犬の炎症性ポリープは大腸に発生するできもの(腫瘤)のことで、中~高齢のミニチュア・ダックスフンドに好発することが特徴です。下痢や血便など、消化器に関連する症状が現れますが、その症状は異物誤飲や悪性腫瘍(がん)、細菌感染といったさまざまな病気にもみられるので、しっかりと検査を行って原因を特定することがとても重要になります。
今回は犬の炎症性ポリープについて、原因や症状とともに、当院での治療法をご紹介します。

 

原因

炎症性ポリープが発生する原因はよくわかっていませんが、国内のミニチュア・ダックスフンドによくみられることから、遺伝による免疫機能の異常が関わっていると考えられています
また、ポリープが癌化することも知られています。

症状

大腸(結腸と直腸)に大小さまざまなポリープ(ボコボコとしたできもの)ができるため、下痢や軟便、血便といった消化器症状が現れます。

診断

炎症性ポリープに限らず、便の異常を訴えて来院された場合、多くは直腸内診(直腸に指を入れて消化管壁を触る検査)を実施します
加えて、血液検査やX線検査、エコーなどで全身の状態も確認します。実際に触り凸凹の感触があった場合には、消化管内視鏡で中の様子を観察することもあります。ただし、大腸にボコボコとしたできものが発見できたとしても、炎症性ポリープと診断することはできません。というのも、大腸では炎症性ポリープの他にも腺腫などの良性腫瘍や、腺癌あるいはリンパ腫といった悪性腫瘍が発生することもあり、これらは見た目が非常に似ているからです。そのため、正確に診断するには消化管内視鏡を介してできものの一部を採取し、外部機関に病理検査を依頼する必要があります

治療

治療の選択肢は、内科療法と外科療法(手術)の2つに分けられます。
炎症性ポリープは免疫機能の異常によって発生すると考えられているため、ステロイドや免疫抑制剤を利用しますが、再発してしまうことが多いため、当院では手術による治療をお勧めしています。術式はさまざまありますが、当院では基本的に直腸プルスルー術というものを採用しており、これは肛門から直腸の粘膜ごと引き抜く術式です。

当院の外科手術についてはこちらのページをご覧ください

また手術後の管理がとても大切で、再発しないようにステロイドや免疫抑制剤を継続的に投与する必要があります。

ご家庭での注意点や予防法

発症には遺伝が関わっているといわれているため、確実な予防手段はありません。好発犬種を飼育していて、慢性的に下痢や軟便などがみられる場合には、早めに動物病院を受診しましょう

まとめ

下痢などの消化器症状は、単にお腹の調子が悪いときだけでなく、炎症性ポリープやその他の腫瘍などの重大な病気でも現れます。ご家庭で判断することは難しいので、症状が続く場合は炎症性ポリープなども疑って動物病院を受診することをお勧めします。

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<参考文献>
Histopathologic Features of Colorectal Adenoma and Adenocarcinoma Developing Within Inflammatory Polyps in Miniature Dachshunds – Tsubasa Saito, James K. Chambers, Ko Nakashima, Eri Uchida, Koichi Ohno, Hajime Tsujimoto, Kazuyuki Uchida, Hiroyuki Nakayama, 2018 (sagepub.com)
Comparison of the efficacy of cyclosporine and leflunomide in treating inflammatory colorectal polyps in miniature dachshunds – PMC (nih.gov)

チェリーアイとは、通常目頭の奥に収まっている第三眼瞼腺(だいさんがんけんせん)が、まぶたの外へと飛び出すことで、目頭がさくらんぼのように赤く腫れる病気のことです。命にかかわるようなことはありませんが、放っておくと目の炎症にもつながってしまうため、早めの治療が肝心です。
今回は犬と猫のチェリーアイについて、なぜ起こるのかを詳しく解説するとともに、典型的な症状や当院での治療法をご紹介します。

 

原因

まぶたのことを眼瞼(がんけん)と呼びますが、犬や猫では上下のまぶたの他に、瞬膜(第三眼瞼)という眼瞼をもっています。瞬膜は正常であれば目頭の奥に隠れていてほとんどみえませんが、瞬膜の分泌腺(第三眼瞼腺)がまぶたの外側に飛び出てしまうことでチェリーアイを起こします。また別名、第三眼瞼腺脱出ともいいます。

チェリーアイの原因は分かっていませんが、遺伝やケガ、炎症などによって、第三眼瞼腺と瞬膜をつなぎとめる組織の力が弱まる(あるいは傷つく)ことで発症すると考えられています。

また2歳未満の若い犬での発生が一般的で、特にアメリカン・コッカー・スパニエルやビーグル、ボストン・テリアといった中型犬でよくみられます。特に犬で多いことが知られていますが、猫でも発症します。

症状

チェリーアイの最も明確な症状は、目頭に赤い腫れがみられることです。はじめは違和感や不快感を覚えるだけで、ほとんど痛みを感じませんが、自分で引っかいたり擦りつけたりすると第三眼瞼腺が傷つくおそれもあります。さらに長期化すると角膜炎や結膜炎に発展して痛みを生じ、目が赤くなったり、目に触られることを嫌がったりします
また第三眼瞼腺はいわゆる涙腺の1つで、涙の30~60%ほどを作っているといわれているため、脱出した第三眼瞼腺が外から刺激を受けることで涙が過剰に出てしまう状態が続きます。

診断

目頭から赤色のものが飛び出していれば、視診だけでもチェリーアイと推測できます
ただし、目の腫瘍の可能性もあるため、特に中~高齢の犬や猫では手術で瞬膜線の一部を取り、組織検査を実施する必要があります。

治療

治療にはいくつか選択肢がありますが、当院ではまずステロイドの点眼薬をお試しいただき、すぐに治るようであれば様子をみて治療を終了とします

点眼で治らなければステロイドの全身投与を試み、それでも再発する場合には手術を実施します。ただし、好発犬種であったり、エリザベスカラーがつけられなかったりする場合には、最初から手術をご提案するケースもあります。手術には様々な術式がありますが、いずれも第三眼瞼腺を正常な位置に戻して固定するものです。なお、第三眼瞼腺を切除すると涙の量が減少してドライアイを招くため、最近では推奨されていません。

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また重度角膜潰瘍の記事でもお伝えしたとおり、目の病気はエリザベスカラーの素材や装着の可否も重要です。適切なエリザベスカラーを装着することで治療しやすくなり、治療期間も短縮できます。

ご家庭での注意点や予防法

遺伝が発症にかかわっているといわれているため、具体的な予防手段はありません。しかし、定期的な眼科検査を受けることで病気を早期に発見し、早期に適切な治療を開始することができます

発症してから時間がたつと、角膜炎や結膜炎に発展するため、目の赤みや腫れなど、いつもと異なる症状を発見した場合は、早急に獣医師の診断を受けることが重要です。

まとめ

チェリーアイだけでなく、目の病気は早めの対処が大切です。普段から愛犬・愛猫の様子をよく観察して、少しでも異常がみられたらすぐに動物病院を受診しましょう。

◼️目の病気に関してはこちらのページでも解説しています
犬と猫の重度角膜潰瘍について
犬の白内障について

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<参考文献>
Breed and conformational predispositions for prolapsed nictitating membrane gland (PNMG) in dogs in the UK: A VetCompass study – PMC (nih.gov)

犬や猫に多い病気の1つに、角膜潰瘍(潰瘍性角膜炎とも呼びます)が挙げられます。この病気は角膜に傷がついてしまう病気で、その深さによっていくつかに分類されます。軽症例では点眼薬などの内科的治療で対応できますが、重度角膜潰瘍にまで進行すると視覚に影響し、手術が必要になることもあります。
今回は犬や猫の重度角膜潰瘍について、分類ごとの原因や症状だけでなく、ご自宅でケアする際の点眼のコツなどについてご紹介します。

 

角膜の構造と角膜潰瘍の分類

目の中には外側から、角膜、水晶体、網膜という構造物があり、角膜は上皮、実質、デスメ膜という3つの層からつくられています。
角膜潰瘍は病変の深さによって、表在性、実質性、デスメ膜瘤、角膜穿孔という4つに分類でき、角膜穿孔にまで至ると失明するおそれもあります

原因・症状

角膜潰瘍は犬でも猫でも発生しますが、特に犬で多く見られ、猫では猫ヘルペスウイルス1型感染による角膜潰瘍が多いことも特徴です。以下に、分類ごとの原因と症状を解説します。

表在性角膜潰瘍

角膜表面の上皮が部分的に傷ついている状態です。木の枝やケンカなどによるひっかき傷、逆さまつ毛(眼瞼内反症)による刺激、といった理由で発症します。細菌感染がなければ症状は軽く、目の違和感から目を擦る様子が見られます

実質性角膜潰瘍

角膜上皮の傷(潰瘍)が実質にまで到達した状態を指します。表在性角膜潰瘍と同様の原因で発症し、細菌感染により角膜や結膜に炎症を伴っていることも多くあります。炎症によって目が赤くなり、痛みを感じて触られることを嫌がったりします

デスメ膜瘤・角膜穿孔(重度角膜潰瘍)

デスメ膜瘤は、潰瘍が深くなりデスメ膜にまで達した状態です。デスメ膜はとても薄い膜のため簡単に破れ、角膜穿孔に至ってしまいます。角膜穿孔まで進行すると、水晶体を保護する液体(眼房水)が外に流れるだけでなく、細菌が目の中にまで感染してしまい、失明する危険性もあります。外観からは目の表面が凹んでいるように見え、強い痛みを生じます

なお、これらの分類とは別のしくみで発症する、難治性角膜潰瘍という病気もあります。これはボクサーやフレンチ・ブルドッグなどでよくみられ、細菌感染を伴わずに何度も再発してしまうという特徴があります。

加えて、若齢の場合早期に改善する場合もありますが、高齢の場合治療が長期間に及びやすいという特徴があります。

診断

眼専用の機器を用いて、目の表面や内部の様子を観察します。また、フルオレセインという染色液を点眼することで、目の表面のどこに傷があるかを調べます。

治療

治療方針

軽度であれば抗菌薬や抗炎症薬などを点眼し、症状を和らげながら傷の修復を待ちます。通常、傷の治療を行う場合は血管を使って治療を行いますが、角膜は血液が通らない場所のため、涙を使って治療を行います。重度角膜潰瘍の場合は点眼のみで対処することは難しく、手術が選択されます。

当院では動物の状態や角膜潰瘍の重症度にあわせて、瞬膜フラップ、結膜フラップ、コンタクトレンズの固定などを行います。ただし、手術には費用が生じるだけでなく、動物の体に対する負担も大きくなってしまいます。できればそのような状態になる前にご来院いただき、早期発見・早期治療に努めていただくことをお勧めします。

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エリザベスカラーの重要性

目の違和感から引っかき、目を傷つけてしまうことを防ぐために、動物病院ではエリザベスカラーを装着することがあります。最近では色々な種類が販売されており、柔らかい素材のものが人気ですが、目の治療には固い素材のものが適しています。柔らかいエリザベスカラーだと十分に目を保護できず、再発してしまう危険性もあるため注意が必要です。

点眼のコツ

ご自宅で点眼される際には、1日の点眼回数や治療期間を守っていただくことが大切です。動物が点眼を嫌がる場合は、後ろから立膝をつき片方の手で顎を持ち、もう片方の手(利き手)の小指で目を開けつつ、点眼する方法をお試しください。上手にできたらご褒美をあげるようにすると、点眼をすればおやつがもらえると学習し、我慢してくれるようになります
目薬を差すのが難しい場合は、当院スタッフにご相談ください。

まとめ

角膜潰瘍は不意なケガでも発症します。潰瘍から細菌やウイルスが感染すると痛みを感じ、放置するとすぐに角膜穿孔にまで至ってしまいます。また、治療が遅れた場合、本来透明な角膜が白く残った状態で一生を過ごさなければならないケースもあります。そのため、目に違和感を感じたらすぐにご来院いただき、早めに対処することが大切です。

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<参考文献>
Evaluation of corneal ulcer type, skull conformation, and other risk factors in dogs: A retrospective study of 347 cases – PMC (nih.gov)
Ulcerative Keratitis – ScienceDirect

犬や猫の体には胆嚢(たんのう)という器官があり、肝臓でつくられた胆汁(たんじゅう)という消化液を蓄えて、消化管に排出する働きをもっています。胆嚢粘液嚢腫は、胆汁がゼリー状に固くなったり、消化管への流出路が詰まったりすることで、胆嚢内に粘液が異常に蓄積してしまうことで起こります。薬や食事管理などの内科療法で治ることもありますが、胆嚢の限界を超えるまで胆汁がたまってしまうと胆嚢が破裂してしまい、命を落とす危険性もあるため注意が必要です。
今回は犬と猫の胆嚢粘液嚢腫について、症状や原因とともに、緊急事態を見逃さないポイントや当院での治療方針をご紹介します。

 

原因

胆嚢粘液嚢腫の原因はよくわかっていませんが、様々な要素が関連していると考えられています。
具体的には、ホルモンの病気(副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症など)、あるいは脂質異常症による高脂血症などが持病にあると、リスクが高いといわれています

また、この病気は犬では多いものの猫では比較的まれで、シェットランド・シープドッグは遺伝的に発症しやすいことが知られています。

このような持病や品種とともに、生活環境などの要素も合わさって、元々サラサラとした胆汁がゼリー状に変化することで、胆嚢粘液嚢腫が引き起こされます。

症状

初期にはほとんど症状が現れないため、健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることも珍しくありません。

胆汁がたまっていき消化管に排出できなくなると、嘔吐や下痢、食欲がなくなる、などの症状がみられます。さらに状態が悪化すると、白目や歯茎、尿の色がいつもより黄色っぽくなります(黄疸)

最終的には胆嚢の粘膜が壊死して胆嚢破裂を起こし、胆汁がお腹の中に流出してしまいます。胆汁は刺激性が強い粘液なので、腹膜炎などを引き起こして強い腹痛や発熱などがみられます。黄疸や強い腹痛などが現れた場合は、胆嚢が破裂している可能性が高いため、早急に動物病院を受診しましょう。

診断

胆嚢粘液嚢腫の診断には、腹部の超音波検査がとても有効です。胆嚢内壁に付着したゼリー状の物質(ムチン)が「キウイフルーツ様」と呼ばれる特徴的な像がみられることが有名ですが、それ以外にも色々なパターンが観察されます。

また血液検査を行うと、肝臓の機能を示す酵素の値(ALPやγGTPなど)が上昇していることがあります。

治療

治療には、内科療法と外科療法(手術)の2つの選択肢があります。

当院では、10歳未満で胆嚢が破裂していない場合には内科療法を、12歳以上または胆嚢が破裂している場合には手術をお勧めしています
当院の経験上、術後に残った胆管(肝臓と消化管をつなぐ管)が刺激となって腹水がたまることが多いため、内科療法に力を入れています。内科療法では、胆汁の分泌を抑える薬や肝臓を保護する薬を使用します。また持病に高脂血症をもつ犬や猫では、低脂肪食を与えることも重要です。

外科療法では、胆嚢をすべて取り除く方法(胆嚢摘出術)が推奨されています。手術によって根治が望めますが、術後の合併症(膵炎や腹膜炎など)が起こる可能性があります。

予防法やご家庭での注意点

高脂血症などの持病をもつ犬や猫ではリスクが高いため、注意が必要です。ただし、症状が現れないケースもあるため病気を見逃さないためにも、定期的に健康診断を受けていただくことをお勧めします。また、白目や歯茎の粘膜が黄色くなっていた時や、尿が黄色よりもさらに濃い色(紅茶のような色合い)になっている場合、胆嚢が破裂している可能性が高いので、このような様子が見られたらすぐにご来院ください。

まとめ

胆嚢粘液嚢腫は見た目ではわからないことも多い反面、胆嚢破裂にまで進行してしまうと急に症状が悪化し、命を落とす危険もあります。早期発見ができれば必ずしも手術が必要な病気ではないので、治療に不安なことがあれば、お気軽に当院までご相談ください。
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<参考文献>
Gallbladder mucocoele: A review – PMC (nih.gov)

膀胱結石とは、様々な理由で膀胱に石がたまってしまう病気で、犬・猫ともによく発生します。特にオスでは、石が膀胱から尿道に移動して尿道が詰まりやすく、閉塞が起こると排尿困難になり食欲低下や嘔吐が見られ、放っておくと急性腎不全を発症し死に至る場合もあります
犬や猫の膀胱結石は診断と治療が大切となりますので、今回は当院で採用している検査機器や療法食(フード)についてお伝えします。

 

原因

膀胱結石は、ほとんどが膀胱の中で形成されます。また石にも様々な種類があり、犬や猫ではストルバイトとシュウ酸カルシウムという2つの成分が8~9割を占めます。

ストルバイト結石は、犬ではメスに多く、ブドウ球菌などの細菌に感染することでつくられます。一方猫では性別による差はなく、正確な原因はよくわかっていませんが、細菌が感染していなくても発生します。

また、シュウ酸カルシウム結石は犬・猫ともに高齢のオスで多く、カルシウムやビタミンDなどを過剰に含む食事を与えられることで結石の形成リスクが増大します。犬ではミニチュア・シュナウザーやヨークシャー・テリアなどの小型犬で発生しやすいともいわれています。

犬や猫の尿は、正常であればやや酸性ですが、ストルバイト結石ではアルカリ性に傾くことで発生し、尿が酸性化することで石が溶解します。

症状

症状は尿に関するものが多く、固い結石が膀胱の粘膜を刺激することで、頻尿や血尿、排尿痛などがみられます。
特にオスでは犬・猫ともに陰茎の構造に特徴があるため、メスよりも膀胱の石が尿道に移動して詰まることが多いといわれています(尿道閉塞)。この状態は非常に危険で、急性腎障害や尿毒症といった命の危険に関わる病気に発展するため、注意が必要です。

診断

動物病院では、血液検査や超音波検査、X線検査、尿検査などを組み合わせて診断します。

この中で尿検査は特に重要なのですが、従来は検査を行う獣医師のスキルに左右されて、病気自体を見落としてしまうこともあるのが課題でした。そのため当院では最近、新たな機器(尿沈渣分析装置 IDEXX セディビュー Dx)を導入して、より正確な診断を心がけています。

尿沈渣分析装置 IDEXX セディビュー Dxについては公式ページをご覧ください

また、石の中にはレントゲンに写らない種類(尿酸アンモニウム結石など)もあるため、造影検査を実施することもあります。

治療

緊急の処置が必要ではない場合、まずは内科療法(利尿薬や抗菌薬の投与、食事療法など)を試します
特に食事に関しては、市販のものではなく動物病院専用の療法食をお勧めします。どのフードも尿の排出を促し、尿のpHを調整するように配合されていますが、その成分は微妙に異なります。多くのフードではpH調整をナトリウムで行っていますが、ナトリウムを多量に摂取すると腎機能が悪化する可能性もあるため、長期にわたって使用する場合、当院ではカリウムを主にしたものを採用しています。ただし、こうした療法食は脂質が多く含まれているため、通常の食事と同じように与えると太ってしまうこともあります肥満は膀胱結石のリスクを高めるので、与える量には注意が必要です。

こうした点から当院では、ユリナリーS/O エイジング7+ ドライ(犬)とユリナリーS/O エイジング7+ + CLT ドライ(猫)などの療法食をご提案しています。また、腎不全、膵炎、アレルギーなどの持病をお持ちの方でもご利用いただける、膀胱結石用の療法食を処方可能です。

また、当院には栄養管理アドバイザーが在籍しておりますので、フードや食事に関するご相談がございましたら、お気軽にご相談ください。

ユリナリーS/O エイジング7+ ドライについては公式ページをご覧ください

ユリナリーS/O エイジング7+ + CLT ドライについては公式ページをご覧ください

内科療法がうまくいかない、あるいは尿道閉塞に陥っている場合は、手術によって石を摘出します。
当院でも結石の摘出は対応可能ですので、手術についてご相談がある場合はお問い合わせください。

当院の外科手術についてはこちらのページをご覧ください

予防法

膀胱結石を予防するには、まずは新鮮な水を常に飲める状態にしておくなど、十分な水分摂取が重要です。あわせて、食事内容を見直す、適度な運動で肥満を防ぐ、トイレを清潔に保つといったことも予防のために大切となります。

まとめ

ご家庭の犬や猫の様子を普段から観察し、尿をするときに痛がっていたり、何度もトイレに行ったり、尿に血が混じっていたりする場合には、すぐに動物病院を受診しましょう。

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<参考文献>
Stones in cats and dogs: What can be learnt from them? – PMC (nih.gov)

水頭症とは、何らかの原因で脳室(脳内の空間)に脳脊髄液(脳と脊髄を循環する液体で、脳室から生成される)がたまってしまうことで、脳を圧迫する病気です。猫では少ないものの犬では比較的多く、主に先天性(生まれつき)の原因で発生します。脳の病気は他にもいくつかありますが、この病気を発症した動物には身体的な特徴や特有の症状があり、見分け方を知っていれば、ご家庭でもある程度推測することが可能です。
今回は犬や猫の水頭症について、病気にいち早く気づき、動物病院を受診するためのポイントを中心に解説します。

 

原因

脳には実質と脳室があり、実質は神経細胞や神経膠細胞で構成され、脳室は脳脊髄液で満たされています。

水頭症は、くも膜(脳を包む膜の1つ)での脳脊髄液の吸収不良、中脳水道(脳室と脳室をつなぐ通路)の閉塞、頭蓋の奇形などによって脳室内の圧力が高まることで発症します。そして、脳室が広がるとともに脳の実質が押しつぶされ、様々な神経症状が現れます。水頭症は先天性と後天性に分けられますが、先天性の発生がほとんどで、多くは1歳になる前に発症すると言われています。犬では特にチワワに多いことが有名ですが、それ以外にもトイ・プードルやヨークシャー・テリア、ポメラニアンといった小型犬が好発犬種として知られています。

なお後天性水頭症は、交通事故や高所からの落下によるケガ、脳の腫瘍などによって発しますが、非常にまれです。

症状

先天性水頭症の犬や猫では、脳の実質が押しつぶされて萎縮しているため、学習能力が低い、あるいは体格が小さいといった発育障害を伴っていることが特徴的です。
その他にも、頭がドーム状で大きく丸い、泉門(頭のてっぺんにある骨のない部分)が成長しても開いているため頭頂部を押すとへこむ、両目に斜視がみられる、といった様子も観察されます。

また、脳室の拡大の程度にもよりますが、意識障害や行動異常、けいれん、運動障害などもみられます。

診断

まずは神経学的検査で状態を確認し、頭部のX線検査を実施します。水頭症の犬や猫では頭が「すりガラス」のように見えることから、ある程度の診断は可能ですが、より詳しく精査するためにはCTやMRI検査が必要です。

また補助的ではありますが、泉門が開いている場合は超音波のプローブを当てることで、脳室が広がっている様子を観察することができます。

治療

治療は内科療法と外科療法(手術)に分かれます。
内科療法では免疫抑制剤や利尿薬を投与し、脳脊髄液の量を減少させます。また発作を起こす動物には、抗てんかん薬を使用する場合もあります。

内科療法に反応しない場合は手術を検討しますが、専門的な知識や経験が要求されるため、実際にできる動物病院は限られているのが現状です。しかし、当院では人医療の脳神経外科の先生にご指導いただき、水頭症の手術にも対応しています。具体的には開頭し、V-Pシャント術と呼ばれる術式で脳室と腹腔をつないで、余分な脳脊髄液を腹腔に流す方法を採用しています。

ご家庭での注意点

多くは先天性に発生するため、予防は困難です。しかし好発犬種を飼育されている場合は、身体や頭の大きさ、学習能力、目の様子などを観察していただき、少しでも不安に思う点があれば早めに動物病院を受診しましょう。

また、早期に治療が開始できれば症状を残さず、完治も目指せます。定期的に健康診断を受けて早期発見につなげると良いでしょう。
当院が力を入れている健康診断についてはこちらをご覧ください

まとめ

水頭症は幼いころから発症していることが多く、特に好発犬種では注意する必要があります。手術による治療がうまくいけば、長期にわたって健康に過ごすことができます。当院では水頭症の手術にも力を入れているため、他院で治療が難しいと言われた場合も、お気軽にご相談ください。

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<参考文献>
Prevalence of seizures in dogs and cats with idiopathic internal hydrocephalus and seizure prevalence after implantation of a ventriculo‐peritoneal shunt – PMC (nih.gov)
Congenital Hydrocephalus – ScienceDirect

犬に多い病気の1つが白内障です。この病気は犬の視力に影響するため、進行すると段差につまずいたり、壁にぶつかったりと、日常生活に支障をきたします。高齢になってからだけでなく、若くても発症しさらには糖尿病が関係する場合もあるので、注意が必要です。
今回は白内障について、原因や症状とともに当院での治療法(目薬の処方や手術)をご紹介します。

 

原因

目の中には外側から、角膜、水晶体、網膜という構造物があり、目で見た景色を網膜に映し出すため、水晶体がカメラのレンズのような役割を担っています。
しかし、白内障になると水晶体が濁ってしまうため、視力が低下してしまいます。発症には、遺伝、糖尿病、ぶどう膜炎、外傷、不適切な食事、加齢などが関係していると考えられています
ヨークシャー・テリアやボストン・テリアなどのテリア種は遺伝的に発症しやすいことが知られていますが、どの犬種でも発症する可能性があります。

なお、高齢になると目が白っぽく見えることがありますが、これは核硬化症といって水晶体が硬くなる病気の可能性もあります。見た目ではわかりませんが、白内障と違って視力には影響しないと考えられています。

症状

白内障の症状は病気の進行程度によっても異なりますが、一般的には、初発、未熟、成熟、過熟の4つに分けられます。
初期には視力の低下はほとんど気づかない程度ですが、白濁の範囲が広がるにつれて、壁や物にぶつかる、階段を踏み外す、おもちゃを見失う、などの症状が現れます。水晶体全体が白濁するとほとんど見えなくなり、さらに進行すると目の中で、炎症が起きてしまう危険性もあります。
原因によっても進行の程度は様々ですが、糖尿病性白内障は特に進行が早いといわれていため、持病に糖尿病をもつ犬では注意が必要です。

糖尿病についてはこちらの記事で詳しく解説しています

診断

動物病院では専用の機器を用いて、目の表面や内部の様子を観察します。

突然目が白くなった場合は、全身に影響する糖尿病などの病気が原因でないか確認するために、血液検査をします。

治療

治療には、内科療法と外科療法(手術)の2つの選択肢があります。
内科療法では、点眼薬を処方して病気の進行をコントロールすることを目的としているため、残念ながら根治には至りません。
また、当院ではライトクリーンやD-Smileと呼ばれる点眼薬を使用しています。前者はピレノキシンという成分を含み、加齢による初発白内障の進行を抑えるお薬です。後者はN-アセチルカルノシンという成分を含み、同じ成分を用いた研究では、未熟白内障に対して水晶体の混濁を改善できたという結果も示されています(ページ下部の参考文献参照)。
これらの治療薬は病気が進行してしまうと効果を発揮できないため、早めに治療を開始することをお勧めします

手術では白濁した水晶体を取り除き、新しく人工レンズを入れる白内障出術を行います。当院では眼科用顕微鏡、拡大鏡などの眼科器具を取り揃えているため、手術が可能です。ただし、高齢の犬では手術の難易度や合併症などのリスクに対してQOL(生活の質)の改善があまりみられないため、積極的にはお勧めしないこともあります。
動物の年齢や持病の有無、健康状態などを考慮して、どの治療が動物とご家族にとって最良の選択になるのか、飼い主さんと相談しながら検討させていただいております。

ご家庭での注意点

発症には様々な要素が関係するため、完全な予防は困難です。特に遺伝的に発症しやすい犬種や糖尿病をもつ犬では、日ごろから目の様子を観察し、早期発見・早期治療につなげることが重要です。また、核硬化症と白内障は検査を実施しないと判別できないため、ご自身で判断せず動物病院で受診した方がよいでしょう。

まとめ

白内障は、初期であれば点眼薬でコントロールできる病気です。目の色や歩く様子を普段からよく観察して、疑わしい症状がみられたら早めに動物病院を受診しましょう。

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<参考文献>
The effect of a topical antioxidant formulation including N‐acetyl carnosine on canine cataract: a preliminary study – Williams – 2006 – Veterinary Ophthalmology – Wiley Online Library
Cataracts in 44 dogs (77 eyes): A comparison of outcomes for no treatment, topical medical management, or phacoemulsification with intraocular lens implantation – PMC (nih.gov)

 

床ずれは褥瘡(じょくそう)とも呼ばれ、高齢の犬や猫でよく発生します。病気になっていなくても寝ていることが多くなるため、体重がかかる部分は赤くなり、次第に傷になってしまいます。こうした傷はいったん発生すると治療が困難なため、ご家庭でのケアによって防止することがとても大切です。
今回は高齢の犬や猫で注意すべき床ずれ・褥瘡について、その防止策やご家庭でのケアの方法を中心に解説します。

 

定義・原因

褥瘡に対するケアや考え方は人医療で進んでいるため、ここでは人での情報を中心にお伝えします。
日本褥瘡学会によると、褥瘡とは「寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと」と定義しています。

健康な犬や猫であれば、寝ているときに寝返りをうったり、そもそも横になる時間が短かったりするのですが、骨や関節の病気、神経の病気、がん、あるいは高齢の犬や猫では立ち上がることや寝返りをうつことが困難になります。また、病気や加齢で食欲がなくなって痩せてしまうと、骨や関節が浮き出てしまい、余計に褥瘡が発生しやすくなってしまいます。

分類・症状

NPUAPというアメリカの団体が定義した分類によると、褥瘡は傷の深さから1~4のステージに分類されます。
ステージ1では皮膚に傷はないものの、赤みをおびて指で押しても赤みが引かない、ステージ2では傷が真皮まで到達、ステージ3では脂肪層まで、ステージ4では筋肉や骨にまで傷が進行した状態とされています。ステージが進むにつれて痛みは増し、元気や食欲がなくなる、眠れなくなるといった症状によってQOL(生活の質)が著しく下がってしまいます。

また傷から細菌などの病原体が侵入して、敗血症になることもあるため、注意が必要です。

診断・治療

皮膚の状態やご自宅での過ごし方などから、褥瘡を診断します。

治療には、身体にかかる圧力を軽減するために姿勢維持クッションや介護用マットなどをご提案します
また傷に対しては、包帯やサポーターなどで保護し悪化を防ぎます。ただし、こうした処置によって褥瘡が根治することはほとんどないため、後述する防止策やご家庭でのケアが重要になります。

防止策とご家庭でのケア

高齢の犬や猫で寝ていることが多い、あるいは病気で寝たきりになってしまった場合はマットレスなどを敷いてあげることで褥瘡防止につながります
ある研究では、市販の低反発マットレスを敷くことで犬の身体にかかる圧力を分散できたと報告されています。

また褥瘡は、頬、肩、手首、肘、肋骨、腰、お尻、かかと、膝などの骨が突き出た場所で発生しやすいため、擦れて毛が抜けていないか、皮膚に赤みはないかなど、こまめにチェックすることをお勧めします。

まとめ

当院では、褥瘡の傷が悪化してから来院されるケースも多々経験しています。褥瘡は一度傷がついてしまうと治療は困難なため、皮膚に赤みがみられたら早めに動物病院を受診しましょう。悪化してから来院されて、症状の改善が見られず、結局亡くなるまで褥瘡に悩まされてしまうというケースもよくあります。

また、褥瘡をつくらないために日々のケアも必要不可欠です。ご家庭での対策が重要になりますが、特に寝たきりの場合は飼い主さんへの負担も大きいため、困ったことがあればお気軽にご相談ください。

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<参考文献>
Comparison of the different supports used in veterinary medicine for pressure sore prevention – Caraty – 2019 – Journal of Small Animal Practice – Wiley Online Library
Revised National Pressure Ulcer Advisory Panel Pressure Injury Staging System – PMC (nih.gov)
褥瘡について|日本褥瘡学会 (jspu.org)

暑い日が続いており、飼い主さんだけでなく犬や猫でも熱中症になるケースが多くなります。犬や猫は全身が毛で覆われており、人間のように皮膚から汗をかいて体温を調節できないため、熱中症になりやすい特徴があります。また、症状が重度になると命に関わることもあるため、初期の対応が重要です
今回はその症状や危険性とともに、対処法や予防法についてもお伝えします。

 

熱中症の症状

犬や猫は肉球の表面しか汗をかくことができず、主に呼吸によって体温を調整しています。体温が上がると軽度の熱中症になり、初期には口を開けてハアハアと呼吸する(パンティング)、元気がなくなる、よだれが多く流れるといった症状が現れます
重度になると脱水症状(ふるえやふらつきなど)、チアノーゼ(粘膜の色が青白くなること)などが生じ、早急に対処しなければ、命を落としてしまう危険もあります

熱中症の危険性

人間では暑さ指数(WBGT)といって、温度や湿度によって熱中症のリスクを分類できますが、動物にはそのような指標は現在のところありません。ただ先ほどご説明したように、動物は熱がこもりやすい特徴があるため、人間よりも熱中症にかかるリスクが高いと理解しておくべきでしょう。

人間では暑さ指数が28以上(気温で表すと31℃以上)だと熱中症にかかる人が急増することがわかっているので、犬や猫ではそれよりも厳しい基準25~28(気温で表すと28℃~31℃)を設け、それを超えないようにする必要があります暑さ指数は環境省のHPにて掲載されています)。

また、散歩のときだけでなく車内や室内でも、適切に冷房を使用していないと熱中症になる危険があります。具体的には、気温35℃で駐車した車内の暑さ指数は、窓を閉めてエンジンを止めると、わずか15分で危険なレベルに達するともいわれています。これは人での場合なので、犬や猫ではさらに早い段階で深刻な影響が及ぶと考えられます。

加えて、短頭種と呼ばれる犬種(フレンチブルドッグやパグなど)や大型犬(ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバーなど)は熱中症にかかりやすい特徴があります。また、若齢あるいは高齢、肥満の犬もリスクが高いといわれています。これらの要素は猫でも同様です。

熱中症になってしまったときの対処法

まずは動物の体を冷やすことを優先し、早急に動物病院を受診しましょう。散歩中の場合は、応急処置として風通しがいい日陰に移動し、体に水をかけて冷やすことで体温のさらなる上昇を防ぎます。室内や動物病院への移動中は、冷たいタオルや保冷剤を首や脇の下に入れると、効率よく体温を下げられます。

予防法

犬では、日中暑いときは無理に外出せず、気温が下がった時間帯(早朝や夕方など)を見計らい散歩しましょう。その際は緊急時に備えて、お水を持ち歩くとより安心です。
犬・猫ともに室内飼いの場合は、窓を開けて風通しをよくしたり、冷房で室温を下げたりするとよいでしょう。

環境省は熱中症を予防するため、室温が28℃になるように冷房を使用することを推奨していますが、動物が熱中症になりやすいことを考えると、25℃程度になるよう設定することをお勧めします。冷房の設定温度を25℃にしても室温が25℃になるとは限らないので、温湿度計を置き、生活空間をチェックすると安心です。

また、締め切った車内はすぐに危険な温度まで上昇してしまうので、動物を置き去りにして出かけることは避けましょう

まとめ

犬や猫は暑さに弱い生き物です。外出時には対策を講じ、室内では冷房を適切に使用することで、熱中症を予防しましょう。万が一熱中症になってしまった場合は、冷静に対応してすぐに動物病院を受診してください。

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<参考文献>
Risk Factors for Severe and Fatal Heat-Related Illness in UK Dogs—A VetCompass Study – PMC (nih.gov)
環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数 (env.go.jp)

猫では治療が難しい病気として知られている猫伝染性腹膜炎(FIP)ですが、各国で様々な研究がなされ、最近では薬で治るケースも徐々に増えてきています。今回は猫のFIPに関して、その原因や症状をお伝えするとともに、過去の症例や当院でお勧めしている新たな治療薬についてもご紹介します。
ただし、これらは日本の動物用医薬品として未承認、かつ保険適用外のため、患者さん自身で購入していただくことになる旨、ご注意ください。

 

原因

FIPは猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染によって引き起こされる病気で、すべての年齢で発症する可能性がありますが、特に1歳未満の子猫に多い傾向がみられます。詳しい発生機序はわかっていませんが、猫の免疫状態が関わっていること、猫腸コロナウイルス(FECV)が変異して起こること、ウイルスを含む糞便や唾液を摂取することで感染することなどが考えられています。

症状

FIPはその症状から、滲出型(ウエットタイプ)と非滲出型(ドライタイプ)、あるいは2つが混ざった混合タイプに分けられます。
発熱や食欲の低下、体重の減少といった捉えどころがない症状は、どのタイプでも認められます

ウエットタイプ

・胸水や腹水の貯留
・黄疸
・貧血
・嘔吐
・下痢
・呼吸困難 など

ドライタイプ

・肝臓や腎臓などの臓器に肉芽腫(こぶのようなもの)による機能障害
・麻痺
・痙攣
・目の濁り
・眼振 など

診断

FIPを診断するには、問診、身体検査、画像検査、抗体検査などの結果を総合的に評価する必要があります。ここで注意すべき点として、抗体検査だけではFECVとFIPを完全に区別できないということです。
胸水や腹水を採取できれば、その体液を確認し、抗体検査や遺伝子検査に用いることで、より正確な診断につながります。
あるいは、血液中のAGP(タンパク質の一種)を測定することで、FIPかどうかを判断できます。当院ではFIPの猫を何例も経験しており、これらの検査を実施することで診断を下すことも可能です。

治療

以前までは、FIPに対して有効な治療法はなく一度発症してしまうと死を待つだけの病気として知られていました。ただ、最近ではFIPの治療薬に関する研究が進み、薬が効いて治るケースも出始めており、具体的には、GS-441524などのお薬が知られています。残念ながら日本ではまだ認可されていないのですが、イギリスやオーストラリアではこれらが動物用医薬品として承認され、実際に使用されています。
未承認のため獣医師とご相談の上で、飼い主さん自身でご購入していただく必要がありますが、当院での経験をもとに、どの薬剤がよいかをアドバイスができます。ご購入の際は、いわゆる安価なコピー品のお薬が出回っていることもあるので、ご購入前に当院までご相談ください。また、重症化してしまうとお薬が効きにくくなってしまうため、早期発見・早期治療が大切です。

予防法

FIPVやFECVに感染している猫との接触を防ぐため、室内飼いを徹底することは予防につながります。飼育環境のストレスが免疫に影響する可能性もあるので、トイレや遊び道具などを整備してあげることも大切です。

まとめ

FIPは治療が難しい病気というイメージがあり、もしご自身の猫が発症したら……と考えると、とても不安に思う飼い主さんが多いかと思います。当院では先進の治療を経験しているため、ただ死を待つのではなく、積極的な治療が可能なのに加え、実際に治癒した患者さんの例も複数あります。なにより早期発見が重要になるので、愛猫に異常がみられたらご相談ください。

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<参考文献>
2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines – Vicki Thayer, Susan Gogolski, Sandra Felten, Katrin Hartmann, Melissa Kennedy, Glenn A Olah, 2022 (sagepub.com)
Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis – Niels C Pedersen, Michel Perron, Michael Bannasch, Elizabeth Montgomery, Eisuke Murakami, Molly Liepnieks, Hongwei Liu, 2019 (sagepub.com)
Thirty‐two cats with effusive or non‐effusive feline infectious peritonitis treated with a combination of remdesivir and GS‐441524 – Green – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library