼い主様のちょっとした気づきが、早期発見と適切な治療につながります。
アジソン病の診断と検査の流れ
アジソン病の確定には、いくつかの検査が必要です。
<血液検査>
アジソン病の代表的な特徴として、以下のような電解質異常が見られることがあります。
・低ナトリウム血症
・高カリウム血症
ただし、症状の軽いタイプ(コルチゾールのみが低下しているタイプ)では、これらの異常が見られない場合もあり、血液検査だけでは診断が難しいこともあります。
<ACTH刺激試験>
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を注射し、体がどれくらい反応してコルチゾールを出せるかを確認する検査です。この検査でコルチゾール値が十分に上がらなければ、アジソン病と診断されます。
アジソン病は、できるだけ早く見つけてあげることで、その後の治療をスムーズに進めやすくなります。だからこそ、異変に気づいた段階での早めの受診がとても大切です。
また、定期的な健康診断も、こうした内分泌疾患の早期発見に役立ちます。気になる症状がなくても、年に1回の健診を受けておくことで、見えにくい異常にも早く気づける可能性があります。
アジソン病の治療と管理|安定した生活を目指して
アジソン病は残念ながら完治が難しい病気ですが、治療によって症状を安定させ、健康的な生活を送ることも十分に可能です。
<ホルモン補充療法>
アジソン病の基本となる治療法です。体内で不足している副腎ホルモンを、飲み薬や注射で補います。生涯にわたって続ける必要がありますが、正しく管理すれば、発症前とほとんど変わらない生活を送ることもできます。
<定期的な通院と検査>
体調が急に変化することもあるため、定期的な血液検査でホルモンや電解質のバランスを確認し、状態をチェックしていくことが大切です。
<ストレスを減らす生活環境づくり>
ストレスが症状を悪化させる要因のひとつと考えられているため、安心できる生活環境を整えてあげましょう。無理のないお散歩や、飼い主様とのふれあいの時間は、愛犬にとって心身の安定につながる大切なケアの一環です。
まとめ
アジソン病は見逃されやすい病気のひとつですが、早めに気づいて治療を始めれば、症状を安定させながら穏やかに過ごすことも十分に可能です。
特に慢性型では「年齢のせいかな」と思われがちなサインが続くこともあるため、日ごろからの観察と小さな変化への気づきがとても大切になります。
ナガワ動物病院では、丁寧な診察と分かりやすい説明を心がけています。「最近ちょっと元気がないかも」「食欲が落ちているかも」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。
<参考文献>
Diagnosis…

犬と猫の避妊・去勢手術|時期・メリット・費用・術後ケアまで獣医師が解説
「避妊・去勢手術って本当に必要?」「いつ頃受けるのがいいの?」
そのようなお悩みをもつ飼い主様も多いのではないでしょうか。手術には病気の予防や行動の安定などたくさんのメリットがある一方で、麻酔や術後のケアについて不安を感じていらっしゃる方も少なくありません。
ナガワ動物病院では、こうしたお悩みに寄り添いながら、愛犬・愛猫にとって最適な手術のタイミングや方法をご提案しています。
今回は、避妊・去勢手術の基本的な内容から、手術のメリット・デメリット、時期や費用、術後の過ごし方までを、詳しく解説します。
■目次
1.避妊・去勢手術とは|犬・猫の体にどんなことをするの?
2.手術を受けるメリットとデメリット
3.手術の時期はいつがベスト?|犬・猫それぞれの推奨時期と考え方
4.手術の流れと費用の目安
5.術後のケア|手術後も安心して過ごすために
6.まとめ
避妊・去勢手術とは|犬・猫の体にどんなことをするの?
避妊・去勢手術は、繁殖を望まない犬や猫にとって大切な医療処置のひとつです。ナガワ動物病院では、以下のような方法で行っています。
<避妊手術(メス)>
子宮と卵巣を取り除く手術です。妊娠を防ぐことができるだけでなく、将来的に発症リスクの高い病気を予防する効果もあります。術後は基本的に一泊入院し、最短で翌日の午前中に退院していただく流れです。
<去勢手術(オス)>
精巣を摘出する手術で、比較的短時間で終わる処置です。こちらも一泊入院後、翌日の午前中にご帰宅いただけます。
<麻酔とリスクへの配慮>
どちらの手術も全身麻酔が必要になります。当院では、手術の安全性を高めるため、術前検査(血液検査・レントゲン・心電図など)を強くおすすめしています。また、麻酔時は必ず2名以上の獣医師が立ち会い、安全管理を徹底しています。
手術を受けるメリットとデメリット
避妊・去勢手術には、身体的・行動面でのメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。事前にしっかり理解しておくことが大切です。
<メリット>
・望まない妊娠を防げる
・発情期のストレスや鳴き声、マーキング、攻撃的な行動などの軽減
・メスは子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、オスは前立腺肥大や会陰ヘルニアなどの予防
<デメリット・注意点>
・ホルモンバランスの変化で太りやすくなることがある
・全身麻酔に伴うリスクがある
・術後、一時的に元気がなくなったり、体調を崩したりすることがある
・排尿のトラブルが出ることがある
ただし、こうしたリスクについては、術前検査や術後のケア、日々の体調管理で十分に対応できることがほとんどです。
当院では、このような手術のメリット・デメリットを丁寧にご説明したうえで、飼い主様と一緒に最適な選択ができるように心がけています。
手術の時期はいつがベスト?|犬・猫それぞれの推奨時期と考え方
手術の効果を最大限に活かすためには「いつ手術を受けるか」も重要なポイントになります。
<犬の場合>
▼去勢手術(オス)
歯の生え変わりが落ち着く生後6〜8か月頃がおすすめです。
▼避妊手術(メス)
初回の生理が終わった約1.5か月後(発情休止期)が理想です。この時期はホルモンバランスが落ち着いており、手術の負担も少なくなります。
<猫の場合>
去勢・避妊ともに、大人の歯が生えそろい、発情期が始まる前(生後5〜6か月)がベストタイミングです。
発情後の手術は出血量が増えたり、術後の回復が遅れたりすることもあるため、早めのご相談をおすすめします。
手術の流れと費用の目安
当院では、避妊・去勢手術を安心して受けていただくために、事前準備から術後のフォローまでを丁寧に行っています。ここでは、手術の流れと費用の目安についてご紹介します。
<手術の流れ>
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動物病院での腫瘍摘出ってどうやるの?手術の流れと注意点
「腫瘍」と聞くと「もう手の施しようがないのでは…」「これからどうすればいいんだろう…」と不安を感じる飼い主様も多いかもしれません。
しかし、犬や猫にできる腫瘍に…

【獣医師が解説】犬・猫の直腸腺がんと直腸プルスルー術|症状から治療まで
愛犬や愛猫のおしりから出血していたり、便がうまく出せていなかったりすると、多くの飼い主様は不安を感じるものです。
一方で、高齢の犬や猫では「年齢によるものだろう」と考え、つい見過ごされてしまうケースも少なくありません。しかし、こうした症状の裏には直腸腺がんが隠れていることがあり、早期発見・早期治療によってその後の予後が大きく変わります。
今回は、犬や猫の直腸腺がんについて、特に直腸プルスルー術という外科治療に焦点を当て、詳しく解説します。
■目次
1.直腸腺がんとは?|基礎知識を押さえましょう
2.直腸腺がんの症状|気をつけたいサイン
3.直腸腺がんの診断方法
4.直腸プルスルー術とは?|手術の基本と流れ
5.手術後のケアと回復過程
6.まとめ|直腸腺がんと向き合うために
直腸腺がんとは?|基礎知識を押さえましょう
直腸腺がんは、直腸の粘膜に発生する悪性腫瘍(がん)の一種です。
主に高齢の犬や猫にみられますが、中年齢で発症するケースもあります。
類似した腫瘍に直腸腺腫(良性)もありますが、直腸腺がんは周囲の組織へ浸潤する力が強く、放置すると進行してしまいます。特に腸閉塞を引き起こすと、生命に関わる危険性があるため、早めの診断と治療が重要です。
直腸腺がんの症状|気をつけたいサイン
直腸にしこりができることで、便の排泄に影響が出ます。初期には以下のような症状が見られます。
・排便時の出血
・排便困難、しぶり(いきんでも便が出ない状態)
・便の形の変化
さらに進行すると、以下のような全身症状がみられるようになります。
・体重減少
・食欲不振
・元気消失
高齢になると排便トラブルが起こりやすいため「年齢のせい」と誤解されることもありますが、急に変化があらわれた場合は特に注意が必要です。日頃から便の回数や出血の有無、形状などをチェックし、少しでも異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。
直腸腺がんの診断方法
直腸腺がんを正確に診断するためには、いくつかの段階を踏んで検査を進める必要があります。
<初診時に行われる検査>
まず、便の異常の原因を探るため、以下の検査を実施します。
・直腸検査(触診)
獣医師が直腸内に指を入れ、しこりの有無や大きさ、質感を確認します。
小さな腫瘍でも触知できる場合があり、初期段階での異常発見に役立ちます。
・直腸鏡検査(内視鏡検査)
肛門からカメラを挿入し、直腸の内壁を直接観察します。
目視で粘膜の状態やしこりの形状を確認できるため、より詳細な評価が可能です。
これらの検査によって、腫瘍の存在が疑われる場合は、次のステップに進みます。
<確定診断のための検査>
腫瘍の性質を詳しく調べ、直腸腺がんであるかどうかを確定するため、以下の検査を行います。
・細胞診
針を使ってしこりから細胞を採取し、顕微鏡で観察します。
比較的簡便に実施でき、悪性の可能性を推測するための第一歩となります。
・組織診(生検)
内視鏡下でしこりの一部を切り取り、病理検査で詳しく分析します。
細胞診だけでは確定できない場合に実施し、正確な診断を下すために重要な役割を果たします。
<進行度・転移の評価>
直腸腺がんは進行すると他の臓器に転移する可能性もあるため、全身状態を把握する検査も欠かせません。超音波検査・レントゲン検査・CT検査なども併用して、腫瘍の広がり具合や転移状況を把握します。
すべての検査結果を総合して、直腸腺がんのステージング(進行度分類)を行い、その後の治療方針を決めていきます。
直腸プルスルー術とは?|手術の基本と流れ
直腸腺がんの治療には、外科手術が中心となります。特に腫瘍が直腸内に限局している場合に選択される手術が、直腸プルスルー術(Pull-through術)です。
この術式は、直腸の腫瘍部分を肛門側から引き出して切除し、腸管を再吻合するという特徴を持っています。身体への負担を抑えながら、腫瘍をできる限り確実に摘出できる方法のひとつです。
<直腸プルスルー術が適応となるケース>
直腸プルスルー術が選択されるのは、以下のような条件を満たす場合です。
・腫瘍が直腸の比較的下部(肛門側)に存在している
・腫瘍の大きさが適度で、肛門から直腸を引き出して処置できる範囲である
・進行度が比較的低く、周囲組織への広範な浸潤や遠隔転移がない
・全身麻酔に耐えうる体力がある
腫瘍が直腸の上部(奥の方)に存在していたり、大きく進行していたりする場合には、別の術式が検討されることもあります。
<直腸プルスルー術の流れ>
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【獣医師監修】愛犬・愛猫の足の痛みは関節炎かも?早期発見と効果的な対処法
「最近、愛犬が散歩を嫌がるようになった」「愛猫が高いところに登らなくなった」と感じたことはありませんか?もしかすると、それは関節炎のサインかもしれません。
関節炎は犬や猫にとって身近な健康問題であり、足の痛みや違和感が生活の質(QOL)に大きく影響します。特に高齢の犬や猫に多く見られますが、若い犬や猫でも発症することがあり、油断は禁物です。愛犬・愛猫がいつまでも快適に過ごせるようにするためには、早期発見と適切な治療、ご家庭でのケアがカギとなります。
今回は犬や猫に起こる関節炎について、早期発見のポイントや効果的な対処法を詳しく解説します。
■目次
1.関節炎とはどのような病気?
2.関節炎の主な症状と早期発見のポイント
3.犬種・猫種別・年齢別の関節炎リスク
4.動物病院での診断方法
5.関節炎の治療法
6.ご家庭でできる関節炎ケア
7.まとめ
関節炎とはどのような病気?
関節炎とは、関節を動かすための軟骨や靭帯が損傷・炎症を起こし、関節が正常に機能しなくなる病気を指します。特に加齢によって起こる変形性関節症などの関節炎は、シニア期の犬や猫に多くみられますが、若い犬や猫でも発症する場合もあります。
たとえば、大型犬では「股関節形成不全」、小型犬では「膝蓋骨脱臼」などが原因で関節炎が発症するケースもあります。「関節炎=年をとってからの病気」という認識は誤りであり、若い犬や猫でも注意が必要です。
関節炎の主な症状と早期発見のポイント
関節炎の初期には、以下のような症状が現れることがあります。もしこれらの症状がみられた場合には、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
・朝起きたときに動きが硬く、こわばっている
・階段の上り下りをためらう
・ジャンプをしなくなった
・散歩を嫌がるようになった
さらに関節炎が進行すると、次のような症状が現れることもあります。
・足を引きずる
・足を地面に着けられない
・動かなくなる、ぐったりしている
・発熱がみられる
また、これらの症状は、特に犬で顕著に現れます。一方、猫は痛みや不調を悟られないようにするため、飼い主様が症状に気づきにくいことも少なくありません。
猫の痛みを把握するための一つの方法として、猫の画像から痛みの程度を判定するAIツール「Cats…

【獣医師監修】猫の慢性腎臓病 – ステージ別食事管理と自宅でできるケア方法
慢性腎臓病は特にシニア猫に多く見られる病気で、腎臓の機能が徐々に低下していく進行性の疾患です。早期発見が難しく、症状が現れたときには病気がかなり進行していることが多いという特徴があります。しかし、適切な食事管理や在宅ケアを早くから始めることで、病気の進行を遅らせ、愛猫の生活の質(QOL)を維持することができます。
慢性腎臓病は根治が難しいため、診断を受けた飼い主様はショックを感じるかもしれません。しかし、まずはできることから始め、愛猫との生活を少しでも長く楽しむために、一緒に向き合っていきましょう。
今回は、猫の慢性腎臓病について、病気の基礎知識や症状、診断方法、在宅ケアのポイントなどを詳しく解説します。
■目次
1.猫の慢性腎臓病とは?基本的な理解
2.愛猫の慢性腎臓病に早く気づくためのサイン
3.慢性腎臓病の診断とステージ分類
4.ステージ別の在宅ケアや食事管理の重要性
5.まとめ
猫の慢性腎臓病とは?基本的な理解
腎臓は、体内の老廃物を排出し、水分やミネラルのバランスを調整する重要な臓器です。慢性腎臓病ではこれらの機能が徐々に低下し、以下のような問題が発生します。
・老廃物排出が困難になる
・脱水やミネラル異常、血圧の上昇が起こる
・心臓に負担がかかり、肥大型心筋症を併発することがある
猫の肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください
慢性腎臓病は中高齢の猫で特に多く、5~6歳以降に発症リスクが高まります。多くの場合は加齢による腎機能の低下が原因ですが、尿石症などの泌尿器の病気が原因となることもあります。また、まれに先天的な腎臓の奇形によって発症するケースがあります。
愛猫の慢性腎臓病に早く気づくためのサイン
慢性腎臓病の初期には目立った症状がほとんどありませんが、腎臓の機能が低下すると次のようなサインが現れ始めます。
・多飲多尿:水をたくさん飲み、おしっこの量が増える
・食欲低下:食事を残す、興味を示さなくなる
・体重減少:体格がほっそりし、あばらが浮き出る
・被毛の艶の低下:毛並みがぼさぼさになり、艶が失われる
慢性腎臓病が進行すると、さらに重篤な症状が現れることがあります。
・口臭:アンモニア臭がする
・高血圧:目が赤くなる、心臓のリズムに異常が出る
・神経症状:けいれんや神経過敏
これらの症状は他の病気でも見られることがあるため、自己判断は危険です。確実な診断のもとで治療を進めていくためにも、異変を感じたら、まずは動物病院で適切な検査を受けましょう。
慢性腎臓病の診断とステージ分類
慢性腎臓病を正確に診断するためには、以下の検査が必要です。
・血液検査:BUN、クレアチニン、SDMAなど腎機能を示す数値を確認
・尿検査:尿比重や尿たんぱくなどを測定
・血圧測定:腎臓への負担を評価
・エコー検査:腎臓の状態を画像で確認
これらの検査結果を総合的に判断し、慢性腎臓病の進行度を評価します。
進行度は「国際腎臓病学会(IRIS)」によってステージ1〜4に分類されており、ステージごとに治療方針が異なります。そのため、定期的に検査を実施し、愛猫がどのステージにあるのかを把握することが大切です。
<慢性腎臓病のステージ分類>
ステージ1:腎障害はあるものの、一般的に無症状。腎機能は33%以上。
ステージ2:無症状もしくは軽い症状が現れる。腎機能は25~33%。
ステージ3:さまざまな症状が出現。腎機能は10~25%。
ステージ4:重度の症状が現れる。腎機能は5~10%。
<治療方針と定期検査の重要性>
慢性腎臓病の治療では、病気の進行をできるだけ遅らせ、愛猫が快適に過ごせるようにサポートすることが目標です。特に重要なのが、ステージ2以下の状態をいかにキープするかという点です。
飼い主様の中には、「ステージ2だからまだ大丈夫」と安心される方もいらっしゃいますが、実際にはステージ2の時点で腎機能の7割が失われているため、決して油断できない状況です。腎臓の機能は一度低下すると回復が難しく、放置すると急速に悪化するリスクがあるため、ステージの初期段階で治療を始めることが非常に重要です。
当院では、慢性腎臓病が発症した際には、できる限りステージ2以下の状態を維持できるように治療プランを策定しています。定期検査を通じて進行具合を把握し、状況に応じた対策を講じることで、愛猫の健康をサポートいたします。
ステージ別の在宅ケアや食事管理の重要性
慢性腎臓病は進行性の病気であるため、ステージに応じた適切なケアが欠かせません。
特に食事療法は、慢性腎臓病の管理において最も重要な要素の一つです。腎臓への負担を減らすためには、たんぱく質、リン、ナトリウムの量を調整することが求められますが、筋肉量が減少するとかえって病状が悪化するリスクもあるため、バランスの取れた管理が必要です。当院では、腎臓の数値を上げないように工夫しながら、適度なたんぱく質も補えるような食事指導を行っています。
さらに、近年注目されているAIMたんぱく質の摂取が腎臓病の進行抑制につながる可能性が指摘されており、今後の治療選択肢として期待されています。
<ステージ別ケアのポイント>
慢性腎臓病の管理では、病気の進行を遅らせるための予防的ケアから、症状を和らげるためのサポート、終末期のQOL維持まで、各ステージに応じたアプローチが求められます。
▼初期(ステージ1~2):予防的ケアと食事管理
この段階では予防的ケアを中心に考えます。たんぱく質やリン、ナトリウムの含有量を抑えた腎臓病用療法食を取り入れることで、腎臓への負担を減らす効果が期待できます。
また、食事だけでなく水分補給を意識することが重要です。特に猫はもともと水をあまり飲まないため、ウエットフードやふやかしたドライフードを与えるなどして、水分摂取量を増やす工夫をしましょう。
▼中期(ステージ3):症状緩和を目的としたケア
ステージ3になると、症状が顕著になりやすいため、症状緩和を重視したケアが求められます。特に貧血や消化器症状が現れることがあり、食欲が低下しやすいため、嗜好性の高い療法食や、フードを温めて香りを引き立たせる工夫が効果的です。
また、水分摂取をより意識し、スープタイプのフードや水分を多く含むウエットフードを活用することで、脱水を防ぎ腎機能をサポートします。栄養が偏らないように、獣医師の指導のもとでサプリメントを適切に使いながらケアを進めましょう。
▼末期(ステージ4):QOL維持を目指すケア
末期段階では、愛猫ができるだけ快適に過ごせる環境を整えることが最優先です。
この時期には、食欲が極端に低下することが多く、必要に応じて栄養チューブの使用を検討します。無理に食べさせるのではなく、少量でも摂取できる工夫が重要です。
また、体調の変化が激しい時期ですので、こまめな体調チェックと痛みや不快感の管理を徹底しましょう。獣医師と連携しながら、適切な治療プランを調整していくことが大切です。
まとめ
慢性腎臓病は進行性の病気ですが、早期発見と適切な管理を行うことで、病気の進行を遅らせ、愛猫が穏やかに過ごせる時間を延ばすことが期待できます。
特に食事管理や在宅ケアは、慢性腎臓病の管理において最も重要な要素です。ご家庭でのケアを怠ってしまうと、病気が進行してしまい、愛猫が非常に苦しい最期を迎えてしまうケースも少なくありません。当院でも、症状が進んでからご相談に来られ「もっと早くケアを始めていれば」と後悔される飼い主様を何度も見てきました。この記事をご覧の飼い主様には、同じ後悔をしてほしくないと心から願っています。
愛猫の健康を守るためには、少しでも気になる変化があれば早めに動物病院を受診し、一日でも早く適切なケアを始めることが大切です。気になる症状がある際には、ぜひ当院にもお気軽にご相談ください。丁寧な診断とサポートを通じて、愛猫と飼い主様が少しでも長く快適に過ごせるようお手伝いさせていただきます。
<参考文献>
原田佳代子.…

犬・猫のノミ感染を見逃さない!フンの特徴から予防対策まで
犬や猫に影響を及ぼす寄生虫の中でも、特に厄介なのがノミです。ノミが寄生すると強いかゆみを引き起こし、ひどくなると皮膚炎や貧血などの健康トラブルにつながります。さらに、ノミは感染症の原因となる病原体を運ぶこともあり、放置すると健康リスクが高まるため早期発見と予防がとても重要です。
しかし、成虫のノミは動きが素早く、毛の中に隠れてしまうため見つけにくいものです。そのため、感染初期のサインとしてノミのフンをチェックすることが早期発見につながります。
そこで今回は、愛犬・愛猫の健康を守るために知っておきたい、ノミのフンの特徴や発見方法、予防策について解説します。
■目次
1.ノミのフンとは?特徴と見つけ方
2.ノミのフンを見つけたら?正しい対処法
3.なぜノミに注意が必要なの?健康への影響
4.効果的な予防対策と日常のケア方法
5.まとめ
ノミのフンとは?特徴と見つけ方
ノミそのものを見つけることは難しいかもしれませんが、ノミのフンには特徴があるため、ご家庭でも簡単に確認することができます。
<ノミのフンの特徴>
・黒く細かい粒状(ゴミやホコリと間違えやすい)
・水に濡らすと茶色や赤茶色に変わる(血液が含まれているため)
<ノミのフンの見つけ方>
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犬・猫の定期的なエコー検査が必要な理由|獣医師が解説する重要性と頻度
愛犬・愛猫が健康で長生きするために、病気を未然に防ぐ「予防医療」が注目されています。私たち人間と同じように、犬や猫も定期的な健康チェックを受けることで、早期発見・早期治療が可能になります。
動物病院では、血液検査やレントゲンなどさまざまな検査を行いますが、中でもエコー検査(超音波検査)は体に負担をかけずに多くの情報を得られる優れた検査方法のひとつです。
今回は、エコー検査に焦点を当てて、基本情報やメリット、どのような病気の早期発見につながるのか、そして当院で取り扱っている検査器具についてご紹介します。
■目次
1.エコー検査とは?動物病院での検査の流れ
2.犬や猫にエコー検査が必要な理由
3.どれくらいの頻度で検査すべき?年齢別の推奨頻度
4.エコー検査でわかる主な病気と症状
5.当院で導入しているエコー機器のご紹介
6.まとめ
エコー検査とは?動物病院での検査の流れ
エコー検査(超音波検査)とは、高い周波数の音波(超音波)を体に当て、その反射を画像として映し出す検査です。レントゲンのように放射線を使わず、安全に体の内部を観察できるのが大きな特徴です。
<検査の流れ>
検査では、専用のプローブ(超音波を出す装置)を首・胸・お腹などに当て、臓器の状態などを確認します。より鮮明な画像を得るために、ゼリーやアルコールで皮膚や毛を濡らしたり、必要に応じて毛の一部を刈ることがありますが、検査自体に痛みはありません。
エコー検査は、体を傷つけることなく臓器の状態をリアルタイムで確認できるため、愛犬・愛猫への負担が少ない検査方法のひとつです。
犬や猫にエコー検査が必要な理由
エコー検査は、血液検査やレントゲンでは分かりにくい臓器の構造や動き、血液の流れなどを詳しく観察できます。特に、心臓や内臓の状態をリアルタイムで把握できるのが大きな利点です。
例えば、心臓のエコー検査では、血液の流れや弁の動き、心臓の収縮の様子を詳細に確認できます。高齢の犬では、「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓病がよく見つかりますが、この病気は初期段階では症状が目立ちにくく、症状に気づかず進行しているケースが少なくありません。エコー検査では初期の弁の異常も発見できるので、より早期から治療を始められ、犬への負担を軽減してQOL(生活の質)を高めることにもつながるため、定期的なエコー検査が重要な役割を果たします。
また、胆嚢や脾臓の異常、腫瘍なども、エコー検査で早期に発見できることがあります。症状が出る前の段階で病気を見つけられれば、治療の選択肢が広がり、愛犬・愛猫の負担を減らせる可能性が高まります。
どれくらいの頻度で検査すべき?年齢別の推奨頻度
エコー検査をどれくらいの頻度で受けるべきか悩まれる飼い主様も多いかと思います。当院では、以下の頻度での定期検査をおすすめしています。
・健康な成犬・成猫(7歳未満):年1回
・または7歳以上のシニア…

犬の皮膚がうろこ状になる理由とは?症状別の受診目安と予防法
愛犬の皮膚がうろこ状になっているのを見つけて「何が起こっているんだろう…」「自分に何かできることはないかな…」と不安を抱く飼い主様も多いのではないでしょうか。
犬の皮膚は健康状態を映し出すバロメーターです。皮膚や被毛の異常が、時には内臓の病気を示唆することもあるため、早期に動物病院で検査を受け、適切な治療を進めることが愛犬の健康を守る鍵となります。
今回は、犬の皮膚がうろこ状になる主な原因や、ご家庭でのケア方法、動物病院を受診する目安について詳しく解説します。
■目次
1.健康な犬の皮膚とは?正常な状態を知ろう
2.皮膚がうろこ状になる主な原因
3.注意が必要な疾患
4.治療について
5.ご家庭でできるケアと予防法
6.動物病院への相談・受診のタイミング
7.まとめ
健康な犬の皮膚とは?正常な状態を知ろう
健康な犬の皮膚は、以下のような特徴があります。
・触り心地:つるつるしていて滑らか。
・色:薄いピンク色。
・弾力:指で押すとしっかりとはね返る。
普段から愛犬の皮膚の状態を確認し、正常な状態を把握しておくことが、異常に早く気づくための第一歩です。
皮膚がうろこ状になる主な原因
犬の皮膚がうろこ状になる理由として、以下のようなものが挙げられます。
<乾燥>
わたしたち人間も、乾燥すると手がカサカサして、うろこのように見えることがありますよね。犬も同じで、冬の乾燥した季節や、湿度の低い室内環境では、皮膚が乾燥してうろこ状に見えることがあります。これはいわゆるフケの一歩手前で、皮膚の表面を覆う細胞が角化(潤いがなくなること)し、ひび割れのような状態です。ここで注意が必要なのは、フケとカサブタとの違いです。フケは皮膚の表面を覆う細胞が新しく生まれ変わる過程でできる古い細胞ですが、カサブタは皮膚からの出血が固まってできたものです。
<皮膚の炎症やアレルギー>
アレルギー反応や皮膚の炎症が起こると、皮膚のバリア機能が破壊され、外部刺激に対して敏感になります。その結果、皮膚がうろこ状に見える場合があります。特にアレルギー性皮膚炎はかゆみを伴うことが多く、犬が頻繁に体を掻くようになるのが特徴です。また、炎症が長引くと細菌や真菌の二次感染を引き起こし、症状が悪化することもあります。
<栄養状態の不良>
栄養が不足していると、皮膚の細胞の新陳代謝が正常に行われず、うろこ状に見えることがあります。特に、タンパク質や脂肪酸、ビタミン類が不足すると、皮膚の健康が損なわれやすくなります。例えば、オメガ3脂肪酸は炎症を抑え、皮膚を保護する効果がありますが、これが不足すると皮膚の乾燥や荒れを招くことがあります。
<加齢>
高齢犬は、皮膚に潤いを閉じ込める保湿成分が減少しやすく、表面が乾燥してうろこ状になることがあります。また、代謝が低下することで、新しい皮膚細胞の生成が遅れ、古い細胞が皮膚表面に残りやすくなることも原因の一つです。高齢期に入った愛犬には、皮膚の保湿を意識したスキンケアとともに、定期的な健康診断で全身の健康状態をチェックすることが大切です。
注意が必要な疾患
皮膚がうろこ状になる原因が乾燥や栄養不足であれば、ご家庭でのケアで改善する場合があります。しかし、以下のような疾患が隠れていることもあるため、注意が必要です。
<アレルギー性皮膚炎>
食物アレルギーやハウスダスト、ノミ・ダニなどが原因となることが多く、強いかゆみを伴う場合があります。皮膚の赤みや炎症、脱毛などの症状が現れることが特徴です。早期に原因を特定し、適切な治療を行うことが大切です。
アレルギー性皮膚炎について詳しくはこちらをご覧ください
<皮膚感染症>
細菌や真菌(カビ)による感染が一般的です。特に湿気が多い季節や皮膚に傷がある場合に発症しやすいです。感染が進行すると皮膚が赤く腫れたり、膿が出ることもあります。適切な診断と抗菌薬・抗真菌薬を用いた治療が必要です。
<ホルモンバランスの乱れ>
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)や甲状腺機能低下症などのホルモン異常が原因の場合もあります。これらの疾患では、かゆみを伴わないのが特徴的です。血液検査やホルモン検査による診断が必要です。
クッシング症候群について詳しくはこちらをご覧ください
甲状腺機能低下症について詳しくはこちらをご覧ください
<自己免疫性疾患>
他の病気と比べると発症は稀ですが、免疫系が自身の皮膚組織を攻撃してしまうことで起こります。症状が他の皮膚疾患と似ているため、除外診断を重ねる必要があります。診断には時間がかかることが多い、診断が難しい疾患です。
治療について
犬の皮膚がうろこ状になっている場合、原因に応じた治療を進めます。治療の流れとしては以下の通りです。
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