犬のアジソン病|散歩や食事はどうする?急変のサインと、治療しながら暮らすということ
「最近なんとなく元気がない」「食欲が落ちてきた」「嘔吐や下痢を繰り返す」「体重が少しずつ減っている」
このような変化が続く場合、アジソン病が隠れていることがあります。ただし、いずれもほかの病気でみられる症状であり、アジソン病と気づかれにくいことが、この病気の難しさです。
今回は、見逃されやすいサインから急変時の対応、検査と治療、治療中の暮らしまで解説します。すでに診断を受けている方は、目次から後半の章へお進みください。
1.アジソン病とは|見逃されやすい症状と気づくポイント
2.救急対応が必要な急性型「アジソンクリーゼ」に注意
3.アジソン病を診断する検査
4.足りないホルモンを補う治療
5.クッシング症候群の治療中にアジソン病になることがある
6.アジソン病は治るのか
7.治療しながらの暮らし|散歩・食事・ストレス・留守番
8.よくあるご質問
9.まとめ|症状がはっきりしないからこそ、継続して診ることが大切です
アジソン病とは|見逃されやすい症状と気づくポイント
アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、腎臓のそばにある副腎から分泌されるホルモンが不足する病気です。
副腎皮質からは、ストレスに対応するコルチゾールと、ナトリウムやカリウムといった電解質のバランスを調整するアルドステロンが分泌されています。
これらのホルモンが不足すると、食欲の低下や嘔吐、下痢、体重の減少といった変化が表れます。
また、副腎皮質にはホルモンを分泌する予備能力があり、一般的に、その組織の約90%が破壊されるまで目立った症状が表れにくいとされています。そのため、症状に気づいたときには、すでに病気が進行している場合があります。
一方で、旅行やペットホテル、トリミング、引っ越しなどの環境の変化といったストレスがかかる場面で症状が表れることがあります。
また、以前より散歩を嫌がる、途中で座り込んでしまうといった変化も手がかりになります。治療中の散歩については後述の「治療しながらの暮らし」にて詳しく説明します。
さらに、ホルモンの不足が強まると、嘔吐や下痢、お腹を痛がる様子がないにもかかわらず、それまで食べていた犬が突然食事を受け付けなくなることがあります。理由が見当たらないのに食べない状態は、観察における大切なポイントです。
特に、食事に薬を混ぜている場合は、食べないことで薬も体に入らなくなります。治療中に食事や薬を受け付けなくなった場合は、その時点で動物病院へご連絡ください。
救急対応が必要な急性型「アジソンクリーゼ」に注意
アジソン病では、ホルモン不足によって急激に体調が悪化し、血圧の低下やショックなど、命に関わる状態になることがあります。これをアジソンクリーゼと呼びます。
次のような状態がみられたら、ただちに動物病院へご連絡ください。
・激しい嘔吐や下痢を繰り返している
・立てないほどぐったりしている
・体が冷たい(低体温)
・ふるえやけいれんがある
アジソンクリーゼは、強いストレスや治療薬の中断、脱水などをきっかけに起こりやすくなります。治療中でも起こりうるため、注意が必要です。
当院は夜20時まで診療しています。夕方以降に異変に気づいた場合も、まずはお電話ください。診療時間外は、夜間救急のある動物病院へご連絡ください。
アジソン病を診断する検査
当院では、身体検査や血液検査、レントゲン検査、超音波検査などを組み合わせて評価します。
・身体検査
体重や体型、脱水の有無、心拍などを確認し、全身の状態を把握します。
・血液検査
アジソン病ではナトリウムが低く、カリウムが高くなる傾向があり、この電解質のバランスが診断の手がかりになります。ただし、電解質の数値が異常にならないアジソン病もあるため、数値が正常でもアジソン病を否定することはできません。
・レントゲン検査(X線検査)
胸部のレントゲン検査では、心臓の大きさを確認します。通常、心臓の先端は胸の骨(胸骨)に接するように映りますが、アジソン病では体内を巡る血液量が減ることで心臓が小さくなり、先端が胸骨から浮いたように映ることがあります。これを小心症と呼び、犬のアジソン病の一部でみられる所見です。
猫のアジソン病はまれな病気ですが、当院ではレントゲン検査で心臓が小さく映っていたことをきっかけに精査を進め、アジソン病と診断された猫が2例います。
ほかの目的で撮影したレントゲン画像が、アジソン病に気づく手がかりになることもあります。
・超音波検査(エコー検査)
一般的な血液検査で分かる項目は限られているため、画像診断と組み合わせた評価を行うこともあります。
超音波検査では、左右の副腎の大きさや厚みを確認します。当院では超音波検査を担当する獣医師全員が左右の副腎を描出できる技術をもち、健康診断の一環として副腎の状態も必ず確認しています。
・ACTH刺激試験
副腎を刺激するホルモンを注射し、その前後の採血で、副腎がコルチゾールを十分に分泌できるかを調べる検査です。刺激後もコルチゾールの値が低いままであれば、アジソン病が疑われます。
健康診断について詳しくはこちらをご覧ください
超音波検査(エコー検査)について詳しくはこちらをご覧ください
足りないホルモンを補う治療
アジソン病では、不足したホルモンを薬で補う治療が基本です。
自然発症のアジソン病では、通常、生涯にわたる投薬が必要です。定期的な血液検査を続け、体調やストレスのかかる場面に応じて薬の量を調整します。
当院では、生活スタイルや検査結果に応じて、主に次の方法をご提案します。
・毎日飲む錠剤
・28日周期で打つ注射
これらの薬で補えるホルモンは異なります。そのため、注射を選んだ場合も、コルチゾールの不足を補う内服薬を必要とする場合があります。
また、注射の投与間隔は電解質の数値などによって調整が必要です。
※28日周期で打つ注射薬は、国内では動物用医薬品として承認されていない薬(未承認薬)です。そのため、ペット保険の補償対象とならない場合があります。
こうした違いを踏まえ、お薬の特徴や注意点をご説明したうえで、飼い主様と治療方法を検討いたします。
クッシング症候群の治療中にアジソン病になることがある
クッシング症候群は、コルチゾールが過剰になる病気です。
治療薬の作用によってコルチゾールが過度に低下すると、アジソン病に似た状態になることがあります。特に「ミトタン」は副腎皮質の細胞に作用し、影響が長く残る場合がある薬の成分です。
当院では、クッシング症候群の治療にトリロスタンだけでなく、ミトタンも使用しています。
薬の作用を確認しながら治療を続けるためにも、定期的な再検査が重要です。
アジソン病は治るのか
自然発症のアジソン病は、副腎の機能が元に戻ることは一般的に期待しにくく、長期的な治療が必要です。
特にアジソンクリーゼは命に関わるため、体調が安定していても投薬の中断には注意が必要です。
一方で、適切なホルモン補充によって状態を管理できれば、これまでと変わらない生活を送れる可能性も十分にあります。
大切なのは、定期的な検査と日々の体調確認を通して、治療を続けていくことです。
治療しながらの暮らし|散歩・食事・ストレス・留守番
アジソン病は、治療によって体調が安定していても、日常生活で気をつけたいことがあります。当院では、薬による治療だけでなく、散歩や食事、ストレスへの対処など、普段の暮らしについてもアドバイスしています。
<散歩>
薬で体調が安定していれば、普段どおりに散歩を楽しめることもあり、気分転換にもつながります。 ただし、疲れやすさが見られる場合は、距離や時間を調整してください。
散歩中にふらつく、座り込む、震える、嘔吐するといった様子があれば中止し、当院へご連絡ください。強い脱力を伴う場合は救急対応が必要です。
<食事>
ほかに持病がなければ、特別な療法食や一律の食事制限は必要ないことが一般的です。
基本的には普段の食事を続けられますが、電解質の異常や併発疾患がある場合は、食事内容を個別に調整します。
<ストレス(トリミング・ペットホテル・旅行)>
トリミング、ペットホテルの宿泊や旅行など急激な環境変化を伴うようなストレスは、治療中でもアジソンクリーゼの引き金になることがあります。このようなイベントの前には、獣医師にご相談ください。
ストレスの影響を受けやすいことを考慮し、予定を詰め込みすぎず、休息を取れるようにしましょう。
<留守番>
毎日の薬は、決められた時間と量を守って与えます。
留守番の日も投薬が大きくずれないようにし、飲ませ忘れた場合は自己判断で増量せず、当院へご確認ください。
よくあるご質問
Q. 散歩はさせてもよいですか?
薬で体調が安定していれば、普段の散歩を続けられます。ストレス解消にもつながるため、疲れやすさや体調を見ながら無理のない範囲で楽しんでください。
Q. 食事に制限はありますか?
ほかに持病がなければ、特別な食事制限は基本的に必要ありません。ただし、電解質の異常などがある場合は、食事内容を獣医師と相談してください。
Q. 薬は一生続けるのですか?
自然発症のアジソン病では、生涯にわたって治療を続けることが一般的です。自己判断で中断せず、定期的に検査を受けてください。
Q. ほかの動物病院で治療中ですが、数値が安定しません
これまでとは異なる治療方法をご提案できる場合もあります。セカンドオピニオンをご希望の場合は、当院でもご相談をお受けしています。
Q. 健康診断でたまたま指摘されましたが、症状は出ていません
期間を置いて、もう一度検査を受けることをおすすめします。ただし、検査結果によっては早めの精密検査が必要です。
アジソン病と診断された場合は、命に関わる急変のリスクを踏まえて治療を検討いたします。
Q. 高齢ですが、検査に耐えられますか?
高齢であっても検査を受けられる場合が多いため、持病や体調を確認しながら進めます。アジソン病の検査は、主に麻酔を用いない採血や超音波検査が中心です。
まとめ|症状がはっきりしないからこそ、継続して診ることが大切です
アジソン病は、元気や食欲の低下など、はっきりしない症状から始まることがあります。
だからこそ、普段の状態を把握しているかかりつけの動物病院で同じ獣医師が継続して診ることに意味があります。
ナガワ動物病院では、担当医制で日々の様子や生活スタイルも踏まえて、愛犬に合った治療を飼い主様と一緒に考えていきます。
気になる変化や治療中の生活で迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。
監修:ナガワ動物病院 副院長 名川真ノ介(獣医師)
投稿日:2026年11月2日
<参考文献>
Guzmán Ramos PJ, Bennaim M, Shiel RE, Mooney CT. Diagnosis of canine spontaneous hypoadrenocorticism. Canine Medicine and Genetics. 2022;9:6.
https://doi.org/10.1186/s40575-022-00119-4
Lathan P, Thompson AL. Management of hypoadrenocorticism (Addison’s disease) in dogs. Veterinary Medicine: Research and Reports. 2018;9:1-10.
https://doi.org/10.2147/VMRR.S125617
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