愛犬のくしゃみや鼻水が止まらないと、「風邪がひどくなったのかな…」「自宅で様子をみたらいいのか、動物病院を受診したらいいのか、わからない…」と心配になる飼い主様が多いのではないでしょうか。当院でも、こういったお悩みでご相談いただくことが増えています。
こうした症状が長引く場合、単なる風邪だけでなくさまざまな病気が背後に隠れていることがあります。そのため、しっかりと検査を行なって原因を特定し、適切な治療を行うことがとても重要です。

今回は、犬のくしゃみや鼻水が続く際に考えられる原因や、気をつけるべき症状、動物病院を受診するタイミングなどについてお話します。

 

犬のくしゃみと鼻水が続く主な原因

愛犬のくしゃみや鼻水には、以下のような原因が考えられます。

感染症

・歯周病が原因で鼻腔に細菌が入り込む場合
・犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)
・犬ジステンパーウイルス感染症

特に口腔内の健康と呼吸器の症状は密接に関係しています。歯周病菌が鼻腔に入り込むことで、鼻水やくしゃみを引き起こすことがあります。特に口臭が強く、歯肉が腫れているような場合には、歯周病が原因となっている可能性があります。

アレルギー

・花粉
・ハウスダスト
・ダニ

異物混入>

・鼻腔内の寄生虫
・植物の葉や種

腫瘍

・鼻腔内にできる腫瘍(良性または悪性)

気をつけるべき症状

一時的なくしゃみや鼻水は問題にならないこともありますが、1日に何度もくしゃみや鼻水を繰り返したり、症状が1週間程度続く場合には注意が必要です。早めに動物病院を受診することをお勧めします。

注意が必要な鼻水の特徴

透明でさらさら:大量に出る場合は、アレルギーが関わっている疑いがあります。
血が混じる腫瘍異物混入の疑いがあります。鼻水が泡状で呼吸が苦しそうなケースでは、肺水腫の場合もあります。
黄色や緑色でどろどろ感染症が関わっている疑いがあります。鼻水とともに口臭が強い場合には、歯周病との関連が疑われます。

犬の口臭と歯周病について詳しくはこちらをご覧ください

くしゃみの頻度からみる重症度

軽症:1日に数回。1〜2日のうちに改善し、元気・食欲があり他に症状がみられない。
重症:1日に何度も繰り返す。1週間ほど改善がみられず、元気・食欲がない。体重が減ったり、息苦しそうにしている。体重の変化は特に重要なサインです。食事量に変化がなくても体重が減少している場合は、病気が進行している可能性があります。

また、くしゃみには通常のものと「逆くしゃみ」と呼ばれる症状があります。逆くしゃみは鼻の奥や喉の刺激により起こる反応で、普通のくしゃみとは異なる音がします。多くの場合は心配ありませんが、頻繁に起こる場合は受診をお勧めします。

加えて、くしゃみと咳は見分けにくい場合があります。飼い主様が「くしゃみ」だと思っていても、実は「咳」が出ていることもあります。そのため、当院では以下のような動画撮影をお勧めしています。

・くしゃみや咳が出ている様子
・普段の呼吸の様子
・運動後の様子

このような動画があることで、より正確な診断が可能になります。

ご自宅でできるケアと対策方法

日常生活で次のようなポイントを意識して、愛犬が快適に過ごせる環境を整えましょう。

・毎日の掃除毛布・寝床の洗濯を徹底する
・定期的な換気
・部屋の温度(22℃前後)湿度(50~60%)を保つ
・芳香剤やタバコなど刺激物を避ける

あわせて、鼻や口の周りが汚れている場合には、コットンでやさしく拭き取るケアも重要です。その際、鼻水の色や粘性を観察しておくと、動物病院での診察に役立ちます。

また、こうしたご自宅でのケアとあわせて、定期的なワクチン接種も欠かせません。特にケンネルコフ犬ジステンパーウイルス感染症混合ワクチンによって重症化を防ぐことができるので、適切なスケジュールで接種しましょう。

慢性化のリスクと早期受診の重要性

くしゃみや鼻水の症状を放置してしまうと、気管支炎などの重篤な呼吸器疾患に進行してしまう可能性があります。

特に注意すべきなのは、症状が慢性化してしまうと、治療への反応が鈍くなり、改善が難しくなるというリスクです。

当院でも最近、わずか5歳という若さで命を落としてしまった猫ちゃんの症例がありました。最初は軽いくしゃみと鼻水の症状でしたが、気管支炎が慢性化してしまい、その後どのような治療を行っても症状が改善せず、最終的に亡くなってしまいました。

このように、一見軽症に見える症状であっても、放置することで取り返しのつかない事態に発展する可能性があります。

早期発見・早期治療により、多くの場合は適切な治療で改善が期待できます。愛犬の健康のため、気になる症状があれば、すぐにご相談ください。

受診のタイミング

鼻水やくしゃみは、寒さなどによって一時的に現れることもあります。しかし、症状が長引く場合や、以下のような状態がみられる場合は、早めの受診をおすすめします。

透明でさらさらした鼻水が大量に出る
黄色あるいは緑色の鼻水が詰まる
・鼻水とともに鼻血が出る
泡状の鼻水呼吸が苦しそう
1日に何度もくしゃみ・鼻水が出る
呼吸が苦しそう、または普段より努力して呼吸している
・食欲はあるのに体重が減少している
・くしゃみ・鼻水とともに口臭が強くなっている
・くしゃみ・鼻水以外にも症状がある(元気・食欲がない目やにが出る、など)

まとめ

犬のくしゃみや鼻水は、風邪のような一時的な症状である場合もありますが、歯周病やアレルギー、腫瘍といった病気が関わっていることもあります。軽い症状なら自然に治ることもありますが、深刻な病気が隠れている場合には、健康状態が徐々に悪化し、治療が難しくなる恐れがあります。特に、症状が長引いたり他の異常が見られる場合には、早めに動物病院を受診することが重要です。
愛犬が健康で快適な生活を送れるよう、少しでも気になる症状があれば、かかりつけの動物病院にご相談ください。

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ふと愛犬とスキンシップをとったとき、「なんだか口のニオイが気になる」と思った経験をお持ちの飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
こうしたニオイは、単なる不快な症状ではなく、愛犬の健康状態を示すサインである場合もあります。

・急に口臭が強くなった
・いつもと違う種類の口臭がする
・口臭に加えて食欲不振や元気がない

このような変化は、重大な病気のサインである可能性があります。
そのため、放置せずに早めに原因を特定し、それぞれの病気にあった治療を進めることが大切です。

今回は、犬の口臭が強く感じられるときに考えられる原因と、予防や治療の方法について詳しく詳しくご説明します。

 

犬の口臭が強くなる主な原因とは

犬の口臭が強くなる原因には、以下のようなものがあります。

歯周病

歯に歯垢(プラーク)や歯石がたまり、歯周病菌が増加することで発症します。
犬は歯周病になりやすいことが知られていて、口臭の原因としても一般的です。魚が腐ったような腐敗臭がみられ、病気が進むにつれて、歯茎からの出血や、歯のぐらつきなどがみられます。また、菌が口から鼻腔に抜けると鼻水やくしゃみの原因になることもあります。

犬の鼻水やくしゃみについて詳しくはこちらをご覧ください

口腔内の腫瘍

犬の口の中には、悪性黒色腫(メラノーマ)という腫瘍ができることがあります。
口臭の他にも、よだれが多く出るごはんがうまく食べられない口の中に出血がみられる、といった症状も現れます。進行すると他の臓器やリンパ節に転移し、全身の症状が現れる場合もあります。

内臓の病気

消化器の病気(胃炎など)や、腎臓・肝臓の病気ホルモンの病気などによっても口臭が変化します。例えば高齢犬がかかりやすい慢性腎臓病では、尿のようなニオイがすることがあります。また糖尿病になると、口から甘酸っぱいニオイがするケースもあります。

口臭の程度でわかる病気のサイン

基本的には、口臭が強いほど病気が進行して、重症化していると考えられます。特に以下のような特徴的なニオイがした場合には、注意が必要です。

ニオイの種類関連が疑われる病気
甘い・甘酸っぱい糖尿病
腐敗臭歯周病、口腔内の腫瘍
尿臭腎臓や肝臓の病気

こうしたニオイの変化が少しでもみられたら、ご家庭で様子をみるのではなく、すぐに動物病院を受診しましょう。これらの病気は進行すると治療が難しくなってしまったり、愛犬の体に負担をかけてしまったりするケースがあるため、早期発見・早期治療がとても大切になります。

自宅でできる予防と対策方法

今回ご紹介した病気の中で、特に歯周病はご家庭での予防と対策が必要不可欠です。以下のようなケアを日常生活に取り入れてみましょう。

歯磨きの習慣化

さまざまな歯磨き用の製品が販売されていますが、基本的には歯ブラシによるケアをお勧めします。しかし、歯に物を入れることに抵抗がある犬は多く、最初から歯ブラシを使うのは難しいかもしれません。最初は指サック歯磨きシートなどで歯に触れたり、歯磨きペーストを塗ったりして、少しずつ慣らしていきましょう。子犬の頃から習慣づけることで、歯磨きへの抵抗を減らすことができます。
犬の歯垢は数日のうちに歯石となり、ご家庭のケアでは取れなくなってしまうので、毎日のケアを心がけましょう。

食事の見直し

いろいろなメーカーから、歯石の形成を抑えるなどの歯のケアを重視したフードが販売されています。こうしたものを活用することもひとつの手段です。ただし、日ごろの歯磨きが予防に一番効果的ですので、あくまでも補助程度にお考え下さい。

デンタルケアグッズの活用

ガムおもちゃ水に溶かすタイプなど、多種多様なデンタルケアグッズが販売されています。当院では、愛犬の性格や飼い主様のライフスタイルにあわせて、最適なものをご提案させていただいております。

犬のデンタルケアについて詳しくはこちらをご覧ください

動物病院での検査と治療

愛犬の口臭のお悩みで来院された場合の、一般的な検査や治療の手順は以下のとおりです。

①口臭の確認と口腔内の視診

口臭の特徴を確認するとともに、口の中を観察し、歯石や歯垢の状態、歯茎の炎症、腫瘍の有無などを確認します。特に口腔内の悪性黒色腫(メラノーマ)の場合は特徴的な強い口臭を伴うため、入念な確認が必要です。

②歯周病の評価

歯肉炎の程度や歯周病菌の数を調べるための検査などを実施します。この検査により、歯周病の進行度を正確に把握することができます。

③治療計画の策定

検査結果に基づき、治療方針を決定します。

・軽度の場合:セルアップオーラルなどのサプリメントの使用や、デンタルケアグッズの活用をご提案します。これにより口腔内環境の改善を図ります。

・重度の場合:専門的な歯周病治療が必要となります。

セルアップオーラルの製品ページはこちらをご覧ください

④手術対応(必要に応じて)

重度の歯周病や腫瘍が見つかった場合には、外科手術を検討します。

口の中のトラブルは、口だけでなく全身の健康状態にも影響します。また、早期に治療を始められれば、治療の選択肢が広がるだけでなく、愛犬への負担も最小限に抑えられます。そのため、少しでもニオイに違和感があれば、早めに動物病院を受診することをお勧めします。

まとめ

犬の口臭でお悩みの飼い主様は多くいらっしゃいます。その原因は多岐にわたりますが、ほとんどが歯周病によるものです。歯周病はご家庭でのケアが重要になるので、今回ご紹介した対策をぜひ試してみてください。
また、歯周病をはじめとする口腔内の病気や内臓疾患は、早期発見・早期治療が鍵となります。少しでも口からのニオイが強くなったり、普段と違うニオイを感じたら早めに動物病院を受診しましょう。

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ナガワ動物病院です

誠に勝手ながら、年末年始の診療は上記の通りお休みさせていただきます。
新年は1月4日(土)からは通常通り暦通りの診察を致します。

この間の救急は、提携救急病院へご連絡ください。
ご迷惑をおかけ致しますが、何卒よろしくお願い致します。

休診期間にも定期的に点滴や包帯など処置が必要な方は、事前に飼い主様に相談して対応させていただきます。

どうしても当院に御用のある患者様は、留守番電話にメッセージをお願いいたします。
可能な限り対応させていただきます。

ホテルご利用の方は、休診期間の間は窓口を午前10時から11時に限定させていただきたく存じます。
ご迷惑おかけしますが、時間内に来院できない際は、出発の前日お預け、帰宅の翌日お迎えの予約にして対応いただくようお願いいたします。

本年も大変お世話になりました。
みなさま、よいお年をお迎えください。

2025年も精一杯頑張ます、よろしくお願いいたします。

スタッフ一同
03-3926-9911

————————
【提携病院】
ER練馬(谷原):03-6913-4160
URL:https://er-animal.jp/er_nerima/
F&S動物病院(往診・電話相談):03-5941-2552
URL:https://help-life.info/

犬や猫を飼っていると、一度は嘔吐の場面に遭遇することがあるかもしれません。ゲーゲーと吐く様子をみると、「何か変なものでも食べたのかな…」「このまま吐き続けたらどうしよう…」と不安になる飼い主様も多くいらっしゃるかと思います。嘔吐はさまざまな原因で起こり、一時的な問題のケースもあれば、深刻な病気が隠れているケースもあります。
今回は、犬や猫がなぜ吐くのかをご説明したうえで、すぐに動物病院を受診すべき危険な症状や、ご家庭でできる応急処置などをお伝えします。

 

犬や猫の嘔吐が起こる主な原因とは

犬や猫では、次のような原因によって嘔吐が起こります。

一般的な原因

食べすぎ
早食い
ストレス
生理的なもの(猫)
異物誤食  など

病的な原因

・胃腸の病気:慢性腸症、消化器型リンパ腫、炎症性ポリープ
・感染症:サルモネラやカンピロバクターなどの細菌、パルボウイルスやコロナウイルスなどのウイルス、回虫やコクシジウムなどの寄生虫
・内臓の病気:胆嚢粘液嚢腫、膵炎、肝炎、腎臓病、肝臓病
・ホルモンの病気:甲状腺機能亢進症
・アレルギー:食物アレルギー

特に猫については、健康でもよく吐く動物だと認識されている飼い主様が多いかもしれません。しかし、吐く原因として病気が隠れている可能性もあります。病気の有無はご家庭で判断するのが難しいため、次の項目で挙げる危険な症状が見られた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

すぐに病院に行くべき危険な嘔吐の症状

この項目でお伝えする嘔吐は、特に危険性が高いものです。

未消化物が混ざっている
胃に到達する前に吐き出している、あるいは胃の消化機能が落ちている可能性があります。食べてすぐに吐くようであれば、食道の運動機能がうまく働いていないことが原因として考えられ、嘔吐ではなく吐出かもしれません。

胆汁(黄色い液体)が混ざっている
胆汁が混ざった嘔吐は、空腹時間が長すぎることが原因の場合があります。ただし、頻繁に見られる場合は胃腸の病気が疑われます。

血液が混ざっている
胃や腸で出血している可能性があります。血液というと赤い色をイメージされるかもしれませんが、場所によっては黒や茶色のケースもあり、その場合は特に緊急性が高いです。

異物が混ざっている
異物を誤って食べてしまった可能性があります。異物が排出されない場合、手術が必要になることがあります。

一日に何度も嘔吐をする
嘔吐が続くと身体の水分が失われ、脱水症状がみられることもあります。とても危険な状態で、すぐに補液などで水分を補う必要があります。

嘔吐以外の症状がある
下痢、元気や食欲の低下、発熱、貧血など、別の症状も伴っている場合、何らかの病気が疑われます。

これらの症状がある場合、自己判断を避け、速やかに動物病院を受診してください。

自宅でできる応急処置と観察のポイント

愛犬・愛猫が嘔吐した際、どう対処すればよいか迷う飼い主様もいらっしゃるかと思います。まず、獣医師に相談することが重要ですが、ご家庭で次のような応急処置を行うことで、症状の悪化を防ぐ助けになります。

絶食
半日から一日ほど一時的に食事を控え、胃腸を休ませます。なお、絶食を行う場合は自己判断で行わず、必ず獣医師の指示の元行うようにしましょう。

水分補給
嘔吐が治まった後に、新鮮で人肌程度の温度の水を用意し、少量ずつ様子を見ながら飲ませます。ただし、嘔吐直後に水分を与えると再度嘔吐したり、誤嚥性肺炎のリスクがあるため、必ず愛犬愛猫が落ち着いてから与えるようにしましょう。

これらの処置に加えて、ご家庭で嘔吐の様子を観察・記録しておくことで、診断の際に獣医師がより正確に原因を特定する助けになります。以下のポイントを参考に、嘔吐時の情報をまとめておきましょう。また、嘔吐の様子を写真や動画で撮影していただくと、より正確に情報が伝わります。

・嘔吐の回数:一日一回、一時的なもの、複数回、長期間続くか
・性状:吐いた内容物に未消化の食べ物、胆汁、血液、異物が混ざっているか
・吐くタイミング:食後すぐか、食事とは関係なく起こるか
・その他:フードの変更や直前の誤食など、何か思い当たることがないか、体重が減っていないか

特に猫の場合、嘔吐ではなく吐出が多いことがあります。そのため、吐き方の様子や内容物をしっかり観察することが重要です。当院では、吐出が多い猫に対して食道を通過しやすいフードをご提案することも可能です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

嘔吐を予防するための日常的な注意点

病気ではなく一般的な原因によって起こる嘔吐であれば、ご家庭でのケアで予防が可能です。

食事管理
食道を通過しやすく、消化に優しいフードを選びましょう。また、フードの規定量を守り、盗み食いを防ぐために適切な場所で保管することも重要です。

環境管理
適度な運動や遊びを取り入れ、ストレスがたまらないような生活を送りましょう。

さらに、これらの予防に加えて、定期的に動物病院で健康診断を受けることも大切です。診察では、飼い主様からのお悩みをお伺いするだけでなく、各種検査を通じて普段の生活では気付きにくい異常を早期に発見できる可能性があります。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください

まとめ

嘔吐はさまざまな原因で起こる症状であり、一見問題がなさそうに見えても、重大な病気が隠れている場合があります。特に今回ご紹介した危険な症状が見られた場合は、速やかに動物病院を受診することが大切です。また、必要に応じて応急処置を行い、日々のケアを徹底することで嘔吐を予防することも可能です。日頃の観察とケアを意識し、愛犬・愛猫の健康管理に役立ててみてください。

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犬や猫も私たち人間と同じように咳をすることがあります。突然、「ガッガッ」「ケッケッ」と音を立てていると、苦しそうな様子で心配になりますよね。こうした症状は呼吸器の異常だけでなく、さまざまな病気が関係している場合があり、動物の種類によってその性質や原因が異なります。そのため、早めに検査を受けて原因を特定し、適切な対処をすることが大切です。
今回は、犬と猫それぞれの咳について、その原因とともに、特に緊急性が高い症状やご家庭でできるケアの方法を詳しくお伝えします。

 

犬と猫の咳の違いとは

犬と猫の咳は、音や頻度、原因となる病気に特徴的な違いがあります。

犬の咳の特徴

犬の咳は比較的大きな音で、乾いた咳や湿った咳などバリエーションが豊富です。心臓病や気管支炎が原因となることが多く、慢性的に症状が続くケースが一般的です。

また、短頭種(パグやフレンチ・ブルドッグなど)では、顔の構造が影響して気管虚脱が起こりやすいことが知られています。

猫の咳の特徴

猫の咳は犬に比べると静かで、ヘアボールを吐き出す仕草に似ているため見分けが難しい場合があります。鼻や喉の感染症や猫喘息によるものが多く、急激に症状が現れることが特徴です。

犬の咳が出る主な原因と症状

犬で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。

1.気管虚脱
短頭種で多く見られ、気管がつぶれることで「ガーガー」というガチョウの鳴き声のような咳をします。重症化すると呼吸困難になるため注意が必要です。
気管虚脱について詳しくはこちらをご覧ください

2.心臓病
高齢犬で特に多いのが僧帽弁閉鎖不全症です。最初は「ケッケッ」と乾いた音ですが、徐々に「ガッガッ」「ゲーゲー」と湿った音に変わります。
僧帽弁閉鎖不全症について詳しくはこちらをご覧ください

3.感染症
ケンネルコフなど、細菌やウイルスの感染症が原因です。乾いた音のこともあれば、湿った音がすることもあります。

4.異物誤飲
喉や気管に異物が詰まると、「ガッガッ」と咳をし、吐き出そうとします。完全に詰まった場合は命に関わるため、早急な対応が必要です。
異物誤飲について詳しくはこちらをご覧ください

猫の咳が出る主な原因と症状

猫で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。

1.喘息
環境中のアレルゲン(ホコリや花粉など)に反応し、突然首を伸ばして「ゼーゼー」と苦しそうに息をします。

2.心臓病
高齢猫で特に多いのが肥大型心筋症です。息苦しくなり、口を開けて呼吸することもあります。
肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください

3.感染症
ウイルス性鼻気管炎などで、鼻水やくしゃみを伴うこともあります。

なお、猫では舐めとった毛が胃の中で球状に固まり(ヘアボール)、嘔吐するように身体の外へ出すことがあります。これは病的な咳ではなく、生理的な現象ですので心配はいりません。

すぐに病院へ行くべき危険な症状

次のようなケースでは緊急性が高いので、速やかに動物病院を受診することをお勧めします。

呼吸が苦しそう
重度の咳によって酸素をうまく取り込めないと、とても危険です。歯茎などの粘膜の色が青白くなることもあります。特に高齢の犬・猫や短頭犬種では容態が急変しやすいので、注意が必要です。

食欲や元気がない
呼吸器だけでなく、全身に何らかの不調がある可能性があります。若い動物ほど容態が急変しやすいので、注意が必要です。

​​夜間や休日にこのような症状がみられた場合に備え、あらかじめ夜間や休日診療に対応している動物病院を調べておくことが大切です。
一方で、咳以外の症状がない、一時的な咳で治まっている、異物誤飲の可能性がない場合には、次の項目でご紹介する応急ケアを行いながら、ご自宅で様子を観察してみてください。

自宅でできる観察と応急ケア

咳が出る場合には、ご家庭でその様子をよく観察していただくことが重要になります。具体的には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。

咳の頻度:1日に何回程度か
咳のタイミング:運動後や食後、突然発生するのか
咳の性状:乾いた音か、湿った音か

自宅でこうした症状がみられても、動物病院では緊張して咳が出なくなることもあります。そのため、受診の際には、咳をしている様子を動画で撮影しておくと診断の参考になり、とても役立ちます。また、体重の定期的な確認も重要です。咳が続く場合、食欲があって普段通り食べていても体重が減少していることがあります。1kg以上の体重減少が見られる場合は、重大な病気が隠れている可能性があるため、獣医師への相談をお勧めします。

あわせて、次のようなケアが応急処置につながるので、ぜひお試しください。

加湿器を使い、適切な湿度を保つ
生活スペースの掃除や寝床の洗濯など環境を清潔にする
運動を控えさせ、安静にさせる

検査と治療

動物病院では、飼い主様に撮っていただいた動画をもとに、身体検査、カフテスト(気管支の刺激による反応を確認)、レントゲン検査、その他必要な検査(エコーなど)を順に実施して、診断を下します。

咳の原因が特定された後、抗生物質や抗炎症薬の投与、アレルギー対策、手術などの治療が行われます。

咳を予防するための日常的な注意点

咳を予防するには、以下のような日常的なケアが大切になります。

適切な室温管理(25℃程度)
適切な湿度管理(50~60%)
清潔な環境維持
十分な運動や遊び時間を確保し、ストレスを溜めない

犬のケンネルコフや猫のウイルス性上気道炎などの感染症は、ワクチン接種によって予防できるため、スケジュール通りに接種を済ませておくことが大切です。一方、心臓病などワクチンで予防できない病気については、定期的な健康診断を受けることで早期発見・早期治療につなげることができます。

健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください

咳の症状は慢性化すると治療が難しくなる場合があるため、気になる症状があれば早めにご相談ください。

まとめ

咳は、いろいろな病気によって起こる呼吸器症状の1つです。中には重大な病気が隠れていることもあるので、緊急性が高いようであればすぐに動物病院を受診しましょう。また、日常的なケアや定期的な健康診断を行うことで、愛犬・愛猫の健康を守ることができます。不安な点がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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犬では「ハアハア」と口を開けて呼吸する様子をよく見かけますが、猫ではほとんど見ることはありません。そのため、猫が口呼吸をしている場合は、危険な状態である可能性が高いといえます。口呼吸の原因は多岐にわたるため、まずは動物病院で検査をして何が原因になっているのかを突き止め、迅速に対応することがポイントになります。
今回は口呼吸の原因やその対処法について、獣医師の視点から詳しくお伝えします。

 

猫の正常な呼吸とは? 口呼吸との違い

猫は通常、健康なときは鼻で呼吸をします。しかし、何らかの原因で鼻呼吸が十分にできなくなると、口呼吸に切り替わることがあります。

同じような呼吸パターンにパンティングがありますが、これは浅く速い呼吸で、酸素を取り入れるというよりは体の熱を逃がすために行われます。

猫が口呼吸をする主な原因

猫は、次のような病気や異常のときに口呼吸を行います。

呼吸器系の病気
猫では上気道(鼻や喉など)の感染症や喘息がよくみられます。上気道の感染症は子猫で重症化しやすく、目やにや鼻水がみられ、主にウイルスが原因になります。喘息は環境中のアレルゲンが原因で起こり、咳や喘鳴(ゼーゼーと息苦しそうな状態)が長く続きます。

心臓病
中高齢の猫では肥大型心筋症がよく問題になります。この病気は進行が早く、気づかない間に悪化すると突然倒れてしまうケースもあります。
肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください

熱中症
室温が高い場所や車の中にいると、​​猫は熱中症にかかりやすくなります。脱水症状が見られる場合もあり、非常に危険です。
熱中症について詳しくはこちらをご覧ください

痛み
病気や事故によるケガ、術後の痛みなどによって、口呼吸をすることがあります。

異物の詰まり
鼻や喉に異物が詰まることで、鼻呼吸ができずに口呼吸に頼る場合があります。

重度の貧血
貧血によって体に十分な酸素が運ばれなくなると、猫は口呼吸を始めることがあります。

これらの中には、緊急性の高い状況もあるため、口呼吸がみられたら早めに獣医師へ相談することが重要です。

ストレスや不安
犬ほど多くはありませんが、精神的ストレスや不安によって口呼吸を引き起こすことがあります。他の症状として、脱毛や食欲不振、下痢などが見られることもあります。

口呼吸を発見したときの対処法

口呼吸が見られた場合、可能な限り早く動物病院に連れていくことがポイントになります。

特に呼吸困難(息苦しそうな状態)、チアノーゼ(唇や舌の粘膜の色が青白くなる状態)、意識レベルの低下(ぼんやりとして刺激に対する反応が少ない状態)などは緊急性が高いので、注意が必要です。

また、口呼吸の様子を動画で撮影しておくと、より診断に役立ちます。

獣医師の診断と治療法

動物病院ではまず問診を行い、症状がいつから現れたのか、生活環境に変化はないかなどをお聞きします。実際の検査に進む前に、ある程度病気を推測するうえで、問診はとても重要なプロセスになります。
その後、聴診、レントゲン、心エコー検査、血液検査などを実施して、病気を絞り込んでいきます

治療は原因に応じて異なり、例えば感染症であれば抗菌薬、異物の場合は外科手術が必要になることがあります。また、酸素療法が必要な場合もあります。

口呼吸を予防するための日頃のケアと注意点

口呼吸を予防するには、以下のような対策が有効です。

定期的な健康診断
早期発見・早期治療を実現するには、定期的な健康チェックが重要です。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください

適切な室温管理と熱中症予防
夏だけでなく、冬でも快適な温度を保つことが重要です。室内ではエアコンを常時つけ、快適な環境を整えましょう。また、自由に水を飲めるようにしておくことも重要です。

ストレス軽減のための環境づくり
室内で自由に動き回れる空間をつくる、お気に入りのトイレやエサ容器を使用する、爪とぎのスペースを用意する、といった対策がストレス軽減につながります。

日々の観察
呼吸状態や活動量、食欲の変化を日々チェックし、異常があればすぐに動物病院へ連絡しましょう。

まとめ

猫の口呼吸は、さまざまな要因で引き起こされます。中には深刻な病気を抱えているケースもあるので、早期発見・早期治療がとても大切です。若くて一見健康そうでも、口呼吸が重篤な病気のサインになっている場合もあります。当院でも、飼い主様が口呼吸をそれほど深刻にとらえていないケースで検査を行ったところ、心臓病などの重篤な病気が見つかるケースを経験しています。そのため、口呼吸を軽視せずに、早めに動物病院を受診することをお勧めします。

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愛犬の便に血が混じっているのを見つけたとき、「何か重大な病気かも…」「このまま血が止まらなかったらどうしよう…」と心配される飼い主様も多いかと思います。この「血便」はさまざまな原因で起こり、適切な対応が重要です。
今回は犬の血便の原因や対処法について、獣医師の観点から詳しくお伝えします。

 

血便とは? 犬の場合の特徴と見分け方

血便とは、消化管からの出血が混じった便を指します。血便はその状態から、次の2つに分けられます。

鮮血便新鮮な赤い血が混じった便で、大腸や直腸、肛門近くでの出血が原因です。
黒色便出血が消化されて黒くなった便で、消化管の上部(食道、胃、十二指腸など)からの出血を示します。黒色便は特に深刻な病気の兆候であることが多く、早急な対応が必要です。

犬の血便の主な原因とそれぞれの特徴

犬の血便は、以下のような病気や変化によって起こります。

寄生虫感染
ジアルジアやコクシジウムなどの寄生虫が原因で、消化管内で炎症を引き起こします。汚染された便などを口にすることで感染し、粘液が混ざった血便が見られることもあります。

食べ物による刺激
異物の摂取や食物アレルギー、急な食事の変更などが考えられます。食物アレルギーは原因となるアレルゲンを含むフードを食べていると症状が長く続く一方で、異物誤食の場合は容態が急変することが多く、緊急性が高いという特徴があります。

炎症性腸疾患
消化器症状が3週間以上続き、嘔吐や食欲不振といった症状が現れることもあります。

感染症
細菌やウイルスが原因で血便が見られることがあります。特に犬パルボウイルス感染症は、子犬において命に関わることがあるため注意が必要です。

がん
特に高齢犬では、消化管のがん(胃腺癌、リンパ腫など)によく遭遇します。
リンパ腫について詳しくはこちらをご覧ください

ストレス
精神的なストレスが原因で、胃や腸に負担がかかり、血便が発生することがあります。

排便しぶり
便が硬くなったり、大腸が前立腺肥大などで圧迫されることで、排便時に腸粘膜が傷つき、血便が出ることがあります。

異物誤食やパルボウイルス感染症など、緊急性が高いものもあるため、血便が見られたら早めに獣医師に相談することが重要です。

血便を見つけたときの対処法

血便が確認された場合、すぐに動物病院を受診することが大切です。特に、血便が頻繁に見られたり、元気がなかったり、嘔吐などの別の症状が同時にみられたりする場合は、緊急性が高いため、即時の対応が必要です。

また、来院時には血が混じっている便を捨てずにご持参いただけると、診断に役立ちます

獣医師の診断と治療法

動物病院ではまず問診を行い、いつから症状が現れたのか、食事内容や生活環境の変化について詳しく伺います。実際の検査に進む前に、ある程度病気を予測するうえで、問診はとても重要なプロセスになります。また、検査のうち最も重要なのは糞便検査になるので、繰り返しになりますが、糞便を持参いただけますと、スムーズに検査が進みます。
その後、血液検査、レントゲン、超音波検査などを実施して、病気を絞り込んでいきます。

治療法は原因によって異なります。感染症や炎症が原因の場合は、抗菌薬や抗炎症薬が用いられます。異物が原因であれば外科手術、食物アレルギーが原因であれば食事療法が必要になることがあります。

血便の予防法と日頃の注意点

血便を予防するには、以下のような対策が有効です。

定期的に健康診断
早期発見・早期治療のために、定期的に動物病院で健康チェックを受けましょう。また、予防接種を適切に受け、パルボウイルスなどの重篤な感染症を防ぐことが重要です。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください

適切な食事管理
高品質なフードを与え、急激な食事の変更は避けましょう

寄生虫予防
チュアブルやスポットオンタイプの駆虫薬で、寄生虫感染を予防することができます。

ストレス軽減のための環境づくり
お散歩や遊びの時間を十分にとる、寝床は落ち着けるような場所に設置する、トイレやクレートを清潔に保つなど、過ごしやすい環境を整えることがストレス軽減につながります。

日々の観察
便の状態、食欲、活動量などを普段から観察して、変化があればすぐに動物病院を受診しましょう。

まとめ

血便は、ストレスや一時的な原因で起こることもあれば、深刻な病気の兆候である場合もあります。早期発見と治療が犬の健康を守るためには不可欠です。愛犬に血便が見られた際は自己判断せず、まずは獣医師に相談することをお勧めします。

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短頭種気道症候群とは、外鼻孔狭窄、気管低形成、軟口蓋過長、喉頭虚脱といった呼吸器の先天的な異常が組み合わさって発生する病気を指します。名前に「短頭種」とつくことからもわかるように、マズルが短い犬種(パグ、シーズー、フレンチ・ブルドッグなど)によくみられることが特徴的です。呼吸がうまくできなくなることで熱中症などを招くリスクも上がるため、早めの対処が肝心です。
今回は、犬の短頭種気道症候群について、基本的な情報とともに気をつけるべき合併症に関してもお伝えします。

 

短頭種気道症候群の特徴

短頭種はマズルの長さが短くなっている分、他の犬種と比べて気道が狭いという特徴があります。そのため、以下のような異常が起こりやすくなります。

外鼻孔狭窄:外鼻孔(鼻の穴)が狭くなる。
気管低形成:気管がつぶれて狭くなる。
軟口蓋過長:軟口蓋(口から喉に続くやわらかい天井部分)が相対的に長くなり、気道を塞ぐ。
喉頭虚脱:上記の異常に伴って、喉の軟骨が二次的に変性する。

症状

短頭種気道症候群の症状は、進行度合いによって異なります。

軽度の場合

息が荒い
寝ているときにいびきをかく
運動を嫌がる
口を開けて「ガーガー」と息をする
嘔吐や逆流

重度の場合

呼吸困難
チアノーゼ(酸素が足りずに粘膜の色が青白くなる状態)
失神

合併症

短頭種気道症候群は呼吸がしづらくなることで、次のような合併症を招くリスクがあります。

熱中症
犬や猫は肉球の表面でしか汗をかくことができないので、熱がこもりやすい特徴があります。通常はパンティング(舌を出してハアハアと呼吸すること)によって体の熱を逃がしますが、短頭種気道症候群の犬ではうまく呼吸ができないため、熱中症を発症するリスクが高くなります。
熱中症について詳しくはこちらをご覧ください

二次的な心臓疾患
酸素が不足すると、心臓が補おうと過剰に働き、心臓に負担がかかります。これにより、心臓病のリスクが高まります。

睡眠時無呼吸
人間と同じように、いびきが悪化すると寝ているときに数十秒ほど呼吸が止まることがあります。

診断

短頭種気道症候群が疑われる場合、まずは身体検査を行い、呼吸状態や体型を確認します。さらに、X線検査やCT検査を実施して、気道や肺の状態を確認します。また、喉頭鏡検査を用いて、軟口蓋や喉頭の異常を直接確認し、総合的に診断を行います。

当院では、避妊・去勢手術の際に麻酔下で軟口蓋や喉の状態を評価し、異常が確認された場合には早期の治療をご提案するケースもあります。

治療

短頭種気道症候群の治療は、保存的治療と外科的治療に分かれます。
保存的治療には、体重管理や適切な温度管理、ネブライザーを使った呼吸改善などがあります。しかし、根本的な改善を目指すには手術が必要となる場合が多いです。

外科的治療では、軟口蓋過長症には軟口蓋切除術が行われ、外鼻孔狭窄には外鼻孔拡大術が適用されます。さらに重度の症例では、喉頭の軟骨を一部切除する披裂軟骨切除術や気管切開術などが実施されることもあります。

ご家庭での注意点

家庭でのケアでは、まず体重管理が非常に重要です。肥満になると呼吸への負担が増し、症状が悪化する可能性が高くなります。そのため、食事のカロリーや運動量を適切に管理し、過体重にならないように注意しましょう。

また、暑い環境や激しい運動は呼吸困難を引き起こす恐れがあるため、エアコンなどを活用して適切な温度管理を行い、過度な興奮や運動を避けるようにしましょう。

ストレスも症状が悪化する原因になるので、遊びの時間をうまく取り入れたり、ゆっくりと休養を取れるスペースをつくったりする工夫も大切です。

また、1歳未満の子犬の場合、無駄吠えを抑えることが症状の悪化を防ぐポイントになるため、無駄吠えを減らすことができるようにしつけを行いましょう。

まとめ

短頭種気道症候群は、呼吸器の先天的な構造の異常によって呼吸がしづらくなる病気です。そのままにしておくと悪化してしまうため、早期発見と適切な治療・管理が重要になります。短頭種はとても愛らしい見た目で人気ですが、呼吸に影響を受けやすい犬種でもあります。こうした情報を正しく理解したうえで、ご家庭ではより細やかなケアを心がけて過ごしましょう。

◼️呼吸器疾患に関しては下記の記事でも解説しています
犬の気管虚脱について┃「ガーガー」と呼吸が苦しそう…

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<参考文献>
Brachycephalic obstructive airway syndrome: much more than a surgical problem – PMC (nih.gov)

肥満細胞腫は、犬や猫に発生する悪性腫瘍(がん)の一種です。皮膚にしこりとして現れることが多いですが、内臓に発生する場合もあり、発生部位によって治療方針が異なります。特に悪性度が高い場合、治療が遅れると命に関わる可能性があるため、早期診断・早期治療が大切になります。
今回は、犬と猫の肥満細胞腫について、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。

 

肥満細胞腫とは

肥満細胞腫は、肥満細胞(体内の炎症やアレルギー反応に関与する重要な細胞)が異常増殖してできる悪性腫瘍です。

犬では、レトリバー系やフレンチ・ブルドッグなどの犬種で発生リスクが高く、中高齢犬に多くみられます。発生しやすい部位は、腹部や手足などの皮膚(皮膚型)ですが、稀に内臓にも発生することがあり(内臓型)、特に脾臓で見られます。腫瘍の悪性度は1~3のグレードに分類され、グレードが高いほど転移のリスクが高くなります。

一方猫では、中高齢のシャムに多くみられ、額や耳など顔周辺に発生しやすいです。猫の肥満細胞腫は、犬よりも進行が遅いとされています。

症状

皮膚型の場合、皮膚にしこりができ、赤みや脱毛、出血が見られることがあります。これらの症状は、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患と似ているため、見た目だけで判断することは困難です。

それ以外には、「ダリエ徴候」という変化がみられます。これは、皮膚の物理的な刺激に対して肥満細胞が反応することで、しこり周辺の皮膚が赤みを帯びる現象です。また、消化管潰瘍ができて消化器症状が現れたり、出血が治まりづらくなったりするケースもあります。

診断

肥満細胞腫が疑われる場合、まず細胞診を行います。これは、しこりに細い針を刺して細胞を採取し、腫瘍の性質を確認する検査です。

肥満細胞腫が確認された場合、次にステージング検査を行い、腫瘍が局所的か全身に広がっているかを調べます。特に、腹部超音波検査は重要で、内臓の状態や転移の有無を隅々まで確認します。

その後、しこりを切除して生検や病理組織検査を実施します。検査では、しこりとその周辺の組織の様子をみることで、余白をもって腫瘍を取り切れたか、悪性度(グレード)はどうか、といった情報を得ることができます。

また、肥満細胞腫では、c-KIT遺伝子の変異が発症に関与していることが知られており、遺伝子検査も行います。この変異があるかどうかで治療方法が大きく変わります。

治療

当院では、再発防止や治療の成功率向上のために人間の医療に準じた治療を行います。
皮膚型の場合、ステロイドや分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害剤)などの内服で治るケースも多く経験しています

一方で、進行した場合や複数箇所にしこりがある場合、脾臓にしこりがある場合は、外科的切除を行います。手術が難しい部位や、転移がある場合は、放射線療法や化学療法を併用することも検討します。

なお、全身転移がある場合は、QOL(生活の質)を維持するための支持療法として、皮下点滴や抗ヒスタミン薬、制酸剤の投与を行うこともあります。

予後

予後は、腫瘍のグレード、発生部位、転移の有無、c-KIT遺伝子変異の有無、動物種などによって異なります。
皮膚型でグレードが低く、手術で完全に切除できた場合の予後は非常に良好です。しかし、グレードが高い場合や手術で腫瘍が取り切れなかった場合、再発や転移のリスクが高くなります。また猫の場合、一般的に予後が良く、特に顔周辺に発生する皮膚型の肥満細胞腫は、根治が期待できる場合が多いです。

内臓型の場合は、脾臓や肝臓、リンパ節などに転移するリスクがあり、特に脾臓に発生した場合、出血のリスクがあるため治療中は細心の注意が必要です。

ご家庭での注意点

肥満細胞腫は皮膚に発生することが多いため、ブラッシングやシャンプーの際に皮膚を触ってみて、しこりがないかをチェックしてみましょう。しこりを早期に発見できれば治療の選択肢が広がり、犬や猫の負担を減らすことにもつながります。

また、治療後も再発の可能性があるため、切除した場所や皮膚全体の変化に注意を払い、定期的に動物病院でのチェックを受けるようにしましょう。

まとめ

肥満細胞腫は早期発見・早期治療が重要な病気です。愛犬や愛猫の体にしこりや異常が見つかった場合は、すぐに動物病院を受診し、適切な治療を受けることが必要です。また、治療後も獣医師と綿密に連携しながら健康管理を行うことで、ペットのQOLを維持し、健康な時間を少しでも長くするように心がけましょう。

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<参考文献>
Diagnosis, Prognosis and Treatment of Canine Cutaneous and Subcutaneous Mast Cell Tumors – PubMed (nih.gov)
Mast Cell Tumors in Cats: Clinical update and possible new treatment avenues – Carolyn Henry, Chamisa Herrera, 2013 (sagepub.com)

 

胸腰部椎間板ヘルニアは、犬に多い神経の病気です。軽度であれば背中や腰の痛みがみられるだけですが、治療せずに放置すると進行し、排尿障害の発生や深部痛覚の消失が起こり、最終的には後ろ足がまったく動かなくなることもあります。足腰の健康を長く保つためには、早期発見・早期治療がとても大切になります。
今回は、犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。

 

椎間板ヘルニアとは

犬の首から背中、腰にかけては椎骨という骨が並び、脊椎を形成して脊髄という太い神経を守っています。また、椎骨と椎骨の間には「椎間板」というクッションのような構造があり、中心部分は髄核、周りは線維輪という組織で構成されています。
椎間板ヘルニアとは、髄核や線維輪が変性し、椎間板の形が変わって脊髄を圧迫することにより発症する病気です。

椎間板ヘルニアは、変性する部分によって「ハンセンⅠ型」と「ハンセンⅡ型」に分類されます。

ハンセンⅠ型髄核が変性して線維輪から飛び出し、脊髄を圧迫することで発症します。
ハンセンⅡ型線維輪が変性し、脊髄を圧迫することで発症します。

リスク要因と症状

ハンセンⅠ型

ミニチュア・ダックスフンドやビーグルなどの軟骨異栄養犬種で多く、遺伝が関与しているといわれています。

ハンセンⅡ型

加齢が関連しており、高齢になるとどの犬種でも発症する可能性があります。
それ以外に、肥満や激しい運動など椎間板に負担がかかる状況も発症リスクを高めることが知られています。

発症初期は軽度の症状として、背中や腰に痛みを覚え、触られるのを嫌がることもあります。進行に伴い、後ろ足の麻痺が始まり、ふらつきや立てない・歩けないといった様子がみられるようになります。最終的には、後ろ足の痛みを感じなくなる場合もあります。

診断

まずは神経学的検査を実施して、神経症状がどの神経のどの場所によって引き起こされているのかを判断します。ふらつきや麻痺といった症状は、他の神経病(変性性脊髄症や脊髄軟化症など)でも現れるので、慎重に判断する必要があります。

特に脊髄軟化症の場合は予後が悪く、1週間ほどで亡くなることが多いため、早期の診断が重要です。さらに、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査を組み合わせて診断します。

治療

椎間板ヘルニアの治療法は、内科的治療と外科的治療に分かれます。症状が軽度であれば内科的治療で大幅に改善する可能性があります。内科的治療には、ステロイドパルス療法やレーザー照射治療などがあり、当院でもこれらの治療で改善した症例が多くあります。

また外科的治療では、背骨の一部を取り除いて脊髄の圧迫を軽減します。具体的には、腹側減圧術、背側椎弓切除術、片側椎弓切除術などの方法があり、これらの治療は、歩行が困難でも力は入る状態のときや、さらに状態が悪化したときに適応されます。
なお、当院では手術を実施する場合、専門医をご紹介しています。

また、術後はリハビリを段階的に開始することで、運動機能の回復に努めます。

予後と管理

内科的治療の場合、椎間板に負担をかけないよう、少なくとも1カ月以上は安静にしていただきながら治療を進めます。ヘルニア自体が完全に治るわけではないため、再発に注意しながら様子をみる必要があります。

外科的治療では、麻痺の重さによっても異なりますが、ほとんどの症例で術前よりも状態が改善します。ただし、外科的治療でも再発の可能性があるので、歩く様子に変化がないかをこまめに確認する必要があります。また、排尿障害が起こる場合は、オムツの着用なども検討します。

また、ご家庭では再発予防に努めることがポイントになります。背中や腰に負担をかけないため、フローリングにマットを敷く、肥満を予防する、激しい運動を避けるなどの​​対策を取りましょう。

ご家庭での注意点

椎間板ヘルニアは早期発見・早期治療が重要な病気です。特に好発犬種を飼っている場合は、背中や腰に痛みがないか、後ろ足に力が入っているかなどを定期的に確認し、異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。

また、​​背骨にかかる負担を最小限にするため、抱っこをする際は背中を水平に保ち、下から包み込むように支えましょう

まとめ

椎間板ヘルニアは犬の運動機能に大きな影響を与える神経の病気です。症状が軽度であれば内科的治療も選択肢の一つになりますので、気になる様子が見られた場合は、早めのご来院をお勧めします。

◼️整形外科に関しては下記の記事でも解説しています。
犬の橈尺骨骨折について
犬のレッグ・ペルテスについて
犬の前十字靭帯断裂について

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<参考文献>
Intervertebral Disk Degeneration in Dogs: Consequences, Diagnosis, Treatment, and Future Directions – Jeffery – 2013 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library
ACVIM consensus statement on diagnosis and management of acute canine thoracolumbar intervertebral disc extrusion – PMC (nih.gov)