犬が首を痛がる原因のひとつ|頸部椎間板ヘルニアの症状と治療選択肢

「椎間板ヘルニア」と聞くと「腰が痛くなる病気」というイメージを持つ方が多いかもしれません。ですが実は首にも起こることがあり、これを「頸部椎間板ヘルニア」と呼びます。 首に強い痛みを伴う病気ですが、犬は本能的に痛みを隠そうとすることがあるため、ご家庭では気づきにくいのが特徴です。 今回は、犬の頸部椎間板ヘルニアについて基本的な知識と、当院でご提案できる治療法についてご紹介します。 ■目次 1.犬の頸部椎間板ヘルニアとは? 2.見逃しやすい症状 3.診断と治療の選択肢 4.ナガワ動物病院でできること 5.まとめ   犬の頸部椎間板ヘルニアとは? 背骨は小さな骨(椎骨)が連なってできています。その間にある椎間板はクッションのような役割を持ち、体を動かすときの衝撃を吸収して、背骨の中を通る大切な神経(脊髄)を守っています。 椎間板ヘルニアとは、この椎間板の一部が変性して外に飛び出し、脊髄を圧迫してしまう病気です。これが首で起こった場合を「頸部椎間板ヘルニア」と呼び、強い首の痛みや神経のトラブル(足のふらつきや麻痺など)につながることがあります。 「椎間板ヘルニア=腰の病気」と思われがちですが、首でも起こりうることは意外と知られていません。そのため発見が遅れてしまうケースもあります。早期に気づくためには「首にも起こりうる」ということを知っておくことがとても大切です。 また、この病気はミニチュア・ダックスフンドやフレンチ・ブルドッグなどの犬種で遺伝的に発症しやすいことが知られています。比較的若いうちに出ることもあり、一方で大型犬でも加齢によって発症するケースもあります。犬種や年齢にかかわらず注意が必要な病気といえるでしょう。 犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて詳しく知りたい方はこちら 見逃しやすい症状 頸部椎間板ヘルニアは、初期の症状が小さく見えるため見過ごされてしまうことがあります。ご家庭で気づける代表的なサインには次のようなものがあります。 ・頭を下げたまま上目遣いで見てくる ・小刻みに震える ・首を触ろうとすると嫌がって「ウー」とうなる ・首を動かしにくい様子で、食事や水を飲みにくそうにする こうした行動は首の痛みによるものですが、腰や肩の不調と勘違いされたり、環軸亜脱臼など首の骨の異常や外傷と紛らわしいこともあります。 初めは首の痛みだけでも、病気が進むと足の麻痺や歩行のしづらさにつながることがあります。早い段階で気づいていただくことが、愛犬のつらさを減らし、重症化を防ぐ大切なポイントです。 診断と治療の選択肢 頸部椎間板ヘルニアは、症状の現れ方が犬によって異なるため、正確に診断するには動物病院での詳しい検査が欠かせません。 <診断の流れ> 診察は次のような流れで行われます。 ・問診:普段の生活の様子や症状の出方をうかがいます ・身体検査:体を触って、痛みや違和感の有無を確認します ・神経学的検査:どの部位に異常があるか、進行度合いを判断します ・画像検査:レントゲン検査を行い、必要に応じてCT・MRIなどでさらに詳しく調べます これらの検査結果を組み合わせて、発症部位や重症度を総合的に見極めます。 <治療について> 頸部椎間板ヘルニアは、症状の重さに応じて「ステージ」という段階に分けて考えることがあります。これは専門的な評価方法ですが、簡単にいうと「どのくらい症状が進んでいるか」を判断する目安です。 ▼ステージ1〜2(軽度) 首の痛みはあるものの歩行は可能な状態です。この段階では、安静に過ごすことと痛みを和らげる投薬が基本になります。少なくとも4週間以上の安静が必要です。 ▼ステージ3(重度) 麻痺や歩行困難が見られる段階です。この場合は外科手術を検討します。手術では飛び出した椎間板を取り除き、必要に応じて背骨に小さな穴を開けて脊髄への圧迫を和らげます。 このように、軽度であれば内科的な治療(安静+投薬)が中心、重度や再発例では外科的治療を考えるのが一般的な流れです。 ナガワ動物病院でできること 当院では、愛犬の状態に合わせて最適な治療法をご提案することを大切にしています。病気の進行度や生活の様子をふまえ、飼い主様と一緒に治療の方向性を考えていきます。 <内科治療> ステージ2以下の比較的軽度な段階では、安静とお薬による治療を優先します。実際に、近年の研究ではこの段階では外科手術と内科治療の治療成績に大きな差がないと報告されています。まずは体への負担が少ない方法から取り組みます。 <外科手術> 内科治療で十分な改善が得られない場合や、強い痛み・麻痺がある場合には、提携病院と連携して外科手術をご紹介します。安全性に配慮しながら、適切なタイミングでご案内します。 <再生医療(幹細胞治療)> 炎症を抑えたり傷ついた組織の修復を助けたりする効果が期待される新しい治療法です。当院では幹細胞療法に対応できる環境を整えており、必要に応じてご提案できるのも強みのひとつです。 このように、当院では内科から外科、さらには再生医療まで幅広い選択肢をご用意しています。飼い主様とじっくり相談しながら、愛犬が少しでも快適に過ごせるように柔軟に治療方針を決めていきます。 まとめ 頸部椎間板ヘルニアは、腰のヘルニアと比べると認知度が低いため、気づかれにくく発見が遅れがちです。しかし進行すると強い痛みや麻痺を引き起こすこともあり、早期の発見と治療がとても大切です。 「最近首を気にしている」「動きがぎこちない」など気になる変化があれば、どうぞお気軽に当院へご相談ください。   <参考文献> European…

繰り返す外耳炎に悩む愛犬・愛猫のために|全耳道切除術という治療選択肢について

「愛犬が耳をしきりにかいている」「愛猫の耳からにおいがする」といった耳のトラブルは珍しいことではなく、その多くは外耳炎によって起こります。実際に外耳炎は犬に非常に多い病気で、ペット保険の請求ランキングでも常に上位に入るほどです。 外耳炎は一度治っても再発を繰り返しやすく、放っておくと炎症が広がって治りにくくなることもあります。通常は点耳薬や内服薬で治療しますが、慢性化してしまった場合には「全耳道切除術」という手術が選択肢になることがあります。 今回は、外耳炎が繰り返される理由やその影響、そして全耳道切除術について詳しく解説します。 ■目次 1.外耳炎とは?繰り返しやすい理由 2.繰り返す外耳炎がもたらす影響 3.どんな時に手術を検討するべき? 4.手術という選択肢|全耳道切除術(TECA)とは 5.ナガワ動物病院での手術以外のケア・選択肢について 6.まとめ   外耳炎とは?繰り返しやすい理由 犬や猫の耳は、私たち人間と同じようにいくつかの部位でできています。外から見える耳の部分を「耳介」、その奥に続く耳のトンネルを「外耳道」、さらに奥に鼓膜──という構造になっています。 外耳炎とは、この外耳道に炎症が起きてしまう病気のことです。原因はさまざまで、たとえば次のようなものが挙げられます。 ・細菌やマラセチア(酵母菌)などの異常な増殖や感染 ・耳ダニの寄生 ・アレルギー体質(食物アレルギーや皮膚炎など) ・草の種や異物の侵入 といったものが知られています。犬でよくみられる印象がありますが、スコティッシュフォールドなど猫でも発症することがあるので注意が必要です。 さらに外耳炎には「繰り返しやすい」という特徴があります。 ・耳が垂れていて蒸れやすい犬種や猫種では、耳の中が常に湿った状態になりやすい ・炎症が続くことで耳道の皮膚が厚くなり、通り道が狭くなってしまう こうした要素が重なると「治ったと思ったのにまた再発する」という状況になりがちです。慢性化すると、耳のかゆみや痛みだけでなく、聞こえにくさや日常生活の質の低下にもつながるため、早めの対処が大切です。 犬の外耳炎について詳しく知りたい方はこちら 繰り返す外耳炎がもたらす影響 犬や猫にとっては、外耳炎が続くことで毎日の生活そのものが不快でつらいものになってしまいます。 ・強いかゆみや痛みで耳をかいたり頭を振ったりする ・常に違和感があり、落ち着かなくなる ・耳が聞こえにくくなる ・重症化すると鼓膜が破れ、中耳炎に進行することもある また、飼い主様にとっても負担は小さくありません。「治療を続けてもなかなか良くならない」という不安や、繰り返す通院による時間的な負担、長引く治療費による経済的な負担が積み重なっていきます。 このように、繰り返す外耳炎は犬や猫にも飼い主様にも影響を及ぼす大きな問題です。改善が難しい場合には、次の治療選択肢を検討することが大切になります。 どんな時に手術を検討するべき? 外耳炎の多くは点耳薬や内服薬といった内科的な治療で改善が見込めます。ですが、中には薬だけでは治らないケースもあります。そのようなときには、手術という選択肢を検討することがあります。 たとえば… ・炎症が中耳や内耳にまで広がり、ふらつきやめまいなどの神経症状が出ている場合 ・繰り返す炎症で耳道が厚くなり、薬が届かなくなってしまった場合 ・耳道内に炎症性ポリープや腫瘍ができて、耳の通り道がふさがってしまっている場合 このようなときに「全耳道切除術(TECA)」という外科的な方法が治療の選択肢のひとつになるのです。 手術という選択肢|全耳道切除術(TECA)とは 全耳道切除術(TECA)は、耳道全体を取り除き、炎症や感染の原因そのものをなくしてしまう手術です。 <全耳道切除術の流れ> 手術の流れを簡単にご紹介します。 1.…

犬と猫の認知症|よくある初期症状と進行をおだやかにするケアの選択肢

私たち人間と同じように、犬や猫も昔と比べて寿命が延びて長生きするようになりました。 その一方で、加齢に伴う病気も増えており、特に飼い主様を悩ませるもののひとつが「認知症」です。発症してしまうと完治は難しいものの、早い段階で気づき、適切なケアを取り入れることで進行をゆるやかにできる可能性があります。 今回は犬と猫の認知症について、見逃しやすい初期症状やケアの選択肢を詳しく解説します。 ■目次 1.犬と猫にも認知症はある? 2.見逃しやすい初期症状とよくある行動 3.治療・ケアの選択肢 4.進行をゆるやかにするために 5.まとめ   犬と猫にも認知症はある? 認知症とは、加齢によって脳の機能が低下し、記憶や行動に異常が出る状態を指します。 犬の場合は「認知機能不全症候群(CDS)」とも呼ばれ、特に10歳を超えるシニア犬に多くみられます。また猫も15歳前後から同様の症状が出やすいといわれていますが、発症年齢には個体差があるため、若い年齢でも注意が必要です。 見逃しやすい初期症状とよくある行動 認知症になると、次のような行動や変化がみられることがあります。 ・昼夜逆転(昼間に眠り、夜に活動的になる) ・夜鳴きや無駄吠えが増える ・同じ場所をぐるぐると徘徊する ・トイレの失敗が増える ・飼い主様を認識できなくなる ・隅に頭を突っ込んだまま動かない こうした変化は、飼い主様が「年のせいかな」と見過ごしてしまうことも少なくありません。気になるサインがあれば、セルフチェックで確認するのもひとつの方法です。 ▼参考(外部サイト) DISHAAチェック(犬の認知症セルフチェック)   このチェック方法では、犬や猫の行動をいくつかの項目に分けて点数化します。 たとえば、 ☑…

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは|犬・猫にも感染するマダニ感染症の症状と予防策

当院からの大切なお知らせ SFTSが疑われる犬猫は、直接ご来院いただくことができません。 まずは必ずお電話にて当院へご相談ください。 外に出ている猫ちゃんはしばらく外出を控えていただき、症状がある場合も院内には連れて来ず、事前にご連絡をお願いいたします。 近年、ニュースなどでも耳にすることが増えてきた「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」。マダニが媒介するこの感染症は、人だけでなく犬や猫などの動物にも感染・発症することが知られており、注意が必要です。 今回は、SFTSの基礎知識や犬・猫で見られる症状、ご家庭でできる予防対策について、獣医師の視点から詳しく解説します。 ■目次 1.SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは? 2.マダニはどこにいる?身近に潜むリスク 3.マダニ感染を防ぐには?ご家庭でできる予防対策 4.ご来院について 5.まとめ   SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは? SFTS(Severe…

暑い時期の皮膚トラブルにご注意を|犬や猫のかゆみ・皮膚炎の原因と治療・薬浴ガイド

いよいよ暑い夏がやってきました。湿気や気温の上昇によって皮膚の環境が悪化しやすくなるこの季節、犬や猫にとって皮膚病は特に注意が必要です。脱毛やかゆみなどのトラブルは、生活の質を下げるだけでなく、強いストレスの原因にもなります。 今回は、夏に増える皮膚病の原因や症状、ご家庭でできるケア方法に加え、ナガワ動物病院での対応について詳しくご紹介します。 ■目次 1.暑い時期に多い犬と猫の皮膚トラブル|主な原因とは? 2.こんなときは受診を|ご家庭でのケアと病院受診の境界線 3.病院での治療とトリミングの役割|ナガワ動物病院の対応 4.まとめ   暑い時期に多い犬と猫の皮膚トラブル|主な原因とは? 夏は気温と湿度の上昇により、犬や猫の皮膚トラブルが起きやすい季節です。以下のような原因がよく見られます。 <ノミ・ダニによる皮膚炎> ノミやダニなどの外部寄生虫は、夏の高温多湿な環境で繁殖しやすくなります。寄生されることで強いかゆみや皮膚炎を引き起こし、なかにはアレルギー反応を起こすケースも。 外出する犬だけでなく、室内で過ごす猫でも感染することがあるため、年間を通じた予防が大切です。 <皮膚バリア機能の低下> 健康な皮膚はバリア機能によって外部の刺激から体を守っています。しかし、夏の蒸し暑さによってその機能が弱まり、通常なら発症しないような皮膚病にかかりやすくなります。 また、近年の研究では、腸内環境とアレルギー性皮膚炎の関係性も注目されています。当院では、乳酸菌製剤を含むサプリメントによる「腸活」もご提案しています。 <雑菌の繁殖や皮脂の分泌異常> 暑さや湿気によって皮脂の分泌が増えると、皮膚に常在する菌(マラセチアやブドウ球菌など)が過剰に増殖し、皮膚炎を引き起こすことがあります。 蒸れやすい部分(脇の下、足の付け根、耳の中など)は特に注意が必要です。 <紫外線による皮膚へのダメージ> 白毛や短毛の犬種(ブルテリアなど)では、紫外線の影響を受けやすい傾向があります。長時間日光を浴びることで、皮膚が赤くなるだけでなく、まれに扁平上皮癌などの重大な疾患につながることもあります。 夏に見られる皮膚の不調の裏にはこうした背景があることを知っておくと、早めの対応にもつながります。 <皮膚糸状菌症(真菌感染症)の多発> 近年、夏の高温多湿な環境で真菌による皮膚病(皮膚糸状菌症)が多発しています。 この病気はかゆみや脱毛、赤みを引き起こすだけでなく、ステロイド薬を使用すると症状が悪化するため、一般的な皮膚炎とは異なる注意が必要です。 特に2025年夏は例年に比べて発生が目立っており、早期の診断と適切な治療が重要です。 また、当院では皮膚糸状菌症のような真菌感染症が疑われる場合、診察時から待合室・診察室でのカビ拡散防止を徹底しています。 また、毎日院内の清掃・消毒を行い、安心して通院いただける環境を整えていますので、お気軽にご相談ください。 こんなときは受診を|ご家庭でのケアと病院受診の境界線 皮膚病の予防には、日々のちょっとしたケアの積み重ねがとても大切です。特に夏場は、以下のようなポイントを意識することで、皮膚トラブルのリスクを減らすことができます。 ・適切な頻度でのシャンプー 皮膚の汚れや余分な皮脂を落とすことで、雑菌の繁殖を防ぎます。ただし、洗いすぎは逆効果になることもあるため、シャンプーの頻度や使用する製品は、愛犬・愛猫の皮膚の状態に合わせて選びましょう。 ・室内の温度・湿度の管理 高温多湿の環境は、皮膚病を引き起こす大きな要因です。室温は25℃前後、湿度は50〜60%を目安に、エアコンや除湿器を活用しながら快適な環境を整えてあげましょう。風通しを良くする工夫や、クールマットの設置もおすすめです。 ・ノミ・ダニの予防 ノミやマダニは、かゆみや皮膚炎の原因になるだけでなく、重篤な感染症を媒介することもあります。草むらに入らなくても寄生することがあるため、室内飼育の犬や猫でも油断はできません。予防薬を定期的に使って、しっかり対策してあげましょう。 ノミ・マダニ予防について詳しく知りたい方はこちら ・毎日のブラッシング 被毛を整えることに加えて、皮膚の異変に早く気づくきっかけにもなります。抜け毛やフケ、赤み、湿った部分などを日々の中でチェックすることで、トラブルを未然に防げることもあります。特に脇の下や足の付け根、首まわりなどは蒸れやすいため、意識的にケアしてあげましょう。 <こんな症状が見られたら早めのご相談を> どれだけ丁寧にケアをしていても、皮膚病が進行してしまうことはあります。以下のような症状が見られる場合は、悪化を防ぐためにも早めの受診をおすすめします。 ・食事中や散歩中、睡眠中にかゆがる様子がある ・脱毛やフケ、皮膚の赤みや黒ずみといった変化が見られる ・においが強くなる(皮膚が蒸れたような不快なにおいなど) ・皮膚にかさぶたや出血がある ・元気や食欲がなくなる、体重が落ちるなどの全身症状を伴う こうした変化は、皮膚の炎症や感染が進んでいるサインかもしれません。初めは軽く見えても、放っておくことで炎症が広がり、かゆみが強くなったり、治療に時間がかかってしまうこともあります。 また、皮膚病の中には「イッチ・スクラッチ・サイクル」と呼ばれる悪循環が知られています。これは「かゆみ…

犬の脾臓に腫瘍が見つかったら|摘出手術の必要性とその後のケア

脾臓(ひぞう)は、犬のお腹の中にある臓器のひとつで、高齢になると腫瘍が見つかることが珍しくありません。 特に脾臓は血液を多く含む臓器のため、腫瘍が破裂すると大量出血を起こし、命に関わるケースも少なくありません。そのため、状況によっては早めの摘出手術が必要になります。 今回は、脾臓の役割や腫瘍の特徴、摘出手術の流れや術後のケアについてご紹介します。 ■目次 1.犬の脾臓とは?腫瘍のリスクと手術の必要性 2.脾臓腫瘍の診断と摘出手術の流れ 3.手術後の過ごし方と継続的なケアの大切さ 4.まとめ   犬の脾臓とは?腫瘍のリスクと手術の必要性 脾臓(ひぞう)は、胃の近くにある細長い臓器で、免疫や血液に関わる重要な働きを担っています。具体的には、古くなった赤血球の回収や、必要に応じた血液の貯蔵・放出、そして免疫機能の一部も担っています。 この脾臓に腫瘍(しこり)ができることがあり、特に高齢の犬では発見される頻度が高くなります。腫瘍には以下のような種類があります。 ・良性腫瘍 ゆっくりと成長し、他の臓器に広がることはありません。ただし、大きくなると破裂するリスクはあります。 ・悪性腫瘍(がん) 代表的なものに「血管肉腫」があり、非常に進行が早く、破裂による大量出血や、全身への転移が起こるおそれがあります。 どちらの腫瘍であっても、脾臓が破裂すれば命に関わる緊急事態になるため、腫瘍が見つかった段階で早めの判断が求められます。 <なぜ脾臓摘出がすすめられるのか> 脾臓腫瘍は、ちょっとした衝撃や運動がきっかけで破裂することがあります。悪性の疑いが強い場合はもちろん、良性であっても破裂リスクがある場合には、脾臓摘出手術が選択肢になります。 当院では、腫瘍の種類にかかわらず「破裂リスクが高い」と判断される場合には、早期の摘出手術をおすすめしています。命を守るために、早めの決断が重要になるケースも多いためです。 脾臓腫瘍の診断と摘出手術の流れ 脾臓腫瘍は、早期に見つかれば命を救える可能性が高い病気です。しかし、進行するまで症状が出にくいため、定期的な検査による早期発見がとても大切になります。 <診断の流れ> 脾臓腫瘍の診断には、以下のような検査が行われます。 ・超音波検査(エコー) 脾臓の大きさや腫瘍の有無、腹水の有無を確認します。腫瘍の早期発見に有効です。 ・レントゲン検査や血液検査 他の臓器への影響や全身状態を把握します。 ・必要に応じたCT検査や細胞診 腫瘍の広がり具合や、ほかの病変の確認に役立ちます。 なお、血液検査だけでは腫瘍の有無を判断することは難しいため、エコー検査などの画像診断が特に重要になります。 <手術の流れ> 腫瘍が確認された場合、破裂によるリスクを回避するために、脾臓摘出手術(脾臓全摘)を行います。 1.…

犬の会陰尿道瘻とは|再発する結石・排尿トラブルへの外科的アプローチ

犬の尿路結石や排尿のトラブルは、内科的な治療(食事療法や投薬)で管理できることが多いものの、なかには再発を繰り返してしまうケースもあります。そうしたときに検討される外科的治療が「会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)」です。 聞き慣れない手術名かもしれませんが、排尿障害の根本的な改善を目的として行われる手術であり、再発による苦痛を防ぐ手段として選択されることもあります。 今回は、会陰尿道瘻の役割や手術の流れ、術後の注意点について、飼い主様に知っておいていただきたいポイントを解説します。 ■目次 1.犬の会陰尿道瘻とは? 2.手術の流れと術後のケア 3.手術を検討する前に|知っておきたいメリットとデメリット 4.まとめ|“最善の一手”を一緒に考えるために   犬の会陰尿道瘻とは? 会陰尿道瘻は、尿道の閉塞を繰り返す犬に対して行われる外科手術です。尿道を短くして会陰(肛門の近く)に尿の出口を新たにつくることで、尿の通り道を広げ、スムーズな排尿を助けます。 尿道が詰まって尿が出なくなると、まず腎臓にダメージが蓄積されます。おしっこが出せなくなることで膀胱がオーバーフローしますが、出口がないため、腎臓で作られた尿が膀胱に運べずに腎臓に負担がかかります。その結果、腎臓機能が低下し、最終的に体に毒素がたまり「尿毒症」という命に関わる状態に陥ることがあります。 通常は、以下のような内科的な治療が優先されます。 ・尿道カテーテルでの閉塞解除 ・食事療法や内服薬による結石の予防・溶解 これらの治療で改善が見られない場合に、会陰尿道瘻の適応が検討されます。具体的には、次のようなケースです。 ・結石による尿道閉塞を何度も繰り返している ・カテーテルでの処置がうまくいかない ・今後も結石の再発が強く疑われる 他院で手術を提案された場合でも、一度当院でのカテーテルでの閉塞解除をお試しいただくことも可能です。会陰尿道瘻は、こうした“繰り返す排尿トラブル”から犬の身体を守るための最終手段です。ただし、体にかかる負担や術後の管理もあるため、手術を検討する際には、事前に獣医師としっかり相談することが大切です。 手術の流れと術後のケア 会陰尿道瘻の手術では、尿の出口を肛門の近くにつくり直すことで、尿道の通り道を広げます。以下のような手順で行われます。 <手術の流れ> 1.…

なんとなく元気がない…愛犬の異変、実はアジソン病かも?|見逃されがちな症状と命を守る治療法

「最近なんとなく元気がない」「食欲が落ちてきた気がする」 そんな愛犬の変化を、年齢のせいかなと見過ごしていませんか? アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、犬の内分泌疾患のひとつで、発症頻度は高くありませんが、症状があいまいなために見逃されやすい病気です。しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、長期的に安定した生活を送ることも十分可能です。 今回は、アジソン病について、その症状や診断、治療方法をご紹介します。 ■目次 1.犬のアジソン病とは 2.見逃されやすいアジソン病の症状|こんなサインに要注意 3.アジソン病の診断と検査の流れ 4.アジソン病の治療と管理|安定した生活を目指して 5.まとめ   犬のアジソン病とは アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎という小さな臓器のうち「皮質」の働きが低下し、体に必要なホルモンが分泌されなくなる病気です。 副腎は、腎臓のそばにあるごく小さな臓器ですが、体の調子を整えるホルモンを作るというとても重要な役割を担っています。副腎は「皮質」と「髄質」の2つの部分に分かれており、中でも皮質から分泌される以下のホルモンが、アジソン病に深く関わっています。 ・コルチゾール:ストレスに対応するホルモン ・アルドステロン:ナトリウムやカリウムなどのミネラルバランスを調整 これらのホルモンが不足すると、体の調子を保てなくなり、さまざまな不調が現れます。 <どんな犬が発症しやすい?> アジソン病は、若い成犬から中年齢の犬で発症することがあります。稀ではあるものの、猫も発症することがあります。 似たような病気に、ホルモンが過剰に分泌される「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」がありますが、こちらは中高齢の犬でよく見られます。 犬のクッシング症候群の症状について詳しく知りたい方はこちら <アジソン病の主な原因> はっきりとした原因がわからないこともありますが、次のようなケースが知られています。 ・自己免疫反応により副腎が壊されてしまう ・クッシング症候群の治療薬(ミトタン)の作用が強すぎた場合 ・皮膚病などで長期間ステロイドを使用し、中止した後に起こる離脱症状 どれも体のホルモンバランスに関わることが背景にあり、副腎の機能が影響を受けることでアジソン病を引き起こします。 見逃されやすいアジソン病の症状|こんなサインに要注意 アジソン病は、「なんとなく元気がない」といったあいまいな症状から始まることが多く、老化や軽い体調不良と思われて見過ごされてしまうケースも少なくありません。 <慢性型のアジソン病> 慢性型では、体調不良がじわじわと進行していきます。特にストレスが発症や悪化の引き金となることもあるため、日常生活の変化にも注意が必要です。 以下のような症状が続く場合は、アジソン病のサインかもしれません。 ・食欲の低下 ・なんとなく元気がない ・体重が少しずつ減る ・ふるえ ・脈が遅くなる(徐脈) この段階では「年齢のせいかな」「季節のせいかな」と見過ごされがちですが、放っておくと症状が進行してしまうこともあるため、早めの対応が大切です。 <急性型(アジソンクリーゼ)に注意> 慢性的な不調が続いたあと、急激に悪化し命に関わる状態になることがあります。これをアジソンクリーゼと呼び、以下のような症状が突然あらわれます。一刻も早い処置が必要となる危険な状態です。 ・脱水や血圧低下によるショック症状 ・意識がもうろうとする(意識混濁) ・播種性血管内凝固(DIC):全身に小さな血栓ができて臓器が機能しなくなる危険な合併症 こうした急変を防ぐためにも、日頃から愛犬の様子をよく観察し「いつもと違うかも」と感じたら、ためらわずに動物病院へご相談ください。飼い主様のちょっとした気づきが、早期発見と適切な治療につながります。 アジソン病の診断と検査の流れ アジソン病の確定には、いくつかの検査が必要です。 <血液検査> アジソン病の代表的な特徴として、以下のような電解質異常が見られることがあります。 ・低ナトリウム血症 ・高カリウム血症 ただし、症状の軽いタイプ(コルチゾールのみが低下しているタイプ)では、これらの異常が見られない場合もあり、血液検査だけでは診断が難しいこともあります。 <ACTH刺激試験> 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を注射し、体がどれくらい反応してコルチゾールを出せるかを確認する検査です。この検査でコルチゾール値が十分に上がらなければ、アジソン病と診断されます。 アジソン病は、できるだけ早く見つけてあげることで、その後の治療をスムーズに進めやすくなります。だからこそ、異変に気づいた段階での早めの受診がとても大切です。 また、定期的な健康診断も、こうした内分泌疾患の早期発見に役立ちます。気になる症状がなくても、年に1回の健診を受けておくことで、見えにくい異常にも早く気づける可能性があります。 アジソン病の治療と管理|安定した生活を目指して アジソン病は残念ながら完治が難しい病気ですが、治療によって症状を安定させ、健康的な生活を送ることも十分に可能です。 <ホルモン補充療法> アジソン病の基本となる治療法です。体内で不足している副腎ホルモンを、飲み薬や注射で補います。生涯にわたって続ける必要がありますが、正しく管理すれば、発症前とほとんど変わらない生活を送ることもできます。 <定期的な通院と検査> 体調が急に変化することもあるため、定期的な血液検査でホルモンや電解質のバランスを確認し、状態をチェックしていくことが大切です。 <ストレスを減らす生活環境づくり> ストレスが症状を悪化させる要因のひとつと考えられているため、安心できる生活環境を整えてあげましょう。無理のないお散歩や、飼い主様とのふれあいの時間は、愛犬にとって心身の安定につながる大切なケアの一環です。 まとめ アジソン病は見逃されやすい病気のひとつですが、早めに気づいて治療を始めれば、症状を安定させながら穏やかに過ごすことも十分に可能です。 特に慢性型では「年齢のせいかな」と思われがちなサインが続くこともあるため、日ごろからの観察と小さな変化への気づきがとても大切になります。 ナガワ動物病院では、丁寧な診察と分かりやすい説明を心がけています。「最近ちょっと元気がないかも」「食欲が落ちているかも」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。 <参考文献> Diagnosis…

犬と猫の避妊・去勢手術|時期・メリット・費用・術後ケアまで獣医師が解説

「避妊・去勢手術って本当に必要?」「いつ頃受けるのがいいの?」 そのようなお悩みをもつ飼い主様も多いのではないでしょうか。手術には病気の予防や行動の安定などたくさんのメリットがある一方で、麻酔や術後のケアについて不安を感じていらっしゃる方も少なくありません。 ナガワ動物病院では、こうしたお悩みに寄り添いながら、愛犬・愛猫にとって最適な手術のタイミングや方法をご提案しています。 今回は、避妊・去勢手術の基本的な内容から、手術のメリット・デメリット、時期や費用、術後の過ごし方までを、詳しく解説します。 ■目次 1.避妊・去勢手術とは|犬・猫の体にどんなことをするの? 2.手術を受けるメリットとデメリット 3.手術の時期はいつがベスト?|犬・猫それぞれの推奨時期と考え方 4.手術の流れと費用の目安 5.術後のケア|手術後も安心して過ごすために 6.まとめ   避妊・去勢手術とは|犬・猫の体にどんなことをするの? 避妊・去勢手術は、繁殖を望まない犬や猫にとって大切な医療処置のひとつです。ナガワ動物病院では、以下のような方法で行っています。 <避妊手術(メス)> 子宮と卵巣を取り除く手術です。妊娠を防ぐことができるだけでなく、将来的に発症リスクの高い病気を予防する効果もあります。術後は基本的に一泊入院し、最短で翌日の午前中に退院していただく流れです。 <去勢手術(オス)> 精巣を摘出する手術で、比較的短時間で終わる処置です。こちらも一泊入院後、翌日の午前中にご帰宅いただけます。 <麻酔とリスクへの配慮> どちらの手術も全身麻酔が必要になります。当院では、手術の安全性を高めるため、術前検査(血液検査・レントゲン・心電図など)を強くおすすめしています。また、麻酔時は必ず2名以上の獣医師が立ち会い、安全管理を徹底しています。 手術を受けるメリットとデメリット 避妊・去勢手術には、身体的・行動面でのメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。事前にしっかり理解しておくことが大切です。 <メリット> ・望まない妊娠を防げる ・発情期のストレスや鳴き声、マーキング、攻撃的な行動などの軽減 ・メスは子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、オスは前立腺肥大や会陰ヘルニアなどの予防 <デメリット・注意点> ・ホルモンバランスの変化で太りやすくなることがある ・全身麻酔に伴うリスクがある ・術後、一時的に元気がなくなったり、体調を崩したりすることがある ・排尿のトラブルが出ることがある ただし、こうしたリスクについては、術前検査や術後のケア、日々の体調管理で十分に対応できることがほとんどです。 当院では、このような手術のメリット・デメリットを丁寧にご説明したうえで、飼い主様と一緒に最適な選択ができるように心がけています。 手術の時期はいつがベスト?|犬・猫それぞれの推奨時期と考え方 手術の効果を最大限に活かすためには「いつ手術を受けるか」も重要なポイントになります。 <犬の場合> ▼去勢手術(オス) 歯の生え変わりが落ち着く生後6〜8か月頃がおすすめです。 ▼避妊手術(メス) 初回の生理が終わった約1.5か月後(発情休止期)が理想です。この時期はホルモンバランスが落ち着いており、手術の負担も少なくなります。 <猫の場合> 去勢・避妊ともに、大人の歯が生えそろい、発情期が始まる前(生後5〜6か月)がベストタイミングです。 発情後の手術は出血量が増えたり、術後の回復が遅れたりすることもあるため、早めのご相談をおすすめします。 手術の流れと費用の目安 当院では、避妊・去勢手術を安心して受けていただくために、事前準備から術後のフォローまでを丁寧に行っています。ここでは、手術の流れと費用の目安についてご紹介します。 <手術の流れ> 1.…

【獣医師が解説】犬・猫の直腸腺がんと直腸プルスルー術|症状から治療まで

愛犬や愛猫のおしりから出血していたり、便がうまく出せていなかったりすると、多くの飼い主様は不安を感じるものです。 一方で、高齢の犬や猫では「年齢によるものだろう」と考え、つい見過ごされてしまうケースも少なくありません。しかし、こうした症状の裏には直腸腺がんが隠れていることがあり、早期発見・早期治療によってその後の予後が大きく変わります。 今回は、犬や猫の直腸腺がんについて、特に直腸プルスルー術という外科治療に焦点を当て、詳しく解説します。 ■目次 1.直腸腺がんとは?|基礎知識を押さえましょう 2.直腸腺がんの症状|気をつけたいサイン 3.直腸腺がんの診断方法 4.直腸プルスルー術とは?|手術の基本と流れ 5.手術後のケアと回復過程 6.まとめ|直腸腺がんと向き合うために   直腸腺がんとは?|基礎知識を押さえましょう 直腸腺がんは、直腸の粘膜に発生する悪性腫瘍(がん)の一種です。 主に高齢の犬や猫にみられますが、中年齢で発症するケースもあります。 類似した腫瘍に直腸腺腫(良性)もありますが、直腸腺がんは周囲の組織へ浸潤する力が強く、放置すると進行してしまいます。特に腸閉塞を引き起こすと、生命に関わる危険性があるため、早めの診断と治療が重要です。 直腸腺がんの症状|気をつけたいサイン 直腸にしこりができることで、便の排泄に影響が出ます。初期には以下のような症状が見られます。 ・排便時の出血 ・排便困難、しぶり(いきんでも便が出ない状態) ・便の形の変化 さらに進行すると、以下のような全身症状がみられるようになります。 ・体重減少 ・食欲不振 ・元気消失 高齢になると排便トラブルが起こりやすいため「年齢のせい」と誤解されることもありますが、急に変化があらわれた場合は特に注意が必要です。日頃から便の回数や出血の有無、形状などをチェックし、少しでも異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。 直腸腺がんの診断方法 直腸腺がんを正確に診断するためには、いくつかの段階を踏んで検査を進める必要があります。 <初診時に行われる検査> まず、便の異常の原因を探るため、以下の検査を実施します。 ・直腸検査(触診) 獣医師が直腸内に指を入れ、しこりの有無や大きさ、質感を確認します。 小さな腫瘍でも触知できる場合があり、初期段階での異常発見に役立ちます。 ・直腸鏡検査(内視鏡検査) 肛門からカメラを挿入し、直腸の内壁を直接観察します。 目視で粘膜の状態やしこりの形状を確認できるため、より詳細な評価が可能です。 これらの検査によって、腫瘍の存在が疑われる場合は、次のステップに進みます。 <確定診断のための検査> 腫瘍の性質を詳しく調べ、直腸腺がんであるかどうかを確定するため、以下の検査を行います。 ・細胞診 針を使ってしこりから細胞を採取し、顕微鏡で観察します。 比較的簡便に実施でき、悪性の可能性を推測するための第一歩となります。 ・組織診(生検) 内視鏡下でしこりの一部を切り取り、病理検査で詳しく分析します。 細胞診だけでは確定できない場合に実施し、正確な診断を下すために重要な役割を果たします。 <進行度・転移の評価> 直腸腺がんは進行すると他の臓器に転移する可能性もあるため、全身状態を把握する検査も欠かせません。超音波検査・レントゲン検査・CT検査なども併用して、腫瘍の広がり具合や転移状況を把握します。 すべての検査結果を総合して、直腸腺がんのステージング(進行度分類)を行い、その後の治療方針を決めていきます。 直腸プルスルー術とは?|手術の基本と流れ 直腸腺がんの治療には、外科手術が中心となります。特に腫瘍が直腸内に限局している場合に選択される手術が、直腸プルスルー術(Pull-through術)です。 この術式は、直腸の腫瘍部分を肛門側から引き出して切除し、腸管を再吻合するという特徴を持っています。身体への負担を抑えながら、腫瘍をできる限り確実に摘出できる方法のひとつです。 <直腸プルスルー術が適応となるケース> 直腸プルスルー術が選択されるのは、以下のような条件を満たす場合です。 ・腫瘍が直腸の比較的下部(肛門側)に存在している ・腫瘍の大きさが適度で、肛門から直腸を引き出して処置できる範囲である ・進行度が比較的低く、周囲組織への広範な浸潤や遠隔転移がない ・全身麻酔に耐えうる体力がある 腫瘍が直腸の上部(奥の方)に存在していたり、大きく進行していたりする場合には、別の術式が検討されることもあります。 <直腸プルスルー術の流れ> 1.…