犬の甲状腺機能低下症について┃健康診断で定期的にホルモン数値を確認しよう
動物が年を取ると、動きがゆったりとしてきたり、なんとなく元気がなくなったり、食べる量が少なくなったりすることがあります。しかし、こうした症状は単なる年のせいではなく、甲状腺機能低下症という病気の可能性もあります。この病気は猫よりも犬に多く、ホルモンの異常によって発生します。ご家庭で異変に気づくのは難しいため、当院では定期的な健康診断でホルモンの数値を確認することをお勧めしています。
今回は、犬の甲状腺機能低下症について、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。
甲状腺とは
甲状腺とは、動物の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを合成・分泌している器官で、首元に位置します。
健康な状態では、下垂体や視床下部といった脳に近い器官から分泌される別のホルモンによって、バランスがうまく調整されています。
原因
詳しい原因はよくわかっていませんが、甲状腺自体に異常があり、甲状腺ホルモンの分泌量が減ることで代謝が悪くなって発症するケースが多いと考えられています。
・好発犬種:ドーベルマン、レトリーバー種、アメリカン・コッカー・スパニエルなど
・年齢:中高齢での発症が多いものの、1~2歳の若いうちに発症するケースもあります。
症状
甲状腺機能低下症の主な症状は以下です。
・なんとなく元気がない
・動きたがらない
・食事量が減っているのに太る
・皮膚や被毛の変化(脱毛、皮膚が黒くなる、皮膚が厚くなる)
まれに神経症状(顔面神経の麻痺など)や便秘、心臓機能の変化(脈が遅くなる)などが現れることもあります。
甲状腺機能低下症を放置するリスク
甲状腺機能低下症を適切に治療せずに放置すると、様々な合併症のリスクが高まります。以下に主な併発の可能性がある疾患を挙げます。
・心血管系疾患:甲状腺ホルモンの不足は心臓機能に影響を与え、心拡大や心不全のリスクを高めます。また、動脈硬化や高血圧の原因にもなり得ます。
・神経系疾患:重度の甲状腺機能低下症では、末梢神経障害や中枢神経系の機能低下が起こる可能性があります。これにより、運動機能の低下や認知機能の障害が生じることがあります。
・消化器系疾患:代謝の低下により、便秘や胆のう疾患のリスクが高まります。
・皮膚疾患:皮膚の再生能力が低下し、慢性的な皮膚感染症や難治性の皮膚炎を引き起こす可能性があります。
・貧血:甲状腺ホルモンは赤血球の産生にも関与しているため、重度の甲状腺機能低下症では貧血を引き起こすことがあります。
・肥満とそれに関連する疾患:代謝率の低下により、肥満のリスクが高まります。これは関節炎や糖尿病などの二次的な健康問題を引き起こす可能性があります。
・生殖系の問題:雌犬では不妊や流産のリスクが高まることがあります。
・免疫系の機能低下:甲状腺ホルモンは免疫機能にも影響を与えるため、感染症に対する抵抗力が低下する可能性があります。
これらの疾患を併発することにより、最悪の場合命を落とす可能性もあるため、原因となる甲状腺機能低下症を早期発見、早期治療することは非常に重要です。
診断
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの減少によって起こるため、基本的にはホルモン測定によって診断できます。ホルモン検査では、T4、fT4、TSHなどの数値を測定します。
当院では、健康診断の血液検査の際に、オプションとしてホルモン測定を提案することもあります。健康診断時に発見できると、症状が現れる前に治療を開始できるのが強みです。10歳以上の高齢犬には特にお勧めです。
また、甲状腺刺激試験や画像診断(超音波やシンチグラフィーなど)を行う場合もあります。
この病気で重要なのは、他の病気との鑑別です。同じように皮膚や被毛の変化を示すホルモンの病気として、クッシング症候群などが挙げられます。その他にも、別の病気が原因で甲状腺ホルモンの数値が下がることもあるため、数値の解釈には細心の注意を払います。
治療
甲状腺機能低下症に対しては、ホルモン補充療法が実施されます。この治療では、レボチロキシンナトリウムという成分が含まれる薬を投与して、不足した甲状腺ホルモンを補います。症状の改善具合や血液中の甲状腺ホルモン濃度を定期的にチェックし、投薬スケジュールと用量を調整しながら進めていきます。
その際、過剰な投与によるクッシング症候群には注意が必要ですが、発生は比較的まれです。
また、併発疾患があればその治療も行います。
ご家庭での注意点
薬によって代謝が変化するため、状態を確認しながら食事の量を調整しましょう。また、適度な運動によって肥満を防ぐことも重要です。
投薬による治療は生涯続くため、定期的に通院して健康状態をチェックすることも必要不可欠です。途中で投薬を止めると、元の状態に戻ってしまう危険性があります。
まとめ
甲状腺機能低下症は症状に気づきにくい病気です。そのため、当院では定期的な健康診断時にホルモン測定をお勧めしています。また、投薬による治療は生涯続きますが、きちんと続ければ良好にコントロールできる病気です。愛犬に気になる様子があれば、お早めに当院までご相談ください。
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