動物病院での腫瘍摘出ってどうやるの?手術の流れと注意点
「腫瘍」と聞くと「もう手の施しようがないのでは…」「これからどうすればいいんだろう…」と不安を感じる飼い主様も多いかもしれません。
しかし、犬や猫にできる腫瘍には良性と悪性があり、実際には良性のものも少なくありません。また、適切な診断と治療によって、健康な生活を取り戻せるケースも多くあります。体表のしこりなど、比較的発見しやすい腫瘍に対する外科的アプローチが中心となりますが、早期発見・早期対応が成功のカギとなることはどのケースでも共通です。
今回は、外科手術による腫瘍摘出に焦点を当て、手術の流れや注意点について詳しくご紹介します。
1.腫瘍とは?|まずは正しく理解しましょう
2.腫瘍発見から診断までの流れ
3.腫瘍摘出手術当日の流れ
4.手術後のケアと経過観察のポイント
5.知っておきたい腫瘍摘出の注意点と長期的な見通し
6.まとめ|飼い主様ができること
腫瘍とは?|まずは正しく理解しましょう
腫瘍には大きく分けて、良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)があります。
・良性腫瘍
成長が遅く、一定の大きさで増殖が止まるため、動物への影響は比較的限定的です。
・悪性腫瘍
成長が速く、周囲の組織に広がったり、遠隔転移を起こしたりするため、命に関わる危険性があります。
特に飼い主様が気づきやすいのは、皮膚のしこりや乳腺腫瘍などの体表にできる腫瘍です。皮膚の異変を見つけたときは、様子を見るのではなく、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。
腫瘍発見から診断までの流れ
腫瘍を発見した場合、まずは視診・触診により外見や硬さを確認し、その後、細胞診(針で細胞を採取して観察する検査)を行います。これにより、腫瘍の性質や悪性度の推測が可能になります。
さらに、必要に応じて以下の検査を実施します。
・レントゲン検査
・超音波検査
・血液検査
これらの検査を通じて、腫瘍の種類や進行度を把握し、手術適応かどうかを判断します。良性であってもペットのQOL(生活の質)に悪影響を及ぼすと判断されれば、摘出が必要となる場合もあります。
体表腫瘍の場合にはご家庭でスキンシップをした際に気づくことも多く、初期に発見・治療できるケースもありますが、それ以外の腫瘍では進行してから見つかるケースも少なくありません。定期的な健康診断や画像検査で、できるだけ早い段階で異常を見つけることが非常に重要です。
当院では、N-NOSE(線虫がん検査)によるがんリスク検査も導入しており、早期発見に役立てています。
腫瘍摘出手術当日の流れ
ここでは、手術に向けた具体的な流れをご説明します。
<ご自宅での準備>
手術前日の夜から絶食を始め、当日の朝からは絶食・絶水をお願いします。
これは、麻酔中に胃の内容物を誤って気道に吸い込んでしまう「誤嚥(ごえん)」を防ぐためにとても重要な対策です。安全な手術のために、必ずご協力をお願いいたします。
<動物病院での準備>
ご来院後は、まず全身状態をチェックし、麻酔に伴うリスクを「ASA分類」という国際基準に沿って評価します。特に高齢の犬・猫や持病を抱えている場合には、麻酔リスクが高くなるため、より慎重な対応が必要です。
当院では、安全性を最優先に考え、麻酔時には必ず獣医師2名以上で対応する体制を整えています。また、事前にわかりやすくリスクをご説明し、安心して手術に臨んでいただけるように心がけています。
<手術時間>
手術にかかる時間は、腫瘍の部位や大きさによって異なります。
小さな体表腫瘍であれば、比較的短時間で摘出が可能です。一方で、内臓にできた腫瘍や悪性度の高い腫瘍の場合は、慎重な処置が必要となり、長時間に及ぶこともあります。
<術後>
術後の回復状況も、手術の内容や個体差によってさまざまです。
元気な場合は翌日に退院できることもありますが、状態によっては、1週間以上の入院が必要になることもあります。
術後の様子やご自宅でのケアについては、獣医師から詳しくご説明いたしますので、ご安心ください。
手術後のケアと経過観察のポイント
ご自宅でのケアでは、特に傷口の保護が重要です。
エリザベスカラーやエリザベスウェアを使用し、傷口を舐めたり引っかいたりするのを防ぎましょう。
投薬管理にも注意が必要です。お薬をうまく飲ませることができない場合は、獣医師にご相談ください。
再診・抜糸は一般的に術後7~10日が目安です。
また、次のような様子が見られた場合には、すぐに動物病院へご連絡ください。
・ごはんを食べない
・排尿・排便がない
知っておきたい腫瘍摘出の注意点と長期的な見通し
腫瘍摘出手術は、愛犬・愛猫の健康を守るために非常に有効な治療法ですが、術後の経過や対応にはいくつか大切なポイントがあります。
<腫瘍のタイプによる手術後の注意点>
手術によって腫瘍を摘出した場合、良性腫瘍であれば基本的に再発や転移の心配はありません。しかし、悪性腫瘍だった場合は、再発や転移のリスクがあるため、術後も定期的な検診が欠かせません。
術後には病理検査を行い、腫瘍が良性か悪性か、また悪性の場合はどの程度の悪性度(グレード)なのかを分類します。このグレード分類に基づき、必要に応じて抗がん剤治療などを検討していきます。
<高齢や複数の腫瘍への手術対応>
よくいただくご相談に「高齢だから手術は難しいのでは?」というものがありますが、年齢だけで手術の可否を決めることはありません。体力や持病、全身状態などを総合的に評価し、できる限り負担を抑えた方法を選択しています。高齢の犬や猫でも、適切なリスク管理のもとで手術を成功させるケースは数多くありますので、安心してご相談ください。
さらに、複数の腫瘍が見つかった場合も対応は一様ではありません。隣接した臓器同士に腫瘍ができている場合は、まとめて摘出できるケースもあります。一方で、まったく異なる場所に複数の腫瘍がある場合には、QOL(生活の質)を大きく下げるリスクが高い部位のみを優先的に切除する、といった柔軟な判断を行うこともあります。
いずれの場合も、飼い主様としっかり相談しながら、愛犬・愛猫にとって最も負担が少なく、効果的な治療方針を一緒に考えていきます。
まとめ|飼い主様ができること
犬や猫の腫瘍は、早期発見と早期治療によって進行を防ぎ、健康な生活を支えることができます。
そのためには、日頃からスキンシップを通じてしこりや異変に気づく習慣を持ち、少しでも気になることがあれば早めに動物病院を受診することが大切です。「様子を見よう」と迷っているうちに病状が進行してしまうこともあるため、異変に気づいた時点でご相談いただくことが、愛犬・愛猫の負担を軽減する近道となります。
また、かかりつけ医との信頼関係を日頃から築いておくことで、いざというときにも安心して治療に臨むことができます。気になることがあれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。大切な愛犬・愛猫の生活の質(QOL)を第一に考えた選択を重ねながら、より良い毎日を一緒に守っていきましょう。
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