犬の「膝蓋骨脱臼(パテラ)」は、膝のお皿の骨が本来の位置から外れてしまう整形外科の病気で、足を浮かせる・スキップするように歩くといった様子の原因になることがあります。
そして「手術が必要なのか」「様子を見ても大丈夫なのか」と判断に迷われる飼い主様も多くいらっしゃる疾患です。
今回は、パテラを放置した場合のリスクや手術の目安、そして当院における診療の考え方について詳しく解説します。
1.【結論】「グレードだけ」で手術は決めない|症状と将来リスクを総合判断
2.グレード1〜4の違い|重症度と当院の考え方
3.放置するとどうなる?進行リスクについて
4.片足だけでも両足手術を検討する理由
5.当院の手術の特徴|複数術式を組み合わせた安定性重視の治療
6.よくある質問(FAQ)
7.まとめ|早期の評価が将来の関節トラブル予防につながります
【結論】「グレードだけ」で手術は決めない|症状と将来リスクを総合判断
パテラには「グレード」と呼ばれる、重症度を4段階で評価する目安があります。そのため、グレードの数値が手術の判断基準になるのではと考えられることもありますが、実際の診療ではグレードの数値だけで治療方針を決めることはありません。
歩き方や痛みの有無、関節の状態、将来的な悪化リスクなどを総合的に見て、その子に合った治療方針を検討していきます。
<今すぐ手術を検討するケース>
☑ グレード3〜4で脱臼が常態化している
☑ 歩行異常が固定している(足を引きずる、常に浮かせるなど)
☑ 前十字靭帯断裂のリスクが高い状態
☑ 若齢で、将来的な関節変性をできるだけ防ぎたい場合
一見元気に見えていても、膝の関節には継続的な負担がかかっていることもあり、気づかないうちに状態が進行しているケースも少なくありません。
<経過観察が可能なケース>
☑ グレード1〜軽度のグレード2
☑ 痛みがなく、日常生活に大きな支障がない
☑ 筋肉量がしっかり保たれている
このような場合には、体重管理や筋肉維持、生活環境の見直しといった保存的な管理を行いながら、定期的に状態を確認していく選択肢もあります。
グレードの数値だけで手術の必要性が決まるわけではないという点が、パテラの治療判断ではとても重要なポイントです。
グレード1〜4の違い|重症度と当院の考え方
それでは、グレード1〜4では具体的にどのような違いがあるのでしょうか。パテラは、脱臼の程度によって次のように分類されます。
| グレード | 状態の目安 |
|---|---|
| Ⅰ | 手で押すと外れるが、自然に元の位置に戻る |
| Ⅱ | 曲げ伸ばしで外れることがある |
| Ⅲ | 常に外れているが、手で戻せる |
| Ⅳ | 常に外れており、手で戻らない |
ただし、実際の治療方針はグレードの数値だけで決まるものではありません。脱臼の程度に加えて、関節の状態や炎症の進行、靭帯への負担などを丁寧に評価することが重要です。
当院では、次のような視点を組み合わせて総合的に判断しています。
・歩き方(歩様)の観察
・触診による脱臼の程度評価
・レントゲン検査
・必要に応じてエコー検査(靭帯や関節の状態確認)
一般的な治療方針として、軽度の場合は内科的な管理(いわゆる保存療法)を中心に経過をみることもあります。具体的には、アンチノールやフレキサディンなどの関節サポートを目的としたサプリメントの使用、体重管理、筋肉量の維持といった日常的なケアが重要なポイントになります。
一方で、グレード3〜4のように脱臼が常態化している場合には、痛みが目立たない場合でも関節への負担は蓄積していることがあります。そのため、将来的な関節変形や炎症の進行、前十字靭帯への影響を見据え、予防的な観点から手術をご提案することもあります。
放置するとどうなる?進行リスクについて
「ときどき外れるだけだから様子見でいいかな」と思われることも多いパテラですが、放置することで少しずつ関節への負担が蓄積していきます。
特に注意したいのは、次のような進行です。
・前十字靭帯断裂のリスク増加
パテラがある状態では膝関節に不安定さが生じ、前十字靭帯への負担が大きくなります。その結果、靭帯断裂を引き起こすリスクが高まることがあります。
・関節炎の進行
慢性的な摩擦や炎症が続くことで、関節炎が進行し、痛みが固定化してしまうことがあります。
・歩行異常の固定化
初期は一時的な歩き方の変化でも、進行すると骨の変形や筋力低下が起こり、元の歩行に戻りにくくなるケースもあります。
見た目の症状が軽くても、内部では変化が進んでいることがある点に注意が必要です。
片足だけでも両足手術を検討する理由
片足の脱臼で受診した際に「両足の手術を検討しましょう」と説明を受け、戸惑われる飼い主様もいらっしゃるかと思います。実はその背景には、パテラ特有の“構造的な特徴”が関係しています。
・反対側への負担がかかりやすい
片足をかばう歩き方になることで、反対側の膝にも負担が集中し、時間の経過とともに脱臼や症状の悪化につながることがあります。
・両側性であることが多い
パテラは骨格や靭帯の構造が関係していることが多く、実際には両足に素因があるケースも少なくありません。そのため、片側のみの治療だと、将来的に反対側で脱臼が起こる可能性があります。
当院では、全身状態や生活環境を踏まえたうえで、麻酔回数の負担や術後管理のしやすさ、将来的な再発リスクなどを総合的に考慮し、同時手術という選択肢をご提案する場合があります。
当院の手術の特徴|複数術式を組み合わせた安定性重視の治療
パテラの手術は、脱臼の原因や関節の状態はその子によって異なるため、状態に合わせて処置を組み合わせていくことが大切になります。当院では、整形外科的な評価を行ったうえで、次のような手技を組み合わせて手術を行います。
・滑車溝造溝術:膝蓋骨がはまる溝を深く整える処置
・関節包の縫縮術:ゆるんだ関節の周囲を引き締める処置
・膝蓋骨裏側の軟骨トリミング:関節の当たりをなめらかに整える処置
・脛骨粗面の転移術:膝蓋骨の引っ張られる方向を整える処置
これらを組み合わせることで、単に「外れにくくする」だけでなく、関節への負担をできるだけ抑えながら、将来的な炎症や再脱臼まで見据えた安定性の高い治療を目指します。
<当院の強み|経験と評価に基づいた手術設計>
当院では、手術の必要性や方法をグレードの数値だけで判断することはありません。画像検査・触診・歩様(歩き方)の評価を丁寧に行い、現在の状態と将来的な進行リスクの両面から総合的に判断しています。
また、膝蓋骨の裏側の軟骨調整や脛骨粗面の位置調整など、細かな構造まで踏まえた手術設計を行っている点も、当院の特徴のひとつです。パテラは症例ごとの個体差が大きいため、これまでの手術経験の蓄積をもとに、状態に応じた処置の組み合わせを慎重に検討していきます。
両側同時手術を含めたさまざまな症例に対応してきた経験も踏まえながら、画一的な方法ではなく、その子の体格・生活環境・進行リスクに合わせた最適な手術計画を設計していくことを大切にしています。
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よくある質問(FAQ)
Q. 入院はどのくらい必要ですか?
一般的には術後の経過を確認するため、約1週間前後の入院が目安となります。状態や回復の様子によって調整します。
Q. 両足同時手術は危険ではありませんか?
全身状態や年齢、持病の有無を十分に評価したうえで慎重に判断します。適切な麻酔管理と術後管理を徹底し、体への負担に配慮しながら実施しています。
Q. 手術をしないとどうなりますか?
必ずしもすぐに悪化するとは限りませんが、進行に伴い関節炎や靭帯断裂、歩行異常の固定化などにつながるおそれがあります。歩き方や生活への影響を見ながら、状態を定期的に確認していくことが大切です。
Q. 高齢でも手術はできますか?
年齢だけで一律に判断するのではなく、全身状態や持病の有無を確認したうえで適応を検討します。高齢でも手術が可能なケースは少なくありません。
まとめ|早期の評価が将来の関節トラブル予防につながります
パテラは、グレードだけで判断できる病気ではありません。現在の症状だけでなく、将来的な関節への影響や進行リスクまで含めて評価していくことが大切です。
「まだ軽そうだから」と様子を見ている間に負担が積み重なってしまうこともあるため、歩き方の違和感や足を浮かせる仕草が見られた場合は、早めに動物病院で状態を確認することが将来の関節の健康を守ることにつながります。
ナガワ動物病院では、画像診断や整形外科的評価をもとに、その子の生活環境や年齢も踏まえながら、無理のない治療方針を飼い主様と一緒に検討していきます。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。
(最終更新日:2026年3月23日)
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<参考文献>
Francesco Di Dona, Giovanni Della Valle, Gerardo Fatone. “Patellar luxation in dogs”. National Library of Medicine. 2018-05-31. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6055913/, (参照:2023/5/20)






















