甲状腺は喉の近くにある器官で、代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺機能亢進症は中高齢の猫に多く、甲状腺ホルモンが正常よりもたくさん分泌されることで、痩せているのに食欲がある、攻撃的になるなどの症状が現れます。一見すると元気で健康のように思えますが、病気が悪化すると活動性が過剰になりすぎてしまうため、早期に発見して治療を始める必要があります。
今回は猫の甲状腺機能亢進症について、原因や症状だけでなく、当院での治療法を解説します。
原因
甲状腺機能亢進症は、10歳以上の多くの猫で認められる、中高齢の猫ではとても一般的な病気です。
この病気が起こる原因は詳しくわかっていませんが、年齢や食事内容、飼育環境などの要素が複雑に関係していると考えられています。いくつかの原因によって良性の過形成(甲状腺細胞が増殖して甲状腺が大きくなること)に進行すると、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されはじめます。
症状
甲状腺機能亢進症によくみられる症状として、食欲の増加や体重減少(特に筋肉量の低下)がみられます。これがいわゆる「よく食べるのに痩せる」状態です。
その他には、多飲多尿、攻撃的になる、よく鳴くといった症状も現れます。また、甲状腺機能亢進症の猫では、心拍数が激増することから肥大型心筋症や高血圧症が認められることがあります。
診断
甲状腺機能亢進症の診断には主に血液検査を行います。血液検査ではホルモンの数値(tT4と呼ばれる項目)を測定します。甲状腺機能亢進症の猫では90~95%でtT4値が上昇することが知られています。そのため、tT4の測定結果は診断を下す上で非常に重要な指標となります。
また、実際に猫の首元を触って甲状腺が腫れていないかを確認したり、超音波検査を追加で実施したりすることもあります。
ホルモンの数値は、健康診断で実際に症状がなくても測定することをお勧めします。
当院では健康診断でオプション項目として追加いただけると、通常より費用を抑えて検査が可能です。
当院の血液検査については、こちらのページでも詳しく解説しています
治療
甲状腺機能亢進症の治療には、投薬、食事療法、手術といった3つの選択肢があります。
・投薬(抗甲状腺薬)
抗甲状腺薬にはチアマゾールという成分が含まれており、この成分は甲状腺ホルモンの合成を阻害する役割を担います。以前は人用の錠剤を猫の体重にあわせて分割して使用していたため、薬の粉に触れてしまうことで、人のホルモンへの影響が懸念されていました。
しかし最近では、割る必要がなく表面もコーティングされている、猫専用の抗甲状腺薬が販売されはじめたので、飼い主様への安全性が高まりました。
・食事療法(ヨウ素制限食)
ヨウ素制限食は、甲状腺ホルモンの元となるヨウ素を少なくしたフードで、投薬とくらべて副作用を最小限に抑えることができるメリットがあります。ただし、猫によっては味が好みではなく専用のフードをあまり食べてくれないケースも多いため、注意が必要です。
・手術
まずは投薬か食事療法から治療を始めますが、これらの治療で改善がみられなければ手術を検討します。ただし、手術で甲状腺を取り除いてしまうと上皮小体機能低下症や甲状腺機能低下症になるリスクもあるため、慎重に判断する必要があります。
予防法やご家庭での注意点
活動的で元気だから健康、というわけではなく、猫が高齢になったら甲状腺機能亢進症に気をつける必要があります。
気づかぬ間に病気が進行している可能性があるため、定期的に健康診断を受けていただき、早期発見に努めましょう。
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まとめ
甲状腺機能亢進症は中高齢の猫で一般的な病気です。年をとっても活発に動き回ったり、攻撃的になったりする場合にはこの病気の可能性があります。「元気だから大丈夫」と思わず、積極的に動物病院を受診しましょう。
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