胸腰部椎間板ヘルニアは、犬に多い神経の病気です。軽度であれば背中や腰の痛みがみられるだけですが、治療せずに放置すると進行し、排尿障害の発生や深部痛覚の消失が起こり、最終的には後ろ足がまったく動かなくなることもあります。足腰の健康を長く保つためには、早期発見・早期治療がとても大切になります。
今回は、犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。

 

椎間板ヘルニアとは

犬の首から背中、腰にかけては椎骨という骨が並び、脊椎を形成して脊髄という太い神経を守っています。また、椎骨と椎骨の間には「椎間板」というクッションのような構造があり、中心部分は髄核、周りは線維輪という組織で構成されています。
椎間板ヘルニアとは、髄核や線維輪が変性し、椎間板の形が変わって脊髄を圧迫することにより発症する病気です。

椎間板ヘルニアは、変性する部分によって「ハンセンⅠ型」と「ハンセンⅡ型」に分類されます。

ハンセンⅠ型髄核が変性して線維輪から飛び出し、脊髄を圧迫することで発症します。
ハンセンⅡ型線維輪が変性し、脊髄を圧迫することで発症します。

リスク要因と症状

ハンセンⅠ型

ミニチュア・ダックスフンドやビーグルなどの軟骨異栄養犬種で多く、遺伝が関与しているといわれています。

ハンセンⅡ型

加齢が関連しており、高齢になるとどの犬種でも発症する可能性があります。
それ以外に、肥満や激しい運動など椎間板に負担がかかる状況も発症リスクを高めることが知られています。

発症初期は軽度の症状として、背中や腰に痛みを覚え、触られるのを嫌がることもあります。進行に伴い、後ろ足の麻痺が始まり、ふらつきや立てない・歩けないといった様子がみられるようになります。最終的には、後ろ足の痛みを感じなくなる場合もあります。

診断

まずは神経学的検査を実施して、神経症状がどの神経のどの場所によって引き起こされているのかを判断します。ふらつきや麻痺といった症状は、他の神経病(変性性脊髄症や脊髄軟化症など)でも現れるので、慎重に判断する必要があります。

特に脊髄軟化症の場合は予後が悪く、1週間ほどで亡くなることが多いため、早期の診断が重要です。さらに、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査を組み合わせて診断します。

治療

椎間板ヘルニアの治療法は、内科的治療と外科的治療に分かれます。症状が軽度であれば内科的治療で大幅に改善する可能性があります。内科的治療には、ステロイドパルス療法やレーザー照射治療などがあり、当院でもこれらの治療で改善した症例が多くあります。

また外科的治療では、背骨の一部を取り除いて脊髄の圧迫を軽減します。具体的には、腹側減圧術、背側椎弓切除術、片側椎弓切除術などの方法があり、これらの治療は、歩行が困難でも力は入る状態のときや、さらに状態が悪化したときに適応されます。
なお、当院では手術を実施する場合、専門医をご紹介しています。

また、術後はリハビリを段階的に開始することで、運動機能の回復に努めます。

予後と管理

内科的治療の場合、椎間板に負担をかけないよう、少なくとも1カ月以上は安静にしていただきながら治療を進めます。ヘルニア自体が完全に治るわけではないため、再発に注意しながら様子をみる必要があります。

外科的治療では、麻痺の重さによっても異なりますが、ほとんどの症例で術前よりも状態が改善します。ただし、外科的治療でも再発の可能性があるので、歩く様子に変化がないかをこまめに確認する必要があります。また、排尿障害が起こる場合は、オムツの着用なども検討します。

また、ご家庭では再発予防に努めることがポイントになります。背中や腰に負担をかけないため、フローリングにマットを敷く、肥満を予防する、激しい運動を避けるなどの​​対策を取りましょう。

ご家庭での注意点

椎間板ヘルニアは早期発見・早期治療が重要な病気です。特に好発犬種を飼っている場合は、背中や腰に痛みがないか、後ろ足に力が入っているかなどを定期的に確認し、異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。

また、​​背骨にかかる負担を最小限にするため、抱っこをする際は背中を水平に保ち、下から包み込むように支えましょう

まとめ

椎間板ヘルニアは犬の運動機能に大きな影響を与える神経の病気です。症状が軽度であれば内科的治療も選択肢の一つになりますので、気になる様子が見られた場合は、早めのご来院をお勧めします。

◼️整形外科に関しては下記の記事でも解説しています。
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犬の前十字靭帯断裂について

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<参考文献>
Intervertebral Disk Degeneration in Dogs: Consequences, Diagnosis, Treatment, and Future Directions – Jeffery – 2013 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library
ACVIM consensus statement on diagnosis and management of acute canine thoracolumbar intervertebral disc extrusion – PMC (nih.gov)

排尿障害とは、何らかの理由で尿に異常が見られる状態を指します。犬や猫では膀胱結石が原因になることが多いですが、それ以外の病気でも引き起こされることがあります。排尿障害は症状が進行すると、痛みや不快感を伴い、さらには命に関わる場合もあるため、原因を見極めて適切に対処することが重要です。

今回は、犬と猫の排尿障害について、正常な排尿のメカニズムや原因、症状、診断方法、治療方針をお伝えします。

 

正常な排尿のメカニズム

尿は腎臓でつくられ、ろ過された後、尿管を通って膀胱に蓄えられます。そして、尿道を通じて体外に排出されます。

膀胱に尿がたまると大脳で尿意を感じ、排尿反射という脳幹の神経を介した反応で、膀胱の筋肉が収縮し、尿道の筋肉が緩むことで排尿が行われます。

排尿障害の種類

排尿障害には以下のような種類があります。

頻尿:排尿する回数が通常より多い状態
排尿困難:尿がほとんど、あるいはまったく出ない状態
尿失禁:自分の意思に関係なく尿が出てしまう状態
血尿:尿に血が混じる状態
多尿・乏尿:尿の量が通常より多い(多尿)または少ない(乏尿)状態

排尿障害の主な原因

排尿障害は以下のような病気が原因で起こることがあります。

感染症:膀胱炎や尿道炎など
結石膀胱結石や尿路結石など
腫瘍:膀胱の腫瘍(移行上皮癌など)
神経学的疾患:排尿をつかさどる神経の障害(椎間板ヘルニアなど)
先天性異常:膀胱膣ろうや膀胱子宮ろうなど、膀胱と他の臓器がつながってしまう状態
ホルモン異常:メスのエストロゲン濃度の低下やクッシング症候群など
代謝性疾患糖尿病や慢性腎臓病など
会陰ヘルニア
過度の踏ん張りによる膀胱位置の変化

犬特有の排尿障害

前立腺疾患(前立腺肥大など):未去勢のオス犬でよくみられる
尿道狭窄:腫瘍や尿路感染症に伴ってみられます

猫特有の排尿障害

特発性膀胱炎:原因が特定できず、再発することが多い
尿道閉塞:結石などが尿道に詰まり、尿がまったく出なくなる状態

診断

尿に異常がみられたら、問診身体検査に加え、尿検査、血液検査、画像診断(X線、超音波、CTなど)、膀胱鏡検査を組み合わせて診断します。

治療

排尿障害はさまざまな原因によって起こるため、その原因に応じて異なります。

例えば、感染症の場合は抗生物質を投与し、尿路結石が原因の場合は、食事療法によって溶解させます。
その他にも、対症療法や手術(膀胱の腹壁固定や尿道のステント設置など)を検討する場合もあります。

予防と管理

感染症や結石による排尿障害を防ぐためには、水分を十分に摂取させることが大切です。水を飲んで排尿することで、尿路内に病原体や結石がたまりにくくなります。
(排尿困難の動物の場合、水分の与えすぎは逆効果になるため要注意)
水分摂取を促すための工夫として、ウェットフードを与えたり、飲み水の場所を増やしたりすることが有効です。

また、定期的な健康診断を受けることで、見逃しがちな異常を早期に発見し、症状が軽いうちに治療を始められます。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

ご家庭での注意点

ご家庭では愛犬・愛猫の排尿パターンをよく観察していただき、少しでも異変を感じたらすぐに獣医師に相談しましょう。

また、特に猫ではストレスが特発性膀胱炎の発症に関わるといわれているため、トイレをきれいにする、好みのトイレを用意する、新鮮な水を常に準備しておくなど基本的な環境の整備も不可欠です。

まとめ

原因は多岐にわたるため、自己判断せずに動物病院を受診し、しっかりと検査を行って原因を特定することが重要です。排尿障害は、尿の量や色、頻度などの変化でわかることが多いため、少しでも気になる点があれば、早めに当院までご相談ください。

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動物にはいろいろな悪性腫瘍(がん)が発生しますが、その中でも特に発生率が高いのがリンパ腫です。犬のがんのうち、7~24%を占めるともいわれています。リンパ腫にはいくつかのタイプ(型)があり、それによって治療法も異なるため、正確な診断が重要です。また、リンパ節から他の臓器に転移すると全身に影響を及ぼすので、早期診断と早期治療が必要です。
今回は、犬のリンパ腫に関して、その原因や症状、当院での診断・治療法をお伝えします。

 

リンパ腫の種類と原因

リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞の一種ががん化することで発症します。腫瘍が発生する場所によって、以下のように分類されます。

多中心型:あごの下、脇の下、内股、膝の裏などに発生
消化器型:消化管に発生
縦隔型:胸腔内の縦隔に発生
その他:皮膚、鼻の中、脾臓などに発生

10歳以上の中高齢犬で多いことが知られていますが、生後半年で発症するケースもあり、若い犬でも油断できません。また、レトリーバー種に好発するといわれていますが、どの犬種でも発症する可能性があります

 

症状

初期には目立った症状がみられず、なかなか異変に気付かないこともあります。タイプによって、以下のような特徴的な症状が現れます。

・多中心型
体中のリンパ節が腫れます。特に、あごの下、脇の下、内股、膝の裏などをさわると、固くてゴロゴロとしたものを確認できます。犬のリンパ腫の70~85%ほどを占め、一番多く遭遇します。

・消化器型
見た目には変わった様子がありませんが、下痢や嘔吐といった消化器症状が現れます。慢性腸症などの消化器の病気だと思って受診した結果、リンパ腫と診断されることもあります。

・縦隔型
胸水の貯留や呼吸困難が生じることがあります。

 

診断

動物病院では、身体検査や血液検査、画像検査(レントゲン、超音波、場合によってはCT)などを実施し、総合的に判断します。
また、生検と細胞診(組織や細胞の一部を採取して顕微鏡で観察する検査)を行い、腫瘍の悪性度や細胞のタイプを確認します。

 

ステージング(病期分類)

リンパ腫は進行度合いによって、以下のようなステージに分類されます。

ステージ1:1つのリンパ節または組織に限って存在する(骨髄を除く)
ステージ2:所属リンパ節に転移している
ステージ3:全身のリンパ節に転移している
ステージ4:肝臓や脾臓にまで転移している
ステージ5:血液の異変による症状が現れ、他の臓器に転移している

また、サブステージとして以下の基準があります。

A:全身症状なし
B:全身症状あり

ステージが上がるほど予後は悪くなるため、早めの治療が非常に重要です。治療せずにいると、4~6週間ほどで亡くなってしまうことが知られています。また、一般的に、オスよりメス、大型犬より小型犬の方が予後は良いとされています。

 

治療

リンパ腫は現状の獣医療では根治が不可能です。
治療の目的は良好なQOL(生活の質)を維持することで、少しでも長く元気な状態で生活をしていただくことです

治療の選択肢には以下のものがあります。

化学療法(抗がん剤治療)
治療によく反応しますが、再発することが多いです。人間の場合は骨髄移植などで完治を目指せますが、動物では難しいため、これ以上悪化させないことを目標にして実施します。

免疫療法
当院では、フアイア(TPG-1)という免疫力をサポートする成分を含むサプリメントを活用しています。免疫力を高めることで、がんに対して有効に働くことを示す論文も出ています。

緩和ケア
痛みやだるさなどの不快感を和らげたり、食事を取りやすくなるようにサポートすることで、QOLを保ちます。

食事療法
自力で食事をとれない場合、流動食を管(フィーディングチューブ)から摂取させることで、必要な栄養を補給します。この治療に抵抗がある飼い主様もいらっしゃいますが、おなかがすいても食べられないという状況は、犬にとってとても大きなストレスになります。また、しっかりと栄養補給することで、抗がん剤の副作用を軽減することもできるので、当院では必要があれば実施をお勧めしています。

放射線療法
全身麻酔が必要なので、何度も実施するのはあまり現実的ではありません。

外科的治療(手術)
QOLを著しく低下させる場所に腫瘍ができた場合に検討しますが、根治につながるわけではありません。

 

ご家庭での注意点

リンパ腫は再発する可能性が高いため、治療中は愛犬の様子をよく観察し、異変があればすぐに動物病院を受診しましょう。

抗がん剤の使用により副作用が現れることもあります。下痢や嘔吐は数日で治まることが多いですが、長く続く場合は獣医師に相談してください。また、排せつ物には抗がん剤の成分が残っている可能性があるため、取り扱いには十分注意しましょう。

 

まとめ

リンパ腫は犬に多いがんの一つです。愛犬と長く健やかに過ごすためには、早期発見・早期治療がカギとなります。そのためには定期的に健康診断を受け、日常生活ではわからない異変も見逃さないようにしましょう。治療は長期にわたることが多いですが、抗がん剤、食事療法、免疫療法などを組み合わせることで、より長くQOLを維持して愛犬との生活を楽しむことができます。

 

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<参考文献>

Bite-size introduction to canine hematologic malignancies – PMC (nih.gov)

An immune-stimulating proteoglycan from the medicinal mushroom Huaier up-regulates NF-κB and MAPK signaling via Toll-like receptor 4 – PMC (nih.gov)

動物が年を取ると、動きがゆったりとしてきたり、なんとなく元気がなくなったり、食べる量が少なくなったりすることがあります。しかし、こうした症状は単なる年のせいではなく、甲状腺機能低下症という病気の可能性もあります。この病気は猫よりも犬に多く、ホルモンの異常によって発生します。ご家庭で異変に気づくのは難しいため、当院では定期的な健康診断でホルモンの数値を確認することをお勧めしています。
今回は、犬の甲状腺機能低下症について、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。

 

甲状腺とは

甲状腺とは、動物の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを合成・分泌している器官で、首元に位置します。
健康な状態では、下垂体や視床下部といった脳に近い器官から分泌される別のホルモンによって、バランスがうまく調整されています。 

 

原因

詳しい原因はよくわかっていませんが、甲状腺自体に異常があり、甲状腺ホルモンの分泌量が減ることで代謝が悪くなって発症するケースが多いと考えられています。

・好発犬種:ドーベルマン、レトリーバー種、アメリカン・コッカー・スパニエルなど
・年齢:中高齢での発症が多いものの、1~2歳の若いうちに発症するケースもあります。

 

症状

甲状腺機能低下症の主な症状は以下です。

なんとなく元気がない
動きたがらない
食事量が減っているのに太る
皮膚や被毛の変化(脱毛、皮膚が黒くなる、皮膚が厚くなる)

まれに神経症状(顔面神経の麻痺など)や便秘、心臓機能の変化(脈が遅くなる)などが現れることもあります。

 

甲状腺機能低下症を放置するリスク

甲状腺機能低下症を適切に治療せずに放置すると、様々な合併症のリスクが高まります。以下に主な併発の可能性がある疾患を挙げます。

心血管系疾患:甲状腺ホルモンの不足は心臓機能に影響を与え、心拡大や心不全のリスクを高めます。また、動脈硬化や高血圧の原因にもなり得ます。

神経系疾患:重度の甲状腺機能低下症では、末梢神経障害や中枢神経系の機能低下が起こる可能性があります。これにより、運動機能の低下や認知機能の障害が生じることがあります。

消化器系疾患:代謝の低下により、便秘や胆のう疾患のリスクが高まります。

皮膚疾患:皮膚の再生能力が低下し、慢性的な皮膚感染症や難治性の皮膚炎を引き起こす可能性があります。

貧血:甲状腺ホルモンは赤血球の産生にも関与しているため、重度の甲状腺機能低下症では貧血を引き起こすことがあります。

肥満とそれに関連する疾患:代謝率の低下により、肥満のリスクが高まります。これは関節炎や糖尿病などの二次的な健康問題を引き起こす可能性があります。

生殖系の問題:雌犬では不妊や流産のリスクが高まることがあります。

免疫系の機能低下:甲状腺ホルモンは免疫機能にも影響を与えるため、感染症に対する抵抗力が低下する可能性があります。

これらの疾患を併発することにより、最悪の場合命を落とす可能性もあるため、原因となる甲状腺機能低下症を早期発見、早期治療することは非常に重要です。

 

診断

甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの減少によって起こるため、基本的にはホルモン測定によって診断できます。ホルモン検査では、T4、fT4、TSHなどの数値を測定します。

当院では、健康診断の血液検査の際に、オプションとしてホルモン測定を提案することもあります。健康診断時に発見できると、症状が現れる前に治療を開始できるのが強みです。10歳以上の高齢犬には特にお勧めです。

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また、甲状腺刺激試験や画像診断(超音波やシンチグラフィーなど)を行う場合もあります。

この病気で重要なのは、他の病気との鑑別です。同じように皮膚や被毛の変化を示すホルモンの病気として、クッシング症候群などが挙げられます。その他にも、別の病気が原因で甲状腺ホルモンの数値が下がることもあるため、数値の解釈には細心の注意を払います。

犬のクッシング症候群についてはこちらをご覧ください

 

治療

甲状腺機能低下症に対しては、ホルモン補充療法が実施されます。この治療では、レボチロキシンナトリウムという成分が含まれる薬を投与して、不足した甲状腺ホルモンを補います。症状の改善具合や血液中の甲状腺ホルモン濃度を定期的にチェックし、投薬スケジュールと用量を調整しながら進めていきます。

その際、過剰な投与によるクッシング症候群には注意が必要ですが、発生は比較的まれです。

また、併発疾患があればその治療も行います。

 

ご家庭での注意点

薬によって代謝が変化するため、状態を確認しながら食事の量を調整しましょう。また、適度な運動によって肥満を防ぐことも重要です。

投薬による治療は生涯続くため、定期的に通院して健康状態をチェックすることも必要不可欠です。途中で投薬を止めると、元の状態に戻ってしまう危険性があります

 

まとめ

甲状腺機能低下症は症状に気づきにくい病気です。そのため、当院では定期的な健康診断時にホルモン測定をお勧めしています。また、投薬による治療は生涯続きますが、きちんと続ければ良好にコントロールできる病気です。愛犬に気になる様子があれば、お早めに当院までご相談ください。

 

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アレルギー性皮膚炎とは、犬や猫の免疫機能の異常によって起きる皮膚の病気で、強いかゆみがみられます。その原因は多岐にわたるため、しっかりと検査を行い原因を特定して治療を進めることが大切です。また、その治療は薬によるものが中心となりますが、最近ではいろいろな治療の手法が考案されているため、飼い主様とご相談したうえで、その子に合った治療法を選ぶことが大切です。
今回は犬や猫のアレルギー性皮膚炎について、診断・治療法を中心に詳しく解説します。

 

原因

アレルギー性皮膚炎が発症するメカニズムは複雑で、詳しいことはわかっていませんが、さまざまなアレルゲンに対するⅠ型あるいはⅣ型過敏症による免疫異常と考えられています。

主なアレルゲン

・節足動物:ダニ、ノミなど
カビ
・植物:キク科、イネ科など
・樹木:スギ、シラカンバ、ハンノキなど
・食物:牛肉、卵白、小麦など

季節によるリスク

これからの季節はアレルギー性皮膚炎が発症しやすくなります。これは、アレルゲンごとに飛散する季節が異なるためです。ダニやノミなどの節足動物やカビ、植物は6~10月に多く飛散し、曝露される機会が増加します。また、梅雨や夏のジメジメした時期は湿度が高くなり、蒸れることで皮膚環境が悪化することも一因として考えられます。

症状

皮膚の炎症によって強いかゆみを伴います。目の周り、口の周り、お尻の周りなどが赤くカサカサしていたら、食物アレルギーの可能性があります。

その他のアレルギーでは、猫の場合はあごの下の挫創(ニキビ)、犬の場合は鼠径部(股の間)によく症状が現れます。

診断

アレルギー性皮膚炎が疑われる場合は、除去食試験を行うか、もしくは外部検査機関にアレルギー検査(IgE検査とリンパ球検査)を依頼して、どのアレルゲンが原因になっているのかを調査します。

アレルギー除去食試験
アレルギーの原因となる食品成分を特定するための検査です。
既知のアレルゲンを含まない特別な食事(除去食)を一定期間(通常は8~12週間)与え、
除去食を与えている間、皮膚の状態や痒みなどのアレルギー症状の改善が見られるかを確認します。

症状が改善された後、元の食事に戻し、アレルギー症状が再発すれば、除去食で除外されていた食品成分がアレルギーの原因である可能性が高いと判断できます。最後に、症状再発の原因となった食品成分を突き止めるため、除去食に一つずつ元の食品を加えていきます。症状が再発した時点で加えた食品がアレルゲンであると特定できます

IgE検査
アレルゲンに特異的な免疫グロブリンE(IgE)を測定することで、Ⅰ型過敏症の原因を推測します。

リンパ球検査
食物アレルゲンに反応するリンパ球を検出し、Ⅳ型過敏症の原因を推測します。

ただし、これらの検査で陽性になったアレルゲンだけが原因とは限らず、交差反応が起こる場合もあります。これは、アレルゲンのタンパク質構造が似ているために、陽性となったアレルゲンと別のものにも反応が表れる現象です。


ハンノキという樹木のIgEが高い場合、アーモンド、リンゴ、セロリ、さくらんぼ、ヘーゼルナッツでもアレルギー反応が起こることがあります。

さらに、ダニのアレルゲンであるDerf2がいろいろな物質と交差反応を起こし、ほかのアレルギーを増幅させることがあります。その一例として、ダニと牛肉のアレルギーを両方もっている場合、ダニアレルギーが発現していない状態でも、ダニのDerf2によって牛肉のアレルギー反応がより強く出てしまうことがあります。

治療

アレルギー性皮膚炎の治療は、減感作治療 、薬やサプリメント、保湿、腸活の4つに分けられます。

1. 減感作療法
WHOで唯一、アレルギー性疾患の根治療法として認められている治療法です。当院でも取り扱っており、特にダニのアレルゲン(Derf2)が陽性の場合におすすめです。根治は難しい場合もありますが、症状を大幅に改善できる可能性があります。

2. 薬物療法
減感作治療は治療効果が表れるまでに時間がかかることが多いため、短期間で効果をもたらす治療薬としては、アポキルをおすすめしています。

アポキル
比較的新しい治療薬ですが、アジア獣医皮膚科学会での推奨レベルが高く、信頼性の高い治療法です。ステロイドよりも副作用が少なく、短期間で効果が現れます

アポキルの製品概要書はこちら

ステロイド
症状が強い場合に選択します。

3.アレルゲンの除去
特定されたアレルゲンを含む食品を犬の食事から完全に除去します。

4.サプリメント投与

アンチノール
サプリメントで体質改善を行います。

5. 保湿
皮膚の潤いを保つセラミドを補給することで、アレルゲンの侵入を防ぎます

6. 腸活
皮膚のバリア機能は腸内細菌のバランスと関係しているため、乳酸菌製剤を投与することで犬アトピー性皮膚炎のかゆみが改善されたという研究結果もあります。

ここまでご説明したとおり、アレルギー性皮膚炎の治療には多種多様なアプローチ方法があります。それぞれの犬にあった治療法を、飼い主様とご相談しながら提案します。

予防法やご家庭での注意点

アレルギー性皮膚炎を完全に予防する方法はありませんが、前述した原因物質を生活から遠ざけ、皮膚を清潔に保つことが大切です。

当院では皮膚病の犬に対するシャンプーにも力を入れているので、トリミング後に皮膚病になってしまった場合は一度、当院でのシャンプーもご検討ください。

当院のシャンプーについては、こちらのページでも詳しく解説しています

まとめ

アレルギー性皮膚炎は、環境や食事中のアレルゲンに反応して強いかゆみを生じる病気です。QOL(生活の質)を低下させないためにも、愛犬に合った治療法を提案できる動物病院を受診しましょう。

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<参考文献>
A Double-Blind, Placebo Controlled-Trial of a Probiotic Strain Lactobacillus sakei Probio-65 for the Prevention of Canine Atopic Dermatitis (jmb.or.kr)
Complementary effect of oral administration of Lactobacillus paracasei K71 on canine atopic dermatitis – Ohshima‐Terada – 2015 – Veterinary Dermatology – Wiley Online Library
A double‐blind, placebo‐controlled evaluation of orally administered heat‐killed Enterococcus faecalis FK‐23 preparation in atopic dogs – Osumi – 2019 – Veterinary Dermatology – Wiley Online Library

 

気管虚脱とは、空気の通り道である気管が押しつぶされて呼吸がしづらくなる病気で、小型犬によくみられます。息苦しさから運動ができなくなるだけでなく、体に酸素が十分に行きわたらないことで失神することもあります。そのため、早めの対処が肝心です。
今回は犬の気管虚脱について、特徴的な症状や当院での治療法を中心にお伝えします。

 

原因

気管虚脱の原因には、以下のようなものがあります。

加齢による気管軟骨の変化
先天性(生まれつき)の気管の異常
肥満による気管への負担
アレルギーや感染症の合併

特に犬においては、遺伝的な要素が大きく影響しており、チワワやヨークシャー・テリア、ポメラニアン、シー・ズーなどの小型犬種で発症が多く見られますが、どの犬種にも発症する可能性があります。

症状

気管虚脱では、「ガーガー」という呼吸音が出ることが特徴的です。

それ以外にも、空気が十分に肺に送られないために呼吸が苦しそうになったり、咳が出て運動を嫌がったりする場合もあります。

症状が悪化すると、酸素が足りずに失神やチアノーゼ(粘膜の色が青白くみえる状態)を引き起こすケースもあります。

診断

気管虚脱を診断するには、レントゲン検査が重要です。検査の際は、息を吸うタイミングと吐くタイミングを狙って撮影します。

それ以外にも、内視鏡検査や聴診も実施します。内視鏡検査は気管の中をリアルタイムで観察できるメリットがありますが、全身麻酔が必要なため、当院ではまずレントゲンで状態をチェックすることをお勧めしています。また、聴診では気管の異常音を確認します。

治療

気管虚脱の治療は、基本的に内科療法を中心に進めます。内科療法と言っても、多様なアプローチ方法があるため、他の病院で治療がうまくいかなかったケースでも、ぜひ当院にご相談ください。具体的な選択肢は以下の通りです。

体重管理
ダイエットをすることで気管への負担を軽減させます。

投薬治療
気管支拡張剤や去痰薬、鎮痛剤、吐き気止め(セレニア)を処方します。この中で、鎮痛剤と吐き気止めは鎮咳作用(咳を抑える作用)があることがわかっています。というのも、そもそも咳は、喉や気管から受けた刺激が延髄の咳中枢と呼ばれる部分に伝わり、「異物を吐き出せ!」という命令が出されることで引き起こされています。鎮痛剤は咳中枢に、吐き気止めは刺激を伝達する経路にも作用することで、本来の働きとは異なりますが、咳を鎮める効果があるといわれています。
当院では、獣医師法の裁量権の範囲内でこうした適応外使用を試みています。あるいは、カルトロフェンという注射薬を週1回投与して気管軟骨のつぶれを改善する方法もあります。

ネブライザー治療
薬を霧状にして気管の粘膜に直接届けます。

外科的治療
重症例では手術も検討します。手術をご希望の場合は、呼吸器の手術に実績がある動物病院へのご紹介も可能です。

予防法やご家庭での注意点

家庭では、適度な運動や食事管理で体重をコントロールし、肥満を防ぐことが重要です。また、お散歩のときにハーネスを使用することで、気管への物理的な圧迫を軽減させてあげることも重要です。

さらに、定期的な健康診断で早期発見・早期治療に努めることも大切です。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

まとめ

気管虚脱は進行性の病気で、治療せずにいるとどんどん悪化してしまいます。この病気自体が直接生死に関わらなくても、別の病気(例えば僧帽弁閉鎖不全症など)の状態を悪化させる原因になることがあります。そのため、咳などの症状に気づいたら、早めに動物病院を受診しましょう。

■僧帽弁閉鎖不全症については以下のページでも解説しています
犬の僧帽弁閉鎖不全症について│犬に最もよく見られる心臓病、早期発見・早期治療が重要

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膵炎とは、膵臓というお腹のなかにある臓器に炎症が起こる病気です。膵臓は消化酵素を分泌する役割を担っており、炎症によって様々な消化器症状を引き起こします。猫の場合は、軽度の症状が長期間続くことが多いのに対し、犬の場合は急に激しい症状が現れ、命に関わることもあるため、特に注意が必要です。
今回は犬と猫の膵炎に関して、その原因や症状、当院での診断・治療法をお伝えします。

 

原因

犬の膵炎は以下の原因で発症すると考えられています。

高脂肪食の与えすぎ:ただし猫の場合、高脂肪食は発症と関係がないと考えられています。
遺伝:テリア系やコッカー・スパニエルなどは発症しやすい犬種として知られています。
肥満
特定の薬剤による副作用:L-アスパラギナーゼ(抗がん剤)、臭化カリウム(抗てんかん薬)など。
ホルモンの病気:副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能亢進症、糖尿病を持病にもつ場合、膵炎の併発リスクが高まります。

■関連記事はこちらをご覧ください
犬のクッシング症候群について┃様々な病気を併発する
猫の甲状腺機能亢進症について┃食べても痩せる
犬や猫の糖尿病について│肥満や不適切な食事が原因になることも、退院後も飼い主さんの協力が不可欠

症状

犬の膵炎では、激しい嘔吐が一般的です。その他にも、食欲がなくなったり、下痢をしたり、お腹が痛くなったり、発熱したりする場合もあります。特に膵炎によってお腹が痛くなると、「祈りのポーズ」と呼ばれる、伏せた状態からお尻だけを上げた姿勢をとることが特徴です。さらに重症化すると、脱水症状や呼吸困難などの症状が現れることもあります。多くの犬では、こうした症状が急に現れます。

近年では猫の膵炎も増加していますが、犬よりも兆候が軽微で発見が難しい傾向があります。

診断

膵炎の診断には、聴診・触診、血液検査、超音波検査が重要です。

聴診・触診
まず、右の上腹部を触ります。犬が痛みを感じた場合、お腹にぐっと力が入ったり、怒ったりします。聴診では、腸音の変化を観察します。

血液検査
Spec cPL(膵臓から分泌されるリパーゼの量を測定する項目)やCRP(炎症反応を見る項目)などを検査しますが、数値が高いからといって必ずしも膵炎とは限りません。膵臓がんや多臓器不全の可能性も考えられるため、症状やその他の検査結果も踏まえて総合的に判断する必要があります。

超音波検査
膵臓の大きさ、脂肪組織の状態、十二指腸壁の厚みなどを観察します。特に十二指腸の「コルゲートサイン」と呼ばれる腸壁のヒダ状変化がみられる場合は、膵炎の可能性が高いと判断できます。犬や猫の膵臓は胃や十二指腸に沿う部分があり、検査には技術が必要ですが、当院では長年の経験により正確な検査が可能です。

その他にも、レントゲン検査(診断の補助として)や併発疾患(ホルモンの病気など)に関する検査を行うこともあります。

治療

急性の膵炎は一刻も早く脱水や嘔吐といった症状を和らげる必要があるため、当院では入院での治療をご提案しています。その後、輸液療法で脱水を改善し、痛み止めや抗生物質を投与します。

犬の場合、膵炎急性期の治療薬(ブレンダZ)が効果的ですが、猫の場合は犬よりも有効成分の代謝が早く、処方量が多くなるため、飼い主様の経済的な負担が大きくなる可能性があります。

また、ホルモン疾患を併発している場合は、ステロイド剤の投与ができない点にも注意が必要です。

中長期的な治療としては、低脂肪食に切り替える食事療法があります。この治療法を成功させるためには、飼い主様のご協力が不可欠です。犬の場合は嗜好性も考慮する必要があり、急な変更は拒食を招く可能性もあるため、特にシニア犬の場合は徐々に低脂肪食に切り替えることをおすすめします。

予防法やご家庭での注意点

犬の膵炎は、肥満や高脂肪食の過剰摂取など、日常生活習慣が原因で起こることが多いため、適切な食事管理と適度な運動による予防が重要です。

猫の場合は発見が難しいことから、定期的な健康診断を受けることが予防につながります。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

まとめ

犬の膵炎は容態が急変することが多い病気なので、早期発見・早期治療がとても重要です。嘔吐などの症状に気づいたら、速やかに動物病院を受診しましょう。

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<参考文献>
Pancreatitis in Cats – PMC (nih.gov)
New insights into the etiology, risk factors, and pathogenesis of pancreatitis in dogs: Potential impacts on clinical practice – PMC (nih.gov)

クッシング症候群は副腎皮質機能亢進症とも呼ばれる病気で、副腎からステロイドホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌され、体にさまざまな異変が現れます。この病気そのものだけでなく、関連してさまざまな病気の発症につながる危険性があるため、早めに対処することが重要です。
今回は犬のクッシング症候群について、注意すべき症状や当院での治療法を中心にお伝えします。

 

原因

クッシング症候群は多くが下垂体(脳の近くにあり全身のホルモンをコントロールする器官)の腫瘍によって発生し、下垂体から命令を受けた副腎皮質がコルチゾールというホルモンを過剰に産生してしまうことが原因となります。

それ以外にも、まれに副腎自体の腫瘍によって発症することもあります。

また、中高齢の犬に多く、どんな犬種でも発症する可能性があります。

症状

この病気の一番の問題点は、ストレスを感じたときに体を守るために産生されるホルモンが、ストレスを感じていないのに出てしまうことです。そのため、以下のような症状が現れます。

例1)ご飯を食べられなくなるというストレスから過食になる
→肝臓の腫大や脂肪の蓄積

例2)いつ襲われるかわからないというストレスを感じる
→骨のカルシウムを血液中に溜め込むことによる骨粗鬆症

これらの変化によって、糖尿病、膵炎、骨粗鬆症、胆嚢粘液嚢腫などの病気に発展し、命の危険につながる可能性もあります。

■糖尿病と膵炎については以下のページでも解説しています
犬や猫の糖尿病について│肥満や不適切な食事が原因になることも、退院後も飼い主さんの協力が不可欠
犬と猫の胆嚢粘液嚢腫について┃初期症状が分かりづらいため定期的な健康診断が重要

それ以外に、かゆみを伴わない左右対称の脱毛も一般的です。同じような症状にアロペシアXという病気でもみられるため、その区別が重要になります。アロペシアXと診断されたものの実はクッシング症候群だった、というケースも一定数存在しています。

診断

クッシング症候群の診断にはエコー検査が有効です。
当院の健康診断では左右の副腎をエコーで確認しており、副腎が肥大している場合は自覚症状がなくても詳しく検査を行い、確定診断につなげています。エコー検査の後はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)刺激試験を実施し、診断がつかない場合は低用量デキサメサゾン抑制試験に移ります。

私たちは、クッシング症候群が見逃され、糖尿病や膵炎などほかの病気を併発し、苦しむ犬を数多く見てきました。そのため当院では、症状が出る前に未然に防ぎたいという思いから、可能な限り早くこの病気を発見できるように努め、確定診断をつけることを常に意識しています。

治療

治療には投薬と手術の2つの選択肢がありますが、当院ではまず投薬による治療を試みています
治療薬はトリロスタン(アドレスタン)という成分を含むもので、コルチゾールの合成を妨げる作用があります。投薬による治療で症状がコントロールできない場合は、ミトタンという別の成分を含む薬に変更することもあります。

投薬は一生涯続くため、飼い主様のご協力も不可欠です。飼い主様と病院が密に連携をとり、愛犬にとって最良の治療を進めていく必要があります。
他の病院でトリロスタンによる治療がうまくいかない場合は、ぜひ一度当院までご相談ください

手術は、副腎が確実に腫瘍化している際に選択肢として挙がりますが、犬の副腎は人間と比べてサイズが小さいため手術にリスクが伴います。そのため、手術が適応となるような大きさであっても投薬治療を選択するケースもあります。

予防法やご家庭での注意点

犬と猫のクッシング症候群は、残念ながら完全な予防方法はまだ確立されていません。

特に中高齢の犬猫は発症リスクが高いため、定期的な健康診断を受け早期発見・早期治療に努めましょう。また、若いうちから定期的に健康診断を受けることで、過去の検査結果と比較しわずかな変化に気づきやすく、早期発見につなげることができます。

ぜひ、愛犬や愛猫の健康を守るために、定期的に健康診断を受けることをおすすめします。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

まとめ

クッシング症候群はコルチゾールが過剰に分泌されることで、ストレスに関わる症状が現れる病気です。クッシング症候群に伴って糖尿病や膵炎などを発症してしまうと、命の危険に関わることもあるので、早期診断・早期治療を心がけましょう。
何か少しでも気になることがあれば、いつでも当院までご相談ください。

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<参考文献>
Diagnosis of Spontaneous Canine Hyperadrenocorticism: 2012 ACVIM Consensus Statement (Small Animal) – Behrend – 2013 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library

 

甲状腺は喉の近くにある器官で、代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺機能亢進症は中高齢の猫に多く、甲状腺ホルモンが正常よりもたくさん分泌されることで、痩せているのに食欲がある、攻撃的になるなどの症状が現れます。一見すると元気で健康のように思えますが、病気が悪化すると活動性が過剰になりすぎてしまうため、早期に発見して治療を始める必要があります。
今回は猫の甲状腺機能亢進症について、原因や症状だけでなく、当院での治療法を解説します。

 

原因

甲状腺機能亢進症は、10歳以上の多くの猫で認められる、中高齢の猫ではとても一般的な病気です。

この病気が起こる原因は詳しくわかっていませんが、年齢や食事内容、飼育環境などの要素が複雑に関係していると考えられています。いくつかの原因によって良性の過形成(甲状腺細胞が増殖して甲状腺が大きくなること)に進行すると、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されはじめます。

症状

甲状腺機能亢進症によくみられる症状として、食欲の増加や体重減少(特に筋肉量の低下)がみられます。これがいわゆる「よく食べるのに痩せる」状態です。

その他には、多飲多尿、攻撃的になる、よく鳴くといった症状も現れます。また、甲状腺機能亢進症の猫では、心拍数が激増することから肥大型心筋症や高血圧症が認められることがあります。

猫の肥大型心筋症について┃7歳以上の3割ほどが発症

診断

甲状腺機能亢進症の診断には主に血液検査を行います。血液検査ではホルモンの数値(tT4と呼ばれる項目)を測定します。甲状腺機能亢進症の猫では90~95%でtT4値が上昇することが知られています。そのため、tT4の測定結果は診断を下す上で非常に重要な指標となります。

また、実際に猫の首元を触って甲状腺が腫れていないかを確認したり、超音波検査を追加で実施したりすることもあります。

ホルモンの数値は、健康診断で実際に症状がなくても測定することをお勧めします。
当院では健康診断でオプション項目として追加いただけると、通常より費用を抑えて検査が可能です。

当院の血液検査については、こちらのページでも詳しく解説しています

治療

甲状腺機能亢進症の治療には、投薬、食事療法、手術といった3つの選択肢があります。

投薬(抗甲状腺薬)
抗甲状腺薬にはチアマゾールという成分が含まれており、この成分は甲状腺ホルモンの合成を阻害する役割を担います。以前は人用の錠剤を猫の体重にあわせて分割して使用していたため、薬の粉に触れてしまうことで、人のホルモンへの影響が懸念されていました。
しかし最近では、割る必要がなく表面もコーティングされている、猫専用の抗甲状腺薬が販売されはじめたので、飼い主様への安全性が高まりました。

食事療法(ヨウ素制限食)
ヨウ素制限食は、甲状腺ホルモンの元となるヨウ素を少なくしたフードで、投薬とくらべて副作用を最小限に抑えることができるメリットがあります。ただし、猫によっては味が好みではなく専用のフードをあまり食べてくれないケースも多いため、注意が必要です。

手術
まずは投薬か食事療法から治療を始めますが、これらの治療で改善がみられなければ手術を検討します。ただし、手術で甲状腺を取り除いてしまうと上皮小体機能低下症や甲状腺機能低下症になるリスクもあるため、慎重に判断する必要があります。

予防法やご家庭での注意点

活動的で元気だから健康、というわけではなく、猫が高齢になったら甲状腺機能亢進症に気をつける必要があります

気づかぬ間に病気が進行している可能性があるため、定期的に健康診断を受けていただき、早期発見に努めましょう。

犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

まとめ

甲状腺機能亢進症は中高齢の猫で一般的な病気です。年をとっても活発に動き回ったり、攻撃的になったりする場合にはこの病気の可能性があります。「元気だから大丈夫」と思わず、積極的に動物病院を受診しましょう。

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外の気温がだんだんと高くなると、ノミ・マダニがたくさん発生してきます。これらは外部寄生虫と呼ばれ、犬や猫の皮膚について、吸血するとかゆみや皮膚の炎症を生じるだけでなく、人獣共通感染症の原因となる病原体を運ぶ危険性もあるため、予防がとても大切です。
今回はノミ・マダニが発生しやすい場所や予防の重要性などについて、詳しくお伝えします。

当院の予防・健康管理についてのページはこちら

 

ノミ・ダニの発生場所

ノミやマダニは暖かい場所を好み、冬の間はじっとしていますが、春先になると活動を始めます

主に草むらや藪に棲息しているため、犬とお散歩するときには注意が必要です。また、もともと外にいたノミ・マダニが人の衣服などにくっつき、家の中に連れて帰ってしまうと、カーペットや布団などに棲みついてしまう可能性もあります
そのため、完全室内飼いの猫でも必ずしも安全ではないことをご理解ください。

ノミ・マダニ予防が必要な理由

ノミやマダニは、動物の皮膚に寄生して血を吸う外部寄生虫です。

〈ノミの場合〉

ノミの唾液に対してアレルギー反応が起きることで皮膚炎を生じます。それ以外にも、瓜実条虫という内部寄生虫やヘモプラズマという原虫を媒介し、健康に悪影響を及ぼすことが考えられます。

〈マダニの場合〉

マダニの場合、吸血による刺激から皮膚炎を起こします。さらにノミよりも大量に吸血するため、多数のマダニが寄生すると貧血を起こすケースもあります。

それ以外にも、バベシアという原虫や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因ウイルスを媒介するといわれています。特にSFTSは致死率の高い人獣共通感染症として知られています。この病気は西日本に多く発生していますが、関東地方でも遺伝子検査レベルでは発生しているため、注意が必要です。千葉では2021年に人での感染例も見つかっています

また最近では2023年で富山で感染例があり、人から人への感染も確認されています。

SFTSについては、こちらのページで詳しく解説しています

このように、ノミ・マダニが寄生すると人や動物に様々な健康被害を及ぼす危険性があるため、予防が重要になります。

ノミやマダニの予防方法

犬や猫のノミ・マダニによる病気を予防するためには、生活環境の見直しノミ・マダニの駆除薬を適正に使用することが大切です。

〈駆虫薬製品〉

・スポットオン剤
・チュアブル
・錠剤

ノミやマダニは暖かい室内であれば冬でも繁殖する危険性があります。万全にノミ・マダニ予防をするためにも、1年中1ヶ月に1回予防することをおすすめします。

〈生活環境の見直し〉

・掃除機を頻繁にかける
・ペット用品の洗浄
・ベッドや布団を定期的に洗濯する

ノミ・マダニを見つけたらどうすればいいのか

愛犬愛猫にノミが寄生していると、ノミそのものや、毛に付着した黒っぽい糞を見つけることができます。ノミの寄生を発見できたら早めに動物病院を受診して、駆虫薬で治療を始めることをお勧めします治療後にはシャンプーで皮膚や毛をきれいにすることも大切です。

マダニがついている場合は、飼い主様自身で取ろうとせず、動物病院にご来院ください。マダニは吸血する際に、セメント状の物質を分泌して皮膚に強固に固定します。そのため、自力で取り除こうとすると、マダニの一部が皮膚に残ってしまい、その部分がしこりになり、最悪の場合手術になることもあります

まとめ

ノミ・マダニが犬や猫に寄生すると、皮膚の問題だけでなく、私たち人に感染しうる病気を引き起こす可能性があります。愛犬愛猫に適したノミ・マダニの予防薬はどれか、予防時期についてなど、気になることがあれば当院までご相談ください。

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