肥大型心筋症は猫ではとても一般的な心臓の病気で、7歳以上の3割ほどがかかっているともいわれています。発症すると、口を開けて呼吸が苦しそうになる他、突然倒れてぐったりとする場合や、中には突然死してしまうケースもあるため、早期に発見して適切な治療を進めることが重要です。
今回の記事では、猫の肥大型心筋症について、その概要とともに当院での診断・治療法を詳しくご紹介します。
原因
心臓は4つの空間(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれていますが、肥大型心筋症とは、心室の壁の筋肉(心筋)が肥大する(厚みが増す)病気のことです。
中高齢の猫に多く、メインクーンやラグドール、アメリカン・ショートヘアなどの純血種でよくみられることから、遺伝が関わっているのではないかと考えられています。
それ以外にも、甲状腺機能亢進症や全身性の高血圧など、他の病気に関連して発症することもあります。
症状
心室の壁が肥大すると硬く広がりにくくなるため、血圧の上昇や血流のうっ滞などに伴い、様々な症状が現れます。
よくみられる症状として、呼吸が速くなる(頻呼吸)、口を開けて苦しそうに呼吸する、動きたがらないといったものが挙げられます。
その他、血流がうっ滞することで血栓ができやすくなるため、動脈血栓症によって突然後ろ足が動かなくなることもあります。
また、心臓がうまく動かないため失神し、突然倒れこんでしまうケースもあります。
ただし、心筋が肥大していてもこうした症状として現れない場合もあります。
診断
肥大型心筋症を正確に診断するには、画像検査がとても重要です。
病院では心臓の聴診とともに、レントゲンや心臓のエコー検査を実施します。レントゲンでは「バレンタインハート」と呼ばれる、心房が膨らんだ像がみられることがあります。
心臓のエコー検査では、心臓の形や血流、心室の壁の厚み、心房の広さなどを観察します。この中で特に心室の壁の厚みが重要なポイントとなり、5.5mmを超えた場合には肥大型心筋症と判断します。
また、左心室の流出路(血液の通り道)が狭まっているかどうかを確認することも大切で、狭窄している場合は、閉塞性肥大型心筋症という危険な状態と判断できます。


その他にも、高齢の猫では甲状腺機能亢進症の持病をもっている場合も多いため、疑わしい場合はホルモン検査をご提案させていただくこともあります。
治療
病気の進行度合いによっても治療薬は異なりますが、基本的には内科療法によってコントロールします。
肥大型心筋症では、心筋が肥大すると心臓に入る血液の量が減るため、それを補うため猫の体は心拍数を上げようとしますが、心拍数が上がることで心筋が過剰に動いてしまい肥大が加速する、という悪循環に陥ってしまいます。
当院では、まずはその悪循環を断ち切るために、心拍数を落ち着かせる薬の処方をご提案します。一方で、ピモベンダンという、心不全治療薬を優先して処方する動物病院もありますが、閉塞性肥大型心筋症のケースではかえって病気を悪化させる原因となってしまうため、事前にしっかりと診断して適切な治療薬を選択することが重要になります。
また当院では、治療に際して循環器の認定医と連携しているため、安心してご利用ください。
それ以外にも、血栓を溶かす薬や利尿薬などを使用することもあります。
ご家庭での注意点や予防法
肥大型心筋症は、中高齢になるとよく起こる病気なので、これといった症状がなくても定期的に動物病院を受診することが肝心です。その際には、聴診や画像検査(レントゲンとエコー)に加え、血圧測定と心電図検査の実施もご検討ください。なぜなら、血圧と心拍数の数値が両方とも上がってしまうと、すぐに心筋が肥大してしまうため、それらの数値を正確に把握することが重要になるからです。あわせて、腎臓の機能が低下していると血圧が上がりやすいので、慢性腎臓病などの持病をもつ場合には特に注意しましょう。
当院の画像検診についてはこちらのページをご覧ください
まとめ
肥大型心筋症は、根治は難しいものの、早期に診断できればお薬で長期間コントロールできる病気です。定期健診で健康状態をチェックし、早期発見・早期治療を心がけましょう。
当院の診療案内詳細はこちら
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<参考文献>
ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats – PMC (nih.gov)
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7歳以上の犬で44%(7歳未満は18%)、7歳以上の猫で47%(7歳未満は21%)と、約半数のペットが健康診断時に異常や病気が見つかっています。人も同様ですが症状が現れるよりも前に異常を発見し、対処することは健康長寿にとても有効な方法ではないでしょうか。
血液検査では発見ができない病気などはエコー検査などの画像検査が非常に有効です。当院でも心臓疾患や内分泌疾患の患者様を症状発現前にたくさん発見させてもらっております。
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さらにワンちゃんネコちゃんにとって一年は約4歳程度の加齢をしていきます
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そういった視点から当院では若い子は年に一回、7歳以上で半年に一回の総合的な健康診断を推奨させていただいております。
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猫の肥大型心筋症について┃7歳以上の3割ほどが発症
肥大型心筋症は猫ではとても一般的な心臓の病気で、7歳以上の3割ほどがかかっているともいわれています。発症すると、口を開けて呼吸が苦しそうになる他、突然倒れてぐったりとする場合や、中には突然死してしまうケースもあるため、早期に発見して適切な治療を進めることが重要です。
今回の記事では、猫の肥大型心筋症について、その概要とともに当院での診断・治療法を詳しくご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.ご家庭での注意点や予防法
6.まとめ
原因
心臓は4つの空間(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれていますが、肥大型心筋症とは、心室の壁の筋肉(心筋)が肥大する(厚みが増す)病気のことです。
中高齢の猫に多く、メインクーンやラグドール、アメリカン・ショートヘアなどの純血種でよくみられることから、遺伝が関わっているのではないかと考えられています。
それ以外にも、甲状腺機能亢進症や全身性の高血圧など、他の病気に関連して発症することもあります。
症状
心室の壁が肥大すると硬く広がりにくくなるため、血圧の上昇や血流のうっ滞などに伴い、様々な症状が現れます。
よくみられる症状として、呼吸が速くなる(頻呼吸)、口を開けて苦しそうに呼吸する、動きたがらないといったものが挙げられます。
その他、血流がうっ滞することで血栓ができやすくなるため、動脈血栓症によって突然後ろ足が動かなくなることもあります。
また、心臓がうまく動かないため失神し、突然倒れこんでしまうケースもあります。
ただし、心筋が肥大していてもこうした症状として現れない場合もあります。
診断
肥大型心筋症を正確に診断するには、画像検査がとても重要です。
病院では心臓の聴診とともに、レントゲンや心臓のエコー検査を実施します。レントゲンでは「バレンタインハート」と呼ばれる、心房が膨らんだ像がみられることがあります。
心臓のエコー検査では、心臓の形や血流、心室の壁の厚み、心房の広さなどを観察します。この中で特に心室の壁の厚みが重要なポイントとなり、5.5mmを超えた場合には肥大型心筋症と判断します。
また、左心室の流出路(血液の通り道)が狭まっているかどうかを確認することも大切で、狭窄している場合は、閉塞性肥大型心筋症という危険な状態と判断できます。
その他にも、高齢の猫では甲状腺機能亢進症の持病をもっている場合も多いため、疑わしい場合はホルモン検査をご提案させていただくこともあります。
治療
病気の進行度合いによっても治療薬は異なりますが、基本的には内科療法によってコントロールします。
肥大型心筋症では、心筋が肥大すると心臓に入る血液の量が減るため、それを補うため猫の体は心拍数を上げようとしますが、心拍数が上がることで心筋が過剰に動いてしまい肥大が加速する、という悪循環に陥ってしまいます。
当院では、まずはその悪循環を断ち切るために、心拍数を落ち着かせる薬の処方をご提案します。一方で、ピモベンダンという、心不全治療薬を優先して処方する動物病院もありますが、閉塞性肥大型心筋症のケースではかえって病気を悪化させる原因となってしまうため、事前にしっかりと診断して適切な治療薬を選択することが重要になります。
また当院では、治療に際して循環器の認定医と連携しているため、安心してご利用ください。
それ以外にも、血栓を溶かす薬や利尿薬などを使用することもあります。
ご家庭での注意点や予防法
肥大型心筋症は、中高齢になるとよく起こる病気なので、これといった症状がなくても定期的に動物病院を受診することが肝心です。その際には、聴診や画像検査(レントゲンとエコー)に加え、血圧測定と心電図検査の実施もご検討ください。なぜなら、血圧と心拍数の数値が両方とも上がってしまうと、すぐに心筋が肥大してしまうため、それらの数値を正確に把握することが重要になるからです。あわせて、腎臓の機能が低下していると血圧が上がりやすいので、慢性腎臓病などの持病をもつ場合には特に注意しましょう。
当院の画像検診についてはこちらのページをご覧ください
まとめ
肥大型心筋症は、根治は難しいものの、早期に診断できればお薬で長期間コントロールできる病気です。定期健診で健康状態をチェックし、早期発見・早期治療を心がけましょう。
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<参考文献>
ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats – PMC (nih.gov)
犬のレッグ・ペルテスについて┃骨の一部が壊死してしまう病気
レッグ・カルベ・ペルテス病(ペルテス病やレッグ・ペルテスともいいます)は成長期の小型犬に発生する病気で、その発生機序や発生部位から、大腿骨頭無菌性壊死症あるいは虚血性大腿骨頭壊死とも表現されます。はじめは歩き方に異常がみられる程度ですが、そのままにしていても良くなることはないため、早期発見・早期治療が肝心です。
今回の記事では、犬のレッグ・ペルテスの原因や症状だけでなく、当院での治療方針についてご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ
原因
レッグ・ペルテスとは、後ろ足の大腿骨頭(大腿骨の付け根にある球状の部分)に血液が供給されないことで、壊死を引き起こす病気です。
今のところ明確な原因はよくわかっていませんが、ホルモンや遺伝、構造的な問題などが影響しているのではないかといわれています。
また、好発犬種としてトイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、テリア種などの小型犬に多くみられており、1歳未満の成長期に多く発症します。
症状
初期には、壊死した大腿骨頭をもつ側の足をかばうように歩きます。治療せずにいると状態が悪化し、大腿骨頭の変形や骨折にまで至ることもあります。また、壊死が進むと関節に痛みを覚えて、足を地面に着けることを嫌がり、足を挙げるようになるため、足の筋肉がやせ細っていきます。
ちなみに、大腿骨頭の壊死は通常片側に発生しますが、左右両方に起こってしまうケースもあります。
診断
診察では、歩き方や左右の足の筋肉量を注意深く観察し、触診で関節の痛みやズレがないかを調べます。
レッグ・ペルテスでは、股関節の後方伸展時に痛みが生じることが特徴的です。
また骨や関節の状態を把握するには、X線検査が有用で、当院でも基本的にはX線検査の情報を元に、治療方針を考えていきます。
レッグ・ペルテスの場合、X線検査で大腿骨頭が変形していたり、壊死によってモヤがかかったり、斑点状に写ったりします。ただし、確定診断には病理検査(実際の組織を顕微鏡で観察する検査)が必要になります。
治療
当院では、痛みがあまり強くなければ内科療法を選択しています。
具体的には、痛みを和らげる薬の投与や運動の制限、レーザーを使った治療などが挙げられます。これらの治療をしても症状が悪化してしまったり、初診時から強い痛みがあったりする場合は、手術による治療が勧められます。
当院の投薬治療においては、内服薬の他、月に1度投与するタイプの注射薬の用意もございます。
また、お勧めのサプリメントのご紹介も可能ですので、お気軽にご相談ください。
手術の場合当院では、壊死した大腿骨頭を取り除く方法(大腿骨頭切除術)を用いています。大腿骨頭は腿や腰の筋肉によっておおわれていますが、当院では手術による痛みを最小限にするとともに、術後のリハビリ期間を短縮する目的で、これらの筋肉をなるべく切らずに手術するよう心がけています。
また、術後には積極的なリハビリが必要で、肥満体型の場合はダイエットをあわせてご提案する場合もございます。
当院の外科手術についてはこちらのページをご覧ください
予防法やご家庭での注意点
遺伝などが関係すると考えられているため、予防は困難です。
しかし、一度足の筋肉が衰えてしまうと、術後のリハビリ期間が長くなってしまうため、早期発見・早期治療が重要になります。
まとめ
レッグ・ペルテスは成長期の小型犬で多い病気です。早期発見・早期治療がポイントなので、今回ご紹介した好発犬種を飼われていて歩く様子が気になる場合は、早めに動物病院を受診することをお勧めします。
◼️整形外科に関しては下記の記事でも解説しています。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)について
犬の橈尺骨骨折について
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<参考文献>
Legg Calvé Perthes disease in the dog – ScienceDirect
愛玩動物看護師と動物看護スタッフの違いとは?
突然ですが、愛玩(あいがん)動物看護師と動物看護スタッフの違いを理解されている飼い主様はいらっしゃいますか?
実は近年、愛玩動物看護師法という法律が制定され、その違いが文書によって明確になりました。愛玩動物看護師はこの法律に基づいた国家資格となり、その他の業務を動物看護スタッフが担当することになりました。今回の記事では、国家資格化の経緯や動物病院での業務の変化についてまとめました。
1.国家資格化の経緯
2.愛玩動物看護師ができることと動物看護スタッフの業務
3.愛玩動物看護師が飼い主様に与えるメリット
4.まとめ
国家資格化の経緯
今まで動物看護師は民間の認定資格であって、国家資格ではありませんでした。そうした状況を改善するため、令和4年5月に「愛玩動物看護師法」という法律が施行され、令和5年2月19日に第1回目の国家試験が開催されました。
この国家試験に合格した動物看護師だけが、同年4月から「愛玩動物看護師」として働くことができています。また法律が整備されたことで、愛玩動物看護師ができる業務と、獣医師・動物看護スタッフがする業務が明確になりました。
愛玩動物看護師ができることと動物看護スタッフの業務
愛玩動物看護師法によって、愛玩動物看護師は以下の3つの業務ができると定められています。
1.愛玩動物の診療の補助
2.愛玩動物の世話やその他の看護
3.愛玩動物の愛護・適正な飼養に関わる助言やその他の支援
特に①の診療の補助ができるのは獣医師の他に、愛玩動物看護師の資格をもった人だけです。具体的には獣医師の指示のもとであれば、採血や投薬(補液も含まれます)、マイクロチップの挿入、カテーテルによる採尿などができるようになりました。
なお、レントゲンの撮影や手術、ワクチン接種など、動物への影響が大きい業務は引き続き獣医師のみが対応しています。
動物看護スタッフは、診療の補助以外の業務(入院動物のお世話、検査機器のセッティング、薬品の管理、受付対応など)を担当し、動物病院全体のサポートを受け持つようになりました。
愛玩動物看護師が飼い主様に与えるメリット
愛玩動物看護師が病院に所属することによる飼い主様メリットとしては、以下の3点が挙げられます。
①より高い品質の獣医療の提供
専門的な知識、高い技術力を持つ愛玩動物看護師が病院スタッフの一員として加わることで、チーム獣医療体制が充実し、より高品質な獣医療のご提供が可能となります。具体的には、従来の動物看護スタッフと比較して自身の判断で業務を行える範囲が広がったため、迅速な判断を要する重篤な患者様の診療を行う場合などで命を救える可能性を高めることができます。
②診療の待ち時間短縮
補液や採血などを愛玩動物看護師が対応できるようになったため、愛玩動物看護師の対応で問題ないという方は、獣医師の手が空いていない場合でも、お待たせすることなく対応できるケースもあります。
③飼い主様が病院を選ぶ基準の一つになる
また、「愛玩動物看護師が在籍している」=「国が定めた、看護に関する知識をきちんと習得したスタッフが在籍している」という証明になるため、「スタッフの質が高い病院に通いたい」というニーズを持つ飼い主様が病院を選ぶ際の一つの基準にもなります。
まとめ
動物看護師は人の看護師のように国家資格化され、今まで以上に専門的な業務を任されるようになりました。そのため、座学での学習を診療現場に活かして、よりよい獣医療を提供できるように、日々研鑽を積んでいます。なお、動物看護スタッフは診療の補助はできませんが、獣医師・愛玩動物看護師と飼い主様を橋渡しする大切な役割を担っています。病気や普段のケアについてご不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。
ナガワ動物病院では愛玩動物看護師の資格をもったスタッフが在籍中です。また、当院では愛玩動物看護師、動物看護スタッフを募集しています。愛玩動物看護師の資格をもっていなくても、熱意があれば大歓迎です。当院の採用に少しでも興味がある方は、下記の応募フォームからぜひご連絡ください。
https://nagawaah-vet.com/recruit/
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<参考文献>
愛玩動物看護師:農林水産省 (maff.go.jp)
犬の橈尺骨骨折について┃特に小型犬でみられる
犬で頻繁に発生する骨・関節の病気として、橈尺骨(とうしゃっこつ)骨折が挙げられます。橈尺骨とは前腕部の骨で、肘と手首の間にある2本の骨(橈骨と尺骨)のことです。橈尺骨骨折は、家庭内のちょっとした段差などをジャンプしただけでも骨折するケースもあります。また、その治療には手術が必要ですが、若い犬では骨の成長に影響を及ぼす可能性もあるため、骨折の状態にあわせて適切な術式を選ぶ必要があります。
今回は当院での具体的な手術方法だけでなく、ご家庭での注意点についてもご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.ご家庭での注意点や予防法
6.まとめ
原因
比較的多いのは、バギーから自分で飛び降りる、ソファーからジャンプする、抱っこ紐で両手をフリーにしている際に転んでしまうといった、ふとした事故が原因となるパターンです。
骨折は交通事故などで強い力が加わったときに起こると思われがちですが、橈尺骨は小さな力が加わっただけでも折れてしまう可能性があります。
特に、若い小型犬(トイ・プードルやポメラニアン、イタリアン・グレーハウンドなど)は活動的かつ骨が細いので、骨折しやすい傾向があります。
それ以外の年齢・犬種でも、ホルモンの病気などによって骨が弱くなっていると骨折しやすくなります。
症状
骨折すると痛みを感じるため、前足に触られることを嫌がるようになります。
また、患肢に体重をかけられないため、足を上げて歩くようになります。さらに、骨折した箇所は赤く腫れあがって、通常とは異なる方向に曲がっていることもあります。
診断
骨折の診断には、X線検査が役立ちます。
患肢と正常な前足の両方とも撮影して比較することで、骨折部位をより正確に把握することができます。またその際、若い動物では成長板が骨端部(骨の端で関節の近く)にあるので、成長版が傷ついていないかを注意して観察します。ただし、X線検査で診断したときには成長版に異変がなくても、将来的に骨の成長に影響する可能性もあります。
骨折時のX線画像

完治後のX線画像

治療
骨折の治療には、外固定法(ギプスなどを使用して皮膚の外側から固定する方法)あるいは手術による内固定法(プレート、髄内ピン法、インターロッキングなどのインプラントを使用して皮下で骨を直接固定する方法)を用います。
外固定

プレート

髄内ピン

当院では骨折の種類や部位、犬の年齢などを考慮して治療法を使い分けています。きれいな横骨折の場合はギプスのみを使用するケースもありますが、斜骨折やらせん骨折の場合は確実に骨を整復させて術後も健康に過ごしてもらうため、プレートを主に用いています。
なお、1歳未満の若齢犬でトイ・プードルなどの小型犬種の場合は、成長板と骨折部位の距離によって、治療法を判断することもあります。
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ご家庭での注意点や予防法
橈尺骨骨折は強い力が加わらなくても、ちょっとした高低差で発生する可能性があるので、抱っこ紐やバギーからはできるだけ飼い主様が降ろしてあげましょう。
また、ソファなどの昇り降りにも、ステップやスロープがあるとより安心できます。
まとめ
橈尺骨骨折は活動的な小型犬に多い疾患です。特に子犬では、将来の骨の成長にも影響してしまうので、ジャンプした後に足を痛がるようであれば早めに動物病院を受診することをお勧めします。
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【年末年始休診のお知らせ】
ナガワ動物病院です
誠に勝手ながら、年末年始の診療は上記の通りお休みさせていただきます。
新年は1月4日(木)からは通常通り暦通りの診察を致します。
この間の救急は、提携救急病院へご連絡ください。
ご迷惑をおかけ致しますが、何卒よろしくお願い致します。
休診期間にも定期的に点滴や包帯など処置が必要な方は、事前に飼い主様に相談して対応させていただきます。
どうしても当院に御用のある患者様は、留守番電話にメッセージをお願いいたします。
可能な限り対応させていただきます。
ホテルご利用の方は、休診期間の間は窓口を午前10時から11時に限定させていただきたく存じます。
ご迷惑おかけしますが、時間内に来院できない際は、出発の前日お預け、帰宅の翌日お迎えの予約にして対応いただくようお願いいたします。
本年も大変お世話になりました。
みなさま、よいお年をお迎えください。
2024年も精一杯頑張ます、よろしくお願いいたします。
スタッフ一同
03-3926-9911
————————
【提携病院】
ER練馬(谷原):03-6913-4160
URL:https://er-animal.jp/er_nerima/
F&S動物病院(往診・電話相談):03-5941-2552
URL:https://help-life.info/
犬の炎症性ポリープについて┃ミニチュア・ダックスフンドによくみられる
犬の炎症性ポリープは大腸に発生するできもの(腫瘤)のことで、中~高齢のミニチュア・ダックスフンドに好発することが特徴です。下痢や血便など、消化器に関連する症状が現れますが、その症状は異物誤飲や悪性腫瘍(がん)、細菌感染といったさまざまな病気にもみられるので、しっかりと検査を行って原因を特定することがとても重要になります。
今回は犬の炎症性ポリープについて、原因や症状とともに、当院での治療法をご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.ご家庭での注意点や予防法
6.まとめ
原因
炎症性ポリープが発生する原因はよくわかっていませんが、国内のミニチュア・ダックスフンドによくみられることから、遺伝による免疫機能の異常が関わっていると考えられています。
また、ポリープが癌化することも知られています。
症状
大腸(結腸と直腸)に大小さまざまなポリープ(ボコボコとしたできもの)ができるため、下痢や軟便、血便といった消化器症状が現れます。
診断
炎症性ポリープに限らず、便の異常を訴えて来院された場合、多くは直腸内診(直腸に指を入れて消化管壁を触る検査)を実施します。
加えて、血液検査やX線検査、エコーなどで全身の状態も確認します。実際に触り凸凹の感触があった場合には、消化管内視鏡で中の様子を観察することもあります。ただし、大腸にボコボコとしたできものが発見できたとしても、炎症性ポリープと診断することはできません。というのも、大腸では炎症性ポリープの他にも腺腫などの良性腫瘍や、腺癌あるいはリンパ腫といった悪性腫瘍が発生することもあり、これらは見た目が非常に似ているからです。そのため、正確に診断するには消化管内視鏡を介してできものの一部を採取し、外部機関に病理検査を依頼する必要があります。
治療
治療の選択肢は、内科療法と外科療法(手術)の2つに分けられます。
炎症性ポリープは免疫機能の異常によって発生すると考えられているため、ステロイドや免疫抑制剤を利用しますが、再発してしまうことが多いため、当院では手術による治療をお勧めしています。術式はさまざまありますが、当院では基本的に直腸プルスルー術というものを採用しており、これは肛門から直腸の粘膜ごと引き抜く術式です。
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また手術後の管理がとても大切で、再発しないようにステロイドや免疫抑制剤を継続的に投与する必要があります。
ご家庭での注意点や予防法
発症には遺伝が関わっているといわれているため、確実な予防手段はありません。好発犬種を飼育していて、慢性的に下痢や軟便などがみられる場合には、早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
下痢などの消化器症状は、単にお腹の調子が悪いときだけでなく、炎症性ポリープやその他の腫瘍などの重大な病気でも現れます。ご家庭で判断することは難しいので、症状が続く場合は炎症性ポリープなども疑って動物病院を受診することをお勧めします。
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<参考文献>
Histopathologic Features of Colorectal Adenoma and Adenocarcinoma Developing Within Inflammatory Polyps in Miniature Dachshunds – Tsubasa Saito, James K. Chambers, Ko Nakashima, Eri Uchida, Koichi Ohno, Hajime Tsujimoto, Kazuyuki Uchida, Hiroyuki Nakayama, 2018 (sagepub.com)
Comparison of the efficacy of cyclosporine and leflunomide in treating inflammatory colorectal polyps in miniature dachshunds – PMC (nih.gov)
犬と猫のチェリーアイについて┃目頭に赤い腫れがみえる
チェリーアイとは、通常目頭の奥に収まっている第三眼瞼腺(だいさんがんけんせん)が、まぶたの外へと飛び出すことで、目頭がさくらんぼのように赤く腫れる病気のことです。命にかかわるようなことはありませんが、放っておくと目の炎症にもつながってしまうため、早めの治療が肝心です。
今回は犬と猫のチェリーアイについて、なぜ起こるのかを詳しく解説するとともに、典型的な症状や当院での治療法をご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.ご家庭での注意点や予防法
6.まとめ
原因
まぶたのことを眼瞼(がんけん)と呼びますが、犬や猫では上下のまぶたの他に、瞬膜(第三眼瞼)という眼瞼をもっています。瞬膜は正常であれば目頭の奥に隠れていてほとんどみえませんが、瞬膜の分泌腺(第三眼瞼腺)がまぶたの外側に飛び出てしまうことでチェリーアイを起こします。また別名、第三眼瞼腺脱出ともいいます。
チェリーアイの原因は分かっていませんが、遺伝やケガ、炎症などによって、第三眼瞼腺と瞬膜をつなぎとめる組織の力が弱まる(あるいは傷つく)ことで発症すると考えられています。
また2歳未満の若い犬での発生が一般的で、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやビーグル、ボストン・テリアといった中型犬でよくみられます。特に犬で多いことが知られていますが、猫でも発症します。
症状
チェリーアイの最も明確な症状は、目頭に赤い腫れがみられることです。はじめは違和感や不快感を覚えるだけで、ほとんど痛みを感じませんが、自分で引っかいたり擦りつけたりすると第三眼瞼腺が傷つくおそれもあります。さらに長期化すると角膜炎や結膜炎に発展して痛みを生じ、目が赤くなったり、目に触られることを嫌がったりします。
また第三眼瞼腺はいわゆる涙腺の1つで、涙の30~60%ほどを作っているといわれているため、脱出した第三眼瞼腺が外から刺激を受けることで涙が過剰に出てしまう状態が続きます。
診断
目頭から赤色のものが飛び出していれば、視診だけでもチェリーアイと推測できます。
ただし、目の腫瘍の可能性もあるため、特に中~高齢の犬や猫では手術で瞬膜線の一部を取り、組織検査を実施する必要があります。
治療
治療にはいくつか選択肢がありますが、当院ではまずステロイドの点眼薬をお試しいただき、すぐに治るようであれば様子をみて治療を終了とします。
点眼で治らなければステロイドの全身投与を試み、それでも再発する場合には手術を実施します。ただし、好発犬種であったり、エリザベスカラーがつけられなかったりする場合には、最初から手術をご提案するケースもあります。手術には様々な術式がありますが、いずれも第三眼瞼腺を正常な位置に戻して固定するものです。なお、第三眼瞼腺を切除すると涙の量が減少してドライアイを招くため、最近では推奨されていません。
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また重度角膜潰瘍の記事でもお伝えしたとおり、目の病気はエリザベスカラーの素材や装着の可否も重要です。適切なエリザベスカラーを装着することで治療しやすくなり、治療期間も短縮できます。
ご家庭での注意点や予防法
遺伝が発症にかかわっているといわれているため、具体的な予防手段はありません。しかし、定期的な眼科検査を受けることで病気を早期に発見し、早期に適切な治療を開始することができます。
発症してから時間がたつと、角膜炎や結膜炎に発展するため、目の赤みや腫れなど、いつもと異なる症状を発見した場合は、早急に獣医師の診断を受けることが重要です。
まとめ
チェリーアイだけでなく、目の病気は早めの対処が大切です。普段から愛犬・愛猫の様子をよく観察して、少しでも異常がみられたらすぐに動物病院を受診しましょう。
◼️目の病気に関してはこちらのページでも解説しています
犬と猫の重度角膜潰瘍について
犬の白内障について
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<参考文献>
Breed and conformational predispositions for prolapsed nictitating membrane gland (PNMG) in dogs in the UK: A VetCompass study – PMC (nih.gov)
犬と猫の重度角膜潰瘍について┃不意なケガでも発症する目の病気
犬や猫に多い病気の1つに、角膜潰瘍(潰瘍性角膜炎とも呼びます)が挙げられます。この病気は角膜に傷がついてしまう病気で、その深さによっていくつかに分類されます。軽症例では点眼薬などの内科的治療で対応できますが、重度角膜潰瘍にまで進行すると視覚に影響し、手術が必要になることもあります。
今回は犬や猫の重度角膜潰瘍について、分類ごとの原因や症状だけでなく、ご自宅でケアする際の点眼のコツなどについてご紹介します。
1.角膜の構造と角膜潰瘍の分類
2.原因・症状
3.診断
4.治療
5.まとめ
角膜の構造と角膜潰瘍の分類
目の中には外側から、角膜、水晶体、網膜という構造物があり、角膜は上皮、実質、デスメ膜という3つの層からつくられています。
角膜潰瘍は病変の深さによって、表在性、実質性、デスメ膜瘤、角膜穿孔という4つに分類でき、角膜穿孔にまで至ると失明するおそれもあります。
原因・症状
角膜潰瘍は犬でも猫でも発生しますが、特に犬で多く見られ、猫では猫ヘルペスウイルス1型感染による角膜潰瘍が多いことも特徴です。以下に、分類ごとの原因と症状を解説します。
・表在性角膜潰瘍
角膜表面の上皮が部分的に傷ついている状態です。木の枝やケンカなどによるひっかき傷、逆さまつ毛(眼瞼内反症)による刺激、といった理由で発症します。細菌感染がなければ症状は軽く、目の違和感から目を擦る様子が見られます。
・実質性角膜潰瘍
角膜上皮の傷(潰瘍)が実質にまで到達した状態を指します。表在性角膜潰瘍と同様の原因で発症し、細菌感染により角膜や結膜に炎症を伴っていることも多くあります。炎症によって目が赤くなり、痛みを感じて触られることを嫌がったりします。
・デスメ膜瘤・角膜穿孔(重度角膜潰瘍)
デスメ膜瘤は、潰瘍が深くなりデスメ膜にまで達した状態です。デスメ膜はとても薄い膜のため簡単に破れ、角膜穿孔に至ってしまいます。角膜穿孔まで進行すると、水晶体を保護する液体(眼房水)が外に流れるだけでなく、細菌が目の中にまで感染してしまい、失明する危険性もあります。外観からは目の表面が凹んでいるように見え、強い痛みを生じます。
なお、これらの分類とは別のしくみで発症する、難治性角膜潰瘍という病気もあります。これはボクサーやフレンチ・ブルドッグなどでよくみられ、細菌感染を伴わずに何度も再発してしまうという特徴があります。
加えて、若齢の場合早期に改善する場合もありますが、高齢の場合治療が長期間に及びやすいという特徴があります。
診断
眼専用の機器を用いて、目の表面や内部の様子を観察します。また、フルオレセインという染色液を点眼することで、目の表面のどこに傷があるかを調べます。
治療
・治療方針
軽度であれば抗菌薬や抗炎症薬などを点眼し、症状を和らげながら傷の修復を待ちます。通常、傷の治療を行う場合は血管を使って治療を行いますが、角膜は血液が通らない場所のため、涙を使って治療を行います。重度角膜潰瘍の場合は点眼のみで対処することは難しく、手術が選択されます。
当院では動物の状態や角膜潰瘍の重症度にあわせて、瞬膜フラップ、結膜フラップ、コンタクトレンズの固定などを行います。ただし、手術には費用が生じるだけでなく、動物の体に対する負担も大きくなってしまいます。できればそのような状態になる前にご来院いただき、早期発見・早期治療に努めていただくことをお勧めします。
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・エリザベスカラーの重要性
目の違和感から引っかき、目を傷つけてしまうことを防ぐために、動物病院ではエリザベスカラーを装着することがあります。最近では色々な種類が販売されており、柔らかい素材のものが人気ですが、目の治療には固い素材のものが適しています。柔らかいエリザベスカラーだと十分に目を保護できず、再発してしまう危険性もあるため注意が必要です。
・点眼のコツ
ご自宅で点眼される際には、1日の点眼回数や治療期間を守っていただくことが大切です。動物が点眼を嫌がる場合は、後ろから立膝をつき片方の手で顎を持ち、もう片方の手(利き手)の小指で目を開けつつ、点眼する方法をお試しください。上手にできたらご褒美をあげるようにすると、点眼をすればおやつがもらえると学習し、我慢してくれるようになります。
目薬を差すのが難しい場合は、当院スタッフにご相談ください。
まとめ
角膜潰瘍は不意なケガでも発症します。潰瘍から細菌やウイルスが感染すると痛みを感じ、放置するとすぐに角膜穿孔にまで至ってしまいます。また、治療が遅れた場合、本来透明な角膜が白く残った状態で一生を過ごさなければならないケースもあります。そのため、目に違和感を感じたらすぐにご来院いただき、早めに対処することが大切です。
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<参考文献>
Evaluation of corneal ulcer type, skull conformation, and other risk factors in dogs: A retrospective study of 347 cases – PMC (nih.gov)
Ulcerative Keratitis – ScienceDirect
犬と猫の胆嚢粘液嚢腫について┃初期症状が分かりづらいため定期的な健康診断が重要
犬や猫の体には胆嚢(たんのう)という器官があり、肝臓でつくられた胆汁(たんじゅう)という消化液を蓄えて、消化管に排出する働きをもっています。胆嚢粘液嚢腫は、胆汁がゼリー状に固くなったり、消化管への流出路が詰まったりすることで、胆嚢内に粘液が異常に蓄積してしまうことで起こります。薬や食事管理などの内科療法で治ることもありますが、胆嚢の限界を超えるまで胆汁がたまってしまうと胆嚢が破裂してしまい、命を落とす危険性もあるため注意が必要です。
今回は犬と猫の胆嚢粘液嚢腫について、症状や原因とともに、緊急事態を見逃さないポイントや当院での治療方針をご紹介します。
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ
原因
胆嚢粘液嚢腫の原因はよくわかっていませんが、様々な要素が関連していると考えられています。
具体的には、ホルモンの病気(副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症など)、あるいは脂質異常症による高脂血症などが持病にあると、リスクが高いといわれています。
また、この病気は犬では多いものの猫では比較的まれで、シェットランド・シープドッグは遺伝的に発症しやすいことが知られています。
このような持病や品種とともに、生活環境などの要素も合わさって、元々サラサラとした胆汁がゼリー状に変化することで、胆嚢粘液嚢腫が引き起こされます。
症状
初期にはほとんど症状が現れないため、健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることも珍しくありません。
胆汁がたまっていき消化管に排出できなくなると、嘔吐や下痢、食欲がなくなる、などの症状がみられます。さらに状態が悪化すると、白目や歯茎、尿の色がいつもより黄色っぽくなります(黄疸)。
最終的には胆嚢の粘膜が壊死して胆嚢破裂を起こし、胆汁がお腹の中に流出してしまいます。胆汁は刺激性が強い粘液なので、腹膜炎などを引き起こして強い腹痛や発熱などがみられます。黄疸や強い腹痛などが現れた場合は、胆嚢が破裂している可能性が高いため、早急に動物病院を受診しましょう。
診断
胆嚢粘液嚢腫の診断には、腹部の超音波検査がとても有効です。胆嚢内壁に付着したゼリー状の物質(ムチン)が「キウイフルーツ様」と呼ばれる特徴的な像がみられることが有名ですが、それ以外にも色々なパターンが観察されます。
また血液検査を行うと、肝臓の機能を示す酵素の値(ALPやγGTPなど)が上昇していることがあります。
治療
治療には、内科療法と外科療法(手術)の2つの選択肢があります。
当院では、10歳未満で胆嚢が破裂していない場合には内科療法を、12歳以上または胆嚢が破裂している場合には手術をお勧めしています。
当院の経験上、術後に残った胆管(肝臓と消化管をつなぐ管)が刺激となって腹水がたまることが多いため、内科療法に力を入れています。内科療法では、胆汁の分泌を抑える薬や肝臓を保護する薬を使用します。また持病に高脂血症をもつ犬や猫では、低脂肪食を与えることも重要です。
外科療法では、胆嚢をすべて取り除く方法(胆嚢摘出術)が推奨されています。手術によって根治が望めますが、術後の合併症(膵炎や腹膜炎など)が起こる可能性があります。
予防法やご家庭での注意点
高脂血症などの持病をもつ犬や猫ではリスクが高いため、注意が必要です。ただし、症状が現れないケースもあるため病気を見逃さないためにも、定期的に健康診断を受けていただくことをお勧めします。また、白目や歯茎の粘膜が黄色くなっていた時や、尿が黄色よりもさらに濃い色(紅茶のような色合い)になっている場合、胆嚢が破裂している可能性が高いので、このような様子が見られたらすぐにご来院ください。
まとめ
胆嚢粘液嚢腫は見た目ではわからないことも多い反面、胆嚢破裂にまで進行してしまうと急に症状が悪化し、命を落とす危険もあります。早期発見ができれば必ずしも手術が必要な病気ではないので、治療に不安なことがあれば、お気軽に当院までご相談ください。
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03-3926-9911
<参考文献>
Gallbladder mucocoele: A review – PMC (nih.gov)