犬のクッシング症候群について┃様々な病気を併発する

クッシング症候群は副腎皮質機能亢進症とも呼ばれる病気で、副腎からステロイドホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌され、体にさまざまな異変が現れます。この病気そのものだけでなく、関連してさまざまな病気の発症につながる危険性があるため、早めに対処することが重要です。
今回は犬のクッシング症候群について、注意すべき症状や当院での治療法を中心にお伝えします。

 

原因

クッシング症候群は多くが下垂体(脳の近くにあり全身のホルモンをコントロールする器官)の腫瘍によって発生し、下垂体から命令を受けた副腎皮質がコルチゾールというホルモンを過剰に産生してしまうことが原因となります。

それ以外にも、まれに副腎自体の腫瘍によって発症することもあります。

また、中高齢の犬に多く、どんな犬種でも発症する可能性があります。

症状

この病気の一番の問題点は、ストレスを感じたときに体を守るために産生されるホルモンが、ストレスを感じていないのに出てしまうことです。そのため、以下のような症状が現れます。

例1)ご飯を食べられなくなるというストレスから過食になる
→肝臓の腫大や脂肪の蓄積

例2)いつ襲われるかわからないというストレスを感じる
→骨のカルシウムを血液中に溜め込むことによる骨粗鬆症

これらの変化によって、糖尿病、膵炎、骨粗鬆症、胆嚢粘液嚢腫などの病気に発展し、命の危険につながる可能性もあります。

■糖尿病と膵炎については以下のページでも解説しています
犬や猫の糖尿病について│肥満や不適切な食事が原因になることも、退院後も飼い主さんの協力が不可欠
犬と猫の胆嚢粘液嚢腫について┃初期症状が分かりづらいため定期的な健康診断が重要

それ以外に、かゆみを伴わない左右対称の脱毛も一般的です。同じような症状にアロペシアXという病気でもみられるため、その区別が重要になります。アロペシアXと診断されたものの実はクッシング症候群だった、というケースも一定数存在しています。

診断

クッシング症候群の診断にはエコー検査が有効です。
当院の健康診断では左右の副腎をエコーで確認しており、副腎が肥大している場合は自覚症状がなくても詳しく検査を行い、確定診断につなげています。エコー検査の後はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)刺激試験を実施し、診断がつかない場合は低用量デキサメサゾン抑制試験に移ります。

私たちは、クッシング症候群が見逃され、糖尿病や膵炎などほかの病気を併発し、苦しむ犬を数多く見てきました。そのため当院では、症状が出る前に未然に防ぎたいという思いから、可能な限り早くこの病気を発見できるように努め、確定診断をつけることを常に意識しています。

治療

治療には投薬と手術の2つの選択肢がありますが、当院ではまず投薬による治療を試みています
治療薬はトリロスタン(アドレスタン)という成分を含むもので、コルチゾールの合成を妨げる作用があります。投薬による治療で症状がコントロールできない場合は、ミトタンという別の成分を含む薬に変更することもあります。

投薬は一生涯続くため、飼い主様のご協力も不可欠です。飼い主様と病院が密に連携をとり、愛犬にとって最良の治療を進めていく必要があります。
他の病院でトリロスタンによる治療がうまくいかない場合は、ぜひ一度当院までご相談ください

手術は、副腎が確実に腫瘍化している際に選択肢として挙がりますが、犬の副腎は人間と比べてサイズが小さいため手術にリスクが伴います。そのため、手術が適応となるような大きさであっても投薬治療を選択するケースもあります。

予防法やご家庭での注意点

犬と猫のクッシング症候群は、残念ながら完全な予防方法はまだ確立されていません。

特に中高齢の犬猫は発症リスクが高いため、定期的な健康診断を受け早期発見・早期治療に努めましょう。また、若いうちから定期的に健康診断を受けることで、過去の検査結果と比較しわずかな変化に気づきやすく、早期発見につなげることができます。

ぜひ、愛犬や愛猫の健康を守るために、定期的に健康診断を受けることをおすすめします。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…

まとめ

クッシング症候群はコルチゾールが過剰に分泌されることで、ストレスに関わる症状が現れる病気です。クッシング症候群に伴って糖尿病や膵炎などを発症してしまうと、命の危険に関わることもあるので、早期診断・早期治療を心がけましょう。
何か少しでも気になることがあれば、いつでも当院までご相談ください。

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<参考文献>
Diagnosis of Spontaneous Canine Hyperadrenocorticism: 2012 ACVIM Consensus Statement (Small Animal) – Behrend – 2013 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library

 

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