犬・猫の股関節脱臼とは?症状や整復、手術について解説
交通事故や高い場所からの落下後に、犬や猫が突然後ろ足を着かなくなったり、足を引きずったりしている場合は、股関節脱臼を起こしている可能性があります。
股関節脱臼は、時間が経つほど元の位置に戻しにくくなることがあります。外傷後に足を使わない、強く痛がるといった様子が見られた場合は、できるだけ早い段階で状態を確認することが重要です。
今回は、犬や猫の股関節脱臼で見られる症状や検査、外れた関節を元に戻す「整復」、手術が必要になるケースについて解説します。
1.股関節脱臼とは
2.股関節脱臼で見られる症状
3.股関節脱臼の検査
4.股関節脱臼の治療
5.ナガワ動物病院の股関節脱臼に対する取り組み
6.ご家庭での注意点と予防
7.よくあるご質問
8.まとめ|外傷後に足を着かないときは早めに受診を
股関節脱臼とは
股関節は、骨盤にあるお椀状のくぼみに、大腿骨(太ももの骨)の丸い先端部分「大腿骨頭」がはまり込むことで形成されています。
股関節脱臼とは、この大腿骨頭が骨盤のくぼみから外れた状態です。犬や猫では、交通事故や高所からの落下、転倒などによって股関節に強い力が加わることで起こるケースが多く見られます。
また、まれに股関節形成不全など、もともと関節が不安定になりやすい状態が関係していることもあります。
股関節脱臼で見られる症状
股関節脱臼を起こすと、次のような変化が見られることがあります。
・後ろ足を挙げたまま、地面に着かない
・足を引きずる、歩けない
・左右の後ろ足の長さが違って見える
・足先が内側または外側を向いている
・股関節の周辺を触ると痛がる
・立ち上がることや動くことを嫌がる
ただし、骨折や靱帯の損傷などでも、同じように足を着かなくなることがあります。ご家庭で脱臼かどうかを見分けることは難しいため、外傷後に足を使わない場合は、早めに動物病院で状態を確認することが大切です。
また、無理に歩かせたり、足を引っ張って戻そうとしたりすると、骨や関節周辺の組織を更に傷める可能性があります。受診までの間は、できるだけ動かさずに過ごせるようにし、そのままの状態でご相談ください。
股関節脱臼の検査
股関節脱臼が疑われる場合は、次のような検査を組み合わせて状態を確認します。
・触診・歩様評価
足の向きや左右の長さ、痛みがある場所、関節の動きなどを触診で確かめます。歩ける状態であれば、立ち方や歩き方も確認し、どの動きで足に負担がかかっているかを見ていきます。
・レントゲン検査
大腿骨頭がどの方向へ外れているか、股関節や骨盤に骨折がないか、もともとの関節の形に異常がないかを確認します。骨折を伴っている場合や、股関節が不安定な場合には適した治療方法が変わるため、治療を行う前の重要な検査です。
・エコー検査
当院では、必要に応じてエコー検査も行います。レントゲンには写りにくい筋肉や腱などの軟らかい組織を確認できるほか、関節周辺の動きをリアルタイムで見ることができます。
基本的に麻酔を必要とせず、痛みを伴わない検査です。骨だけでなく、その周囲の組織も含めて状態を把握し、治療方針を検討します。
股関節脱臼の治療
股関節脱臼では、外れた関節を元の位置へ戻す「整復」を行います。整復の方法には、手術をせずに戻す方法と、外科手術があります。
<手術をせずに関節を元に戻す方法>
麻酔をかけた状態で、外れた大腿骨頭を手で元の位置へ戻す方法を「非観血的整復」といいます。
骨折がなく、脱臼してからあまり時間が経っていない場合に検討します。時間が経つと、周囲の筋肉が縮んで関節を元に戻しにくくなることがあるため、早めに処置できるかどうかが重要です。
また、関節を元に戻しても、周囲の組織が安定するまでは再び外れる可能性があります。そのため、整復後は一定期間、足の動きを制限します。
<整復後の固定>
当院では、整復後の固定に多くのケースで「ホブル包帯」を採用しています。両後ろ足が開きすぎないように動く範囲を調整する方法で、足全体を巻き上げる従来の包帯法よりも体への負担やストレスを抑えながら、再脱臼を防ぐ効果が期待できます。
特に、大腿骨頭がおなか側へ外れた脱臼に適していますが、小型犬では、状態によって背中側への脱臼にも使用できる場合があります。適しているかどうかは、脱臼の方向や体格だけでなく、整復後の関節の安定性や足の動きも確認して判断します。
<外科手術>
手術をせずに関節を元へ戻せない場合や、戻しても再び外れてしまう場合、骨折を伴っている場合には、外科手術を検討します。
手術には、股関節を元の位置へ戻して固定する方法のほか、大腿骨頭とその付け根を切除する「大腿骨頭切除術」があります。
大腿骨頭切除術では、骨同士が直接ぶつからない状態をつくり、周囲の筋肉や組織によって足を動かせるようにします。一般的には、体重が軽い犬や猫ほど、治療後に歩行機能を取り戻しやすい傾向があります。
当院では、体重が15kgを超える子には、大腿骨頭切除術を積極的におすすめしないことがあります。体重が重いほど手術後の股関節に負担がかかり、歩きにくさが残る可能性があるためです。
大型犬では人工股関節置換術が選択肢になることもあり、その場合は専門病院をご紹介します。ただし、体重だけで治療方法が決まるわけではありません。痛みや歩行状態、年齢、全身状態なども踏まえて、適した治療方法を検討します。
ナガワ動物病院の股関節脱臼に対する取り組み
ナガワ動物病院では整形外科診療に力を入れ、レントゲン検査に加えて、触診や歩き方の確認、必要に応じたエコー検査を組み合わせて診断しています。
股関節脱臼では、関節が外れていることだけでなく、脱臼した方向や骨折の有無、周囲の組織、整復後の安定性まで確認することが、治療方法を選ぶうえで重要です。
手術をせずに整復できるのか、どの固定方法が適しているのか、手術が必要なのかを見極め、体格や生活環境も踏まえて治療方針をご提案します。
また、診断や整復を担当した獣医師が、治療後の歩き方や関節の回復まで継続して確認します。経過に合わせて安静期間やリハビリの進め方を調整できることも、かかりつけの動物病院で治療を行う利点です。
ご家庭での注意点と予防
治療後は、関節周辺の組織が安定するまで安静に過ごす必要があります。ご家庭では、次のような点に注意しましょう。
・滑りやすい床にはマットを敷く
・段差の上り下りを避ける
・ソファやベッドから飛び降りないようにする
・必要に応じてケージやサークルで動きを制限する
その後は、関節の状態を確認しながら、筋力を戻すための運動やリハビリを少しずつ始めます。
特に大腿骨頭切除術の後は、周囲の組織が関節の代わりとなって安定するまで、数か月かかることがあります。高齢の犬や猫では回復に時間がかかる場合もあるため、状態に合わせて進めていきます。
また、体重が増えると股関節や後ろ足への負担も大きくなります。治療後の回復を支えるためにも、適正体重を保つことが大切です。
<交通事故や落下を防ぐ環境づくり>
股関節脱臼の予防には、交通事故や高い場所からの落下を防ぐことも重要です。
散歩中の飛び出しや、高い家具、窓、ベランダからの転落が起こらないよう、日頃から生活環境を見直しておきましょう。
よくあるご質問
Q. 股関節脱臼は自然に戻りますか?
自然に元の位置へ戻ることは、基本的に期待できません。そのままにすると痛みが続き、関節炎や歩きにくさにつながる可能性があります。
Q. 必ず手術が必要ですか?
必ずしも手術が必要とは限りません。脱臼してからあまり時間が経っておらず、骨折がない場合は、手術をせずに整復できることがあります。
Q. 高齢でも治療できますか?
高齢という理由だけで、治療ができないわけではありません。ただし、若い犬や猫に比べると、筋力の回復や、手術後に関節周辺の組織が安定するまでに時間がかかることがあります。全身状態や麻酔の負担、痛み、歩行への影響などを確認したうえで、治療方法を検討します。
まとめ|外傷後に足を着かないときは早めに受診を
股関節脱臼は、早い段階で状態を確認し、脱臼の方向や骨折の有無に応じた治療を行うことが重要です。事故や転落の後に、歩き方や足の様子に気になる変化が見られた場合は、なるべく早く動物病院にご相談ください。
ナガワ動物病院では、状態に応じて必要な検査を組み合わせ、整復や手術の適応を見極めたうえで、飼い主様と相談しながらその子に合った治療方針を決めることを大切にしています。また、治療後も歩き方や関節の状態を継続して確認し、経過に合わせてリハビリや日常生活についてご案内しながら、無理のない回復を支えていきます。
【監修】ナガワ動物病院副院長 名川 真ノ介(獣医師)
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