犬の会陰尿道瘻とは|再発する結石・排尿トラブルへの外科的アプローチ
犬の尿路結石や排尿のトラブルは、内科的な治療(食事療法や投薬)で管理できることが多いものの、なかには再発を繰り返してしまうケースもあります。そうしたときに検討される外科的治療が「会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)」です。
聞き慣れない手術名かもしれませんが、排尿障害の根本的な改善を目的として行われる手術であり、再発による苦痛を防ぐ手段として選択されることもあります。
今回は、会陰尿道瘻の役割や手術の流れ、術後の注意点について、飼い主様に知っておいていただきたいポイントを解説します。
犬の会陰尿道瘻とは?
会陰尿道瘻は、尿道の閉塞を繰り返す犬に対して行われる外科手術です。尿道を短くして会陰(肛門の近く)に尿の出口を新たにつくることで、尿の通り道を広げ、スムーズな排尿を助けます。
尿道が詰まって尿が出なくなると、まず腎臓にダメージが蓄積されます。おしっこが出せなくなることで膀胱がオーバーフローしますが、出口がないため、腎臓で作られた尿が膀胱に運べずに腎臓に負担がかかります。その結果、腎臓機能が低下し、最終的に体に毒素がたまり「尿毒症」という命に関わる状態に陥ることがあります。
通常は、以下のような内科的な治療が優先されます。
・尿道カテーテルでの閉塞解除
・食事療法や内服薬による結石の予防・溶解
これらの治療で改善が見られない場合に、会陰尿道瘻の適応が検討されます。具体的には、次のようなケースです。
・結石による尿道閉塞を何度も繰り返している
・カテーテルでの処置がうまくいかない
・今後も結石の再発が強く疑われる
他院で手術を提案された場合でも、一度当院でのカテーテルでの閉塞解除をお試しいただくことも可能です。会陰尿道瘻は、こうした“繰り返す排尿トラブル”から犬の身体を守るための最終手段です。ただし、体にかかる負担や術後の管理もあるため、手術を検討する際には、事前に獣医師としっかり相談することが大切です。
手術の流れと術後のケア
会陰尿道瘻の手術では、尿の出口を肛門の近くにつくり直すことで、尿道の通り道を広げます。以下のような手順で行われます。
<手術の流れ>
1. 術前検査
麻酔や手術に耐えられる状態かどうかを確認します。血液検査や画像検査などを行い、全身状態を把握します。
2. 全身麻酔下での手術
陰茎とその中を通る尿道の一部を切除し、短くなった尿道の先端を会陰部(肛門の近く)に開口させます。そこが新たな排尿口となります。
3. カテーテルの挿入と縫合
術後すぐに尿が流れるよう、尿道にカテーテル(細いチューブ)を入れて固定します。そのうえで切開部を丁寧に縫合します。
<術後のケアと注意点>
術後は数日間の入院が必要です。排尿の状態や感染の有無を確認し、安定してきたら退院となります。ご自宅でのケアでは、以下の点に注意してください。
・エリザベスカラーの着用
患部を舐めてしまうと傷の治りが悪くなったり、感染の原因になったりします。傷がしっかり治るまでは、カラーの着用が必要です。
・生活環境を清潔に保つ
特に下痢をしている場合は、軟便が患部に付着して細菌感染を引き起こすリスクがあります。排泄エリアや寝床は清潔に保ち、排泄後に患部が汚れていないかこまめに確認してあげましょう。
カテーテルは通常、手術後1週間ほどで外すことができ、抜糸も2週間前後で完了します。術後の管理はやや手間がかかりますが、術後合併症を防ぐためにも大切なポイントです。
手術を検討する前に|知っておきたいメリットとデメリット
会陰尿道瘻は、命に関わるような排尿トラブルを防ぐうえで非常に有効な手段ですが「手術すればすべて安心」というわけではありません。手術を受ける前に、次のようなメリットとデメリットをしっかり理解しておくことが大切です。
<メリット>
・尿道閉塞の再発予防
尿道が広くなることで、結石や炎症による詰まりが起こりにくくなります。
・トラブル時の管理がしやすくなる
トラブルが起きたときにも、尿道カテーテルなどの処置が行いやすくなります。
<デメリット>
・排尿や見た目の変化
この手術では陰茎の切除が必要になるため、見た目の変化が生じます。また、尿が広がりやすくなって外陰部が汚れやすくなったり、排尿コントロールが難しくなってトイレの失敗が増えることもあります。
・感染のリスク
新たにできた排尿口から細菌が入りやすくなるため、感染には注意が必要です。特に、下痢の際などに便が患部につくと、細菌感染の原因になることがあります。日々のケアで清潔を保つことが大切です。
・術後の合併症
手術で作った排尿口(瘻孔)が時間の経過とともに閉じてしまうことがあり、その場合には再手術が必要になるケースもあります。
このように、会陰尿道瘻には良い面と注意すべき点の両方があります。手術を受けるかどうかは、愛犬の状態や生活スタイルを踏まえたうえで、獣医師とよく相談しながら判断していきましょう。
まとめ|“最善の一手”を一緒に考えるために
会陰尿道瘻は、繰り返す尿道閉塞や重度の排尿トラブルに対して行われる選択肢の一つです。適切に行えば、愛犬にとって大きな負担を減らすことができる一方で、術後のケアや長期的な管理も欠かせません。
「この手術、本当に必要なの?」「もっと他に方法はないの?」そんな不安や疑問を感じるのは当然かと思います。だからこそ、まずは獣医師にご相談ください。当院では、一頭一頭の状態に合わせて治療の選択肢を丁寧にご提案し、ご家族と一緒に最善の方法を考えていきます。
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