子宮蓄膿症とは、犬や猫の子宮の中に膿がたまってしまう病気で、未避妊の中~高齢の雌で多発することが知られています。重症化してしまった場合には命の危険がある一方で、適切な時期の避妊手術によって発症を予防できることがわかっているため、犬や猫の健康を守るためには予防がとても大切です。
今回は子宮蓄膿症について、原因や症状とともに当院での治療法をご紹介します。
原因
子宮蓄膿症は猫よりも犬で頻繁に発生し、さらにほとんどの場合で犬の方が重篤化する傾向があります。また、犬の平均発症年齢は7歳、猫では5、6歳とも報告されているため、中~高齢の動物では注意が必要です。
その原因の詳細はわかっていませんが、ホルモンの影響(プロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンにより子宮の膜が厚くなる)と、細菌感染の影響(大腸菌などの細菌が子宮に感染する)が関係していると考えられています。
症状
子宮蓄膿症の動物には、食欲不振、多飲多尿、頻脈・頻呼吸、嘔吐・下痢などの症状が現れます。さらに、特徴的な症状として陰部から赤茶色の分泌物(膿)が排出されることがあります。
(分泌物がみられない場合もあります)。
治療せずに病気が進行すると、膿がたまって膨らんだ子宮が破裂する危険性や、子宮に感染した細菌が血液を介して他の臓器に渡り、全身の状態が悪化して亡くなってしまう危険性もあります。
診断・治療
当院では、身体検査や血液検査、エコー、レントゲンなど、様々な検査を駆使して子宮蓄膿症を診断しています。その際、避妊手術を受けているかどうかをお伝えいただけると、診断に役立ちます。
治療の選択肢には外科手術と内科療法がありますが、手術により子宮と卵巣を摘出する方が安全で効果的だといわれています。当院でも基本的には手術をお勧めしており、その際にはアリジンという女性ホルモン製剤を使用しています。
というのも、子宮蓄膿症では子宮の組織が変化してもろくなっているため、安全に手術を行うためにも事前に女性ホルモン製剤を投与する方がよいと考えているためです。
この処置によっていったん症状が改善されることもありますが、再発する危険性が残るため、やはり手術によって根治を目指すことを推奨しています。手術には麻酔のリスクが伴いますが、通常は術後1~2日で回復して、2週間程度で健康な状態まで戻ることがほとんどです。
予防法
子宮蓄膿症は避妊手術によって予防できることがわかっています。乳腺腫瘍の記事でもお伝えしましたが、当院では初回の発情が終わって、2回目の発情が始まる前での避妊手術をお勧めしています。その理由として、初回発情前に避妊手術をすることによる排尿障害のリスクがあるのに加え、当院では性成熟が十分ではない(大人の体に成熟しきっていない)状態で手術を行うことには、動物倫理上の問題があると考えているためです。
同じ手術でも、子宮蓄膿症で全身の状態が悪化してしまってから実施するより、若くて健康なうちに行う方がリスクは少ないといえます。
■子宮蓄膿症と同様に避妊手術で予防できる疾患についてはこちらのページで解説しています。
犬と猫の乳腺腫瘍│悪性度が高い場合は手術しても油断せず抗がん剤治療をお勧めします
まとめ
子宮蓄膿症は未避妊のメスの高齢犬で多い危険な病気ですが、避妊手術によって発症を予防できます。予防を行うことが最も重要なポイントなので、適切な時期に避妊手術を受けることを強くお勧めします。
<参考文献>
Pyometra in Small Animals 2.0 – ScienceDirect
Incidence of pyometra in Swedish insured cats – ScienceDirect
Breed Variations in the Incidence of Pyometra and Mammary Tumours in Swedish Dogs – Jitpean – 2012 – Reproduction in Domestic Animals – Wiley Online Library