当院からの大切なお知らせ

SFTSが疑われる犬猫は、直接ご来院いただくことができません。
まずは必ずお電話にて当院へご相談ください。
外に出ている猫ちゃんはしばらく外出を控えていただき、症状がある場合も院内には連れて来ず、事前にご連絡をお願いいたします。

近年、ニュースなどでも耳にすることが増えてきた「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」。マダニが媒介するこの感染症は、人だけでなく犬や猫などの動物にも感染・発症することが知られており、注意が必要です。

今回は、SFTSの基礎知識や犬・猫で見られる症状、ご家庭でできる予防対策について、獣医師の視点から詳しく解説します。

 

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは?

SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染する人獣共通感染症です。犬や猫だけでなく、人にも感染し、命に関わる重い症状を引き起こすことがあります。

感染の広がりと国内の発生状況

これまでの発症報告は、主に九州や四国など西日本に集中していましたが、近年では関東や北海道でも感染例が報告されるようになっています。
2025年5月には茨城県で、関東地方では初となる犬と猫のSFTS感染が確認され、感染リスクが全国的に広がりつつある状況です。

犬と猫、それぞれの発症傾向

犬や猫に関するデータはまだ十分ではありませんが、国内の調査から以下のような傾向が見えてきています。

猫の方が圧倒的に発症例が多い(2023年には猫194頭、犬12頭の発症を確認)
猫は不顕性感染(無症状のまま感染)になりにくく、発症・重症化しやすい
犬でも重症化することがある(報告されている致死率は猫で約60%、犬で約25%)

特に猫では、以下のような症状が見られることがあります。

元気や食欲がなくなる
発熱する(39.5度以上)
粘膜が黄色くなる(黄疸)
嘔吐や下痢などの消化器症状

これらの症状は、感染後数日で急激に悪化し、1週間以内に命を落とすケースもあるため、早期の気づきと対応が非常に重要です。

SFTSの怖さは「人にも感染すること」

SFTSウイルスは、感染した犬や猫との濃厚接触を通じて、飼い主様にも感染するおそれがあります。人での致死率も高く、2025年6月時点で国内では91人の感染と複数の死亡例が報告されています。中には、感染した猫を診察した獣医師がSFTSで亡くなった事例もあり、人にとっても非常に危険なウイルスといえます。

「予防薬を使っていれば安心」は間違いです

マダニ予防薬は、感染リスクを下げるための重要な手段ではありますが、100%の予防効果があるわけではありません。予防薬の使用に加えて、日常生活の中でマダニと接触しないための工夫も欠かせません

このように、SFTSは命を落とすこともある恐ろしい病気です。だからこそ、犬や猫がマダニに咬まれた、あるいは様子がおかしいと感じたときには、ためらわずに動物病院にご相談ください。

SFTSが疑われる場合のご来院についてはこちらをご確認ください

マダニはどこにいる?身近に潜むリスク

SFTSウイルスを媒介するマダニは、草むらや森林、河川敷、畑、林道など、自然の多い場所に広く生息しています。活動が活発になるのは春から秋にかけてですが、冬でも完全にリスクがなくなるわけではないため、1年を通じた注意が必要です。

ご家庭に潜む2つのリスク

SFTSが特に警戒されている理由のひとつは、人と動物の両方に感染するおそれがある点です。飼い主様が「外に出していないから安心」と思っていても、思わぬ経路で感染のリスクが入り込むことがあります。

1.感染した動物から人へ
SFTSを発症した犬や猫との濃厚接触を通じて、飼い主様に感染が広がるケースがあります。体液や唾液、排泄物を介して感染することもあるため、特に症状がある動物との接触には注意が必要です。

2.飼い主様からの持ち込み
犬や猫が外出しない場合でも、飼い主様が外出先で衣服や靴にマダニを付けたまま帰宅し、知らずに室内へ持ち込んでしまうことがあります。実際に、屋内飼育の猫がこのルートで感染した例も報告されています。

まずは、こうしたリスクが身近にあることを正しく理解することが、動物たちを含めたご家族の健康を守る第一歩です。

マダニ感染を防ぐには?ご家庭でできる予防対策

SFTSから愛犬・愛猫、そして飼い主様を守るためには、日常的な予防の積み重ねが何よりも重要です。以下のような対策を意識しながら、できることから始めてみましょう。

・ノミ・マダニ予防薬を定期的に使う
犬も猫も、通年での予防薬の使用をおすすめします。マダニは気温が下がっても生息していることがあり、春夏だけの対策では不十分な場合もあります。特に外に出る猫では感染リスクがさらに高まるため、より注意が必要です。

ノミ・マダニ予防について詳しく知りたい方はこちら

・散歩コースや屋外での過ごし方に配慮する
マダニは、草むらや河川敷、林のふちなど、自然が多い場所に多く潜んでいます。散歩の際は、できるだけ草が生い茂った場所への立ち入りを避けるように意識し、帰宅後のマダニチェックも習慣づけましょう。

・家の中や周囲の環境を整える
庭の草刈りをこまめに行う風通しをよくするペット用寝具を清潔に保つなど、ご家庭の環境づくりも感染予防には重要です。小さな積み重ねが、大きなリスクの軽減につながります。

・飼い主様の外出時の服装や対策にもひと工夫
マダニを家の中へ持ち込まないための対策も忘れてはいけません。外出時には肌の露出を控え、長袖・長ズボン・帽子の着用防虫スプレーの活用などを意識しましょう。帰宅後は、衣類や身体にマダニがついていないかを確認する習慣をつけることも大切です。

また、SFTSは動物の体液や血液を介して人へ感染することがあるとされています。もし外でぐったりとした犬や猫を見かけた際は、決して直接触れず、動物病院に連絡するようにしましょう。もし仮に直接触れてしまうと、その時点でSFTSの感染リスクが発生することを忘れず、適切に対応することが重要です。

ご来院について

・SFTS疑いの動物は院内での入院対応はできません(東京都獣医師会ガイドラインに準拠)
・ご自宅での対応時には、手袋・ゴーグル・マスク・長袖の捨てても良い衣類を着用してください
・接触後は衣類を廃棄し、次亜塩素酸で手や環境を消毒してください
・発症動物の体液や唾液からも人に感染するため、安易に触れないようご注意ください

まとめ

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニを介して人にも犬・猫にも感染する、命に関わるおそれのある感染症です。

猫での発症例が多く、症状が急激に進行することもあるため「うちの子は室内飼いだから大丈夫」と油断せず、犬・猫ともに一年を通じた予防対策が大切です。まずは正しい情報を知り、日常の中でできることから予防を始めましょう。

もし心配なことや予防に関するご相談があれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

<参考文献>
Seroprevalence of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus in animals in Kagoshima Prefecture, Japan, and development of Gaussia luciferase immunoprecipitation system to detect specific IgG antibodies – ScienceDirect
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/12668-sfts-ra-0801.html(最終閲覧日:2025/07/22)

 

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いよいよ暑い夏がやってきました。湿気や気温の上昇によって皮膚の環境が悪化しやすくなるこの季節、犬や猫にとって皮膚病は特に注意が必要です。脱毛やかゆみなどのトラブルは、生活の質を下げるだけでなく、強いストレスの原因にもなります。

今回は、夏に増える皮膚病の原因や症状、ご家庭でできるケア方法に加え、ナガワ動物病院での対応について詳しくご紹介します。

 

暑い時期に多い犬と猫の皮膚トラブル|主な原因とは?

夏は気温と湿度の上昇により、犬や猫の皮膚トラブルが起きやすい季節です。以下のような原因がよく見られます。

ノミ・ダニによる皮膚炎

ノミやダニなどの外部寄生虫は、夏の高温多湿な環境で繁殖しやすくなります。寄生されることで強いかゆみや皮膚炎を引き起こし、なかにはアレルギー反応を起こすケースも。
外出する犬だけでなく、室内で過ごす猫でも感染することがあるため、年間を通じた予防が大切です。

皮膚バリア機能の低下

健康な皮膚はバリア機能によって外部の刺激から体を守っています。しかし、夏の蒸し暑さによってその機能が弱まり、通常なら発症しないような皮膚病にかかりやすくなります。
また、近年の研究では、腸内環境とアレルギー性皮膚炎の関係性も注目されています。当院では、乳酸菌製剤を含むサプリメントによる「腸活」もご提案しています。

雑菌の繁殖や皮脂の分泌異常

暑さや湿気によって皮脂の分泌が増えると、皮膚に常在する菌(マラセチアやブドウ球菌など)が過剰に増殖し、皮膚炎を引き起こすことがあります。
蒸れやすい部分(脇の下、足の付け根、耳の中など)は特に注意が必要です。

紫外線による皮膚へのダメージ

白毛や短毛の犬種(ブルテリアなど)では、紫外線の影響を受けやすい傾向があります。長時間日光を浴びることで、皮膚が赤くなるだけでなく、まれに扁平上皮癌などの重大な疾患につながることもあります。

夏に見られる皮膚の不調の裏にはこうした背景があることを知っておくと、早めの対応にもつながります。

皮膚糸状菌症(真菌感染症)の多発

近年、夏の高温多湿な環境で真菌による皮膚病(皮膚糸状菌症)が多発しています。
この病気はかゆみや脱毛、赤みを引き起こすだけでなく、ステロイド薬を使用すると症状が悪化するため、一般的な皮膚炎とは異なる注意が必要です。
特に2025年夏は例年に比べて発生が目立っており、早期の診断と適切な治療が重要です。

また、当院では皮膚糸状菌症のような真菌感染症が疑われる場合、診察時から待合室・診察室でのカビ拡散防止を徹底しています。
また、毎日院内の清掃・消毒を行い、安心して通院いただける環境を整えていますので、お気軽にご相談ください。

こんなときは受診を|ご家庭でのケアと病院受診の境界線

皮膚病の予防には、日々のちょっとしたケアの積み重ねがとても大切です。特に夏場は、以下のようなポイントを意識することで、皮膚トラブルのリスクを減らすことができます。

・適切な頻度でのシャンプー
皮膚の汚れや余分な皮脂を落とすことで、雑菌の繁殖を防ぎます。ただし、洗いすぎは逆効果になることもあるため、シャンプーの頻度や使用する製品は、愛犬・愛猫の皮膚の状態に合わせて選びましょう。

・室内の温度・湿度の管理
高温多湿の環境は、皮膚病を引き起こす大きな要因です。室温は25℃前後、湿度は50〜60%を目安に、エアコンや除湿器を活用しながら快適な環境を整えてあげましょう。風通しを良くする工夫や、クールマットの設置もおすすめです。

・ノミ・ダニの予防
ノミやマダニは、かゆみや皮膚炎の原因になるだけでなく、重篤な感染症を媒介することもあります。草むらに入らなくても寄生することがあるため、室内飼育の犬や猫でも油断はできません。予防薬を定期的に使って、しっかり対策してあげましょう。

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・毎日のブラッシング
被毛を整えることに加えて、皮膚の異変に早く気づくきっかけにもなります。抜け毛やフケ、赤み、湿った部分などを日々の中でチェックすることで、トラブルを未然に防げることもあります。特に脇の下や足の付け根、首まわりなどは蒸れやすいため、意識的にケアしてあげましょう。

こんな症状が見られたら早めのご相談を

どれだけ丁寧にケアをしていても、皮膚病が進行してしまうことはあります。以下のような症状が見られる場合は、悪化を防ぐためにも早めの受診をおすすめします。

食事中や散歩中、睡眠中にかゆがる様子がある
脱毛やフケ、皮膚の赤みや黒ずみといった変化が見られる
においが強くなる(皮膚が蒸れたような不快なにおいなど)
皮膚にかさぶたや出血がある
元気や食欲がなくなる、体重が落ちるなどの全身症状を伴う

こうした変化は、皮膚の炎症や感染が進んでいるサインかもしれません。初めは軽く見えても、放っておくことで炎症が広がり、かゆみが強くなったり、治療に時間がかかってしまうこともあります。

また、皮膚病の中には「イッチ・スクラッチ・サイクル」と呼ばれる悪循環が知られています。これは「かゆみ → 掻く → 炎症 → さらにかゆくなる」という連鎖のことで、愛犬・愛猫にとって大きなストレスになります。こうした状態を断ち切るために、アポキルやゼンレリアといったかゆみ止めのお薬を使うこともあります。

違和感に気づいた時点でご相談いただくことが、症状の進行を防ぎ、愛犬・愛猫の負担を最小限に抑えることにつながります。

病院での治療とトリミングの役割|ナガワ動物病院の対応

ナガワ動物病院では、皮膚病の診療において「原因の特定」と「状態に応じた適切な治療」を重視しています。診察ではまず飼い主様からご家庭での様子を詳しくうかがい、皮膚の状態を確認する検査(視診・皮膚検査・掻爬検査など)を行ったうえで、治療方針を決定します。

治療の選択肢は幅広く、以下のような方法を症状や体質に応じて組み合わせています。

・抗菌薬・抗真菌薬
・抗炎症薬・かゆみ止め
・保湿・抗炎症作用のある薬用シャンプー
・サプリメントや食事療法

また、皮膚病の治療では、トリミングも大きな役割を果たします。
当院では犬専用のトリミングサービスを併設しており、皮膚の状態を整えるためのスキンケアを獣医師と連携してご提案しています。

医療と連携したトリミングケア

皮膚の状態や体質に合わせ、以下のようなスキンケアをご提案しています。

・薬浴、ウルトラファインバブル、炭酸泉などの専門的な皮膚ケア
・セラミドやプロテオグリカンを含んだ保湿性の高いシャンプーを使用
・低刺激のオイルクレンジングで皮脂汚れやにおいのケアも可能

シャンプーには、肛門腺しぼり・爪切り・足裏バリカン・耳洗浄などの基本的な処置も含まれており、皮膚の健康をトータルにサポートします。

また、施術中もトリマーが皮膚の状態を細かく観察しており、異変に気づいた際はすぐに獣医師に相談できる体制を整えています。

持病のある子やシニアの子にも安心の体制

持病のある子やシニアの子も、トリミング前には必ず獣医師が健康状態を確認したうえで、できる限り対応しています。寝たきりの子でも施術できる専用の設備もあり、ご安心いただける環境です。

暮らしに寄り添うカウンセリング

施術前のカウンセリングでは、スタイルブックやタブレットを活用してカットの仕上がりをすり合わせています。「食事のときに顔まわりが汚れる」「足が拭きにくい」といった日常のお困りごともお気軽にご相談ください。愛犬にも飼い主様にもやさしいスタイルをご提案しています。

実際に、トリミングやシャンプーのみで皮膚の状態が改善するケースも多く、適切なスキンケアが治療の一環として効果を発揮することもあります。

当院のトリミング・シャンプーについて詳しく知りたい方はこちらから

まとめ

犬や猫にとって、日本の蒸し暑い夏は皮膚病が起こりやすい季節です。ノミ・ダニ、雑菌の繁殖、蒸れ、紫外線など、さまざまな要因が皮膚に負担をかけます。

特に真菌感染症は、見た目が一般的な皮膚炎と似ているため、自己判断での市販薬やステロイド使用は危険です。
当院でも今年は皮膚糸状菌症の症例が例年より多く、症状が気になる場合は早めの受診をおすすめします。

大切なのは、日常のスキンケアと環境管理、そして気になる症状があるときには早めに動物病院を受診することです。さらに、トリミングを上手に取り入れることで、皮膚の健康を保ちやすくなります。

皮膚の赤みやかゆみなど、気になる症状があれば、どうぞお気軽にナガワ動物病院までご相談ください。

 

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脾臓(ひぞう)は、犬のお腹の中にある臓器のひとつで、高齢になると腫瘍が見つかることが珍しくありません。

特に脾臓は血液を多く含む臓器のため、腫瘍が破裂すると大量出血を起こし、命に関わるケースも少なくありません。そのため、状況によっては早めの摘出手術が必要になります。

今回は、脾臓の役割や腫瘍の特徴、摘出手術の流れや術後のケアについてご紹介します。

 

犬の脾臓とは?腫瘍のリスクと手術の必要性

脾臓(ひぞう)は、胃の近くにある細長い臓器で、免疫や血液に関わる重要な働きを担っています。具体的には、古くなった赤血球の回収や、必要に応じた血液の貯蔵・放出、そして免疫機能の一部も担っています。

この脾臓に腫瘍(しこり)ができることがあり、特に高齢の犬では発見される頻度が高くなります。腫瘍には以下のような種類があります。

・良性腫瘍
ゆっくりと成長し、他の臓器に広がることはありません。ただし、大きくなると破裂するリスクはあります。

・悪性腫瘍(がん)
代表的なものに「血管肉腫」があり、非常に進行が早く、破裂による大量出血や、全身への転移が起こるおそれがあります。

どちらの腫瘍であっても、脾臓が破裂すれば命に関わる緊急事態になるため、腫瘍が見つかった段階で早めの判断が求められます。

なぜ脾臓摘出がすすめられるのか

脾臓腫瘍は、ちょっとした衝撃や運動がきっかけで破裂することがあります。悪性の疑いが強い場合はもちろん、良性であっても破裂リスクがある場合には、脾臓摘出手術が選択肢になります。

当院では、腫瘍の種類にかかわらず「破裂リスクが高い」と判断される場合には、早期の摘出手術をおすすめしています。命を守るために、早めの決断が重要になるケースも多いためです。

脾臓腫瘍の診断と摘出手術の流れ

脾臓腫瘍は、早期に見つかれば命を救える可能性が高い病気です。しかし、進行するまで症状が出にくいため、定期的な検査による早期発見がとても大切になります。

診断の流れ

脾臓腫瘍の診断には、以下のような検査が行われます。

・超音波検査(エコー)
脾臓の大きさや腫瘍の有無、腹水の有無を確認します。腫瘍の早期発見に有効です。

・レントゲン検査や血液検査
他の臓器への影響や全身状態を把握します。

・必要に応じたCT検査や細胞診
腫瘍の広がり具合や、ほかの病変の確認に役立ちます。

なお、血液検査だけでは腫瘍の有無を判断することは難しいため、エコー検査などの画像診断が特に重要になります。

手術の流れ

腫瘍が確認された場合、破裂によるリスクを回避するために、脾臓摘出手術(脾臓全摘)を行います。

1. 術前検査と準備
まずは血液検査や画像検査(エコー・レントゲンなど)を行い、全身の健康状態や腫瘍の位置・大きさを確認します。必要に応じて、事前に輸血の準備を整えることもあります。

2. 全身麻酔と開腹手術
全身麻酔をかけたうえでお腹を切開し、脾臓を外に取り出します。その後、脾臓につながる血管を一つずつ丁寧に処理したうえで切断し、脾臓を摘出します。

3. 出血確認と縫合
摘出後は出血の有無を慎重に確認し、切開部を縫合します。

4. 摘出組織の病理検査
取り出した脾臓は病理検査に提出し、腫瘍の種類(良性か悪性か)やがん細胞の広がりなどを詳しく調べます。

悪性腫瘍だった場合は、術後も継続的な治療や検査が必要になります。特に「血管肉腫」は血管を通じて他の臓器に転移しやすいため、慎重なモニタリングと治療が求められます。

手術後の過ごし方と継続的なケアの大切さ

脾臓の摘出手術を終えた後は、ご家庭でのケアと病院でのフォローが大切になります。ここでは、術後のポイントをご紹介します。

ご家庭でのケア

体力の回復と感染予防のために、次のような点に気をつけてあげましょう。

・安静に過ごす
術後しばらくは激しい運動を控え、ゆったりと過ごさせてあげましょう。お散歩も短めにし、様子を見ながら少しずつ元の生活に戻していきます。

・食事管理
消化のよいフードを選び、無理のない範囲でしっかり栄養をとらせましょう。術後の回復をサポートするため、栄養バランスにも気を配ることが大切です。

・傷口のケア
傷口は清潔に保ち、舐めたり引っかいたりしないように注意が必要です。必要に応じてエリザベスカラーなどを使用しましょう。

病院でのフォローアップ

特に悪性腫瘍(血管肉腫など)と診断された場合は、摘出後も体内の他の部位への転移に注意が必要です。継続的な検査や抗がん剤治療(化学療法)を行うことで、腫瘍の進行を抑え、愛犬ができるだけ快適に過ごせるようにサポートしていきます。

定期的な通院とモニタリングを通じて、愛犬の体調の変化を早期に発見できるように心がけましょう。

まとめ

脾臓腫瘍は高齢の犬に多く、進行に気づきにくいこともあります。特に腫瘍が破裂すると、大量出血により命に関わる危険があるため、良性・悪性を問わず、早期の摘出手術が勧められるケースもあります。

術後は安静や食事管理に加え、定期的な検査で再発や転移の有無を確認していくことが大切です。愛犬の体調に気になる変化があれば、早めにご相談ください。飼い主様と一緒に、最善の方法を考えていきます。

 

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犬の尿路結石や排尿のトラブルは、内科的な治療(食事療法や投薬)で管理できることが多いものの、なかには再発を繰り返してしまうケースもあります。そうしたときに検討される外科的治療が「会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)」です。

聞き慣れない手術名かもしれませんが、排尿障害の根本的な改善を目的として行われる手術であり、再発による苦痛を防ぐ手段として選択されることもあります。

今回は、会陰尿道瘻の役割や手術の流れ、術後の注意点について、飼い主様に知っておいていただきたいポイントを解説します。

 

犬の会陰尿道瘻とは?

会陰尿道瘻は、尿道の閉塞を繰り返す犬に対して行われる外科手術です。尿道を短くして会陰(肛門の近く)に尿の出口を新たにつくることで、尿の通り道を広げ、スムーズな排尿を助けます。

尿道が詰まって尿が出なくなると、まず腎臓にダメージが蓄積されます。おしっこが出せなくなることで膀胱がオーバーフローしますが、出口がないため、腎臓で作られた尿が膀胱に運べずに腎臓に負担がかかります。その結果、腎臓機能が低下し、最終的に体に毒素がたまり「尿毒症」という命に関わる状態に陥ることがあります。

通常は、以下のような内科的な治療が優先されます。

・尿道カテーテルでの閉塞解除
・食事療法や内服薬による結石の予防・溶解

これらの治療で改善が見られない場合に、会陰尿道瘻の適応が検討されます。具体的には、次のようなケースです。

結石による尿道閉塞を何度も繰り返している
カテーテルでの処置がうまくいかない
今後も結石の再発が強く疑われる

他院で手術を提案された場合でも、一度当院でのカテーテルでの閉塞解除をお試しいただくことも可能です。会陰尿道瘻は、こうした“繰り返す排尿トラブル”から犬の身体を守るための最終手段です。ただし、体にかかる負担や術後の管理もあるため、手術を検討する際には、事前に獣医師としっかり相談することが大切です。

手術の流れと術後のケア

会陰尿道瘻の手術では、尿の出口を肛門の近くにつくり直すことで、尿道の通り道を広げます。以下のような手順で行われます。

手術の流れ

1. 術前検査
麻酔や手術に耐えられる状態かどうかを確認します。血液検査や画像検査などを行い、全身状態を把握します。

2. 全身麻酔下での手術
陰茎とその中を通る尿道の一部を切除し、短くなった尿道の先端を会陰部(肛門の近く)に開口させます。そこが新たな排尿口となります。

3. カテーテルの挿入と縫合
術後すぐに尿が流れるよう、尿道にカテーテル(細いチューブ)を入れて固定します。そのうえで切開部を丁寧に縫合します。

術後のケアと注意点

術後は数日間の入院が必要です。排尿の状態や感染の有無を確認し、安定してきたら退院となります。ご自宅でのケアでは、以下の点に注意してください。

・エリザベスカラーの着用
患部を舐めてしまうと傷の治りが悪くなったり、感染の原因になったりします。傷がしっかり治るまでは、カラーの着用が必要です。

・生活環境を清潔に保つ
特に下痢をしている場合は、軟便が患部に付着して細菌感染を引き起こすリスクがあります。排泄エリアや寝床は清潔に保ち、排泄後に患部が汚れていないかこまめに確認してあげましょう。

カテーテルは通常、手術後1週間ほどで外すことができ、抜糸も2週間前後で完了します。術後の管理はやや手間がかかりますが、術後合併症を防ぐためにも大切なポイントです。

手術を検討する前に|知っておきたいメリットとデメリット

会陰尿道瘻は、命に関わるような排尿トラブルを防ぐうえで非常に有効な手段ですが「手術すればすべて安心」というわけではありません。手術を受ける前に、次のようなメリットとデメリットをしっかり理解しておくことが大切です。

メリット

尿道閉塞の再発予防
尿道が広くなることで、結石や炎症による詰まりが起こりにくくなります。

トラブル時の管理がしやすくなる
トラブルが起きたときにも、尿道カテーテルなどの処置が行いやすくなります。

デメリット

排尿や見た目の変化
この手術では陰茎の切除が必要になるため、見た目の変化が生じます。また、尿が広がりやすくなって外陰部が汚れやすくなったり、排尿コントロールが難しくなってトイレの失敗が増えることもあります。

感染のリスク
新たにできた排尿口から細菌が入りやすくなるため、感染には注意が必要です。特に、下痢の際などに便が患部につくと、細菌感染の原因になることがあります。日々のケアで清潔を保つことが大切です。

術後の合併症
手術で作った排尿口(瘻孔)が時間の経過とともに閉じてしまうことがあり、その場合には再手術が必要になるケースもあります。

このように、会陰尿道瘻には良い面と注意すべき点の両方があります。手術を受けるかどうかは、愛犬の状態や生活スタイルを踏まえたうえで、獣医師とよく相談しながら判断していきましょう。

まとめ|“最善の一手”を一緒に考えるために

会陰尿道瘻は、繰り返す尿道閉塞や重度の排尿トラブルに対して行われる選択肢の一つです。適切に行えば、愛犬にとって大きな負担を減らすことができる一方で、術後のケアや長期的な管理も欠かせません。

「この手術、本当に必要なの?」「もっと他に方法はないの?」そんな不安や疑問を感じるのは当然かと思います。だからこそ、まずは獣医師にご相談ください。当院では、一頭一頭の状態に合わせて治療の選択肢を丁寧にご提案し、ご家族と一緒に最善の方法を考えていきます。

 

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「最近なんとなく元気がない」「食欲が落ちてきた気がする」
そんな愛犬の変化を、年齢のせいかなと見過ごしていませんか?

アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、犬の内分泌疾患のひとつで、発症頻度は高くありませんが、症状があいまいなために見逃されやすい病気です。しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、長期的に安定した生活を送ることも十分可能です。

今回は、アジソン病について、その症状や診断、治療方法をご紹介します。

 

犬のアジソン病とは

アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎という小さな臓器のうち「皮質」の働きが低下し、体に必要なホルモンが分泌されなくなる病気です。

副腎は、腎臓のそばにあるごく小さな臓器ですが、体の調子を整えるホルモンを作るというとても重要な役割を担っています。副腎は「皮質」と「髄質」の2つの部分に分かれており、中でも皮質から分泌される以下のホルモンが、アジソン病に深く関わっています。

コルチゾール:ストレスに対応するホルモン
アルドステロン:ナトリウムやカリウムなどのミネラルバランスを調整

これらのホルモンが不足すると、体の調子を保てなくなり、さまざまな不調が現れます

どんな犬が発症しやすい?

アジソン病は、若い成犬から中年齢の犬で発症することがあります。稀ではあるものの、猫も発症することがあります。
似たような病気に、ホルモンが過剰に分泌される「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」がありますが、こちらは中高齢の犬でよく見られます。

犬のクッシング症候群の症状について詳しく知りたい方はこちら

アジソン病の主な原因

はっきりとした原因がわからないこともありますが、次のようなケースが知られています。

自己免疫反応により副腎が壊されてしまう
クッシング症候群の治療薬(ミトタン)の作用が強すぎた場合
皮膚病などで長期間ステロイドを使用し、中止した後に起こる離脱症状

どれも体のホルモンバランスに関わることが背景にあり、副腎の機能が影響を受けることでアジソン病を引き起こします。

見逃されやすいアジソン病の症状|こんなサインに要注意

アジソン病は、「なんとなく元気がない」といったあいまいな症状から始まることが多く、老化や軽い体調不良と思われて見過ごされてしまうケースも少なくありません。

慢性型のアジソン病

慢性型では、体調不良がじわじわと進行していきます。特にストレスが発症や悪化の引き金となることもあるため、日常生活の変化にも注意が必要です。

以下のような症状が続く場合は、アジソン病のサインかもしれません。

食欲の低下
なんとなく元気がない
体重が少しずつ減る
ふるえ
脈が遅くなる(徐脈)

この段階では「年齢のせいかな」「季節のせいかな」と見過ごされがちですが、放っておくと症状が進行してしまうこともあるため、早めの対応が大切です。

急性型(アジソンクリーゼ)に注意

慢性的な不調が続いたあと、急激に悪化し命に関わる状態になることがあります。これをアジソンクリーゼと呼び、以下のような症状が突然あらわれます。一刻も早い処置が必要となる危険な状態です。

・脱水や血圧低下によるショック症状
・意識がもうろうとする(意識混濁)
・播種性血管内凝固(DIC):全身に小さな血栓ができて臓器が機能しなくなる危険な合併症

こうした急変を防ぐためにも、日頃から愛犬の様子をよく観察し「いつもと違うかも」と感じたら、ためらわずに動物病院へご相談ください。飼い主様のちょっとした気づきが、早期発見と適切な治療につながります。

アジソン病の診断と検査の流れ

アジソン病の確定には、いくつかの検査が必要です。

血液検査

アジソン病の代表的な特徴として、以下のような電解質異常が見られることがあります。

低ナトリウム血症
高カリウム血症

ただし、症状の軽いタイプ(コルチゾールのみが低下しているタイプ)では、これらの異常が見られない場合もあり、血液検査だけでは診断が難しいこともあります。

ACTH刺激試験

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を注射し、体がどれくらい反応してコルチゾールを出せるかを確認する検査です。この検査でコルチゾール値が十分に上がらなければ、アジソン病と診断されます。

アジソン病は、できるだけ早く見つけてあげることで、その後の治療をスムーズに進めやすくなります。だからこそ、異変に気づいた段階での早めの受診がとても大切です。

また、定期的な健康診断も、こうした内分泌疾患の早期発見に役立ちます。気になる症状がなくても、年に1回の健診を受けておくことで、見えにくい異常にも早く気づける可能性があります。

アジソン病の治療と管理|安定した生活を目指して

アジソン病は残念ながら完治が難しい病気ですが、治療によって症状を安定させ、健康的な生活を送ることも十分に可能です。

ホルモン補充療法

アジソン病の基本となる治療法です。体内で不足している副腎ホルモンを、飲み薬や注射で補います。生涯にわたって続ける必要がありますが、正しく管理すれば、発症前とほとんど変わらない生活を送ることもできます。

定期的な通院と検査

体調が急に変化することもあるため、定期的な血液検査でホルモンや電解質のバランスを確認し、状態をチェックしていくことが大切です。

ストレスを減らす生活環境づくり

ストレスが症状を悪化させる要因のひとつと考えられているため、安心できる生活環境を整えてあげましょう。無理のないお散歩や、飼い主様とのふれあいの時間は、愛犬にとって心身の安定につながる大切なケアの一環です。

まとめ

アジソン病は見逃されやすい病気のひとつですが、早めに気づいて治療を始めれば、症状を安定させながら穏やかに過ごすことも十分に可能です。

特に慢性型では「年齢のせいかな」と思われがちなサインが続くこともあるため、日ごろからの観察と小さな変化への気づきがとても大切になります。

ナガワ動物病院では、丁寧な診察と分かりやすい説明を心がけています。「最近ちょっと元気がないかも」「食欲が落ちているかも」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。

<参考文献>
Diagnosis of canine spontaneous hypoadrenocorticism – PMC
Management of hypoadrenocorticism (Addison’s disease) in dogs – PMC

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「避妊・去勢手術って本当に必要?」「いつ頃受けるのがいいの?」
そのようなお悩みをもつ飼い主様も多いのではないでしょうか。手術には病気の予防や行動の安定などたくさんのメリットがある一方で、麻酔や術後のケアについて不安を感じていらっしゃる方も少なくありません。

ナガワ動物病院では、こうしたお悩みに寄り添いながら、愛犬・愛猫にとって最適な手術のタイミングや方法をご提案しています。

今回は、避妊・去勢手術の基本的な内容から、手術のメリット・デメリット、時期や費用、術後の過ごし方までを、詳しく解説します。

 

避妊・去勢手術とは|犬・猫の体にどんなことをするの?

避妊・去勢手術は、繁殖を望まない犬や猫にとって大切な医療処置のひとつです。ナガワ動物病院では、以下のような方法で行っています。

避妊手術(メス)

子宮と卵巣を取り除く手術です。妊娠を防ぐことができるだけでなく、将来的に発症リスクの高い病気を予防する効果もあります。術後は基本的に一泊入院し、最短で翌日の午前中に退院していただく流れです。

去勢手術(オス)

精巣を摘出する手術で、比較的短時間で終わる処置です。こちらも一泊入院後、翌日の午前中にご帰宅いただけます。

麻酔とリスクへの配慮

どちらの手術も全身麻酔が必要になります。当院では、手術の安全性を高めるため、術前検査(血液検査・レントゲン・心電図など)を強くおすすめしています。また、麻酔時は必ず2名以上の獣医師が立ち会い、安全管理を徹底しています。

手術を受けるメリットとデメリット

避妊・去勢手術には、身体的・行動面でのメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。事前にしっかり理解しておくことが大切です。

メリット

望まない妊娠を防げる
発情期のストレスや鳴き声、マーキング、攻撃的な行動などの軽減
メスは子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、オスは前立腺肥大や会陰ヘルニアなどの予防

デメリット・注意点

ホルモンバランスの変化で太りやすくなることがある
全身麻酔に伴うリスクがある
術後、一時的に元気がなくなったり、体調を崩したりすることがある
排尿のトラブルが出ることがある

ただし、こうしたリスクについては、術前検査や術後のケア、日々の体調管理で十分に対応できることがほとんどです。

当院では、このような手術のメリット・デメリットを丁寧にご説明したうえで、飼い主様と一緒に最適な選択ができるように心がけています。

手術の時期はいつがベスト?|犬・猫それぞれの推奨時期と考え方

手術の効果を最大限に活かすためには「いつ手術を受けるか」も重要なポイントになります。

犬の場合

▼去勢手術(オス)
歯の生え変わりが落ち着く生後6〜8か月頃がおすすめです。

▼避妊手術(メス)
初回の生理が終わった約1.5か月後(発情休止期)が理想です。この時期はホルモンバランスが落ち着いており、手術の負担も少なくなります。

猫の場合

去勢・避妊ともに、大人の歯が生えそろい、発情期が始まる前(生後5〜6か月)がベストタイミングです。
発情後の手術は出血量が増えたり、術後の回復が遅れたりすることもあるため、早めのご相談をおすすめします。

手術の流れと費用の目安

当院では、避妊・去勢手術を安心して受けていただくために、事前準備から術後のフォローまでを丁寧に行っています。ここでは、手術の流れと費用の目安についてご紹介します。

手術の流れ

1. 術前検査
血液検査・レントゲン・心電図などを行い、麻酔の安全性を確認します。

2. 前日夜から絶食・当日は絶水
誤嚥(ごえん)などのリスクを避けるため、当日は絶飲食の状態でご来院いただきます。

3. ご来院・術前確認
全身の状態を最終確認し、必要に応じて再検査やご説明を行います。

4. 手術実施
所要時間は30~60分ほどで、麻酔下で慎重に行います。

5. 回復室で経過観察
手術後は落ち着くまでしっかりと経過を見守ります。

6. 一泊入院
基本的に術後は1泊入院とし、翌日午前中に退院となります。(状態によって延長の場合もあります)

7. 退院後のケア
術後の経過に応じて、1週間前後で抜糸を行うこともあります。(傷口の状況により異なります)

費用の目安(税別)

猫の去勢:17,000円〜
猫の避妊:27,000円〜
犬の去勢:20,000〜27,000円(小~中型犬)
犬の避妊:42,000円(小型犬)、57,000円(中型犬以上)
術前検査:8,000円〜20,000円

※お住まいの自治体によっては、1,500〜3,000円程度の助成金制度をご利用いただける場合があります。詳細は当院までお気軽にお問い合わせください。

術前検査について

術前検査は「必須」ではありませんが、当院では強くおすすめしています。
検査を行うことで、外から見えない先天的な疾患や、麻酔に対してリスクの高い体質を事前に把握でき、安全な手術につなげることができるためです。

例えば、心臓・肝臓・腎臓に異常があることに気づかずに麻酔をかけると、重大な事故につながるおそれもあるため、術前検査は「できるだけ安全に、安心して手術を受けていただくための準備」といえます。

一見すると費用がかかるように感じられるかもしれませんが、愛犬・愛猫の命を守る大切な手段として、ぜひご検討ください。

術後のケア|手術後も安心して過ごすために

手術後は、愛犬・愛猫が穏やかに回復できるよう、落ち着いた環境でそっと見守ることが大切です。術後1週間ほどは、以下の点にご注意ください。

安静が基本
激しい運動は避け、静かに過ごせる時間を確保してあげましょう。

傷口の保護
舐めたり引っかいたりしないよう、エリザベスカラーや術後服を着用します。傷が開いてしまうと治りが遅れるため、しっかり守ってあげましょう。

食事のポイント
手術直後は消化の良いごはんを少量からスタートします。食欲や便の様子を見ながら、ゆっくり普段の食事に戻していきましょう。

元気や食欲の変化
術後は一時的に元気がなかったり、食欲が落ちたりすることもあります。多くの場合は徐々に回復していきますので、焦らず見守ってください。

気になる変化があれば、遠慮なくご相談ください。安心して回復を見守れるよう丁寧にサポートいたします。

まとめ

避妊・去勢手術は、将来の病気を予防し、愛犬・愛猫が快適に過ごすための大切な選択肢です。行動面のストレス軽減にもつながるため、より穏やかな日常をサポートします。

ナガワ動物病院では、麻酔や手術のリスクをできる限り抑えるとともに、飼い主様のお気持ちに寄り添いながら、一頭一頭に合ったタイミングや方法をご提案しています。

「うちの子に必要?」「今の時期で大丈夫?」といったご相談にも丁寧にお応えいたしますので、どうぞお気軽にご来院ください。飼い主様と一緒に、その子にとって最善の方法を考えてまいります。

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「腫瘍」と聞くと「もう手の施しようがないのでは…」「これからどうすればいいんだろう…」と不安を感じる飼い主様も多いかもしれません。

しかし、犬や猫にできる腫瘍には良性と悪性があり、実際には良性のものも少なくありません。また、適切な診断と治療によって、健康な生活を取り戻せるケースも多くあります。体表のしこりなど、比較的発見しやすい腫瘍に対する外科的アプローチが中心となりますが、早期発見・早期対応が成功のカギとなることはどのケースでも共通です。

今回は、外科手術による腫瘍摘出に焦点を当て、手術の流れや注意点について詳しくご紹介します。

 

腫瘍とは?|まずは正しく理解しましょう

腫瘍には大きく分けて、良性腫瘍悪性腫瘍(がん)があります。

良性腫瘍
成長が遅く、一定の大きさで増殖が止まるため、動物への影響は比較的限定的です。

悪性腫瘍
成長が速く、周囲の組織に広がったり、遠隔転移を起こしたりするため、命に関わる危険性があります。

特に飼い主様が気づきやすいのは、皮膚のしこりや乳腺腫瘍などの体表にできる腫瘍です。皮膚の異変を見つけたときは、様子を見るのではなく、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。

腫瘍発見から診断までの流れ

腫瘍を発見した場合、まずは視診・触診により外見や硬さを確認し、その後、細胞診(針で細胞を採取して観察する検査)を行います。これにより、腫瘍の性質や悪性度の推測が可能になります。

さらに、必要に応じて以下の検査を実施します。

レントゲン検査
超音波検査
血液検査

これらの検査を通じて、腫瘍の種類や進行度を把握し、手術適応かどうかを判断します。良性であってもペットのQOL(生活の質)に悪影響を及ぼすと判断されれば、摘出が必要となる場合もあります。

体表腫瘍の場合にはご家庭でスキンシップをした際に気づくことも多く、初期に発見・治療できるケースもありますが、それ以外の腫瘍では進行してから見つかるケースも少なくありません。定期的な健康診断や画像検査で、できるだけ早い段階で異常を見つけることが非常に重要です。

当院では、N-NOSE(線虫がん検査)によるがんリスク検査も導入しており、早期発見に役立てています。

腫瘍摘出手術当日の流れ

ここでは、手術に向けた具体的な流れをご説明します。

ご自宅での準備

手術前日の夜から絶食を始め、当日の朝からは絶食・絶水をお願いします。
これは、麻酔中に胃の内容物を誤って気道に吸い込んでしまう「誤嚥(ごえん)」を防ぐためにとても重要な対策です。安全な手術のために、必ずご協力をお願いいたします。

動物病院での準備

ご来院後は、まず全身状態をチェックし、麻酔に伴うリスクを「ASA分類」という国際基準に沿って評価します。特に高齢の犬・猫や持病を抱えている場合には、麻酔リスクが高くなるため、より慎重な対応が必要です。

当院では、安全性を最優先に考え、麻酔時には必ず獣医師2名以上で対応する体制を整えています。また、事前にわかりやすくリスクをご説明し、安心して手術に臨んでいただけるように心がけています。

手術時間

手術にかかる時間は、腫瘍の部位や大きさによって異なります。
小さな体表腫瘍であれば、比較的短時間で摘出が可能です。一方で、内臓にできた腫瘍や悪性度の高い腫瘍の場合は、慎重な処置が必要となり、長時間に及ぶこともあります。

術後

術後の回復状況も、手術の内容や個体差によってさまざまです。
元気な場合は翌日に退院できることもありますが、状態によっては、1週間以上の入院が必要になることもあります。

術後の様子やご自宅でのケアについては、獣医師から詳しくご説明いたしますので、ご安心ください。

手術後のケアと経過観察のポイント

ご自宅でのケアでは、特に傷口の保護が重要です。
エリザベスカラーやエリザベスウェアを使用し、傷口を舐めたり引っかいたりするのを防ぎましょう。

投薬管理にも注意が必要です。お薬をうまく飲ませることができない場合は、獣医師にご相談ください。

再診・抜糸は一般的に術後7~10日が目安です。
また、次のような様子が見られた場合には、すぐに動物病院へご連絡ください

ごはんを食べない
排尿・排便がない

知っておきたい腫瘍摘出の注意点と長期的な見通し

腫瘍摘出手術は、愛犬・愛猫の健康を守るために非常に有効な治療法ですが、術後の経過や対応にはいくつか大切なポイントがあります。

腫瘍のタイプによる手術後の注意点

手術によって腫瘍を摘出した場合、良性腫瘍であれば基本的に再発や転移の心配はありません。しかし、悪性腫瘍だった場合は、再発や転移のリスクがあるため、術後も定期的な検診が欠かせません

術後には病理検査を行い、腫瘍が良性か悪性か、また悪性の場合はどの程度の悪性度(グレード)なのかを分類します。このグレード分類に基づき、必要に応じて抗がん剤治療などを検討していきます。

高齢や複数の腫瘍への手術対応

よくいただくご相談に「高齢だから手術は難しいのでは?」というものがありますが、年齢だけで手術の可否を決めることはありません。体力や持病、全身状態などを総合的に評価し、できる限り負担を抑えた方法を選択しています。高齢の犬や猫でも、適切なリスク管理のもとで手術を成功させるケースは数多くありますので、安心してご相談ください。

さらに、複数の腫瘍が見つかった場合も対応は一様ではありません。隣接した臓器同士に腫瘍ができている場合は、まとめて摘出できるケースもあります。一方で、まったく異なる場所に複数の腫瘍がある場合には、QOL(生活の質)を大きく下げるリスクが高い部位のみを優先的に切除する、といった柔軟な判断を行うこともあります。

いずれの場合も、飼い主様としっかり相談しながら、愛犬・愛猫にとって最も負担が少なく、効果的な治療方針を一緒に考えていきます

まとめ|飼い主様ができること

犬や猫の腫瘍は、早期発見と早期治療によって進行を防ぎ、健康な生活を支えることができます。

そのためには、日頃からスキンシップを通じてしこりや異変に気づく習慣を持ち、少しでも気になることがあれば早めに動物病院を受診することが大切です。「様子を見よう」と迷っているうちに病状が進行してしまうこともあるため、異変に気づいた時点でご相談いただくことが、愛犬・愛猫の負担を軽減する近道となります。

また、かかりつけ医との信頼関係を日頃から築いておくことで、いざというときにも安心して治療に臨むことができます。気になることがあれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。大切な愛犬・愛猫の生活の質(QOL)を第一に考えた選択を重ねながら、より良い毎日を一緒に守っていきましょう。

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愛犬や愛猫のおしりから出血していたり、便がうまく出せていなかったりすると、多くの飼い主様は不安を感じるものです。

一方で、高齢の犬や猫では「年齢によるものだろう」と考え、つい見過ごされてしまうケースも少なくありません。しかし、こうした症状の裏には直腸腺がんが隠れていることがあり、早期発見・早期治療によってその後の予後が大きく変わります。

今回は、犬や猫の直腸腺がんについて、特に直腸プルスルー術という外科治療に焦点を当て、詳しく解説します。

 

直腸腺がんとは?|基礎知識を押さえましょう

直腸腺がんは、直腸の粘膜に発生する悪性腫瘍(がん)の一種です。
主に高齢の犬や猫にみられますが、中年齢で発症するケースもあります。

類似した腫瘍に直腸腺腫(良性)もありますが、直腸腺がんは周囲の組織へ浸潤する力が強く、放置すると進行してしまいます。特に腸閉塞を引き起こすと、生命に関わる危険性があるため、早めの診断と治療が重要です。

直腸腺がんの症状|気をつけたいサイン

直腸にしこりができることで、便の排泄に影響が出ます。初期には以下のような症状が見られます。

排便時の出血
排便困難、しぶり(いきんでも便が出ない状態)
便の形の変化

さらに進行すると、以下のような全身症状がみられるようになります。

体重減少
食欲不振
元気消失

高齢になると排便トラブルが起こりやすいため「年齢のせい」と誤解されることもありますが、急に変化があらわれた場合は特に注意が必要です。日頃から便の回数や出血の有無、形状などをチェックし、少しでも異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。

直腸腺がんの診断方法

直腸腺がんを正確に診断するためには、いくつかの段階を踏んで検査を進める必要があります。

初診時に行われる検査

まず、便の異常の原因を探るため、以下の検査を実施します。

直腸検査(触診)
獣医師が直腸内に指を入れ、しこりの有無や大きさ、質感を確認します。
小さな腫瘍でも触知できる場合があり、初期段階での異常発見に役立ちます。

直腸鏡検査(内視鏡検査)
肛門からカメラを挿入し、直腸の内壁を直接観察します。
目視で粘膜の状態やしこりの形状を確認できるため、より詳細な評価が可能です。

これらの検査によって、腫瘍の存在が疑われる場合は、次のステップに進みます。

確定診断のための検査

腫瘍の性質を詳しく調べ、直腸腺がんであるかどうかを確定するため、以下の検査を行います。

細胞診
針を使ってしこりから細胞を採取し、顕微鏡で観察します。
比較的簡便に実施でき、悪性の可能性を推測するための第一歩となります。

組織診(生検)
内視鏡下でしこりの一部を切り取り、病理検査で詳しく分析します。
細胞診だけでは確定できない場合に実施し、正確な診断を下すために重要な役割を果たします。

進行度・転移の評価

直腸腺がんは進行すると他の臓器に転移する可能性もあるため、全身状態を把握する検査も欠かせません。超音波検査レントゲン検査CT検査なども併用して、腫瘍の広がり具合や転移状況を把握します。

すべての検査結果を総合して、直腸腺がんのステージング(進行度分類)を行い、その後の治療方針を決めていきます

直腸プルスルー術とは?|手術の基本と流れ

直腸腺がんの治療には、外科手術が中心となります。特に腫瘍が直腸内に限局している場合に選択される手術が、直腸プルスルー術(Pull-through術)です。

この術式は、直腸の腫瘍部分を肛門側から引き出して切除し、腸管を再吻合するという特徴を持っています。身体への負担を抑えながら、腫瘍をできる限り確実に摘出できる方法のひとつです。

直腸プルスルー術が適応となるケース

直腸プルスルー術が選択されるのは、以下のような条件を満たす場合です。

腫瘍が直腸の比較的下部(肛門側)に存在している
腫瘍の大きさが適度で、肛門から直腸を引き出して処置できる範囲である
進行度が比較的低く、周囲組織への広範な浸潤や遠隔転移がない
全身麻酔に耐えうる体力がある

腫瘍が直腸の上部(奥の方)に存在していたり、大きく進行していたりする場合には、別の術式が検討されることもあります。

直腸プルスルー術の流れ

1. 麻酔の実施
まず全身麻酔をかけ、安全を確保します。
麻酔管理は手術中の安定性に直結するため、慎重に行います。

2. 直腸の引き出し(プルスルー)
肛門から慎重に直腸を引き出します。
これにより、直腸内部の腫瘍部分を体外に露出させます。

3. 腫瘍部分の切除
引き出した直腸から、腫瘍を含む病変部位を切除します。
必要に応じて、直腸の全層を切除する場合と、粘膜層のみを切除する場合(粘膜プルスルー法)があります。

4. 再吻合(腸管と肛門のつなぎ直し)
切除後、直腸の健常な部分と肛門を縫合して再建します。
これにより、術後もできる限り自然な排便機能を保てるように整えます。

手術は慎重を要しますが、適応条件が整っている症例では、体への負担を比較的抑えたうえで確実な腫瘍摘出が見込めます。ただし、手術後には狭窄(腸の狭まり)や縫合不全といった合併症リスクもあるため、術後管理が非常に重要となります。

手術後のケアと回復過程

術後は数日間の入院で経過を観察し、問題がなければ退院となります。ご帰宅後は、以下の点に注意してケアを行う必要があります。

排便管理
術後は一時的に排便回数が増える傾向があり、肛門周囲の傷口が便で汚れると細菌感染のリスクが高まります。こまめに便の状態をチェックし、必要に応じて清拭を行いましょう。

排尿管理
一過性の失禁がみられることもあります。清潔を保つため、ペットシーツを多めに敷いたり、オムツを活用するのも有効です。

傷口のケア
エリザベスカラーを装着して患部を保護し、舐めたり引っかいたりするのを防ぎます。あわせて傷口を常に清潔に保つように心がけましょう。

食事管理
手術後すぐは消化に優しい食事からスタートし、便の様子を見ながら徐々に通常の食事に戻していきます。軟便や下痢が続く場合は、早めに獣医師に相談してください。

直腸プルスルー術後には、まれに腸管の狭窄(きょうさく)や縫合不全が起こることがあります。また、腫瘍が完全に摘出できていなかった場合には、再発のリスクも残ります。

これらのリスクをできるだけ早く察知するために、便の回数や形状、出血の有無など、排便や排尿の様子を日常的に観察し、小さな変化にも注意を払いましょう。もし異常があれば、すぐに動物病院に相談してください。

さらに、定期的な経過観察(診察・検査)も欠かせません。目立った症状がなくても、予定された検診は必ず受診し、再発や合併症の有無を早期にチェックすることが、愛犬・愛猫の回復と健康維持につながります。

まとめ|直腸腺がんと向き合うために

直腸腺がんは、早期に手術できれば良好な予後が期待できる病気です。便の異常や出血、排便困難といった症状を見逃さず、早めに獣医師に相談することが大切です。

また、高齢の犬や猫であっても、体力や状態に応じて手術を選択できる場合もありますので、あきらめずにご相談ください。信頼できるかかりつけ医と連携し、愛犬・愛猫の健康を一緒に守っていきましょう。

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「最近、愛犬が散歩を嫌がるようになった」「愛猫が高いところに登らなくなった」と感じたことはありませんか?もしかすると、それは関節炎のサインかもしれません。

関節炎は犬や猫にとって身近な健康問題であり、足の痛みや違和感が生活の質(QOL)に大きく影響します。特に高齢の犬や猫に多く見られますが、若い犬や猫でも発症することがあり、油断は禁物です。愛犬・愛猫がいつまでも快適に過ごせるようにするためには、早期発見と適切な治療、ご家庭でのケアがカギとなります。

今回は犬や猫に起こる関節炎について、早期発見のポイントや効果的な対処法を詳しく解説します。

 

関節炎とはどのような病気?

関節炎とは、関節を動かすための軟骨や靭帯が損傷・炎症を起こし、関節が正常に機能しなくなる病気を指します。特に加齢によって起こる変形性関節症などの関節炎は、シニア期の犬や猫に多くみられますが、若い犬や猫でも発症する場合もあります。

たとえば、大型犬では「股関節形成不全」小型犬では「膝蓋骨脱臼」などが原因で関節炎が発症するケースもあります。「関節炎=年をとってからの病気」という認識は誤りであり、若い犬や猫でも注意が必要です。

関節炎の主な症状と早期発見のポイント

関節炎の初期には、以下のような症状が現れることがあります。もしこれらの症状がみられた場合には、早めに動物病院を受診することをおすすめします。

朝起きたときに動きが硬く、こわばっている
階段の上り下りをためらう
ジャンプをしなくなった
散歩を嫌がるようになった

さらに関節炎が進行すると、次のような症状が現れることもあります。

足を引きずる
足を地面に着けられない
動かなくなる、ぐったりしている
発熱がみられる

また、これらの症状は、特に犬で顕著に現れます。一方、猫は痛みや不調を悟られないようにするため、飼い主様が症状に気づきにくいことも少なくありません。

猫の痛みを把握するための一つの方法として、猫の画像から痛みの程度を判定するAIツール「Cats me」があります。痛みを「なし」「少し」「強い」の3段階で評価できるため、症状を判断する際の参考になるでしょう。

Cats me公式(外部サイトに遷移します)

犬種・猫種別・年齢別の関節炎リスク

関節炎のリスクは、犬や猫の種類や年齢によって異なります。飼い主様が普段から気をつけてあげることで、早期発見につなげることができます。

犬種

バセット・ハウンドやシェパードなどの大型犬種は、変形性関節症のリスクが高いとされています。体重が関節に負担をかけやすく、関節炎を引き起こしやすいためです。

猫種

メインクーンなどの大型猫種でも、同様に変形性関節症のリスクが指摘されています。猫は痛みを隠す傾向が強いため、普段から動きの変化に気を配っておくと安心です。

年齢

一般的には高齢になるほどリスクが高まりますが、若齢でも発症するケースがあるため注意が必要です。特に成長期に関節に負担がかかると、若くても症状が現れることがあります。

愛犬・愛猫が関節炎のリスクを抱えている場合は、日頃から動きや歩き方に注意を払い、異変を感じたら早めに動物病院で相談しましょう。

動物病院での診断方法

関節炎の診断には、以下のような検査が行われます。

・身体検査
特に整形外科的徒手診断法で、関節の動きを確認します。関節を実際に触ったり、曲げたり伸ばしたりすることで、異常の有無を評価します。

・跛行検査
実際に歩かせて、どの足に痛みが出ているかや歩き方の異常をチェックします。

・画像検査
レントゲンやCT検査が、必要に応じて実施されます。画像検査により、関節の状態をより正確に把握できます。

ご家庭では、診断時の参考として「症状が出始めた時期」や「どのような状況で痛がるか」を記録しておくと、スムーズな診察につながります。

また、早期に診断できれば、治療の選択肢が広がり、症状の悪化を防ぐことが期待できます。愛犬・愛猫の健康を守るためにも、気になる症状があれば早めの受診を心がけましょう。

関節炎の治療法

関節炎の治療は、症状や原因、個々の犬や猫の状態によって異なります。

薬物療法

関節炎の治療としてよく用いられるのが、薬物療法です。
代表的な薬剤として、犬には「リブレラ」猫には「ソレンシア」があります。これらは月1回の注射で効果が持続し、飼い主様の負担が軽減されるというメリットがあります。また、炎症を抑えるためにステロイドを使う場合もありますが、副作用が起こることもあるので、定期的に状態をチェックして、薬の量を調整する必要があります。
薬物療法は、症状をコントロールしながら愛犬・愛猫の痛みを和らげ、快適な生活をサポートする目的で使われます。獣医師と相談しながら、適切な治療プランを選ぶことが大切です。

サプリメント療法

薬物療法を補完する形で、サプリメント療法を取り入れるケースもあります。
例えば、オメガ3脂肪酸やコラーゲンを含む「アンチノール」「フレキサディン」などは、関節の健康をサポートするために利用されます。抗炎症作用が期待でき、日常的なケアとしても取り入れやすい点が特徴です。
ただし、サプリメントだけで治療を完結させるのではなく、薬物療法と組み合わせながら活用することがポイントです。

当院では、診察結果をもとに飼い主様と一緒に治療プランを検討し、最適なケアの提供に努めています。

ご家庭でできる関節炎ケア

関節炎の治療と並行して、ご家庭でのケアも非常に重要です。日常生活での工夫が、愛犬・愛猫の痛みを軽減し、快適な暮らしをサポートします。

・適切な体重管理
体重が増えすぎると関節に大きな負担がかかります。
適正体重を維持するために、フードの量の見直しや、適度な運動を心がけましょう。肥満を防ぐことで、関節への負担を軽減できます。

・関節に優しい運動
無理のない範囲で関節に優しい運動を取り入れることが大切です。
短時間の散歩や、バランスボールを使った軽いエクササイズなどが効果的です。過度な運動はかえって関節を痛めることがあるため、適度な運動量を意識しましょう。

・生活環境の工夫
クッション性の高いベッドや、滑りにくい床材を用いたり、滑り止めマットなどを敷いたりすることで、関節への負担を軽減できます。
また、段差がある場所にはスロープを設置するなど、日常的に移動しやすい環境づくりを心がけましょう。

・サポーターの活用
関節をサポートするために、膝用のサポーターやコルセットを活用するのも有効です。
負担がかかりやすい部位を適度に支え、痛みを和らげる効果が期待できます。

まとめ

関節炎は高齢の犬や猫に多い病気ですが、若くても発症することがあります。そのままにしておくと症状が徐々に悪化し、痛みによって日常生活に支障をきたすことも少なくありません。また、飼い主様が気づかないうちに、実は痛みを抱えているケースも多く見受けられます。

しかし、関節炎は早期に発見し、適切な治療やケアを行うことで、症状の進行を遅らせたり、愛犬・愛猫が穏やかな日常を取り戻すことが期待できます。普段と違う様子が見られたときには、早めに動物病院へ相談することをおすすめします。

当院では、正確な診断と適切な治療を通じて、愛犬・愛猫の健康をサポートしています。気になる症状がある場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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慢性腎臓病は特にシニア猫に多く見られる病気で、腎臓の機能が徐々に低下していく進行性の疾患です。早期発見が難しく、症状が現れたときには病気がかなり進行していることが多いという特徴があります。しかし、適切な食事管理や在宅ケアを早くから始めることで、病気の進行を遅らせ、愛猫の生活の質(QOL)を維持することができます。

慢性腎臓病は根治が難しいため、診断を受けた飼い主様はショックを感じるかもしれません。しかし、まずはできることから始め、愛猫との生活を少しでも長く楽しむために、一緒に向き合っていきましょう。

今回は、猫の慢性腎臓病について、病気の基礎知識や症状、診断方法、在宅ケアのポイントなどを詳しく解説します。

 

猫の慢性腎臓病とは?基本的な理解

腎臓は、体内の老廃物を排出し、水分やミネラルのバランスを調整する重要な臓器です。慢性腎臓病ではこれらの機能が徐々に低下し、以下のような問題が発生します。

老廃物排出が困難になる
脱水やミネラル異常、血圧の上昇が起こる
心臓に負担がかかり、肥大型心筋症を併発することがある

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慢性腎臓病は中高齢の猫で特に多く、5~6歳以降に発症リスクが高まります。多くの場合は加齢による腎機能の低下が原因ですが、尿石症などの泌尿器の病気が原因となることもあります。また、まれに先天的な腎臓の奇形によって発症するケースがあります。

愛猫の慢性腎臓病に早く気づくためのサイン

慢性腎臓病の初期には目立った症状がほとんどありませんが、腎臓の機能が低下すると次のようなサインが現れ始めます。

多飲多尿:水をたくさん飲み、おしっこの量が増える
食欲低下:食事を残す、興味を示さなくなる
体重減少:体格がほっそりし、あばらが浮き出る
被毛の艶の低下:毛並みがぼさぼさになり、艶が失われる

慢性腎臓病が進行すると、さらに重篤な症状が現れることがあります。

口臭:アンモニア臭がする
高血圧:目が赤くなる、心臓のリズムに異常が出る
神経症状:けいれんや神経過敏

これらの症状は他の病気でも見られることがあるため、自己判断は危険です。確実な診断のもとで治療を進めていくためにも、異変を感じたら、まずは動物病院で適切な検査を受けましょう

慢性腎臓病の診断とステージ分類

慢性腎臓病を正確に診断するためには、以下の検査が必要です。

血液検査:BUN、クレアチニン、SDMAなど腎機能を示す数値を確認
尿検査:尿比重や尿たんぱくなどを測定
血圧測定:腎臓への負担を評価
エコー検査:腎臓の状態を画像で確認

これらの検査結果を総合的に判断し、慢性腎臓病の進行度を評価します。
進行度は「国際腎臓病学会(IRIS)」によってステージ1〜4に分類されており、ステージごとに治療方針が異なります。そのため、定期的に検査を実施し、愛猫がどのステージにあるのかを把握することが大切です。

慢性腎臓病のステージ分類

ステージ1:腎障害はあるものの、一般的に無症状。腎機能は33%以上。
ステージ2:無症状もしくは軽い症状が現れる。腎機能は25~33%。
ステージ3:さまざまな症状が出現。腎機能は10~25%。
ステージ4:重度の症状が現れる。腎機能は5~10%。

治療方針と定期検査の重要性

慢性腎臓病の治療では、病気の進行をできるだけ遅らせ、愛猫が快適に過ごせるようにサポートすることが目標です。特に重要なのが、ステージ2以下の状態をいかにキープするかという点です。

飼い主様の中には、「ステージ2だからまだ大丈夫」と安心される方もいらっしゃいますが、実際にはステージ2の時点で腎機能の7割が失われているため、決して油断できない状況です。腎臓の機能は一度低下すると回復が難しく、放置すると急速に悪化するリスクがあるため、ステージの初期段階で治療を始めることが非常に重要です。

当院では、慢性腎臓病が発症した際には、できる限りステージ2以下の状態を維持できるように治療プランを策定しています。定期検査を通じて進行具合を把握し、状況に応じた対策を講じることで、愛猫の健康をサポートいたします。

ステージ別の在宅ケアや食事管理の重要性

慢性腎臓病は進行性の病気であるため、ステージに応じた適切なケアが欠かせません。

特に食事療法は、慢性腎臓病の管理において最も重要な要素の一つです。腎臓への負担を減らすためには、たんぱく質、リン、ナトリウムの量を調整することが求められますが、筋肉量が減少するとかえって病状が悪化するリスクもあるため、バランスの取れた管理が必要です。当院では、腎臓の数値を上げないように工夫しながら、適度なたんぱく質も補えるような食事指導を行っています

さらに、近年注目されているAIMたんぱく質の摂取が腎臓病の進行抑制につながる可能性が指摘されており、今後の治療選択肢として期待されています。

ステージ別ケアのポイント

慢性腎臓病の管理では、病気の進行を遅らせるための予防的ケアから、症状を和らげるためのサポート、終末期のQOL維持まで、各ステージに応じたアプローチが求められます。

▼初期(ステージ1~2):予防的ケアと食事管理
この段階では予防的ケアを中心に考えます。たんぱく質やリン、ナトリウムの含有量を抑えた腎臓病用療法食を取り入れることで、腎臓への負担を減らす効果が期待できます。

また、食事だけでなく水分補給を意識することが重要です。特に猫はもともと水をあまり飲まないため、ウエットフードやふやかしたドライフードを与えるなどして、水分摂取量を増やす工夫をしましょう。

▼中期(ステージ3):症状緩和を目的としたケア
ステージ3になると、症状が顕著になりやすいため、症状緩和を重視したケアが求められます。特に貧血や消化器症状が現れることがあり、食欲が低下しやすいため、嗜好性の高い療法食や、フードを温めて香りを引き立たせる工夫が効果的です。

また、水分摂取をより意識し、スープタイプのフードや水分を多く含むウエットフードを活用することで、脱水を防ぎ腎機能をサポートします。栄養が偏らないように、獣医師の指導のもとでサプリメントを適切に使いながらケアを進めましょう。

▼末期(ステージ4):QOL維持を目指すケア
末期段階では、愛猫ができるだけ快適に過ごせる環境を整えることが最優先です。
この時期には、食欲が極端に低下することが多く、必要に応じて栄養チューブの使用を検討します。無理に食べさせるのではなく、少量でも摂取できる工夫が重要です。

また、体調の変化が激しい時期ですので、こまめな体調チェック痛みや不快感の管理を徹底しましょう。獣医師と連携しながら、適切な治療プランを調整していくことが大切です。

まとめ

慢性腎臓病は進行性の病気ですが、早期発見と適切な管理を行うことで、病気の進行を遅らせ、愛猫が穏やかに過ごせる時間を延ばすことが期待できます。

特に食事管理や在宅ケアは、慢性腎臓病の管理において最も重要な要素です。ご家庭でのケアを怠ってしまうと、病気が進行してしまい、愛猫が非常に苦しい最期を迎えてしまうケースも少なくありません。当院でも、症状が進んでからご相談に来られ「もっと早くケアを始めていれば」と後悔される飼い主様を何度も見てきました。この記事をご覧の飼い主様には、同じ後悔をしてほしくないと心から願っています。

愛猫の健康を守るためには、少しでも気になる変化があれば早めに動物病院を受診し、一日でも早く適切なケアを始めることが大切です。気になる症状がある際には、ぜひ当院にもお気軽にご相談ください。丁寧な診断とサポートを通じて、愛猫と飼い主様が少しでも長く快適に過ごせるようお手伝いさせていただきます。

<参考文献>
原田佳代子. 6.慢性腎臓病. In: 犬と猫の腎臓病診療ハンドブック. 上地正実 監修. 2021 : pp.104-123. 緑書房.

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