犬・猫の肛門嚢摘出術|肛門腺の腫れ・痛み・悪臭が続くときの治療法

犬や猫と暮らしていると、肛門腺(肛門嚢)のニオイや汚れが気になった経験がある方は多いのではないかと思います。

実は肛門腺のトラブルは“ニオイ”だけの問題ではなく、炎症・感染・破裂・腫瘍など、放置すると深刻な状態に進行することもあります。早い段階で気づき、適切な治療につなげることで、おしりの不快感や痛みから解放し、より快適に過ごせるようになります。

今回は、肛門腺のトラブルを根本的に改善する治療法として「肛門嚢摘出術」を中心に、当院での考え方をご紹介します。

 

肛門腺の役割と犬・猫で起きやすいトラブル

まずは、肛門腺(肛門嚢)がどんな働きをしているのかを簡単にご説明します。

肛門腺は、強いニオイを持つ分泌物をつくり、それを肛門嚢(肛門の左右4時・8時方向にある袋状の器官)にためる仕組みになっています。健康な状態であれば、この分泌物は便と一緒に自然に排出されるため、特別なケアは必要ありません。

しかし、分泌物がうまく排出できない状態が続くと、次のようなトラブルが起きやすくなります。

肛門嚢炎:肛門嚢が炎症を起こし、腫れや痛みが出る状態
肛門嚢破裂:肛門周辺の皮膚に穴があき、膿や血が出ることもある重度の状態
肛門嚢肥大(とくに猫に多い):肛門嚢が硬く腫れ、触ると嫌がる
肛門嚢の腫瘍:まれに悪性腫瘍が見つかることもあり、早期発見が重要

こんなサインは要注意

次のような様子がみられるときは、肛門嚢の中で炎症や肥大、破裂の前兆などが起きているおそれがあります。

強いニオイがする
お尻を触ると怒る/嫌がる
お尻をしきりに舐める
床にお尻をこすりつける
絞ってもすぐに再発する

これらが続く場合、一度受診を検討していただくのが安心です。

保存療法で改善するケース・改善しないケース

肛門腺のトラブルは、初期であれば負担の少ない保存療法で改善が期待できます。たとえば、次のような治療が一般的です。

肛門腺の圧迫排出(肛門腺絞り):たまった分泌物を外に出して炎症を落ち着かせます
抗生剤・消炎剤の投与:細菌感染や炎症が強い場合に使用します
洗浄:肛門嚢内に汚れや膿が溜まっている際に行います

ただし、保存療法だけでは改善が難しいケースもあります。次のような場合は、炎症が深く進んでいたり、別の病気が隠れているおそれがあります。

何度も再発を繰り返す
肛門嚢が破裂している(出血・膿・穴あき)
肛門の周りがしこりのように固い
絞ると強い痛みを示す
肛門腺を絞ってもニオイが取れない

この段階まで進むと、炎症を消してもまたすぐ同じトラブルが起こりやすく、生活の質が大きく低下してしまいます。お尻を気にして眠れなかったり、触れられるだけで痛がったりと、飼い主様にとっても心配が尽きません。

慢性的な肛門腺トラブルが続く場合、肛門嚢摘出術が根本的な解決策になることがあります。手術によってその後の再発リスクを抑えることができ、長い目で見てその子の負担を減らすことにつながります。

肛門嚢摘出術とは?メリット・リスクについて

慢性的に肛門腺のトラブルを繰り返す場合、肛門嚢そのものが再発の原因になっていることがあります。肛門嚢摘出術は、その肛門嚢を丸ごと取り除くことで、根本からトラブルを解消するための手術です。

手術の流れ

流れのイメージは次のとおりです。

① 肛門嚢の位置と形を丁寧に確認する
肛門嚢から皮膚側へつながる小さな穴(開口部)を探し、正確な位置を把握します。

② 肛門嚢内部を確認し、周囲の組織を傷つけないように分離する
肛門嚢に注射器でシリコンを入れて膨らませ、どこまでが肛門嚢なのかを明確にしながら、周囲の組織から慎重に剝がしていきます。

③ 肛門嚢を摘出する
肛門嚢をつなぐ管ごと取り除き、残った組織をきれいに整えます。

手術のメリット

肛門嚢摘出術には、次のような明確なメリットがあります。

再発しない
痛み・炎症・ニオイのトラブルから解放される
頻繁な肛門腺絞りや投薬から卒業できる

長い目で見たときに、その子の快適な生活につながる大きなメリットがあります。

注意しておきたいリスク

一方で手術にはリスクもあります。肛門嚢摘出術では、とくに次の点に注意が必要です。

排便時の違和感を覚えることがある(術後一時的)
肛門括約筋(便を我慢する筋肉)に影響して便漏れが起こりやすくなることがある

ただし多くの場合、これらの症状は術後の経過とともに軽快します。そのため、術後ケアや経過観察がとても大切です。

術後のケアについて

術後しばらくは、次のようなケアが必要になります。

傷口を舐めないようにエリザベスカラーを着用
排便時の痛みがある場合は鎮痛薬を使用
傷口の赤み・腫れがないか毎日チェック
下痢をしづらい食事に変える

無理をさせず、ゆっくり回復していけるようにサポートすることがポイントです。

当院の治療方針

ナガワ動物病院では「本当にその子にとって手術が最適かどうか」を見きわめ、次のような要素を総合的に判断して、治療方針を丁寧にご提案します。

・痛みの程度
・再発の頻度
・日常生活への影響
・他の病気の有無

「どうしたらいいか迷う」「手術は不安…」という場合も、どうぞお気軽にご相談ください。飼い主様と一緒に、その子のための最適解を考えてまいります。

まとめ

肛門腺の腫れや痛み、強いニオイは比較的よくあるお悩みですが、繰り返す・悪化する・破裂するケースでは、愛犬・愛猫の生活の質に大きな影響が出てしまいます。

当院では、保存療法から肛門嚢摘出術まで幅広く対応し、症状の原因や再発リスクを見きわめながら、その子に合った治療をご提案しています。気になるサインが続くときは、どうぞお早めにご相談ください。

 

⏬よろしければ、星のボタンでこの記事の感想を教えてください⏬

1つ星2つ星3つ星4つ星5つ星 (1 投票, 平均: 5.00 / 5)

🔳以下の関連記事もご覧ください
犬の肛門周囲瘻について┃肛門部を床や地面にすりつけような様子がみられる

当院の診療予約はこちら
当院の診療案内詳細はこちら

ペットクリニックを練馬区でお探しならナガワ動物病院
03-3926-9911

 

Copyright (C)NAGAWA ANIMAL CLINIC All rights reserved.