犬や猫も私たち人間と同じように咳をすることがあります。突然、「ガッガッ」「ケッケッ」と音を立てていると、苦しそうな様子で心配になりますよね。こうした症状は呼吸器の異常だけでなく、さまざまな病気が関係している場合があり、動物の種類によってその性質や原因が異なります。そのため、早めに検査を受けて原因を特定し、適切な対処をすることが大切です。
今回は、犬と猫それぞれの咳について、その原因とともに、特に緊急性が高い症状やご家庭でできるケアの方法を詳しくお伝えします。
犬と猫の咳の違いとは
犬と猫の咳は、音や頻度、原因となる病気に特徴的な違いがあります。
〈犬の咳の特徴〉
犬の咳は比較的大きな音で、乾いた咳や湿った咳などバリエーションが豊富です。心臓病や気管支炎が原因となることが多く、慢性的に症状が続くケースが一般的です。
また、短頭種(パグやフレンチ・ブルドッグなど)では、顔の構造が影響して気管虚脱が起こりやすいことが知られています。
〈猫の咳の特徴〉
猫の咳は犬に比べると静かで、ヘアボールを吐き出す仕草に似ているため見分けが難しい場合があります。鼻や喉の感染症や猫喘息によるものが多く、急激に症状が現れることが特徴です。
犬の咳が出る主な原因と症状
犬で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。
1.気管虚脱
短頭種で多く見られ、気管がつぶれることで「ガーガー」というガチョウの鳴き声のような咳をします。重症化すると呼吸困難になるため注意が必要です。
気管虚脱について詳しくはこちらをご覧ください
2.心臓病
高齢犬で特に多いのが僧帽弁閉鎖不全症です。最初は「ケッケッ」と乾いた音ですが、徐々に「ガッガッ」「ゲーゲー」と湿った音に変わります。
僧帽弁閉鎖不全症について詳しくはこちらをご覧ください
3.感染症
ケンネルコフなど、細菌やウイルスの感染症が原因です。乾いた音のこともあれば、湿った音がすることもあります。
4.異物誤飲
喉や気管に異物が詰まると、「ガッガッ」と咳をし、吐き出そうとします。完全に詰まった場合は命に関わるため、早急な対応が必要です。
異物誤飲について詳しくはこちらをご覧ください
猫の咳が出る主な原因と症状
猫で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。
1.喘息
環境中のアレルゲン(ホコリや花粉など)に反応し、突然首を伸ばして「ゼーゼー」と苦しそうに息をします。
2.心臓病
高齢猫で特に多いのが肥大型心筋症です。息苦しくなり、口を開けて呼吸することもあります。
肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください
3.感染症
ウイルス性鼻気管炎などで、鼻水やくしゃみを伴うこともあります。
なお、猫では舐めとった毛が胃の中で球状に固まり(ヘアボール)、嘔吐するように身体の外へ出すことがあります。これは病的な咳ではなく、生理的な現象ですので心配はいりません。
すぐに病院へ行くべき危険な症状
次のようなケースでは緊急性が高いので、速やかに動物病院を受診することをお勧めします。
・呼吸が苦しそう
重度の咳によって酸素をうまく取り込めないと、とても危険です。歯茎などの粘膜の色が青白くなることもあります。特に高齢の犬・猫や短頭犬種では容態が急変しやすいので、注意が必要です。
・食欲や元気がない
呼吸器だけでなく、全身に何らかの不調がある可能性があります。若い動物ほど容態が急変しやすいので、注意が必要です。
夜間や休日にこのような症状がみられた場合に備え、あらかじめ夜間や休日診療に対応している動物病院を調べておくことが大切です。
一方で、咳以外の症状がない、一時的な咳で治まっている、異物誤飲の可能性がない場合には、次の項目でご紹介する応急ケアを行いながら、ご自宅で様子を観察してみてください。
自宅でできる観察と応急ケア
咳が出る場合には、ご家庭でその様子をよく観察していただくことが重要になります。具体的には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
・咳の頻度:1日に何回程度か
・咳のタイミング:運動後や食後、突然発生するのか
・咳の性状:乾いた音か、湿った音か
自宅でこうした症状がみられても、動物病院では緊張して咳が出なくなることもあります。そのため、受診の際には、咳をしている様子を動画で撮影しておくと診断の参考になり、とても役立ちます。また、体重の定期的な確認も重要です。咳が続く場合、食欲があって普段通り食べていても体重が減少していることがあります。1kg以上の体重減少が見られる場合は、重大な病気が隠れている可能性があるため、獣医師への相談をお勧めします。
あわせて、次のようなケアが応急処置につながるので、ぜひお試しください。
・加湿器を使い、適切な湿度を保つ
・生活スペースの掃除や寝床の洗濯など環境を清潔にする
・運動を控えさせ、安静にさせる
検査と治療
動物病院では、飼い主様に撮っていただいた動画をもとに、身体検査、カフテスト(気管支の刺激による反応を確認)、レントゲン検査、その他必要な検査(エコーなど)を順に実施して、診断を下します。
咳の原因が特定された後、抗生物質や抗炎症薬の投与、アレルギー対策、手術などの治療が行われます。
咳を予防するための日常的な注意点
咳を予防するには、以下のような日常的なケアが大切になります。
・適切な室温管理(25℃程度)
・適切な湿度管理(50~60%)
・清潔な環境維持
・十分な運動や遊び時間を確保し、ストレスを溜めない
犬のケンネルコフや猫のウイルス性上気道炎などの感染症は、ワクチン接種によって予防できるため、スケジュール通りに接種を済ませておくことが大切です。一方、心臓病などワクチンで予防できない病気については、定期的な健康診断を受けることで早期発見・早期治療につなげることができます。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください
咳の症状は慢性化すると治療が難しくなる場合があるため、気になる症状があれば早めにご相談ください。
まとめ
咳は、いろいろな病気によって起こる呼吸器症状の1つです。中には重大な病気が隠れていることもあるので、緊急性が高いようであればすぐに動物病院を受診しましょう。また、日常的なケアや定期的な健康診断を行うことで、愛犬・愛猫の健康を守ることができます。不安な点がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
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【獣医師監修】犬や猫が嘔吐!┃すぐ病院に行くべき症状と対処法
犬や猫を飼っていると、一度は嘔吐の場面に遭遇することがあるかもしれません。ゲーゲーと吐く様子をみると、「何か変なものでも食べたのかな…」「このまま吐き続けたらどうしよう…」と不安になる飼い主様も多くいらっしゃるかと思います。嘔吐はさまざまな原因で起こり、一時的な問題のケースもあれば、深刻な病気が隠れているケースもあります。
今回は、犬や猫がなぜ吐くのかをご説明したうえで、すぐに動物病院を受診すべき危険な症状や、ご家庭でできる応急処置などをお伝えします。
1.犬や猫の嘔吐が起こる主な原因とは
2.すぐに病院に行くべき危険な嘔吐の症状
3.自宅でできる応急処置と観察のポイント
4.嘔吐を予防するための日常的な注意点
5.まとめ
犬や猫の嘔吐が起こる主な原因とは
犬や猫では、次のような原因によって嘔吐が起こります。
〈一般的な原因〉
・食べすぎ
・早食い
・ストレス
・生理的なもの(猫)
・異物誤食 など
〈病的な原因〉
・胃腸の病気:慢性腸症、消化器型リンパ腫、炎症性ポリープ
・感染症:サルモネラやカンピロバクターなどの細菌、パルボウイルスやコロナウイルスなどのウイルス、回虫やコクシジウムなどの寄生虫
・内臓の病気:胆嚢粘液嚢腫、膵炎、肝炎、腎臓病、肝臓病
・ホルモンの病気:甲状腺機能亢進症
・アレルギー:食物アレルギー
特に猫については、健康でもよく吐く動物だと認識されている飼い主様が多いかもしれません。しかし、吐く原因として病気が隠れている可能性もあります。病気の有無はご家庭で判断するのが難しいため、次の項目で挙げる危険な症状が見られた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
すぐに病院に行くべき危険な嘔吐の症状
この項目でお伝えする嘔吐は、特に危険性が高いものです。
・未消化物が混ざっている
胃に到達する前に吐き出している、あるいは胃の消化機能が落ちている可能性があります。食べてすぐに吐くようであれば、食道の運動機能がうまく働いていないことが原因として考えられ、嘔吐ではなく吐出かもしれません。
・胆汁(黄色い液体)が混ざっている
胆汁が混ざった嘔吐は、空腹時間が長すぎることが原因の場合があります。ただし、頻繁に見られる場合は胃腸の病気が疑われます。
・血液が混ざっている
胃や腸で出血している可能性があります。血液というと赤い色をイメージされるかもしれませんが、場所によっては黒や茶色のケースもあり、その場合は特に緊急性が高いです。
・異物が混ざっている
異物を誤って食べてしまった可能性があります。異物が排出されない場合、手術が必要になることがあります。
・一日に何度も嘔吐をする
嘔吐が続くと身体の水分が失われ、脱水症状がみられることもあります。とても危険な状態で、すぐに補液などで水分を補う必要があります。
・嘔吐以外の症状がある
下痢、元気や食欲の低下、発熱、貧血など、別の症状も伴っている場合、何らかの病気が疑われます。
これらの症状がある場合、自己判断を避け、速やかに動物病院を受診してください。
自宅でできる応急処置と観察のポイント
愛犬・愛猫が嘔吐した際、どう対処すればよいか迷う飼い主様もいらっしゃるかと思います。まず、獣医師に相談することが重要ですが、ご家庭で次のような応急処置を行うことで、症状の悪化を防ぐ助けになります。
・絶食
半日から一日ほど一時的に食事を控え、胃腸を休ませます。なお、絶食を行う場合は自己判断で行わず、必ず獣医師の指示の元行うようにしましょう。
・水分補給
嘔吐が治まった後に、新鮮で人肌程度の温度の水を用意し、少量ずつ様子を見ながら飲ませます。ただし、嘔吐直後に水分を与えると再度嘔吐したり、誤嚥性肺炎のリスクがあるため、必ず愛犬愛猫が落ち着いてから与えるようにしましょう。
これらの処置に加えて、ご家庭で嘔吐の様子を観察・記録しておくことで、診断の際に獣医師がより正確に原因を特定する助けになります。以下のポイントを参考に、嘔吐時の情報をまとめておきましょう。また、嘔吐の様子を写真や動画で撮影していただくと、より正確に情報が伝わります。
・嘔吐の回数:一日一回、一時的なもの、複数回、長期間続くか
・性状:吐いた内容物に未消化の食べ物、胆汁、血液、異物が混ざっているか
・吐くタイミング:食後すぐか、食事とは関係なく起こるか
・その他:フードの変更や直前の誤食など、何か思い当たることがないか、体重が減っていないか
特に猫の場合、嘔吐ではなく吐出が多いことがあります。そのため、吐き方の様子や内容物をしっかり観察することが重要です。当院では、吐出が多い猫に対して食道を通過しやすいフードをご提案することも可能です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
嘔吐を予防するための日常的な注意点
病気ではなく一般的な原因によって起こる嘔吐であれば、ご家庭でのケアで予防が可能です。
・食事管理
食道を通過しやすく、消化に優しいフードを選びましょう。また、フードの規定量を守り、盗み食いを防ぐために適切な場所で保管することも重要です。
・環境管理
適度な運動や遊びを取り入れ、ストレスがたまらないような生活を送りましょう。
さらに、これらの予防に加えて、定期的に動物病院で健康診断を受けることも大切です。診察では、飼い主様からのお悩みをお伺いするだけでなく、各種検査を通じて普段の生活では気付きにくい異常を早期に発見できる可能性があります。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください
まとめ
嘔吐はさまざまな原因で起こる症状であり、一見問題がなさそうに見えても、重大な病気が隠れている場合があります。特に今回ご紹介した危険な症状が見られた場合は、速やかに動物病院を受診することが大切です。また、必要に応じて応急処置を行い、日々のケアを徹底することで嘔吐を予防することも可能です。日頃の観察とケアを意識し、愛犬・愛猫の健康管理に役立ててみてください。
◼️下記関連記事でもご覧ください
炎症性ポリープについて
異物誤飲について
胆嚢粘液嚢腫について
膵炎について
甲状腺機能亢進症について
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【獣医師監修】愛犬・愛猫の咳が気になったら┃危険な症状と対処法
犬や猫も私たち人間と同じように咳をすることがあります。突然、「ガッガッ」「ケッケッ」と音を立てていると、苦しそうな様子で心配になりますよね。こうした症状は呼吸器の異常だけでなく、さまざまな病気が関係している場合があり、動物の種類によってその性質や原因が異なります。そのため、早めに検査を受けて原因を特定し、適切な対処をすることが大切です。
今回は、犬と猫それぞれの咳について、その原因とともに、特に緊急性が高い症状やご家庭でできるケアの方法を詳しくお伝えします。
1.犬と猫の咳の違いとは
2.犬の咳が出る主な原因と症状
3.猫の咳が出る主な原因と症状
4.すぐに病院へ行くべき危険な症状
5.自宅でできる観察と応急ケア
6.検査と治療
7.咳を予防するための日常的な注意点
8.まとめ
犬と猫の咳の違いとは
犬と猫の咳は、音や頻度、原因となる病気に特徴的な違いがあります。
〈犬の咳の特徴〉
犬の咳は比較的大きな音で、乾いた咳や湿った咳などバリエーションが豊富です。心臓病や気管支炎が原因となることが多く、慢性的に症状が続くケースが一般的です。
また、短頭種(パグやフレンチ・ブルドッグなど)では、顔の構造が影響して気管虚脱が起こりやすいことが知られています。
〈猫の咳の特徴〉
猫の咳は犬に比べると静かで、ヘアボールを吐き出す仕草に似ているため見分けが難しい場合があります。鼻や喉の感染症や猫喘息によるものが多く、急激に症状が現れることが特徴です。
犬の咳が出る主な原因と症状
犬で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。
1.気管虚脱
短頭種で多く見られ、気管がつぶれることで「ガーガー」というガチョウの鳴き声のような咳をします。重症化すると呼吸困難になるため注意が必要です。
気管虚脱について詳しくはこちらをご覧ください
2.心臓病
高齢犬で特に多いのが僧帽弁閉鎖不全症です。最初は「ケッケッ」と乾いた音ですが、徐々に「ガッガッ」「ゲーゲー」と湿った音に変わります。
僧帽弁閉鎖不全症について詳しくはこちらをご覧ください
3.感染症
ケンネルコフなど、細菌やウイルスの感染症が原因です。乾いた音のこともあれば、湿った音がすることもあります。
4.異物誤飲
喉や気管に異物が詰まると、「ガッガッ」と咳をし、吐き出そうとします。完全に詰まった場合は命に関わるため、早急な対応が必要です。
異物誤飲について詳しくはこちらをご覧ください
猫の咳が出る主な原因と症状
猫で咳を引き起こす主な原因は以下の通りです。
1.喘息
環境中のアレルゲン(ホコリや花粉など)に反応し、突然首を伸ばして「ゼーゼー」と苦しそうに息をします。
2.心臓病
高齢猫で特に多いのが肥大型心筋症です。息苦しくなり、口を開けて呼吸することもあります。
肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください
3.感染症
ウイルス性鼻気管炎などで、鼻水やくしゃみを伴うこともあります。
なお、猫では舐めとった毛が胃の中で球状に固まり(ヘアボール)、嘔吐するように身体の外へ出すことがあります。これは病的な咳ではなく、生理的な現象ですので心配はいりません。
すぐに病院へ行くべき危険な症状
次のようなケースでは緊急性が高いので、速やかに動物病院を受診することをお勧めします。
・呼吸が苦しそう
重度の咳によって酸素をうまく取り込めないと、とても危険です。歯茎などの粘膜の色が青白くなることもあります。特に高齢の犬・猫や短頭犬種では容態が急変しやすいので、注意が必要です。
・食欲や元気がない
呼吸器だけでなく、全身に何らかの不調がある可能性があります。若い動物ほど容態が急変しやすいので、注意が必要です。
夜間や休日にこのような症状がみられた場合に備え、あらかじめ夜間や休日診療に対応している動物病院を調べておくことが大切です。
一方で、咳以外の症状がない、一時的な咳で治まっている、異物誤飲の可能性がない場合には、次の項目でご紹介する応急ケアを行いながら、ご自宅で様子を観察してみてください。
自宅でできる観察と応急ケア
咳が出る場合には、ご家庭でその様子をよく観察していただくことが重要になります。具体的には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
・咳の頻度:1日に何回程度か
・咳のタイミング:運動後や食後、突然発生するのか
・咳の性状:乾いた音か、湿った音か
自宅でこうした症状がみられても、動物病院では緊張して咳が出なくなることもあります。そのため、受診の際には、咳をしている様子を動画で撮影しておくと診断の参考になり、とても役立ちます。また、体重の定期的な確認も重要です。咳が続く場合、食欲があって普段通り食べていても体重が減少していることがあります。1kg以上の体重減少が見られる場合は、重大な病気が隠れている可能性があるため、獣医師への相談をお勧めします。
あわせて、次のようなケアが応急処置につながるので、ぜひお試しください。
・加湿器を使い、適切な湿度を保つ
・生活スペースの掃除や寝床の洗濯など環境を清潔にする
・運動を控えさせ、安静にさせる
検査と治療
動物病院では、飼い主様に撮っていただいた動画をもとに、身体検査、カフテスト(気管支の刺激による反応を確認)、レントゲン検査、その他必要な検査(エコーなど)を順に実施して、診断を下します。
咳の原因が特定された後、抗生物質や抗炎症薬の投与、アレルギー対策、手術などの治療が行われます。
咳を予防するための日常的な注意点
咳を予防するには、以下のような日常的なケアが大切になります。
・適切な室温管理(25℃程度)
・適切な湿度管理(50~60%)
・清潔な環境維持
・十分な運動や遊び時間を確保し、ストレスを溜めない
犬のケンネルコフや猫のウイルス性上気道炎などの感染症は、ワクチン接種によって予防できるため、スケジュール通りに接種を済ませておくことが大切です。一方、心臓病などワクチンで予防できない病気については、定期的な健康診断を受けることで早期発見・早期治療につなげることができます。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください
咳の症状は慢性化すると治療が難しくなる場合があるため、気になる症状があれば早めにご相談ください。
まとめ
咳は、いろいろな病気によって起こる呼吸器症状の1つです。中には重大な病気が隠れていることもあるので、緊急性が高いようであればすぐに動物病院を受診しましょう。また、日常的なケアや定期的な健康診断を行うことで、愛犬・愛猫の健康を守ることができます。不安な点がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
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獣医師が警告! 猫が口で呼吸している? 原因と対処法を徹底解説
犬では「ハアハア」と口を開けて呼吸する様子をよく見かけますが、猫ではほとんど見ることはありません。そのため、猫が口呼吸をしている場合は、危険な状態である可能性が高いといえます。口呼吸の原因は多岐にわたるため、まずは動物病院で検査をして何が原因になっているのかを突き止め、迅速に対応することがポイントになります。
今回は口呼吸の原因やその対処法について、獣医師の視点から詳しくお伝えします。
1.猫の正常な呼吸とは? 口呼吸との違い
2.猫が口呼吸をする主な原因
3.口呼吸を発見したときの対処法
4.獣医師の診断と治療法
5.口呼吸を予防するための日頃のケアと注意点
6.まとめ
猫の正常な呼吸とは? 口呼吸との違い
猫は通常、健康なときは鼻で呼吸をします。しかし、何らかの原因で鼻呼吸が十分にできなくなると、口呼吸に切り替わることがあります。
同じような呼吸パターンにパンティングがありますが、これは浅く速い呼吸で、酸素を取り入れるというよりは体の熱を逃がすために行われます。
猫が口呼吸をする主な原因
猫は、次のような病気や異常のときに口呼吸を行います。
・呼吸器系の病気
猫では上気道(鼻や喉など)の感染症や喘息がよくみられます。上気道の感染症は子猫で重症化しやすく、目やにや鼻水がみられ、主にウイルスが原因になります。喘息は環境中のアレルゲンが原因で起こり、咳や喘鳴(ゼーゼーと息苦しそうな状態)が長く続きます。
・心臓病
中高齢の猫では肥大型心筋症がよく問題になります。この病気は進行が早く、気づかない間に悪化すると突然倒れてしまうケースもあります。
肥大型心筋症について詳しくはこちらをご覧ください
・熱中症
室温が高い場所や車の中にいると、猫は熱中症にかかりやすくなります。脱水症状が見られる場合もあり、非常に危険です。
熱中症について詳しくはこちらをご覧ください
・痛み
病気や事故によるケガ、術後の痛みなどによって、口呼吸をすることがあります。
・異物の詰まり
鼻や喉に異物が詰まることで、鼻呼吸ができずに口呼吸に頼る場合があります。
・重度の貧血
貧血によって体に十分な酸素が運ばれなくなると、猫は口呼吸を始めることがあります。
これらの中には、緊急性の高い状況もあるため、口呼吸がみられたら早めに獣医師へ相談することが重要です。
・ストレスや不安
犬ほど多くはありませんが、精神的ストレスや不安によって口呼吸を引き起こすことがあります。他の症状として、脱毛や食欲不振、下痢などが見られることもあります。
口呼吸を発見したときの対処法
口呼吸が見られた場合、可能な限り早く動物病院に連れていくことがポイントになります。
特に呼吸困難(息苦しそうな状態)、チアノーゼ(唇や舌の粘膜の色が青白くなる状態)、意識レベルの低下(ぼんやりとして刺激に対する反応が少ない状態)などは緊急性が高いので、注意が必要です。
また、口呼吸の様子を動画で撮影しておくと、より診断に役立ちます。
獣医師の診断と治療法
動物病院ではまず問診を行い、症状がいつから現れたのか、生活環境に変化はないかなどをお聞きします。実際の検査に進む前に、ある程度病気を推測するうえで、問診はとても重要なプロセスになります。
その後、聴診、レントゲン、心エコー検査、血液検査などを実施して、病気を絞り込んでいきます。
治療は原因に応じて異なり、例えば感染症であれば抗菌薬、異物の場合は外科手術が必要になることがあります。また、酸素療法が必要な場合もあります。
口呼吸を予防するための日頃のケアと注意点
口呼吸を予防するには、以下のような対策が有効です。
・定期的な健康診断
早期発見・早期治療を実現するには、定期的な健康チェックが重要です。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください
・適切な室温管理と熱中症予防
夏だけでなく、冬でも快適な温度を保つことが重要です。室内ではエアコンを常時つけ、快適な環境を整えましょう。また、自由に水を飲めるようにしておくことも重要です。
・ストレス軽減のための環境づくり
室内で自由に動き回れる空間をつくる、お気に入りのトイレやエサ容器を使用する、爪とぎのスペースを用意する、といった対策がストレス軽減につながります。
・日々の観察
呼吸状態や活動量、食欲の変化を日々チェックし、異常があればすぐに動物病院へ連絡しましょう。
まとめ
猫の口呼吸は、さまざまな要因で引き起こされます。中には深刻な病気を抱えているケースもあるので、早期発見・早期治療がとても大切です。若くて一見健康そうでも、口呼吸が重篤な病気のサインになっている場合もあります。当院でも、飼い主様が口呼吸をそれほど深刻にとらえていないケースで検査を行ったところ、心臓病などの重篤な病気が見つかるケースを経験しています。そのため、口呼吸を軽視せずに、早めに動物病院を受診することをお勧めします。
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獣医師が教える! 犬の血便の原因と対処法┃早期発見のポイントとは?
愛犬の便に血が混じっているのを見つけたとき、「何か重大な病気かも…」「このまま血が止まらなかったらどうしよう…」と心配される飼い主様も多いかと思います。この「血便」はさまざまな原因で起こり、適切な対応が重要です。
今回は犬の血便の原因や対処法について、獣医師の観点から詳しくお伝えします。
1.血便とは? 犬の場合の特徴と見分け方
2.犬の血便の主な原因とそれぞれの特徴
3.血便を見つけたときの対処法
4.獣医師の診断と治療法
5.血便の予防法と日頃の注意点
6.まとめ
血便とは? 犬の場合の特徴と見分け方
血便とは、消化管からの出血が混じった便を指します。血便はその状態から、次の2つに分けられます。
・鮮血便:新鮮な赤い血が混じった便で、大腸や直腸、肛門近くでの出血が原因です。
・黒色便:出血が消化されて黒くなった便で、消化管の上部(食道、胃、十二指腸など)からの出血を示します。黒色便は特に深刻な病気の兆候であることが多く、早急な対応が必要です。
犬の血便の主な原因とそれぞれの特徴
犬の血便は、以下のような病気や変化によって起こります。
・寄生虫感染
ジアルジアやコクシジウムなどの寄生虫が原因で、消化管内で炎症を引き起こします。汚染された便などを口にすることで感染し、粘液が混ざった血便が見られることもあります。
・食べ物による刺激
異物の摂取や食物アレルギー、急な食事の変更などが考えられます。食物アレルギーは原因となるアレルゲンを含むフードを食べていると症状が長く続く一方で、異物誤食の場合は容態が急変することが多く、緊急性が高いという特徴があります。
・炎症性腸疾患
消化器症状が3週間以上続き、嘔吐や食欲不振といった症状が現れることもあります。
・感染症
細菌やウイルスが原因で血便が見られることがあります。特に犬パルボウイルス感染症は、子犬において命に関わることがあるため注意が必要です。
・がん
特に高齢犬では、消化管のがん(胃腺癌、リンパ腫など)によく遭遇します。
リンパ腫について詳しくはこちらをご覧ください
・ストレス
精神的なストレスが原因で、胃や腸に負担がかかり、血便が発生することがあります。
・排便しぶり
便が硬くなったり、大腸が前立腺肥大などで圧迫されることで、排便時に腸粘膜が傷つき、血便が出ることがあります。
異物誤食やパルボウイルス感染症など、緊急性が高いものもあるため、血便が見られたら早めに獣医師に相談することが重要です。
血便を見つけたときの対処法
血便が確認された場合、すぐに動物病院を受診することが大切です。特に、血便が頻繁に見られたり、元気がなかったり、嘔吐などの別の症状が同時にみられたりする場合は、緊急性が高いため、即時の対応が必要です。
また、来院時には血が混じっている便を捨てずにご持参いただけると、診断に役立ちます。
獣医師の診断と治療法
動物病院ではまず問診を行い、いつから症状が現れたのか、食事内容や生活環境の変化について詳しく伺います。実際の検査に進む前に、ある程度病気を予測するうえで、問診はとても重要なプロセスになります。また、検査のうち最も重要なのは糞便検査になるので、繰り返しになりますが、糞便を持参いただけますと、スムーズに検査が進みます。
その後、血液検査、レントゲン、超音波検査などを実施して、病気を絞り込んでいきます。
治療法は原因によって異なります。感染症や炎症が原因の場合は、抗菌薬や抗炎症薬が用いられます。異物が原因であれば外科手術、食物アレルギーが原因であれば食事療法が必要になることがあります。
血便の予防法と日頃の注意点
血便を予防するには、以下のような対策が有効です。
・定期的に健康診断
早期発見・早期治療のために、定期的に動物病院で健康チェックを受けましょう。また、予防接種を適切に受け、パルボウイルスなどの重篤な感染症を防ぐことが重要です。
健康診断の重要性について詳しくはこちらをご覧ください
・適切な食事管理
高品質なフードを与え、急激な食事の変更は避けましょう。
・寄生虫予防
チュアブルやスポットオンタイプの駆虫薬で、寄生虫感染を予防することができます。
・ストレス軽減のための環境づくり
お散歩や遊びの時間を十分にとる、寝床は落ち着けるような場所に設置する、トイレやクレートを清潔に保つなど、過ごしやすい環境を整えることがストレス軽減につながります。
・日々の観察
便の状態、食欲、活動量などを普段から観察して、変化があればすぐに動物病院を受診しましょう。
まとめ
血便は、ストレスや一時的な原因で起こることもあれば、深刻な病気の兆候である場合もあります。早期発見と治療が犬の健康を守るためには不可欠です。愛犬に血便が見られた際は自己判断せず、まずは獣医師に相談することをお勧めします。
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犬の短頭種気道症候群について┃短頭種によく見られる呼吸器の病気
短頭種気道症候群とは、外鼻孔狭窄、気管低形成、軟口蓋過長、喉頭虚脱といった呼吸器の先天的な異常が組み合わさって発生する病気を指します。名前に「短頭種」とつくことからもわかるように、マズルが短い犬種(パグ、シーズー、フレンチ・ブルドッグなど)によくみられることが特徴的です。呼吸がうまくできなくなることで熱中症などを招くリスクも上がるため、早めの対処が肝心です。
今回は、犬の短頭種気道症候群について、基本的な情報とともに気をつけるべき合併症に関してもお伝えします。
1.短頭種気道症候群の特徴
2.症状
3.合併症
4.診断
5.治療
6.ご家庭での注意点
7.まとめ
短頭種気道症候群の特徴
短頭種はマズルの長さが短くなっている分、他の犬種と比べて気道が狭いという特徴があります。そのため、以下のような異常が起こりやすくなります。
・外鼻孔狭窄:外鼻孔(鼻の穴)が狭くなる。
・気管低形成:気管がつぶれて狭くなる。
・軟口蓋過長:軟口蓋(口から喉に続くやわらかい天井部分)が相対的に長くなり、気道を塞ぐ。
・喉頭虚脱:上記の異常に伴って、喉の軟骨が二次的に変性する。
症状
短頭種気道症候群の症状は、進行度合いによって異なります。
〈軽度の場合〉
・息が荒い
・寝ているときにいびきをかく
・運動を嫌がる
・口を開けて「ガーガー」と息をする
・嘔吐や逆流
〈重度の場合〉
・呼吸困難
・チアノーゼ(酸素が足りずに粘膜の色が青白くなる状態)
・失神
合併症
短頭種気道症候群は呼吸がしづらくなることで、次のような合併症を招くリスクがあります。
・熱中症
犬や猫は肉球の表面でしか汗をかくことができないので、熱がこもりやすい特徴があります。通常はパンティング(舌を出してハアハアと呼吸すること)によって体の熱を逃がしますが、短頭種気道症候群の犬ではうまく呼吸ができないため、熱中症を発症するリスクが高くなります。
熱中症について詳しくはこちらをご覧ください
・二次的な心臓疾患
酸素が不足すると、心臓が補おうと過剰に働き、心臓に負担がかかります。これにより、心臓病のリスクが高まります。
・睡眠時無呼吸
人間と同じように、いびきが悪化すると寝ているときに数十秒ほど呼吸が止まることがあります。
診断
短頭種気道症候群が疑われる場合、まずは身体検査を行い、呼吸状態や体型を確認します。さらに、X線検査やCT検査を実施して、気道や肺の状態を確認します。また、喉頭鏡検査を用いて、軟口蓋や喉頭の異常を直接確認し、総合的に診断を行います。
当院では、避妊・去勢手術の際に麻酔下で軟口蓋や喉の状態を評価し、異常が確認された場合には早期の治療をご提案するケースもあります。
治療
短頭種気道症候群の治療は、保存的治療と外科的治療に分かれます。
保存的治療には、体重管理や適切な温度管理、ネブライザーを使った呼吸改善などがあります。しかし、根本的な改善を目指すには手術が必要となる場合が多いです。
外科的治療では、軟口蓋過長症には軟口蓋切除術が行われ、外鼻孔狭窄には外鼻孔拡大術が適用されます。さらに重度の症例では、喉頭の軟骨を一部切除する披裂軟骨切除術や気管切開術などが実施されることもあります。
ご家庭での注意点
家庭でのケアでは、まず体重管理が非常に重要です。肥満になると呼吸への負担が増し、症状が悪化する可能性が高くなります。そのため、食事のカロリーや運動量を適切に管理し、過体重にならないように注意しましょう。
また、暑い環境や激しい運動は呼吸困難を引き起こす恐れがあるため、エアコンなどを活用して適切な温度管理を行い、過度な興奮や運動を避けるようにしましょう。
ストレスも症状が悪化する原因になるので、遊びの時間をうまく取り入れたり、ゆっくりと休養を取れるスペースをつくったりする工夫も大切です。
また、1歳未満の子犬の場合、無駄吠えを抑えることが症状の悪化を防ぐポイントになるため、無駄吠えを減らすことができるようにしつけを行いましょう。
まとめ
短頭種気道症候群は、呼吸器の先天的な構造の異常によって呼吸がしづらくなる病気です。そのままにしておくと悪化してしまうため、早期発見と適切な治療・管理が重要になります。短頭種はとても愛らしい見た目で人気ですが、呼吸に影響を受けやすい犬種でもあります。こうした情報を正しく理解したうえで、ご家庭ではより細やかなケアを心がけて過ごしましょう。
◼️呼吸器疾患に関しては下記の記事でも解説しています
犬の気管虚脱について┃「ガーガー」と呼吸が苦しそう…
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<参考文献>
Brachycephalic obstructive airway syndrome: much more than a surgical problem – PMC (nih.gov)
犬と猫の肥満細胞腫について┃皮膚の赤みや脱毛…もしかしたら悪性腫瘍かも
肥満細胞腫は、犬や猫に発生する悪性腫瘍(がん)の一種です。皮膚にしこりとして現れることが多いですが、内臓に発生する場合もあり、発生部位によって治療方針が異なります。特に悪性度が高い場合、治療が遅れると命に関わる可能性があるため、早期診断・早期治療が大切になります。
今回は、犬と猫の肥満細胞腫について、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。
1.肥満細胞腫とは
2.症状
3.診断
4.治療
5.予後
6.ご家庭での注意点
7.まとめ
肥満細胞腫とは
肥満細胞腫は、肥満細胞(体内の炎症やアレルギー反応に関与する重要な細胞)が異常増殖してできる悪性腫瘍です。
犬では、レトリバー系やフレンチ・ブルドッグなどの犬種で発生リスクが高く、中高齢犬に多くみられます。発生しやすい部位は、腹部や手足などの皮膚(皮膚型)ですが、稀に内臓にも発生することがあり(内臓型)、特に脾臓で見られます。腫瘍の悪性度は1~3のグレードに分類され、グレードが高いほど転移のリスクが高くなります。
一方猫では、中高齢のシャムに多くみられ、額や耳など顔周辺に発生しやすいです。猫の肥満細胞腫は、犬よりも進行が遅いとされています。
症状
皮膚型の場合、皮膚にしこりができ、赤みや脱毛、出血が見られることがあります。これらの症状は、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患と似ているため、見た目だけで判断することは困難です。
それ以外には、「ダリエ徴候」という変化がみられます。これは、皮膚の物理的な刺激に対して肥満細胞が反応することで、しこり周辺の皮膚が赤みを帯びる現象です。また、消化管潰瘍ができて消化器症状が現れたり、出血が治まりづらくなったりするケースもあります。
診断
肥満細胞腫が疑われる場合、まず細胞診を行います。これは、しこりに細い針を刺して細胞を採取し、腫瘍の性質を確認する検査です。
肥満細胞腫が確認された場合、次にステージング検査を行い、腫瘍が局所的か全身に広がっているかを調べます。特に、腹部超音波検査は重要で、内臓の状態や転移の有無を隅々まで確認します。
その後、しこりを切除して生検や病理組織検査を実施します。検査では、しこりとその周辺の組織の様子をみることで、余白をもって腫瘍を取り切れたか、悪性度(グレード)はどうか、といった情報を得ることができます。
また、肥満細胞腫では、c-KIT遺伝子の変異が発症に関与していることが知られており、遺伝子検査も行います。この変異があるかどうかで治療方法が大きく変わります。
治療
当院では、再発防止や治療の成功率向上のために人間の医療に準じた治療を行います。
皮膚型の場合、ステロイドや分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害剤)などの内服で治るケースも多く経験しています。
一方で、進行した場合や複数箇所にしこりがある場合、脾臓にしこりがある場合は、外科的切除を行います。手術が難しい部位や、転移がある場合は、放射線療法や化学療法を併用することも検討します。
なお、全身転移がある場合は、QOL(生活の質)を維持するための支持療法として、皮下点滴や抗ヒスタミン薬、制酸剤の投与を行うこともあります。
予後
予後は、腫瘍のグレード、発生部位、転移の有無、c-KIT遺伝子変異の有無、動物種などによって異なります。
皮膚型でグレードが低く、手術で完全に切除できた場合の予後は非常に良好です。しかし、グレードが高い場合や手術で腫瘍が取り切れなかった場合、再発や転移のリスクが高くなります。また猫の場合、一般的に予後が良く、特に顔周辺に発生する皮膚型の肥満細胞腫は、根治が期待できる場合が多いです。
内臓型の場合は、脾臓や肝臓、リンパ節などに転移するリスクがあり、特に脾臓に発生した場合、出血のリスクがあるため治療中は細心の注意が必要です。
ご家庭での注意点
肥満細胞腫は皮膚に発生することが多いため、ブラッシングやシャンプーの際に皮膚を触ってみて、しこりがないかをチェックしてみましょう。しこりを早期に発見できれば治療の選択肢が広がり、犬や猫の負担を減らすことにもつながります。
また、治療後も再発の可能性があるため、切除した場所や皮膚全体の変化に注意を払い、定期的に動物病院でのチェックを受けるようにしましょう。
まとめ
肥満細胞腫は早期発見・早期治療が重要な病気です。愛犬や愛猫の体にしこりや異常が見つかった場合は、すぐに動物病院を受診し、適切な治療を受けることが必要です。また、治療後も獣医師と綿密に連携しながら健康管理を行うことで、ペットのQOLを維持し、健康な時間を少しでも長くするように心がけましょう。
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<参考文献>
Diagnosis, Prognosis and Treatment of Canine Cutaneous and Subcutaneous Mast Cell Tumors – PubMed (nih.gov)
Mast Cell Tumors in Cats: Clinical update and possible new treatment avenues – Carolyn Henry, Chamisa Herrera, 2013 (sagepub.com)
犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて┃症状に気づかず進行すると歩けなくなることも…
胸腰部椎間板ヘルニアは、犬に多い神経の病気です。軽度であれば背中や腰の痛みがみられるだけですが、治療せずに放置すると進行し、排尿障害の発生や深部痛覚の消失が起こり、最終的には後ろ足がまったく動かなくなることもあります。足腰の健康を長く保つためには、早期発見・早期治療がとても大切になります。
今回は、犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。
1.椎間板ヘルニアとは
2.リスク要因と症状
3.診断
4.治療
5.予後と管理
6.ご家庭での注意点
7.まとめ
椎間板ヘルニアとは
犬の首から背中、腰にかけては椎骨という骨が並び、脊椎を形成して脊髄という太い神経を守っています。また、椎骨と椎骨の間には「椎間板」というクッションのような構造があり、中心部分は髄核、周りは線維輪という組織で構成されています。
椎間板ヘルニアとは、髄核や線維輪が変性し、椎間板の形が変わって脊髄を圧迫することにより発症する病気です。
椎間板ヘルニアは、変性する部分によって「ハンセンⅠ型」と「ハンセンⅡ型」に分類されます。
・ハンセンⅠ型:髄核が変性して線維輪から飛び出し、脊髄を圧迫することで発症します。
・ハンセンⅡ型:線維輪が変性し、脊髄を圧迫することで発症します。
リスク要因と症状
〈ハンセンⅠ型〉
ミニチュア・ダックスフンドやビーグルなどの軟骨異栄養犬種で多く、遺伝が関与しているといわれています。
〈ハンセンⅡ型〉
加齢が関連しており、高齢になるとどの犬種でも発症する可能性があります。
それ以外に、肥満や激しい運動など椎間板に負担がかかる状況も発症リスクを高めることが知られています。
発症初期は軽度の症状として、背中や腰に痛みを覚え、触られるのを嫌がることもあります。進行に伴い、後ろ足の麻痺が始まり、ふらつきや立てない・歩けないといった様子がみられるようになります。最終的には、後ろ足の痛みを感じなくなる場合もあります。
診断
まずは神経学的検査を実施して、神経症状がどの神経のどの場所によって引き起こされているのかを判断します。ふらつきや麻痺といった症状は、他の神経病(変性性脊髄症や脊髄軟化症など)でも現れるので、慎重に判断する必要があります。
特に脊髄軟化症の場合は予後が悪く、1週間ほどで亡くなることが多いため、早期の診断が重要です。さらに、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査を組み合わせて診断します。
治療
椎間板ヘルニアの治療法は、内科的治療と外科的治療に分かれます。症状が軽度であれば内科的治療で大幅に改善する可能性があります。内科的治療には、ステロイドパルス療法やレーザー照射治療などがあり、当院でもこれらの治療で改善した症例が多くあります。
また外科的治療では、背骨の一部を取り除いて脊髄の圧迫を軽減します。具体的には、腹側減圧術、背側椎弓切除術、片側椎弓切除術などの方法があり、これらの治療は、歩行が困難でも力は入る状態のときや、さらに状態が悪化したときに適応されます。
なお、当院では手術を実施する場合、専門医をご紹介しています。
また、術後はリハビリを段階的に開始することで、運動機能の回復に努めます。
予後と管理
内科的治療の場合、椎間板に負担をかけないよう、少なくとも1カ月以上は安静にしていただきながら治療を進めます。ヘルニア自体が完全に治るわけではないため、再発に注意しながら様子をみる必要があります。
外科的治療では、麻痺の重さによっても異なりますが、ほとんどの症例で術前よりも状態が改善します。ただし、外科的治療でも再発の可能性があるので、歩く様子に変化がないかをこまめに確認する必要があります。また、排尿障害が起こる場合は、オムツの着用なども検討します。
また、ご家庭では再発予防に努めることがポイントになります。背中や腰に負担をかけないため、フローリングにマットを敷く、肥満を予防する、激しい運動を避けるなどの対策を取りましょう。
ご家庭での注意点
椎間板ヘルニアは早期発見・早期治療が重要な病気です。特に好発犬種を飼っている場合は、背中や腰に痛みがないか、後ろ足に力が入っているかなどを定期的に確認し、異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。
また、背骨にかかる負担を最小限にするため、抱っこをする際は背中を水平に保ち、下から包み込むように支えましょう。
まとめ
椎間板ヘルニアは犬の運動機能に大きな影響を与える神経の病気です。症状が軽度であれば内科的治療も選択肢の一つになりますので、気になる様子が見られた場合は、早めのご来院をお勧めします。
◼️整形外科に関しては下記の記事でも解説しています。
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<参考文献>
Intervertebral Disk Degeneration in Dogs: Consequences, Diagnosis, Treatment, and Future Directions – Jeffery – 2013 – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library
ACVIM consensus statement on diagnosis and management of acute canine thoracolumbar intervertebral disc extrusion – PMC (nih.gov)
犬と猫の排尿障害について┃命に関わる危険な状態になることも
排尿障害とは、何らかの理由で尿に異常が見られる状態を指します。犬や猫では膀胱結石が原因になることが多いですが、それ以外の病気でも引き起こされることがあります。排尿障害は症状が進行すると、痛みや不快感を伴い、さらには命に関わる場合もあるため、原因を見極めて適切に対処することが重要です。
今回は、犬と猫の排尿障害について、正常な排尿のメカニズムや原因、症状、診断方法、治療方針をお伝えします。
1.正常な排尿のメカニズム
2.排尿障害の種類
3.排尿障害の主な原因
4.診断
5.治療
6.予防と管理
7.ご家庭での注意点
8.まとめ
正常な排尿のメカニズム
尿は腎臓でつくられ、ろ過された後、尿管を通って膀胱に蓄えられます。そして、尿道を通じて体外に排出されます。
膀胱に尿がたまると大脳で尿意を感じ、排尿反射という脳幹の神経を介した反応で、膀胱の筋肉が収縮し、尿道の筋肉が緩むことで排尿が行われます。
排尿障害の種類
排尿障害には以下のような種類があります。
・頻尿:排尿する回数が通常より多い状態
・排尿困難:尿がほとんど、あるいはまったく出ない状態
・尿失禁:自分の意思に関係なく尿が出てしまう状態
・血尿:尿に血が混じる状態
・多尿・乏尿:尿の量が通常より多い(多尿)または少ない(乏尿)状態
排尿障害の主な原因
排尿障害は以下のような病気が原因で起こることがあります。
・感染症:膀胱炎や尿道炎など
・結石:膀胱結石や尿路結石など
・腫瘍:膀胱の腫瘍(移行上皮癌など)
・神経学的疾患:排尿をつかさどる神経の障害(椎間板ヘルニアなど)
・先天性異常:膀胱膣ろうや膀胱子宮ろうなど、膀胱と他の臓器がつながってしまう状態
・ホルモン異常:メスのエストロゲン濃度の低下やクッシング症候群など
・代謝性疾患:糖尿病や慢性腎臓病など
・会陰ヘルニア
・過度の踏ん張りによる膀胱位置の変化
<犬特有の排尿障害>
・前立腺疾患(前立腺肥大など):未去勢のオス犬でよくみられる
・尿道狭窄:腫瘍や尿路感染症に伴ってみられます
<猫特有の排尿障害>
・特発性膀胱炎:原因が特定できず、再発することが多い
・尿道閉塞:結石などが尿道に詰まり、尿がまったく出なくなる状態
診断
尿に異常がみられたら、問診や身体検査に加え、尿検査、血液検査、画像診断(X線、超音波、CTなど)、膀胱鏡検査を組み合わせて診断します。
治療
排尿障害はさまざまな原因によって起こるため、その原因に応じて異なります。
例えば、感染症の場合は抗生物質を投与し、尿路結石が原因の場合は、食事療法によって溶解させます。
その他にも、対症療法や手術(膀胱の腹壁固定や尿道のステント設置など)を検討する場合もあります。
予防と管理
感染症や結石による排尿障害を防ぐためには、水分を十分に摂取させることが大切です。水を飲んで排尿することで、尿路内に病原体や結石がたまりにくくなります。
(排尿困難の動物の場合、水分の与えすぎは逆効果になるため要注意)
水分摂取を促すための工夫として、ウェットフードを与えたり、飲み水の場所を増やしたりすることが有効です。
また、定期的な健康診断を受けることで、見逃しがちな異常を早期に発見し、症状が軽いうちに治療を始められます。
犬と猫の健康診断について┃1日でも長く愛犬愛猫と暮らすためにも…
ご家庭での注意点
ご家庭では愛犬・愛猫の排尿パターンをよく観察していただき、少しでも異変を感じたらすぐに獣医師に相談しましょう。
また、特に猫ではストレスが特発性膀胱炎の発症に関わるといわれているため、トイレをきれいにする、好みのトイレを用意する、新鮮な水を常に準備しておくなど基本的な環境の整備も不可欠です。
まとめ
原因は多岐にわたるため、自己判断せずに動物病院を受診し、しっかりと検査を行って原因を特定することが重要です。排尿障害は、尿の量や色、頻度などの変化でわかることが多いため、少しでも気になる点があれば、早めに当院までご相談ください。
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犬のリンパ腫について┃発生率が高い悪性腫瘍(がん)
動物にはいろいろな悪性腫瘍(がん)が発生しますが、その中でも特に発生率が高いのがリンパ腫です。犬のがんのうち、7~24%を占めるともいわれています。リンパ腫にはいくつかのタイプ(型)があり、それによって治療法も異なるため、正確な診断が重要です。また、リンパ節から他の臓器に転移すると全身に影響を及ぼすので、早期診断と早期治療が必要です。
今回は、犬のリンパ腫に関して、その原因や症状、当院での診断・治療法をお伝えします。
1.リンパ腫の種類と原因
2.症状
3.診断
4.ステージング(病期分類)
5.治療
6.ご家庭での注意点
7.まとめ
リンパ腫の種類と原因
リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞の一種ががん化することで発症します。腫瘍が発生する場所によって、以下のように分類されます。
・多中心型:あごの下、脇の下、内股、膝の裏などに発生
・消化器型:消化管に発生
・縦隔型:胸腔内の縦隔に発生
・その他:皮膚、鼻の中、脾臓などに発生
10歳以上の中高齢犬で多いことが知られていますが、生後半年で発症するケースもあり、若い犬でも油断できません。また、レトリーバー種に好発するといわれていますが、どの犬種でも発症する可能性があります。
症状
初期には目立った症状がみられず、なかなか異変に気付かないこともあります。タイプによって、以下のような特徴的な症状が現れます。
・多中心型
体中のリンパ節が腫れます。特に、あごの下、脇の下、内股、膝の裏などをさわると、固くてゴロゴロとしたものを確認できます。犬のリンパ腫の70~85%ほどを占め、一番多く遭遇します。
・消化器型
見た目には変わった様子がありませんが、下痢や嘔吐といった消化器症状が現れます。慢性腸症などの消化器の病気だと思って受診した結果、リンパ腫と診断されることもあります。
・縦隔型
胸水の貯留や呼吸困難が生じることがあります。
診断
動物病院では、身体検査や血液検査、画像検査(レントゲン、超音波、場合によってはCT)などを実施し、総合的に判断します。
また、生検と細胞診(組織や細胞の一部を採取して顕微鏡で観察する検査)を行い、腫瘍の悪性度や細胞のタイプを確認します。
ステージング(病期分類)
リンパ腫は進行度合いによって、以下のようなステージに分類されます。
ステージ1:1つのリンパ節または組織に限って存在する(骨髄を除く)
ステージ2:所属リンパ節に転移している
ステージ3:全身のリンパ節に転移している
ステージ4:肝臓や脾臓にまで転移している
ステージ5:血液の異変による症状が現れ、他の臓器に転移している
また、サブステージとして以下の基準があります。
A:全身症状なし
B:全身症状あり
ステージが上がるほど予後は悪くなるため、早めの治療が非常に重要です。治療せずにいると、4~6週間ほどで亡くなってしまうことが知られています。また、一般的に、オスよりメス、大型犬より小型犬の方が予後は良いとされています。
治療
リンパ腫は現状の獣医療では根治が不可能です。
治療の目的は良好なQOL(生活の質)を維持することで、少しでも長く元気な状態で生活をしていただくことです。
治療の選択肢には以下のものがあります。
・化学療法(抗がん剤治療)
治療によく反応しますが、再発することが多いです。人間の場合は骨髄移植などで完治を目指せますが、動物では難しいため、これ以上悪化させないことを目標にして実施します。
・免疫療法
当院では、フアイア(TPG-1)という免疫力をサポートする成分を含むサプリメントを活用しています。免疫力を高めることで、がんに対して有効に働くことを示す論文も出ています。
・緩和ケア
痛みやだるさなどの不快感を和らげたり、食事を取りやすくなるようにサポートすることで、QOLを保ちます。
・食事療法
自力で食事をとれない場合、流動食を管(フィーディングチューブ)から摂取させることで、必要な栄養を補給します。この治療に抵抗がある飼い主様もいらっしゃいますが、おなかがすいても食べられないという状況は、犬にとってとても大きなストレスになります。また、しっかりと栄養補給することで、抗がん剤の副作用を軽減することもできるので、当院では必要があれば実施をお勧めしています。
・放射線療法
全身麻酔が必要なので、何度も実施するのはあまり現実的ではありません。
・外科的治療(手術)
QOLを著しく低下させる場所に腫瘍ができた場合に検討しますが、根治につながるわけではありません。
ご家庭での注意点
リンパ腫は再発する可能性が高いため、治療中は愛犬の様子をよく観察し、異変があればすぐに動物病院を受診しましょう。
抗がん剤の使用により副作用が現れることもあります。下痢や嘔吐は数日で治まることが多いですが、長く続く場合は獣医師に相談してください。また、排せつ物には抗がん剤の成分が残っている可能性があるため、取り扱いには十分注意しましょう。
まとめ
リンパ腫は犬に多いがんの一つです。愛犬と長く健やかに過ごすためには、早期発見・早期治療がカギとなります。そのためには定期的に健康診断を受け、日常生活ではわからない異変も見逃さないようにしましょう。治療は長期にわたることが多いですが、抗がん剤、食事療法、免疫療法などを組み合わせることで、より長くQOLを維持して愛犬との生活を楽しむことができます。
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<参考文献>
Bite-size introduction to canine hematologic malignancies – PMC (nih.gov)
An immune-stimulating proteoglycan from the medicinal mushroom Huaier up-regulates NF-κB and MAPK signaling via Toll-like receptor 4 – PMC (nih.gov)
犬の甲状腺機能低下症について┃健康診断で定期的にホルモン数値を確認しよう
動物が年を取ると、動きがゆったりとしてきたり、なんとなく元気がなくなったり、食べる量が少なくなったりすることがあります。しかし、こうした症状は単なる年のせいではなく、甲状腺機能低下症という病気の可能性もあります。この病気は猫よりも犬に多く、ホルモンの異常によって発生します。ご家庭で異変に気づくのは難しいため、当院では定期的な健康診断でホルモンの数値を確認することをお勧めしています。
今回は、犬の甲状腺機能低下症について、原因や症状、診断方法、治療方針をお伝えします。
1.甲状腺とは
2.原因
3.症状
4.甲状腺機能低下症を放置するリスク
5.診断
6.治療
7.ご家庭での注意点
8.まとめ
甲状腺とは
甲状腺とは、動物の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを合成・分泌している器官で、首元に位置します。
健康な状態では、下垂体や視床下部といった脳に近い器官から分泌される別のホルモンによって、バランスがうまく調整されています。
原因
詳しい原因はよくわかっていませんが、甲状腺自体に異常があり、甲状腺ホルモンの分泌量が減ることで代謝が悪くなって発症するケースが多いと考えられています。
・好発犬種:ドーベルマン、レトリーバー種、アメリカン・コッカー・スパニエルなど
・年齢:中高齢での発症が多いものの、1~2歳の若いうちに発症するケースもあります。
症状
甲状腺機能低下症の主な症状は以下です。
・なんとなく元気がない
・動きたがらない
・食事量が減っているのに太る
・皮膚や被毛の変化(脱毛、皮膚が黒くなる、皮膚が厚くなる)
まれに神経症状(顔面神経の麻痺など)や便秘、心臓機能の変化(脈が遅くなる)などが現れることもあります。
甲状腺機能低下症を放置するリスク
甲状腺機能低下症を適切に治療せずに放置すると、様々な合併症のリスクが高まります。以下に主な併発の可能性がある疾患を挙げます。
・心血管系疾患:甲状腺ホルモンの不足は心臓機能に影響を与え、心拡大や心不全のリスクを高めます。また、動脈硬化や高血圧の原因にもなり得ます。
・神経系疾患:重度の甲状腺機能低下症では、末梢神経障害や中枢神経系の機能低下が起こる可能性があります。これにより、運動機能の低下や認知機能の障害が生じることがあります。
・消化器系疾患:代謝の低下により、便秘や胆のう疾患のリスクが高まります。
・皮膚疾患:皮膚の再生能力が低下し、慢性的な皮膚感染症や難治性の皮膚炎を引き起こす可能性があります。
・貧血:甲状腺ホルモンは赤血球の産生にも関与しているため、重度の甲状腺機能低下症では貧血を引き起こすことがあります。
・肥満とそれに関連する疾患:代謝率の低下により、肥満のリスクが高まります。これは関節炎や糖尿病などの二次的な健康問題を引き起こす可能性があります。
・生殖系の問題:雌犬では不妊や流産のリスクが高まることがあります。
・免疫系の機能低下:甲状腺ホルモンは免疫機能にも影響を与えるため、感染症に対する抵抗力が低下する可能性があります。
これらの疾患を併発することにより、最悪の場合命を落とす可能性もあるため、原因となる甲状腺機能低下症を早期発見、早期治療することは非常に重要です。
診断
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの減少によって起こるため、基本的にはホルモン測定によって診断できます。ホルモン検査では、T4、fT4、TSHなどの数値を測定します。
当院では、健康診断の血液検査の際に、オプションとしてホルモン測定を提案することもあります。健康診断時に発見できると、症状が現れる前に治療を開始できるのが強みです。10歳以上の高齢犬には特にお勧めです。
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また、甲状腺刺激試験や画像診断(超音波やシンチグラフィーなど)を行う場合もあります。
この病気で重要なのは、他の病気との鑑別です。同じように皮膚や被毛の変化を示すホルモンの病気として、クッシング症候群などが挙げられます。その他にも、別の病気が原因で甲状腺ホルモンの数値が下がることもあるため、数値の解釈には細心の注意を払います。
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治療
甲状腺機能低下症に対しては、ホルモン補充療法が実施されます。この治療では、レボチロキシンナトリウムという成分が含まれる薬を投与して、不足した甲状腺ホルモンを補います。症状の改善具合や血液中の甲状腺ホルモン濃度を定期的にチェックし、投薬スケジュールと用量を調整しながら進めていきます。
その際、過剰な投与によるクッシング症候群には注意が必要ですが、発生は比較的まれです。
また、併発疾患があればその治療も行います。
ご家庭での注意点
薬によって代謝が変化するため、状態を確認しながら食事の量を調整しましょう。また、適度な運動によって肥満を防ぐことも重要です。
投薬による治療は生涯続くため、定期的に通院して健康状態をチェックすることも必要不可欠です。途中で投薬を止めると、元の状態に戻ってしまう危険性があります。
まとめ
甲状腺機能低下症は症状に気づきにくい病気です。そのため、当院では定期的な健康診断時にホルモン測定をお勧めしています。また、投薬による治療は生涯続きますが、きちんと続ければ良好にコントロールできる病気です。愛犬に気になる様子があれば、お早めに当院までご相談ください。
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