犬に多い病気の1つが白内障です。この病気は犬の視力に影響するため、進行すると段差につまずいたり、壁にぶつかったりと、日常生活に支障をきたします。高齢になってからだけでなく、若くても発症しさらには糖尿病が関係する場合もあるので、注意が必要です。
今回は白内障について、原因や症状とともに当院での治療法(目薬の処方や手術)をご紹介します。

 

原因

目の中には外側から、角膜、水晶体、網膜という構造物があり、目で見た景色を網膜に映し出すため、水晶体がカメラのレンズのような役割を担っています。
しかし、白内障になると水晶体が濁ってしまうため、視力が低下してしまいます。発症には、遺伝、糖尿病、ぶどう膜炎、外傷、不適切な食事、加齢などが関係していると考えられています
ヨークシャー・テリアやボストン・テリアなどのテリア種は遺伝的に発症しやすいことが知られていますが、どの犬種でも発症する可能性があります。

なお、高齢になると目が白っぽく見えることがありますが、これは核硬化症といって水晶体が硬くなる病気の可能性もあります。見た目ではわかりませんが、白内障と違って視力には影響しないと考えられています。

症状

白内障の症状は病気の進行程度によっても異なりますが、一般的には、初発、未熟、成熟、過熟の4つに分けられます。
初期には視力の低下はほとんど気づかない程度ですが、白濁の範囲が広がるにつれて、壁や物にぶつかる、階段を踏み外す、おもちゃを見失う、などの症状が現れます。水晶体全体が白濁するとほとんど見えなくなり、さらに進行すると目の中で、炎症が起きてしまう危険性もあります。
原因によっても進行の程度は様々ですが、糖尿病性白内障は特に進行が早いといわれていため、持病に糖尿病をもつ犬では注意が必要です。

糖尿病についてはこちらの記事で詳しく解説しています

診断

動物病院では専用の機器を用いて、目の表面や内部の様子を観察します。

突然目が白くなった場合は、全身に影響する糖尿病などの病気が原因でないか確認するために、血液検査をします。

治療

治療には、内科療法と外科療法(手術)の2つの選択肢があります。
内科療法では、点眼薬を処方して病気の進行をコントロールすることを目的としているため、残念ながら根治には至りません。
また、当院ではライトクリーンやD-Smileと呼ばれる点眼薬を使用しています。前者はピレノキシンという成分を含み、加齢による初発白内障の進行を抑えるお薬です。後者はN-アセチルカルノシンという成分を含み、同じ成分を用いた研究では、未熟白内障に対して水晶体の混濁を改善できたという結果も示されています(ページ下部の参考文献参照)。
これらの治療薬は病気が進行してしまうと効果を発揮できないため、早めに治療を開始することをお勧めします

手術では白濁した水晶体を取り除き、新しく人工レンズを入れる白内障出術を行います。当院では眼科用顕微鏡、拡大鏡などの眼科器具を取り揃えているため、手術が可能です。ただし、高齢の犬では手術の難易度や合併症などのリスクに対してQOL(生活の質)の改善があまりみられないため、積極的にはお勧めしないこともあります。
動物の年齢や持病の有無、健康状態などを考慮して、どの治療が動物とご家族にとって最良の選択になるのか、飼い主さんと相談しながら検討させていただいております。

ご家庭での注意点

発症には様々な要素が関係するため、完全な予防は困難です。特に遺伝的に発症しやすい犬種や糖尿病をもつ犬では、日ごろから目の様子を観察し、早期発見・早期治療につなげることが重要です。また、核硬化症と白内障は検査を実施しないと判別できないため、ご自身で判断せず動物病院で受診した方がよいでしょう。

まとめ

白内障は、初期であれば点眼薬でコントロールできる病気です。目の色や歩く様子を普段からよく観察して、疑わしい症状がみられたら早めに動物病院を受診しましょう。

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<参考文献>
The effect of a topical antioxidant formulation including N‐acetyl carnosine on canine cataract: a preliminary study – Williams – 2006 – Veterinary Ophthalmology – Wiley Online Library
Cataracts in 44 dogs (77 eyes): A comparison of outcomes for no treatment, topical medical management, or phacoemulsification with intraocular lens implantation – PMC (nih.gov)

 

床ずれは褥瘡(じょくそう)とも呼ばれ、高齢の犬や猫でよく発生します。病気になっていなくても寝ていることが多くなるため、体重がかかる部分は赤くなり、次第に傷になってしまいます。こうした傷はいったん発生すると治療が困難なため、ご家庭でのケアによって防止することがとても大切です。
今回は高齢の犬や猫で注意すべき床ずれ・褥瘡について、その防止策やご家庭でのケアの方法を中心に解説します。

 

定義・原因

褥瘡に対するケアや考え方は人医療で進んでいるため、ここでは人での情報を中心にお伝えします。
日本褥瘡学会によると、褥瘡とは「寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと」と定義しています。

健康な犬や猫であれば、寝ているときに寝返りをうったり、そもそも横になる時間が短かったりするのですが、骨や関節の病気、神経の病気、がん、あるいは高齢の犬や猫では立ち上がることや寝返りをうつことが困難になります。また、病気や加齢で食欲がなくなって痩せてしまうと、骨や関節が浮き出てしまい、余計に褥瘡が発生しやすくなってしまいます。

分類・症状

NPUAPというアメリカの団体が定義した分類によると、褥瘡は傷の深さから1~4のステージに分類されます。
ステージ1では皮膚に傷はないものの、赤みをおびて指で押しても赤みが引かない、ステージ2では傷が真皮まで到達、ステージ3では脂肪層まで、ステージ4では筋肉や骨にまで傷が進行した状態とされています。ステージが進むにつれて痛みは増し、元気や食欲がなくなる、眠れなくなるといった症状によってQOL(生活の質)が著しく下がってしまいます。

また傷から細菌などの病原体が侵入して、敗血症になることもあるため、注意が必要です。

診断・治療

皮膚の状態やご自宅での過ごし方などから、褥瘡を診断します。

治療には、身体にかかる圧力を軽減するために姿勢維持クッションや介護用マットなどをご提案します
また傷に対しては、包帯やサポーターなどで保護し悪化を防ぎます。ただし、こうした処置によって褥瘡が根治することはほとんどないため、後述する防止策やご家庭でのケアが重要になります。

防止策とご家庭でのケア

高齢の犬や猫で寝ていることが多い、あるいは病気で寝たきりになってしまった場合はマットレスなどを敷いてあげることで褥瘡防止につながります
ある研究では、市販の低反発マットレスを敷くことで犬の身体にかかる圧力を分散できたと報告されています。

また褥瘡は、頬、肩、手首、肘、肋骨、腰、お尻、かかと、膝などの骨が突き出た場所で発生しやすいため、擦れて毛が抜けていないか、皮膚に赤みはないかなど、こまめにチェックすることをお勧めします。

まとめ

当院では、褥瘡の傷が悪化してから来院されるケースも多々経験しています。褥瘡は一度傷がついてしまうと治療は困難なため、皮膚に赤みがみられたら早めに動物病院を受診しましょう。悪化してから来院されて、症状の改善が見られず、結局亡くなるまで褥瘡に悩まされてしまうというケースもよくあります。

また、褥瘡をつくらないために日々のケアも必要不可欠です。ご家庭での対策が重要になりますが、特に寝たきりの場合は飼い主さんへの負担も大きいため、困ったことがあればお気軽にご相談ください。

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<参考文献>
Comparison of the different supports used in veterinary medicine for pressure sore prevention – Caraty – 2019 – Journal of Small Animal Practice – Wiley Online Library
Revised National Pressure Ulcer Advisory Panel Pressure Injury Staging System – PMC (nih.gov)
褥瘡について|日本褥瘡学会 (jspu.org)

暑い日が続いており、飼い主さんだけでなく犬や猫でも熱中症になるケースが多くなります。犬や猫は全身が毛で覆われており、人間のように皮膚から汗をかいて体温を調節できないため、熱中症になりやすい特徴があります。また、症状が重度になると命に関わることもあるため、初期の対応が重要です
今回はその症状や危険性とともに、対処法や予防法についてもお伝えします。

 

熱中症の症状

犬や猫は肉球の表面しか汗をかくことができず、主に呼吸によって体温を調整しています。体温が上がると軽度の熱中症になり、初期には口を開けてハアハアと呼吸する(パンティング)、元気がなくなる、よだれが多く流れるといった症状が現れます
重度になると脱水症状(ふるえやふらつきなど)、チアノーゼ(粘膜の色が青白くなること)などが生じ、早急に対処しなければ、命を落としてしまう危険もあります

熱中症の危険性

人間では暑さ指数(WBGT)といって、温度や湿度によって熱中症のリスクを分類できますが、動物にはそのような指標は現在のところありません。ただ先ほどご説明したように、動物は熱がこもりやすい特徴があるため、人間よりも熱中症にかかるリスクが高いと理解しておくべきでしょう。

人間では暑さ指数が28以上(気温で表すと31℃以上)だと熱中症にかかる人が急増することがわかっているので、犬や猫ではそれよりも厳しい基準25~28(気温で表すと28℃~31℃)を設け、それを超えないようにする必要があります暑さ指数は環境省のHPにて掲載されています)。

また、散歩のときだけでなく車内や室内でも、適切に冷房を使用していないと熱中症になる危険があります。具体的には、気温35℃で駐車した車内の暑さ指数は、窓を閉めてエンジンを止めると、わずか15分で危険なレベルに達するともいわれています。これは人での場合なので、犬や猫ではさらに早い段階で深刻な影響が及ぶと考えられます。

加えて、短頭種と呼ばれる犬種(フレンチブルドッグやパグなど)や大型犬(ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバーなど)は熱中症にかかりやすい特徴があります。また、若齢あるいは高齢、肥満の犬もリスクが高いといわれています。これらの要素は猫でも同様です。

熱中症になってしまったときの対処法

まずは動物の体を冷やすことを優先し、早急に動物病院を受診しましょう。散歩中の場合は、応急処置として風通しがいい日陰に移動し、体に水をかけて冷やすことで体温のさらなる上昇を防ぎます。室内や動物病院への移動中は、冷たいタオルや保冷剤を首や脇の下に入れると、効率よく体温を下げられます。

予防法

犬では、日中暑いときは無理に外出せず、気温が下がった時間帯(早朝や夕方など)を見計らい散歩しましょう。その際は緊急時に備えて、お水を持ち歩くとより安心です。
犬・猫ともに室内飼いの場合は、窓を開けて風通しをよくしたり、冷房で室温を下げたりするとよいでしょう。

環境省は熱中症を予防するため、室温が28℃になるように冷房を使用することを推奨していますが、動物が熱中症になりやすいことを考えると、25℃程度になるよう設定することをお勧めします。冷房の設定温度を25℃にしても室温が25℃になるとは限らないので、温湿度計を置き、生活空間をチェックすると安心です。

また、締め切った車内はすぐに危険な温度まで上昇してしまうので、動物を置き去りにして出かけることは避けましょう

まとめ

犬や猫は暑さに弱い生き物です。外出時には対策を講じ、室内では冷房を適切に使用することで、熱中症を予防しましょう。万が一熱中症になってしまった場合は、冷静に対応してすぐに動物病院を受診してください。

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<参考文献>
Risk Factors for Severe and Fatal Heat-Related Illness in UK Dogs—A VetCompass Study – PMC (nih.gov)
環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数 (env.go.jp)

猫では治療が難しい病気として知られている猫伝染性腹膜炎(FIP)ですが、各国で様々な研究がなされ、最近では薬で治るケースも徐々に増えてきています。今回は猫のFIPに関して、その原因や症状をお伝えするとともに、過去の症例や当院でお勧めしている新たな治療薬についてもご紹介します。
ただし、これらは日本の動物用医薬品として未承認、かつ保険適用外のため、患者さん自身で購入していただくことになる旨、ご注意ください。

 

原因

FIPは猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染によって引き起こされる病気で、すべての年齢で発症する可能性がありますが、特に1歳未満の子猫に多い傾向がみられます。詳しい発生機序はわかっていませんが、猫の免疫状態が関わっていること、猫腸コロナウイルス(FECV)が変異して起こること、ウイルスを含む糞便や唾液を摂取することで感染することなどが考えられています。

症状

FIPはその症状から、滲出型(ウエットタイプ)と非滲出型(ドライタイプ)、あるいは2つが混ざった混合タイプに分けられます。
発熱や食欲の低下、体重の減少といった捉えどころがない症状は、どのタイプでも認められます

ウエットタイプ

・胸水や腹水の貯留
・黄疸
・貧血
・嘔吐
・下痢
・呼吸困難 など

ドライタイプ

・肝臓や腎臓などの臓器に肉芽腫(こぶのようなもの)による機能障害
・麻痺
・痙攣
・目の濁り
・眼振 など

診断

FIPを診断するには、問診、身体検査、画像検査、抗体検査などの結果を総合的に評価する必要があります。ここで注意すべき点として、抗体検査だけではFECVとFIPを完全に区別できないということです。
胸水や腹水を採取できれば、その体液を確認し、抗体検査や遺伝子検査に用いることで、より正確な診断につながります。
あるいは、血液中のAGP(タンパク質の一種)を測定することで、FIPかどうかを判断できます。当院ではFIPの猫を何例も経験しており、これらの検査を実施することで診断を下すことも可能です。

治療

以前までは、FIPに対して有効な治療法はなく一度発症してしまうと死を待つだけの病気として知られていました。ただ、最近ではFIPの治療薬に関する研究が進み、薬が効いて治るケースも出始めており、具体的には、GS-441524などのお薬が知られています。残念ながら日本ではまだ認可されていないのですが、イギリスやオーストラリアではこれらが動物用医薬品として承認され、実際に使用されています。
未承認のため獣医師とご相談の上で、飼い主さん自身でご購入していただく必要がありますが、当院での経験をもとに、どの薬剤がよいかをアドバイスができます。ご購入の際は、いわゆる安価なコピー品のお薬が出回っていることもあるので、ご購入前に当院までご相談ください。また、重症化してしまうとお薬が効きにくくなってしまうため、早期発見・早期治療が大切です。

予防法

FIPVやFECVに感染している猫との接触を防ぐため、室内飼いを徹底することは予防につながります。飼育環境のストレスが免疫に影響する可能性もあるので、トイレや遊び道具などを整備してあげることも大切です。

まとめ

FIPは治療が難しい病気というイメージがあり、もしご自身の猫が発症したら……と考えると、とても不安に思う飼い主さんが多いかと思います。当院では先進の治療を経験しているため、ただ死を待つのではなく、積極的な治療が可能なのに加え、実際に治癒した患者さんの例も複数あります。なにより早期発見が重要になるので、愛猫に異常がみられたらご相談ください。

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<参考文献>
2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines – Vicki Thayer, Susan Gogolski, Sandra Felten, Katrin Hartmann, Melissa Kennedy, Glenn A Olah, 2022 (sagepub.com)
Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis – Niels C Pedersen, Michel Perron, Michael Bannasch, Elizabeth Montgomery, Eisuke Murakami, Molly Liepnieks, Hongwei Liu, 2019 (sagepub.com)
Thirty‐two cats with effusive or non‐effusive feline infectious peritonitis treated with a combination of remdesivir and GS‐441524 – Green – Journal of Veterinary Internal Medicine – Wiley Online Library

子宮蓄膿症とは、犬や猫の子宮の中に膿がたまってしまう病気で、未避妊の中~高齢の雌で多発することが知られています。重症化してしまった場合には命の危険がある一方で、適切な時期の避妊手術によって発症を予防できることがわかっているため、犬や猫の健康を守るためには予防がとても大切です。
今回は子宮蓄膿症について、原因や症状とともに当院での治療法をご紹介します。

 

原因

子宮蓄膿症は猫よりも犬で頻繁に発生し、さらにほとんどの場合で犬の方が重篤化する傾向があります。また、犬の平均発症年齢は7歳、猫では5、6歳とも報告されているため、中~高齢の動物では注意が必要です

その原因の詳細はわかっていませんが、ホルモンの影響(プロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンにより子宮の膜が厚くなる)と、細菌感染の影響(大腸菌などの細菌が子宮に感染する)が関係していると考えられています。

症状

子宮蓄膿症の動物には、食欲不振、多飲多尿、頻脈・頻呼吸、嘔吐・下痢などの症状が現れます。さらに、特徴的な症状として陰部から赤茶色の分泌物(膿)が排出されることがあります
(分泌物がみられない場合もあります)。

治療せずに病気が進行すると、膿がたまって膨らんだ子宮が破裂する危険性や、子宮に感染した細菌が血液を介して他の臓器に渡り、全身の状態が悪化して亡くなってしまう危険性もあります。

診断・治療

当院では、身体検査や血液検査、エコー、レントゲンなど、様々な検査を駆使して子宮蓄膿症を診断しています。その際、避妊手術を受けているかどうかをお伝えいただけると、診断に役立ちます

治療の選択肢には外科手術と内科療法がありますが、手術により子宮と卵巣を摘出する方が安全で効果的だといわれています。当院でも基本的には手術をお勧めしており、その際にはアリジンという女性ホルモン製剤を使用しています

というのも、子宮蓄膿症では子宮の組織が変化してもろくなっているため、安全に手術を行うためにも事前に女性ホルモン製剤を投与する方がよいと考えているためです

この処置によっていったん症状が改善されることもありますが、再発する危険性が残るため、やはり手術によって根治を目指すことを推奨しています。手術には麻酔のリスクが伴いますが、通常は術後1~2日で回復して、2週間程度で健康な状態まで戻ることがほとんどです。

予防法

子宮蓄膿症は避妊手術によって予防できることがわかっています。乳腺腫瘍の記事でもお伝えしましたが、当院では初回の発情が終わって、2回目の発情が始まる前での避妊手術をお勧めしています。その理由として、初回発情前に避妊手術をすることによる排尿障害のリスクがあるのに加え、当院では性成熟が十分ではない(大人の体に成熟しきっていない)状態で手術を行うことには、動物倫理上の問題があると考えているためです

同じ手術でも、子宮蓄膿症で全身の状態が悪化してしまってから実施するより、若くて健康なうちに行う方がリスクは少ないといえます。

■子宮蓄膿症と同様に避妊手術で予防できる疾患についてはこちらのページで解説しています。

犬と猫の乳腺腫瘍│悪性度が高い場合は手術しても油断せず抗がん剤治療をお勧めします

まとめ

子宮蓄膿症は未避妊のメスの高齢犬で多い危険な病気ですが、避妊手術によって発症を予防できます。予防を行うことが最も重要なポイントなので、適切な時期に避妊手術を受けることを強くお勧めします。

<参考文献>
Pyometra in Small Animals 2.0 – ScienceDirect
Incidence of pyometra in Swedish insured cats – ScienceDirect
Breed Variations in the Incidence of Pyometra and Mammary Tumours in Swedish Dogs – Jitpean – 2012 – Reproduction in Domestic Animals – Wiley Online Library

様々な理由によって外耳(耳の入り口から鼓膜まで)に炎症が起こっている状態を外耳炎といいます。犬によくみられる疾患で、主な症状として痒みが生じるため、後ろ足で耳をカリカリと引っかく様子に気づく飼い主さんも多いと思います。
今回は犬の外耳炎について、その原因や症状などに触れたうえで、当院での治療法をご紹介します。

 

原因

犬の外耳炎には、以下の原因が考えられます。

・アレルギー(犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギー)
・脂漏症
・真菌(マラセチアなど)
・ダニ(ミミヒゼンダニなど)
・異物(植物の葉や種)

外耳炎はどの犬種でも起こりうる病気ですが、コッカー・スパニエルで特に多いことが知られていて、ほかにも耳毛が多い、あるいは垂れ耳の犬種でよくみかけます。そのため、アレルギーや脂漏症をもつ犬、さきほど述べた好発犬種では特に注意が必要です

また、お散歩の際にダニや異物が耳に入り込むことで発症することもあるため、帰宅後には一度、耳をみてあげるとよいでしょう

症状

外耳炎の犬は、耳が赤くなる、こげ茶色の耳垢がつく、独特のにおいがする、耳を気にして痒がる、といった症状がみられます。治療期間を少しでも短くするためにも、これらの症状がみられたら、早めに動物病院を受診することをお勧めします

治癒せずに慢性化すると、耳の皮膚が厚ぼったくなります。さらに耳の状態が悪化すると細菌叢(細菌のバランス)が変化し、二次的にブドウ球菌などの細菌が増殖して悪影響を及ぼすことがあります。また、炎症が広がって中耳炎にまで至ってしまうこともあります。
ここまで進行すると治療が非常に困難になってしまうので、やはり早期発見・早期治療がとても大切です。

診断

原因を突き止めるため、飼い主さんから基礎疾患(もともと持っている病気)があるかどうかをお聞きするとともに、耳鏡という専用の機器で耳の中を観察します。真菌やダニなどが疑われる場合は、耳垢を顕微鏡で調べます。

治療 

原因に対する治療を進めるとともに、耳の炎症を抑える薬を投与します。重症度や原因にもよりますが、外耳炎を含む皮膚の病気は治療が長期にわたることが多いので、根気強く対処する必要があります

なお、痒みがさらなる痒みを生むこと(イッチ・スクラッチ・サイクルと呼ばれます)が知られているため、炎症の波及を防ぐ目的で、当院では外耳炎に対してまずは高用量のステロイドを使用し、痒みを和らげるという治療法を採用しています。人間よりも少し強いステロイドにはなりますが、確実に痒みを抑えて犬を痒みのストレスから解放させてあげるとともに、治療期間の短縮が期待できます。

もちろん、副作用に対するケアも並行する必要があります。その後は定期的に受診していただきながら、症状の変化にあわせてステロイドの量を調整したり、ステロイドが効かない場合は抗体医薬という比較的新しい薬を使用したりすることもあります。

予防法

耳掃除が苦手な犬が多いとは思いますが、ご家庭では可能な範囲で耳を清潔に保つようにしましょう。また、耳の様子をこまめに観察し、ダニやこげ茶色の耳垢がついていないか、皮膚はきれいなピンク色か、においは正常かなど、チェックしてみましょう。お手入れの詳細については、当院の獣医師までお尋ねください。

まとめ

外耳炎は犬で一般的な病気ですが、その治療は長期にわたることも多くあります。1日でも早く痒みから解放されるためにも、積極的な治療をご検討ください。

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乳腺腫瘍は、犬・猫ともに最も多発する腫瘍で、いずれも中高齢(10~12歳以降)のメスに多くみられます。腫瘍は、細胞の性質や転移のしやすさから良性と悪性に分かれます。

乳腺腫瘍は、犬では良性と悪性の占める割合がおおよそ半々、猫では80~90%が悪性と言われていて、早期発見・早期治療がとても大切です。

特にメスでは、避妊手術によって発症を予防できることがわかっているため、長く健康に過ごすためにも避妊手術をご検討ください。

 

原因

乳腺腫瘍の発生には、ホルモンが関係していると考えられています。そのため、未避妊のメスでは年齢が上がるにつれてリスクが高まります。まれではありますが、オスに発生することもあります。

避妊手術による予防効果(発生確率)は以下の表の通りです。

■犬の場合

避妊手術タイミング

乳腺腫瘍予防確率

初回発情前

99.5%

2回目発情前

92%

3回目発情以降

74%

 

■猫の場合

避妊手術タイミング

乳腺腫瘍予防確率

生後6か月以前

91%

7~12か月

86%

13~24か月

11%

症状

乳腺腫瘍の症状は、腫瘍の悪性度や進行度合いによっても異なりますが、初期には乳腺(乳房のあたり)にしこり(腫瘤)がみられます。全身の状態にはこれといった変化がなく、健康に過ごせていることもあります。ただし、症状が現れていなくても他の臓器やリンパ節に転移していたり、しこりが1か所ではなく複数の乳腺に散らばっていたりする可能性もあります

しこりが大きくなると表面が自壊し、出血や痛みを伴って、元気・食欲がなくなる、痩せてくるといった全身状態の変化もみられます。さらに腫瘍が転移すると、転移先の臓器に関連する症状が現れます。

診断

動物病院では、触診や血液検査などとともに、レントゲンや生検(しこりを一部採取して細胞の様子を観察する検査)を実施し、しこりがどういった腫瘍なのかを詳しく調べます。しこりが腫瘍ではない場合(乳腺過形成や乳房炎)や、他の腫瘍の場合(脂肪腫や肥満細胞腫)もあるため、注意が必要です。ただし、これらの検査だけでは確定診断にまでは至らず、手術によって腫瘍を切除して組織検査を実施する必要があります。

治療

基本的には、手術によって乳腺ごと腫瘍を切除する治療を行います。その方法として、乳腺片側切除と両側切除の2つがあります。また、術後に悪性度が高いと判断された場合は切除しても転移する可能性があるので、化学療法(抗がん剤治療)の併用をお勧めします。特にリンパ節への転移には注意が必要で、その有無が生存期間に大きく関わることも知られています。 

予防

先ほど解説したとおり、避妊手術が最も重要な予防手段です。
なお、当院では初回の発情が終わって2回目の発情が始まる前での避妊手術をお勧めしています

その理由としては、初回発情前に避妊手術をすることで排尿障害のリスクが高まるのに加え、当院では性成熟が十分ではない(大人の体に成熟しきっていない)状態で手術を行うことには、動物倫理上の問題があると考えているためです

まとめ

普段から愛犬愛猫と触れ合っているときに、乳房にしこりを見つけることもあるので、普段から気を付けて早期発見に努めましょう。しこりの大きさによって生存期間が大きく異なることも報告されていて、特に3cm以上だと大幅に短くなることがわかっています

また、悪性度が高い場合の抗がん剤治療は、選択肢の1つとして考えておきましょう。人の抗がん剤治療を思い浮かべる飼い主様も多いかと思いますが、腫瘍が転移することで状態が悪化し、命を落とすリスクを考えると、前向きな検討が必要な場合もあります。

当院でも乳腺腫瘍の手術後に抗がん剤治療という選択をとらなかったために、大切な愛犬愛猫を亡くされる飼い主様を目にすることがあります。

大切なご家族を亡くしてから後悔なさらないよう、様々な治療の選択肢を知っておくことも重要です。

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歯周病は犬や猫で非常によくみられる病気で、3歳以上の犬・猫では約8割が歯周病とも言われています。また歯だけの問題にとどまらず、心臓病や腎臓病の原因になることもあり、悪化すると顎の骨に影響を及ぼす危険性もあります。今回はその概要を解説するとともに、ケアの方法についてもご紹介します。

 

原因

歯周病は、歯の表面や歯周ポケットにやわらかい歯垢(食べかすなど、プラークとも呼ばれます)がたまることで起こる感染症です。初期の歯肉(歯茎)にのみ炎症がある状態は歯肉炎、他の歯周組織にも炎症が広がった状態は歯周炎と呼ばれています。

食後すぐに歯のケアをすれば歯垢は取れますが、ケアを怠ってしまうとだんだん歯垢がたまって固くなり(歯石と呼ばれる状態です)、ご家庭の歯磨きなどでは取れなくなってしまいます。歯石は数日以内につくられると言われているため、こまめなケアが重要です。

症状

一般的には、口臭や歯茎の腫れがみられ、歯は黄色っぽく変色します。炎症が広がると、歯がぐらついて抜けてしまったり、歯の周りの骨が破壊されることで鼻腔に穴が開いたり顎の骨が骨折したりする可能性もあります
あるいは原因菌が血液を介して全身にめぐってしまい、死に至る危険性もあります。また人では、歯周病の原因菌は心臓病や腎臓病にも影響を及ぼすと考えられているため、動物でもそれらの病気の症状が現れる可能性があります。

診断・治療

実際に口の中を観察し、あわせてレントゲンを実施することで診断します。
当院では診断において、歯周病菌の測定が可能です。
歯周病菌の数値から歯周病のステージを推定可能なため、気になる方は、当院の獣医師までご相談ください。
また、治療方法は歯周病の重症度によって異なります。
AVDCというアメリカの団体では、ステージ0(清潔で歯垢がない状態)~4(重度の歯周病)まで分類していて、以下のような治療が推奨されています。

・ステージ0~1:ご自宅ですべての歯を磨き、動物病院では定期的に麻酔下でスケーリングする。
・ステージ2:さらなる進行を防ぐため、できるだけ早く麻酔下でスケーリングする。
・ステージ3:抜歯するか、ステージ2よりも念入りなスケーリングを麻酔下で行う。
・ステージ4:基本的に抜歯が勧められる。
 
なお当院ではスケーリングの際、歯周ポケットをなるべく埋めて再発を防ぐため、キュレッターやエアレーションを使用しています

予防法

歯周病は進行してしまうと治りにくく、抜歯してしまった歯は元に戻らないので、予防がとても重要です。
現在、歯磨きペーストや歯ブラシなど様々なケア用品が販売されていますが、その中でもVOHCというアメリカの団体が認定した歯周病予防のガムをお勧めします

当院では、動物の性格や飼い主様のライフスタイルにあわせて、飲み水に混ぜるだけの簡単なものから、歯磨きペーストやガムなどをご紹介しています。製品によって使用方法が異なりますので、お気軽に獣医師までお尋ねください。いずれにしても、毎日欠かさずケアすることが大切です。

またVOHCでは、年に1回の定期健診(口の中の観察とスケーリング)を勧めています。ご家庭でのケアは最重要ですが、目に見えない部分(奥歯や歯周ポケットなど)に歯周病が起こってしまう可能性があるので、当院でも積極的なご利用を推奨しています。

ただしスケーリングの際には、麻酔下で処置する必要があります。無麻酔での処置も可能であると謳っている施設もありますが、動物の歯や歯茎を必要以上に傷つけてしまったり、歯周病菌が周りに広まってしまったりする危険性があります。加えて、本人に手術による多大な心理的ストレスを与えてしまいます。

日本獣医師会や日本小動物歯科研究会、その他の海外の団体でも、無麻酔の処置は推奨されていませんので、ご注意ください。

まとめ

歯周病は、進行すると体の様々な箇所に影響を及ぼします。清潔で健康な歯を保つためには、ご家庭での日々のケアと、定期的なスケーリングが重要です。
歯周病は身近でありながら進行すると危険な状態に陥ることもある怖い病気ですので、本記事で紹介した方法でしっかりと予防していきましょう。

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<参考文献>
Stages of Pet Periodontal Disease – Pet Dental Health – AVDC

Veterinary Oral Health Council (vohc.org)

A review of the frequency and impact of periodontal disease in dogs – Wallis – 2020 – Journal of Small Animal Practice – Wiley Online Library

日本小動物歯科研究会 (sadsj.jp)

膝の関節は大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)という3つの骨で構成されています。膝蓋骨脱臼は膝蓋骨の位置が変わってしまうことで起こる足の病気で、小型犬によくみられます。

脱臼の程度によって症状は様々ですが、たとえ軽度であってもだんだんと症状が悪化する可能性があるため、手術による早期の治療が重要です。今回は、膝蓋骨脱臼の原因や症状といった情報とともに、当院で採用している手術について、詳しく解説します。

原因

膝蓋骨脱臼は大きく分けて内方脱臼外方脱臼の2種類があります。

内方脱臼は膝蓋骨が犬の足の内側に脱臼するのが特徴で、
若い小型犬(通常は3歳齢以内)によくみられ、発症しやすい犬種としてはトイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、チワワ、フレンチ・ブルドッグなどが挙げられます。

一方外方脱臼は膝蓋骨が犬の足の外側に脱臼するのが特徴で、
グレートデーン、セントバーナード、ロットワイラーなどの大型犬で多くみられます。
日本では小型犬を飼育されている家庭が多いため、必然的に内方脱臼の症例が多くみられます。

いずれの場合も膝蓋骨の溝が浅い、外側の靭帯が弱い、骨がずれているなどが要因となります。

また、根本的な原因は明らかになっていませんが、主に先天性の要因(遺伝)が関わっていると考えられています

後天的な要因の例としては、膝の関節を傷つけるような事故が原因となることもあります。

症状

膝蓋骨脱臼は、脱臼の程度によって1~4までのグレード分けがされています。症状はグレードによって様々で、軽度(グレード1~2)であれば、一般的に無症状、あるいは足をかばって少しスキップして歩く程度です。ただし重度(グレード3~4)になると、常にびっこをひく、足を持ち上げるようにする、しゃがむように歩くといった症状がみられます。

初期には片足だけの脱臼でも、かばうような歩き方(モンローウォークと呼びます)をして両足に異常がみられてしまうことが多く、重症化すると前十字靭帯断裂という足の病気にもつながってしまうため、早期の治療が大切です

■膝蓋骨脱臼のグレード分け

グレード状態
膝蓋骨を触診で簡単に外すことができるものの、手を離すと元の位置に戻る。
膝の曲げ伸ばしだけで膝蓋骨が外れる。
膝蓋骨が常に外れている状態だが、手で押すと元の位置に戻る。
膝蓋骨が常に外れている状態で、手で押しても元の位置に戻らない。

診断

膝蓋骨脱臼の診断には、整形外科検査が重要です。具体的には、室内での歩行を観察したり、関節を曲げたり伸ばしたりするとともに、膝蓋骨に触って先ほど述べたグレードを判定します。

あわせて、関節のレントゲンを撮影することで骨の位置を確認します。その際には一方向だけでなく、様々な方向から撮影することで詳細な評価が可能になります。

膝蓋骨脱臼で見られる歩き方(歩様)の異常は股関節などに起きる他の整形外科疾患の症状と類似しているケースも多く、同時に併発する疾患も多いことから、正確に診断を下す必要があります。

治療

軽度であれば、抗炎症薬の投与、体重管理、運動制限などによる保存療法で様子をみることもありますが、完治を目指すのであれば手術による治療が必要です。特にモンローウォークがみられる犬では脱臼が進行している可能性があるので、手術をお勧めします。なお当院では、先ほど述べたように、片足だけの脱臼であっても、片足をかばうように歩くことで両足に異常がみられてしまうケースが多いため、両足の手術を推奨しています

術式は動物病院によって様々ですが、当院では滑車溝造溝術、関節包の縫縮術、膝蓋骨の裏の軟骨トリミング、脛骨粗面の転移術といった4つを組み合わせた手術を採用しています。こうすることで膝蓋骨がうまく元の位置に固定され、膝の痛みを軽減し、犬のQOL(生活の質)を保つことができます

特に膝蓋骨の裏軟骨トリミングと頸骨粗面の転移術に関しては実施しない病院も多くありますが、
これらの手術を実施することで、治療が成功する可能性が高まります。

術式を含めた膝蓋骨脱臼の治療についてご不明な点がございましたら、当院の獣医師までご相談ください。

ご家庭での注意点

小型犬を飼育されている方は、以下のような日常の行動に気を付けることが重要です。

・後ろ足だけでジャンプする
・飼い主さんを引っ張りながら散歩する
・滑りやすいフローリングを行き来する
・狭い空間を行き来するボール遊びをする
・家族が帰宅する際のチャイムの音で、玄関までダッシュする

これらの行動を防ぐには、ご自宅の環境を変えていただいたり、しつけトレーニングを行ったりする必要があります。

例えば、滑りやすいフローリングを行き来することを防ぐにはゴム性のマットや貼り付けるタイプの滑り止め用マットを敷くことで環境の改善が可能ですし、当院で開催している月に1度のしつけ指導を受けていただくことでしつけトレーニングも可能です。当院のしつけ指導では、お一人お一人の生活環境に合わせた指導を心がけていますので、飼育方法にお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

もし本記事で解説したような異常がみられるようであればすぐに動物病院を受診してください。重症化する前に治療を施すことで、術後も快適な生活を送ることができるでしょう。

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<参考文献>
Patellar luxation in dogs – PMC (nih.gov)

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03-3926-9911

会陰ヘルニアとは、様々な原因で会陰部(肛門の横)の筋肉が萎縮し、腸や膀胱といった臓器の一部が皮下に飛び出てしまう(逸脱する)病気を指します。
治療には手術が必要ですが、その術式は多岐にわたっています。

当院では、より再発がなく快適な生活を送ることができるような方法を採用しています。今回は犬や猫の会陰ヘルニアについて、その概要とともに、当院で採用している治療法をご紹介します。

症状・原因

会陰ヘルニアでは、会陰部の大腸や結腸、膀胱、前立腺、大網の一部が、萎縮した筋肉を通過して皮下に逸脱してしまうため、会陰部に柔らかい膨らみがみられます
逸脱する臓器・器官の種類によっても異なりますが、大腸や結腸の場合は便秘、膀胱や前立腺の場合は排尿困難などの症状が現れます。逸脱した状態が慢性化すると、腸管の壊死や腸閉塞につながる可能性があり、非常に危険です

会陰ヘルニアは加齢により筋肉が委縮した中~高齢の雄犬によくみられ、特に未去勢の犬に多いことが知られています(猫や雌犬でもまれですが認められます)
会陰ヘルニアが未去勢の犬に多いのは、この症状の発生にテストステロン(男性ホルモン)が関与しているためです。テストステロンは、雄犬の睾丸から分泌されるホルモンで、筋肉量や体毛など、男性の第二次性徴を発達させる役割を担っていますが、骨盤筋の弱体化にも関与しています。

また、ホルモンの影響や加齢による筋肉の萎縮以外にも、前立腺疾患、慢性的な便秘、本人の性質(よく吠えるなど)も原因になると考えられています。

診断・治療

動物病院では、まず身体検査で会陰部の膨らみを確認するとともに、直腸検査を行います。また、X線検査や超音波検査などの画像診断を実施することで、ヘルニアの内容部が何なのか、どの程度逸脱しているのかを判断します。

治療には基本的に手術が必要で、様々な方法で逸脱した臓器を元の場所に戻し、再発を防止します。手術では、生体組織あるいは人工物を利用して、萎縮した筋肉の隙間を塞ぎます。前者では内閉鎖筋フラップ、浅殿筋フラップ、半腱様筋フラップ、後者では医療用メッシュが用いられます。

当院では、医療用メッシュを縫合し癒着させる術式を採用しています。さらに再発を防ぐための手段として、結腸または膀胱を腹壁に固定する手術を並行して行っています

また未去勢であれば、ヘルニアの手術とあわせて去勢手術も実施します。
術後の再発率は0~46%などと幅広く報告されていますが、これらの治療を組み合わせることによって、可能な限り再発を防ぐことができます。
もちろん、犬の年齢や健康状態、ヘルニアの程度を考慮したうえで、最適な術式を選択することが重要です。

予防法

先述した通り、会陰ヘルニアの発症には男性ホルモンが関わるとされているので、早期の去勢手術によって発症を予防できる可能性があります。
去勢手術は会陰ヘルニアの予防につながるだけでなく、1歳までに去勢することで、精巣がんや前立腺がんなどの疾患の予防にもつながり、尿マーキング、放浪行動、マウンティング、一部の攻撃行動など飼い主様を困らせる発情期の問題行動の抑制も期待できるため、男の子のわんちゃんを飼育されている方は、ぜひ手術をご検討ください

まとめ

会陰ヘルニアの治療には様々な手法が用いられていますが、当院ではより再発しにくいものを採用しています。せっかく手術をしても、再発してしまっては生活の質(QOL)が保たれません。
会陰ヘルニアと診断された際には、ぜひ治療法にも着目してみていただき、よりよいものを選択してください。

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<参考文献>
Internal obturator muscle transposition for treatment of perineal hernia in dogs: 34 cases (1998–2012) in: Journal of the American Veterinary Medical Association Volume 246 Issue 3 () (avma.org)

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